真っ白ウサギの公爵令息はイケメン狼王子の溺愛する許嫁です

波木真帆

文字の大きさ
上 下
34 / 289
第一章

安心させたい

しおりを挟む
<sideルーディー>

んっ? 
大広間に入ってから、何か嫌な視線を感じる。
アズールの美しさに魅了されているのとは違う。
明らかに私に対して敵対心のようなものを感じる。

どこだ?

アズールに集中しつつも、大広間中に神経を研ぎ澄ませる。
私の能力を持ってすれば、特定などすぐにできるはずだ。

あいつか!

あいつは確か……ホフマン侯爵家のパウルだったか。

大した力も感じないが、やる気なら存分に相手をしてやろう。
もちろんアズールには一切手を出させるつもりはないが。

「るー、ひちょひとたくちゃんたくさんちゅこちすこしこあいこわい

初めて見るたくさんの人たちに怯えたアズールが小声で私に訴えかけてくる。
小さな手で私の服をしっかりと掴んでいる姿がいじらしくもあり、可愛らしくもある。

「大丈夫。私がずっと一緒にいるから怖がらなくていいよ。みんなアズールの誕生日と私たちのお祝いに来てくれたんだ」

「るー、じゅっちょずっといっちょいっしょ?」

「ああ。もちろんだ。私とアズールはずっと一緒だよ」

そういうと、アズールは嬉しそうに私に抱きつきながら、皆に笑顔を向けた。
きっと私がそばにいるというのが安心できたのだろう。

それくらい私はアズールの信用を勝ち取っている。
あんなわけのわからない侯爵家の息子などに負けるはずなどない。

「わぁーっ!」
「おおーっ!!」
「なんて美しいっ!!」

突然大広間中に地鳴りのような声が響いたのはさっきのアズールの笑顔を見たものたちの反応の大きさだ。

そのあまりにも大きな声に

「うにゃっ!!」

と声をあげ、私に抱きついてくる。
私の上着の中に隠れようとするほど怖かったようだ。

「皆の者! 私の大事な息子になる者を怖がらせてはならぬっ!!」

父上が玉座から声を張り上げ注意すると、今まで騒がしかった大広間は一気に水を打ったような静けさを取り戻した。

「アズール、もう大丈夫だぞ」

そう声をかけてみたものの、可愛いお尻をフリフリさせながら私の服の中へ頭を入れ込んでいく。
怖がっているアズールには悪いのだが、その姿は可愛すぎる。

私はその姿を誰にもみられないように全力で隠すしかなかった。

急いで自分たちの席に向かうと、父上の後ろに控えていた爺がさっとブランケットを渡してくれた。

やはり爺は頼りになる。
手渡されたブランケットでアズールの身体が見えないように覆い隠し、もう一度

「もう大丈夫だぞ」

と声をかけるとようやく上着から耳だけを出してくれた。
小刻みにフルフルと揺れると、まだ少し怯えながらもゆっくりと可愛らしい顔を見せてくれた。

こあかっちゃのこわかったの

「そうだな。アズールは耳が敏感で小さな音も拾ってしまうからな。父上が大声を出さないように皆に注意したからもう大丈夫だぞ」

ほんちょほんと?」

「ああ。私も一緒にいるからな」

「るー、あいあとありがと。いいにおいちゅるー」

「アズール、私にお礼を言うときはほっぺたにキス、するんだろう?」

「あー、ちょっかぁそっかわちゅれちぇたわすれてた、るー、ちゅーっ」

「――っ!!」

アズールの可愛らしい小さな唇が私の毛むくじゃらの頬に触れる。
こんなにもふさふさの毛で覆われているというのに、アズールの唇が触れたところはすぐにわかる。

「ふふっ。ふしゃふしゃふさふさのもふもふぅー。あじゅーる、るーのほっぺ、ちゅきすき!」

「くはっ!!」

アズールの無垢な煽りに心が鷲掴みにされる。
ああ、もう本当にアズールは一体私をどうしたいのだろう。


<sideクローヴィス(ヴンダーシューン王国の国王でルーディーの父)>

大広間に入場してすぐにアズールの美しさに招待客の視線が釘付けになったのがわかった。
だが、その中に何か違う感情が蠢いているのがわかったが、それがどこから発せられているのかまでは見当がつかなかった。

そっとルーディーに視線を送れば、さすが『神の御意志』として生まれただけあって、ならずものをすでに見つけているようだ。
その者が何かしようとも、もうすでに袋の鼠同然。
ルーディーに目をつけられてただで済んだ者は未だかつて一人もいないのだから。

アズールは初めて見る大勢の人の姿にすっかり怯えてしまっている。
ただでさえ、ウサギ族は大きな音に弱く、人見知りだと聞いている。
まだ1歳になったばかりのアズールにはたくさんの者たちから注がれる視線に耐えきれなかったのだろう。

必死にルーディーの影に隠れようとするのがいじらしく思えて、私は皆に注意を与えた。

その静まり返った隙にルーディーはアズールを連れ、自分たちの席に着いた。
フィデリオがすぐにアズールを落ち着かせるためのブランケットを手渡したが、ルーディーはアズールに夢中で気づいていないようだな。

あれはルーディーが幼少の頃から使っていたブランケット。
いわば、ルーディーの匂いがたっぷりと染み込んでいる。
これならアズールもすぐに落ち着くことだろう。
しおりを挟む
感想 549

あなたにおすすめの小説

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...