真っ白ウサギの公爵令息はイケメン狼王子の溺愛する許嫁です

波木真帆

文字の大きさ
上 下
15 / 289
第一章

可愛いアズール

しおりを挟む
<sideヴィルヘルム(ヴォルフ公爵)>

「どうぞ」

そろそろ休憩にして、アズールの顔でも見に行こうと思っていた矢先、執務室の扉が叩かれた。

誰だろうと思いつつ、声をかけると入ってきたのはルーディー王子だった。

「王子、わざわざこちらにお立ち寄りになるとはどうなさったのですか?」

「そろそろ休憩時間だというから話をしにきたのだ」

「お話、ですか? 何かございましたか?」

「アズールの1歳のお披露目会のことについてなのだが……」

「――っ!!」

もしや、あのことに気づかれたか?
極秘で進めようと思っていたのだがな……。

「何やら心当たりがある様子だな」

「あ、いえ……その……」

「わかっている。おおかた、父上に私に内緒にするようにと言われたのだろう?」

ああ、そこまで気づかれているのならもう隠しては置けない。

「申し訳ありません。陛下が王子の御衣装とアズールの衣装を私どもと一緒にお決めになるというお話でございましたので、そのつもりで進めておりました」

「やはりな。爺の言った通りだ。悪いがその話を知った以上は、私にもその話し合いに参加させてもらうぞ。なんと言っても私とアズールは許嫁なのだからな。それも、ただの許嫁ではないのだぞ、運命のつがいだぞ。私が用意せずどうするのだ?」

王子の言いたいことはよくわかる。
私も王子の立場なら自分の愛しい伴侶の大事な節目の衣装を作るのに、自分の意見が反映されないなど許せることではない。

だが、親としては少々複雑なものがある。
王子まで話し合いに参加するということは、おそらく私たちに意見が反映されることはなくなるだろう。
可愛い息子の1歳の祝いの衣装に何も関与できないとはな……。

寂しいが、これも生まれながらに許嫁のいる息子を持つ親の宿命なのだろう。

王子もまだまだ小さい許嫁のために我慢もしているのだ。
私も少しは我慢も必要なのかもしれないな。

「アズールも……王子がお決めになった方が喜ぶのでしょうね」

なんといっても運命の番。
誰が決めるより、王子が決める衣装の方が喜ぶのは最初からわかっていたのだ。
それを受け入れられなかっただけだ。

これからは父として、そして、王子の義父として、二人の喜ぶ方を最優先するとしようか。

王子の世話役であるフィデリオ殿は、私にそれを気づかせようとしてくれたのかもしれないな。

「ありがとう。父上には私から話しておく。ああ、衣装以外のことについては、公爵の方で考えてもらって構わない」

「はい。アリーシャとしっかりと話をして、進めておきます故、どうぞご心配なく」

「これで心置きなくアズールに会いに行ける。ならば、その方向で頼むぞ」

そう言って王子は執務室を出て行った。
今からアズールとの時間を楽しむのだろう。

私も顔を見に行こうと思っていたが、今は邪魔するのをやめておこうか。
アズールもきっと王子が来るのを心待ちにしているはずだからな。


<sideクレイ>

「あれ? 王子さまは?」

「まだいらっしゃらないわよ」

「えっ、だって……そんなはずは……」

確かにさっき来ていたのに……。

王子が来て嬉しそうに笑うアズールを見るのがいやで僕は部屋に逃げたんだ。
でも、本当はアズールの幸せそうな笑顔を見るのが好きなのに…‥。

王子さまが来るとなんだかモヤモヤして複雑な気持ちになってしまう。

「クレイ……こっちにいらっしゃい」

お母さまに優しい声をかけられて、僕はゆっくりとそばに寄った。
僕に向かって手を伸ばしてくれるお母さまの中にすっぽりと入ると、ギュッと抱きしめながら僕を膝に乗せてくれた。

アズールはそんな僕とお母さまの様子をキョトンとした顔で見つめている。

「お母さま、僕……アズールのお兄ちゃんなのに、赤ちゃんみたいで恥ずかしいよ」

「ふふっ。確かにクレイはアズールのお兄ちゃんね。頼り甲斐もあるし、とてもかっこいいわ。でもね、クレイはお兄ちゃんである前に、お母さまの大事な息子よ。息子だからいつだって、お母さまのお膝に来ていいの。このお膝はアズールだけのものじゃないわ」

「お母さま……」

「クレイは、アズールがお母さまのお腹にいる時からずっと生まれてくるのを楽しみにしていたでしょう?」

そう、僕はずっと自分に弟か妹が生まれるのを楽しみにしていた。

「自分は公爵家の跡継ぎだから、弟か妹はこの家を出ないといけない。だからこそ大切にしてあげるんだって……クレイがそう言ってくれた時、お母さまは嬉しかったわ。クレイなら可愛がってくれるって安心したもの。でも、アズールは生まれた時から王子の許嫁となる運命になっていたのよね。クレイがアズールを可愛がろうと思っていた時間のほとんどを王子に譲らないといけなくなって寂しかったのでしょう?」

「……うっ……ぐすっ…っ」

お母さまに自分の気持ちを当てられて、急にアズールへの思いが込み上げてきてしまった。
アズールの前で泣くなんて……恥ずかしい。

「でもね、寂しくなることなんてないわ。だって、アズールはクレイが大好きだもの」

「えっ、ほんと?」

「ええ。アズールと王子は運命の番だからもちろん大好き同士だけれど、だからと言ってクレイに対する愛情がなくなるわけじゃないの。アズールはいつでもクレイと遊びたがってるわよ。ねぇ、そうよね? アズール」

「にぃに」

キラキラと輝く目で言ってくれたのは、もしかして僕のこと?

「い、今の……」

「ふふっ。クレイのことよ。お兄さまが難しいから……でも、ずっと呼びたかったんじゃないかしら? ほら、アズールのところに行ってあげて」

アズールが僕を呼んでくれた。
ああ、何て可愛いんだろう

僕が近くに行くと、アズールの手が僕の耳に伸びてくる。

生まれてすぐもこうやって僕の耳を触ってくれたんだった。
アズールはあの時から何も変わっていない。
ずっと僕を好きでいてくれたんだ……。

もう、王子に張り合うのはやめよう。
たとえアズールの一番になれなくても、僕はアズールのたった一人の兄であることは変わらないんだ。

王子にだってなれない僕だけの場所。

アズール。
僕は一生『にぃに』として、アズールを守るよ。
しおりを挟む
感想 549

あなたにおすすめの小説

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!

華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

処理中です...