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第一章

王子がそばにいてくれたら……

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<sideアリーシャ>

「ふふっ。楽しみね。アズールはルーディ王子が作ってくださった衣装は気に入ったの?」

「るーと、おちょろいおそろい! うれちぃ!」

「それならよかったわ。じゃあ、お着替え始めましょうね」

アズールとルーディー王子のために作った部屋に入るのは久しぶりだわ。
ふふっ。そこかしこにルーディー王子の匂いがしている。
マーキングね。

私はアズールの母親だからこの匂いに威嚇されることはないけれど、ここまでべったりとルーディー王子の匂いがつけられた中でアズールが楽しそうにしているのだから、アズールにとってはよっぽどいい匂いに感じられるのね。

ああ、運命の番って素敵だわ。

「あっ、これが衣装ね。まぁ、素敵っ!! 本当に王子とお揃いなのね。でも、生地はアズールのために特別に誂えたみたい。これならアズールも長時間着ても疲れないわね」

アズールをソファーに座らせて、フリル付きのシャツを着せる。

「――っ、なんて可愛いのかしらっ!」

柔らかな生地で作られたリボンのようなフリルはアズールの胸元を可愛く彩る。
その計算し尽くされた形にトキメキが止まらない。

「あじゅーる、かわいい?」

「ええ、とっても可愛いわ! ルーディー王子はさすがね。アズールの可愛さがより引き立つような衣装を作ってくださったわ」

満面の笑みで答えると、アズールは可愛い衣装が嬉しいのか、それともルーディー王子が褒められたことが嬉しいのかわからないくらい、とびっきりの笑顔で返してくれた。

ふふっ。きっと両方ね。

「あじゅーる、じゅぼん、はくぅー」

「ふふっ。はいはい。急がないでゆっくりね。ソファーから落ちたら大変よ」

クレイが1歳の時よりもずっと短いズボンをアズールに穿かせる。
こんなに小さいのに、こんな衣装を着せると大人びて見えるものだから不思議だわ。

小さな穴からアズールの尻尾を出させると、小さくてまんまるでふわふわなしっぽが見える。
ああ、狼族のふさふさした尻尾に見慣れると、アズールの小さな尻尾が可愛くて仕方がない。

もふもふしたいのを抑えながら、上着をとって着せた。

「ふふっ。小さな王子さまになったわね」

「るー、みたい? かっこいい?」

「ええ。王子にそっくりでかっこいいわよ」

そういうとアズールは嬉しそうに笑っていた。

「髪もやっと顎まで伸びてきたけれど、今日は綺麗に梳くだけにしておきましょうね」

真っ白な耳がピクピクと動いているのがわかる。
ふふっ。髪を梳くと気持ちがいいのかいつもこうして耳が動くのよね。

真っ白にも見える金色の美しい髪は、アズールでしかみたことがない。
雪のように白くて柔らかい肌は、少し当たったり、ものが掠ったりするとすぐに肌が赤くなってしまうくらい繊細で、生まれたばかりの頃は神経質になってしまっていた。
今でもその繊細な肌はあまり変わってはいないけれど、昔よりはおおらかに考えられるようになった。

それもこれも全てルーディー王子がアズールを見守ってくれているからだ。
ここにいる間は、アズールからかたときも離れずに、ふさふさの尻尾でアズールの身体を守りながら、獣人の軽やかな身のこなしで、アズールを危険から守ってくれる。

今日のお披露目会で初めて大勢の前にアズールを出すことに心配も不安もあるけれど、ルーディー王子がそばにいてくれたら安心だと思える。

今日はアズールが楽しめることだけを考えておこう。

「さぁ、綺麗に髪を整えたわ。ルーディー王子がお待ちかねだから行きましょうか」

「るーのちょことこ、いくーっ!」

嬉しそうに足をばたつかせるアズールを抱き上げ、私は少し早足でルーディー王子が待っている部屋に向かった。

<sideパウル(ホフマン侯爵家次男)>

「パウル、用意はできたか?」

「はい。父上」

「はぁーっ。本来なら、お前の許嫁になるかもしれなかった相手の婚約式兼お披露目会に出席することになるとはな」

「父上、ルーディー王子の許嫁として生まれたお方だったのですから仕方ないですよ」

「それはそうだが、みすみす公爵家との縁を奪われては文句の一つも言いたくなるだろう」

父上は、ヴォルフ公爵家に二番目の御子が生まれるとわかった時から、僕の許嫁にしたいと話をつけてくれていたようだ。
わがホフマン侯爵家とヴォルフ公爵家とはかなり良好な関係を築いていたし、あちらとしても、すでに跡継ぎであるクレイさまがいらっしゃるから、大切にしてくれるならということで話は進んでいた。しかし、生まれた御子が獣人であらせられる王子の番として、選ばれた御子だったということでお生まれになってすぐに、僕との縁談話は最初から何もなかったことになってしまい、そのまますぐに王子の許嫁となってしまった。

もし、許嫁候補がいたと王子の耳に入れば、とんでもないことになってしまうのは目に見えていたからだ。
だから、ヴォルフ公爵自ら、我が家に箝口令を強いたのだ。

もちろん、その話を蒸し返す気もないし、そもそもまだ生まれる前のことで正式に許嫁と決まっていたわけでもない。
それに、王子の許嫁となってしまった今、流石に奪い取るなんてことを考えることはしない。

だが、もし番でなかったら私の許嫁となっていたであろうお方には興味がある。

今日のお披露目の時をずっと指折り待っていたのだ。
ようやく幻の許嫁の姿を拝むことができる。

ああ、楽しみでたまらないな。
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