真っ白ウサギの公爵令息はイケメン狼王子の溺愛する許嫁です

波木真帆

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第一章

嫌われたくない

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<sideアズール>

初めてもふもふ王子さまを『ルー』……実際には『うー』としか言えてないけど……と呼んでから、毎日お父さまが僕にお父さまと呼ばせようと教えてくれるけれど、もふもふ王子さまの名前『ルーディー』よりも『お父さま』の方がずっと難しくて、なかなか言えずにいた。

だから、僕は以前、同じ病室にいた子がお父さんのことをパパと呼んでいたのを思い出して、試しに呼んでみたら、パパじゃなくて、『ぱっぱ』になってしまったけれど、お父さまはものすごく喜んでくれた。

ルーにも、私のことを呼んでくれるようになったんだと自慢していて、僕は嬉しかった。

だから、同じようにお母さまのことも

「まんまっ」

と呼びかけてみたらすごく嬉しそうに抱きしめてくれて、僕は幸せすぎてどうにかなってしまいそうだった。
ああ、こうやって名前を呼んで、そして返事をしてくれる相手がいるって……本当にすごく幸せなことなんだな。


「まんまっ」

「はぁい。どうしたの?」

今日も声をかけると、お母さまは笑顔でだきしめてくれる。
『まんまっ』と呼ぶのもいいけれど、早くお母さまと呼べるようになって、もっともっと喜んでもらえたらいいな。
それまでもう少し『まんまっ』で許してね。

「まんまっ……うーっ?」

いつもならとっくに来てくれている時間なのに、もふもふ王子さまのルーがまだ来てくれない。
どうかしちゃったのかな?
もう、一日一回はルーのもふもふのお顔をさわさわしないと落ち着かなくなってきてるんだよね。
それくらいルーのもふもふは気持ちがいいんだ。

「ふふっ。アズールは待ち遠しいのね、でも大丈夫。王子はもうすぐ来てくれるはずよ。あっ、ほら。話をすれば。ふふっ。アズール、耳を澄ませてごらんなさい」

あっ!
本当だ!
ルーの足音が聞こえるっ!!

「うきゅっ、うきゅっ」

嬉しいとついつい出ちゃうこの声。
止めようと思っても、無意識に出ているから止めようもないけど、ちょっと恥ずかしいんだよね。

最近できるようになったハイハイで、部屋に置かれた囲いの中から扉に一番近い場所に駆けつけるとちょうどいいタイミングでルーが扉を開けた。

「アズールっ!!」

「うーっ、うーっ!!」

目の前の囲いにしがみついて名前を呼ぶと、

「ははっ。そんなに待ちかねていたのか?」

ルーが囲いの上から手を伸ばし僕を抱き上げてくれる。

「うーっ、もふもふぅ……っ」

ああ、この時が最高だ。

やっぱりしっぽも好きだけど、ルーのお顔のもふもふが一番大好き。
もふもふのお顔に手を伸ばしてさわさわしていると、ルーのしっぽがバシバシとすごい勢いで動いてるのがわかる。

前にお父さまとお母さまが話しているのを聞いたことがあるけれど、しっぽがものすごい勢いで動いているのはすっごく嬉しい時なんだって。
僕は小さなしっぽだから、全然見た目にはわからないけど、ルーやお父さまたちみたいにふさふさのしっぽだとそう言うのもわかって楽しそう。

でも、ルーは顔はすっごく冷静なんだよね。
今もしっぽはどこかに飛んでいくんじゃないかって思うくらい、ぶんぶん動いてるけど……。

もしかしたら、ルーのしっぽが動くのはお父さまたちとは違う意味なのかな?
しっぽが動いているからといって嬉しいわけじゃないのかもしれないな。
でも、嫌がられないから触っちゃうけど。
だって、もふもふのお顔を触れないなんて……っ!
絶対嫌だもん。

「ははっ。アズールは本当に私の顔が好きだな。いや、顔というよりはこの毛に覆われたのが好きなのか? それはそれでまた微妙な感じもするが……まぁ、いい。どちらにしてもアズールが私に会いたがってくれているのならな」

「ふふっ。アズールは王子をずっと待っておりましたよ。私にもいつお越しになるのかと尋ねていましたから……」

「そうかっ! それなら、嬉しいな。それにしてもアズールは毎日会うたびにどんどんはいはいが上手になるな。私を追いかけてこちらまできてくれたのだろう?」

「ええ。もう少ししたら、囲いを持って立ち上がりそうですよ。王子が一緒にいらっしゃる間に立てるようになるといいですね」

「ああ、そうだな。初めてはいはいする姿も私の目に焼き付けておいたからな」

そうか……。
ルーは、僕が立つところが見たいんだ……。

前の世界では心臓も弱かったから、少し歩くとすぐに疲れてた。
だから、ベッドから下りることもあまりなかったけれど……ここでは今のところ、元気いっぱいでどんなに動いても全然苦しくならないし、楽しいんだ。

だから、ついついはいはいで動き回っちゃう。

でもどれだけ動き回ってもお母さまは優しく見守ってくれるし、疲れたらすぐに抱っこしてくれるし、本当に楽しい。

「王子がアズールを見てくださるので、その間私は少し休ませていただきますね」

「アズールのことは心配しなくていい」

「はい。ありがとうございます」

お母さまが部屋を出ていくと、ルーは囲いの中に一緒に入って、僕を抱っこしたまま座り込んだ。

「さぁ、アズール。何したい? 絵本でも読もうか? それとも少しお昼寝でもしようか? ほら、私の尻尾に包まって寝るのが好きだろう?」

さっきとは違う、優しく動くしっぽを僕に見せてくれる。

ああ……あのしっぽに包まって、おねんね……。
うん、最高だな。

でも……ルーは僕が立つのが見たいんだよね?
ちょっと練習でもしてみたら、もしかしたらルーの前で立てるようになるかも……。

「うーっ、うーっ」

僕は囲いに手を伸ばしながら、ルーの名前を呼ぶと、

「んっ? どうしたんだ?」

と言いながら、囲いに近づいてくれる。

僕は囲いを手でぎゅっと握ったけど、身体をルーが抱きしめているから全然立ち上がれない。

「うーっ」

「もしかして、立とうとしているのか?」

「だぁっ、だぁっ!」

やった!
やっとわかってもらえた。

「もしかして私が見たいと言ったからか?」

「だぁっ!」

「アズールは……本当に私の言葉がわかっているみたいだな……。だが、まだ生まれて7ヶ月だというのに……こんなにも理解できるものなのか?」

ルーの目が不思議そうに僕を見つめる。
えっ?
もしかして、僕のこと……変だと思ってる?

えっ……どうしよう。
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