上 下
69 / 85
番外編

可愛すぎる挨拶

しおりを挟む
「理央、これを」

ずっと夢見ていたドレスに身を包み、満面の笑みを浮かべている理央の前に細長い小箱を見せる。

「凌也さん、これは?」

「ふふっ。開けてご覧」

理央が小さな手でその小箱を開けると、中から出てきたのはパールのネックレス。

「わぁ、綺麗っ!」

「これは、母さんから理央への贈り物だ。このドレスと一緒につけて欲しい」

「お母さんから……こんなに素敵なものをいいんですか?」

「これはね、母さんも自分の母親から贈られたものだそうだよ。俺の結婚相手に渡そうと大切にしていたんだって。だから、理央しかこのネックレスをつけることはできないんだ」

「――っ、僕……嬉しいです。お母さんに、お礼を言わなきゃ! それからおばあちゃんにも」

「ああ。そうだな。日本に帰ったらお礼を言いに行こう。おばあさんは今、環境のいいところで介護施設に入居しているんだ。一緒に会いに行ってくれるか? 理央が俺の大事な相手だって報告したい」

祖母は割と厳しい人だったが、俺には優しかった。
こんなにも可愛い理央が運命の相手だと紹介したらきっと喜んでくれるだろう。
理央にも祖母との思い出を作ってもらえたらいい。

「もちろんです! ぜひ連れて行ってください。あの……これ、つけてもらえますか?」

「ああ、喜んで」

理央の細い首に上品なサイズのパールのネックレスが映える。
年代物だが、傷ひとつない綺麗なパールはダイヤとはまた違った輝きを見せてくれるな。

「どうだ?」

「わっ、綺麗です! 本当に綺麗っ!」

理央は嬉しそうに鏡の中の自分を見つめる。
この笑顔を祖母と母さんが見たら、きっと大喜びするだろうな。
俺はそっとスマホで理央の嬉しそうな写真を撮った。


「さぁ、理央。撮影に行こうか。きっとカメラマンさんも来てくれているぞ」

「はい。なんだかドキドキしますね。凌也さん、僕の格好……可愛いですか?」

「ああ。世界で一番美しい俺の花嫁だよ」

チュッと頬に軽く唇を当てると、理央はほんのり頬を染め、嬉しそうに笑っていた。

ふわふわの姫ドレスを纏った理央を抱き上げ、部屋から出るとミアさんともう一人、男性が立っていた。

ああ、この人がロレーヌ総帥が話していた、私たちの専属カメラマンだろう。

『ミアさん、お待たせしました。あなたが私たちの写真を撮ってくださるカメラマンですか?』

ずっと待ってくれていたミアさんと、隣の男性に声をかけると男性は、俺の腕の中にいる理央を見て

『おおっ、なんて美しい花嫁!』

と驚きの声を上げていた。

それでもすぐにハッとした表情を見せ、

「ラふぁえる、デス。ヨロシク、おねがい、シマス!」

と辿々しい発音ながらも日本語で挨拶してくれた。

きっと理央のために覚えてくれたのだろう。
腕の中にいる理央の緊張が少しほぐれてきたのがわかる。

やはり人の優しさや思いは、どんなに辿々しくても伝わるものだな。

あまりにも可愛い理央の花嫁姿に、ラファエルが惹かれないか心配なところはあるが、ロレーヌ総帥の話では、彼にはすでに夫がいると言っていたから心配はないだろう。
何よりロレーヌ総帥が選んでくれた人物だ。
それだけでなんの心配もいらないな。

『ラファエルさん、私の花嫁は見ての通り美しすぎて、カメラにおさめることは難しいかもしれないが、今日はよろしく頼むよ』

『はい。このラファエルにお任せください!』

そう自信満々に言い切るラファエルが頼もしく思える。

「理央もラファエルさんに挨拶できるか?」

「は、はい。頑張ります」

そういうと、理央は一度深呼吸をしてからゆっくりと口を開いた。

『ぼんじゅーる、らふぁえる。じゅ、しぃ、りお』

『――っ!!! 突然、天使が……っ。ああっ……なんて可愛いんだ……っ』

可愛らしい理央の挨拶に、ラファエルは一瞬でノックアウトされたようにその場に崩れ落ちた。
いや、その気持ちはわかる。

いくら可愛い夫がいようが、可愛い天使の挨拶にやられるのは別次元の問題だ。
しかも今の理央は可愛らしいドレスに身を包み、さらに可愛らしさを増している。

あのジュールさんでさえ、理央たちの挨拶にメロメロになっていたのだからラファエルが落ちても仕方のないことなのだろう。
それにしても理央はいつの間に名前までフランス語で言えるようになっていたのだろうな。

「凌也さん……僕の挨拶、おかしかったですか?」

「ああ、違う。理央の可愛さに驚いただけだよ。本当だぞ。いつも可愛いが今日の理央はなんと言っても美しい姫だからな」

不安そうな表情を見せていたが、俺の言葉に安心したのかホッとしたように笑顔を見せてくれた。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【続編】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785

【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます

天白
BL
誰もが想像できるような典型的な日本庭園。 広大なそれを見渡せるどこか古めかしいお座敷内で、僕は誰もが想像できないような命令を、ある日突然下された。 「は?」 「嫁に行って来い」 そうして嫁いだ先は高級マンションの最上階だった。 現役高校生の僕と旦那さまとの、ちょっぴり不思議で、ちょっぴり甘く、時々はちゃめちゃな新婚生活が今始まる! ……って、言ったら大袈裟かな? ※他サイト(フジョッシーさん、ムーンライトノベルズさん他)にて公開中。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

処理中です...