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第一章

ドキドキの初対面

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<sideルーディー>

「……ルーディー、お前……その格好はなんだ?」

部屋に入ってきた父上が私を見て、開口一番そんなことを聞いてきた。

「あっ、父上っ! どうですか? 格好いいでしょう?」

「格好いい? いや、なぜそんなものを部屋の中で被っているのだ?」

「はい、その……なんとか、許嫁に嫌われない対策を……と思いまして……」

何度かヴォルフ公爵邸に足を運んだものの、ちょうど授乳時間だったり、眠っていたりとタイミングが悪いのと、そして、まだ私の覚悟ができていないということも重なって、父上から話を聞いてから二週間経った今でもまだ許嫁には会えないでいる。

ヴォルフ公爵は眠っていても大丈夫だから一緒に会いに行こうと誘ってはくれるが、やはりそのままの姿では会えそうにない。
なんだかんだと理由をつけて逃げ帰っていた。
けれど、いつまでもこのままではいけない。
そこで考えついたのが騎士団の訓練に参加した時に特別に用意してもらったこの鎧兜を被るというアイディアだ。

これならば、顔中にふさふさと生えている狼毛も許嫁が怖がってしまうような大きな口も鋭い牙も何もかも隠してくれる。

「どうですか? 父上、これならば許嫁の前に出ても怖がられずに済むでしょう?」

我ながらすごくいいアイディアだと、父上に得意げに見せたのだが、父上は

「はぁーーーっ」

とそれはそれは大きなため息を吐いてから、私を見てなぜか笑った。

「父上、どうなさったのですか?」

「いや、お前は賢いと思っていたが、やはりまだまだ子どもなのだと少し安心したのだよ」

「えっ? それはどういう意味ですか?」

「いいか、相手はまだ生まれて二週間の乳飲子だ。目もまだ不完全であるし、お前が素顔で会いに行っても怖がらないと思うが?」

「――っ!」

「それに、もしお前の大切な許嫁がその鎧兜に触れて、柔らかな手に傷でもついたらどうするのだ? 怪我をさせてしまうことを考えれば、そんな鎧兜など身につけずに素顔で会いに行ったほうがいいのではないか?」

「許嫁に……怪我を……」

私は自分の顔を隠すことばかり考えて、許嫁がどうなるかと考えていなかった……。
何よりも第一に考えなければいけないのは許嫁の方なのに……。

私は愕然としながら、自分の顔から鎧兜を取り去った。

「父上……私の考えが至らず、申し訳ありませんでした」

「いや、わかってくれたならいいのだ。お前も大切な許嫁を怖がらせないように必死だったのだろう。お前の気持ちはわかるぞ。だが、もう少し運命のつがいの力を信じてみてはどうだ? 挽回はいつでも出来る。まずはありのままの姿を見せてみないか?」

「父上……わかりました。素顔で会いに行ってみます」

「ああ、それでこそ私の自慢の息子だ。そうだ、会いに行く前に許嫁の名前を教えておくか? それとも、あちらで直接聞いてみるか?」

「私が初めて許嫁の名を呼ぶときには、彼の目の前で呼んであげたいと思います」

「そうか、そうだな。その方がいい。私からヴォルフ公爵に早馬を出しておく。今日こそ、対面してくるのだぞ」

「はい。父上、ありがとうございます」

部屋から出ていく父上を見送り、私は急いで自分の上着についているメダルや勲章などを全て取り去った。
赤子の許嫁に怪我をさせるわけにはいかないのだ。

父上に聞いておいて本当によかった。

鏡の前で隈なく確認をして、私は万が一のためにと薄手のショールを持って部屋を出た。

私の住む城から、ヴォルフ公爵家までは馬車で5分ほどの距離にある。
私が部屋で確認をしている間に、父上が出してくれた早馬も届いたことだろう。

馬車に乗り込み、ヴォルフ公爵邸に向かう。
ああ、ドキドキする。

公爵邸に到着するとヴォルフ公爵自ら迎えに出てくれた。

「ルーディー王子。お待ちしておりました」

「あ、あの……今日は、その……許嫁に会わせて貰っても?」

「はい。先ごろちょうど眠りから覚めてご機嫌なようです」

「そ、そうか」

「部屋にご案内いたします」

「あ、ああ。ありがとう」

部屋に向かう間に、許嫁の兄であるクレイを見かけたが、私を睨んでいるように見えた。
まぁ、無理もないな。
ずっと生まれるのを楽しみにしていたのに、生まれてすぐに私のような許嫁ができてしまったのだからな。
それでも邪魔をしにこないのだから、きっとヴォルフ公爵から注意されているのかもしれない。

「ルーディー王子。こちらです」

この部屋の中に許嫁がいると思ったら、急に緊張が増してきて私は思わず、持ってきたショールで顔を覆った。

「王子……」

ヴォルフ公爵は驚いているようだったが、何も言わずに私を中へ案内してくれた。

「王子の許嫁をお連れします。こちらでお待ちください」

ヴォルフ公爵はそういうと、奥の部屋に入って行った。
流石に夜着を着たままの公爵夫人がいる寝室には入れないからな。

ああ、どんな子だろう……。
本当に私を怖がらないだろうか……。

カチャリと扉が開き、公爵の腕に抱きかかえられた小さな幼子の姿が目に入った瞬間、血湧き肉踊るような昂りを感じた。

なんだ……っ、この途轍もない高揚感は……。


「ルーディー王子。こちらは我がヴォルフ公爵家の次男・アズールにございます」

公爵が抱きかかえていた子を私に差し出してくる。
真っ白でピンと張った長い耳。
光が当たると真っ白にも見える綺麗な金色の髪。
色白の肌に赤い目。

そのどれもが私の心を掴んで離さない。
こんなに可愛らしい子が私の許嫁?

怖がらせてしまうかもしれない容貌の私がそばにいてもいいのだろうかと抱きかかえるのを躊躇っていると、その子は不思議そうな表情で私をみたと思ったら、ふわっと可愛らしい笑みを浮かべた。

「くっ――!」

その笑顔に一瞬で落ちた。

ああ、この子は私の運命に間違いない。

手を伸ばし、公爵の腕から大事に大事に受け取る。
思った以上に軽いことに驚きながらも、決して落とさないように腕の中に抱きしめた。

私の腕の中でキャッキャッと声を上げて喜ぶ姿に嬉しくなりながら、私はゴクリと息を呑んだ。

「アズール、私はルーディー。君の許嫁だよ」

許嫁と言われてもまだわからないだろうがな……。
そう思ったが、アズールは

「あぶっ、あぶぅ」

と手足をばたつかせながら可愛らしい笑顔を見せてくれる。

このまま顔を見せずにいたらずっとこの笑顔が見られるかもしれないな。
今はそれでいい。

そう思っていたのに……。

アズールのばたついた手が私の顔を覆っていたショールをさっと外してしまった。
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