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番外編
クリスマスプレゼント探し <後編>
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<side凌也>
「理央、どれがいい?」
「どれも美味しそうで悩みますね」
「そうだな、だがこの後ランチをするからな………ああ、この苺のパフェはどうだ? 小さいサイズなら大丈夫だろう?」
「わぁっ! 美味しそう! これがいいですっ!」
さっきまで落ち込んでいた理央の表情に笑顔が戻ったのを喜びながら、私は苺パフェとブラックコーヒーを注文した。
すぐに可愛いサイズのパフェとコーヒーが運ばれてきた。
ファストフード並みに早かったのは、おそらく理央が可愛かったからだろう。
「美味しそうっ!!」
パフェを前にこんなにも目を輝かせるような子の注文なら、少しでも早く持ってきたいと思うだろうからな。
「凌也さんっ、見てください! 赤いアイスですよ!」
「ふふっ。本当だ。理央、食べてごらん」
細くて長いパフェ専用のスプーンで理央は嬉しそうにアイスをひと掬いすると、ゆっくりと口に運び入れた。
口に入れた瞬間、大きな目をさらに大きく開き、
「うわっ! すごいっ! 苺をそのまま食べているみたいですよ」
と興奮気味に教えてくれた。
「ふふっ。良かったな」
「凌也さんも食べてみてください!」
「いいのか、なら……」
理央の前に口を開けて見せると、理央は嬉しそうに私の口に運び入れてくれた。
外だと恥ずかしそうにするのに……と思ったが、きっとあまりの美味しさにここが外だと言うことを忘れているのだろう。
そんなところも可愛いんだ。
「ねぇ、美味しいでしょう?」
「ああ、本当に苺を食べているみたいだ。だが、甘くて美味しいのは理央が食べさせてくれたからだろうな」
「ふふっ。凌也さんったら……」
「――っ!!」
この席があまり人から見えない場所でよかった。
今の理央の蕩けるような笑顔は俺だけのものだからな。
その後も理央は生クリームや苺、スポンジなど違うものを食べるたびに俺にも食べさせてくれて本当に可愛かった。
あっという間に完食したが、ランチ前にはちょうどいい大きさのスイーツだったな。
理央は食べ終わって、今日の外出の目的を思い出したのか一気に表情が暗くなってしまった。
「理央、みんなが喜ぶものを選びにきたんだ。理央が落ち込んでいると、見つかるものも見つからないぞ」
「でも……僕、何を選んでいいのかわからなくて……」
「ふふっ。そうだな。理央は一生懸命相手のことを考えているから返って選べないんだろうな」
「ごめんなさい……」
「何も謝ることはないよ。それくらい真剣なんだから、相手は嬉しいと思うぞ」
「凌也さん……」
「ちょっと考え方を変えてみようか。今、苺のパフェを食べただろう?」
俺は空っぽになったパフェグラスを見ながら理央に語りかけた。
「理央は苺を食べたことがあるだろう? この前も父さんたちが大きくて甘い苺をもってきてくれたのを嬉しそうに食べていたな?」
理央は俺の話の意味を考えるように小さく頷いた。
「理央は苺を食べたことがあるのに、どうして今日の苺パフェをあんなに喜んだんだ? 同じ苺だろう?」
「えっ……えっと、同じ苺、ですけど……でも、手を加えてあって……見た目も可愛かったし、全然違うものみたいでした」
「ふふっ。そうだな。贈り物も同じじゃないかな? たとえ、持っているものであってもその人が一生懸命選んでくれたと思えば嬉しいし、その人にとってはきっと同じものだとは思わないんじゃないか? もし、理央がその人だけの特別をあげたいと思うなら、何か手を加えてあげるのはどうだ?」
「手を、加える……」
「ああ、ほら。絵本で言えば、王子さまのためにハンカチにせっせと名前を刺繍しているものがあったろう? それだけでそれは世界に一つだけのハンカチになった」
「――っ!!! そ、そうですね。同じハンカチでもそうすれば違うものになるんですね、そうか、そうなんだ!!」
俺の話に何かを閃いたように、理央の顔に明るさが戻ってきた。
「あ、あの……贈り物としてふさわしいか、わからないんですけど……僕、編み物ができるんです」
「編み物?」
「はい。それで、みんなに手袋を作ったら贈り物になりますか?」
「理央の手編みということか?」
「はい、ダメ、ですか?」
心配そうに俺を見上げる顔がとてつもなく可愛い。
ここで押し倒したくなるくらいに可愛い。
俺は滾る気持ちを必死に抑えながら、
「いや、この上ない贈り物じゃないか!! みんな喜ぶぞ!!」
というと、理央は満面の笑みを浮かべた。
「だが、6人分、いや、7人分作るのはたいへんじゃないか?」
「7、人分?」
「ああ、俺のだよ。俺も理央の手編みの手袋が欲しい」
「ふふっ。凌也さんったら。でも大丈夫です。僕、集中すると2時間くらいでひとつ編めるんですよ」
「えっ……手袋一つ、2時間?」
嘘だろ……そんなに?
まさか……と思ったが、勉強でのあの集中力を考えたらあながち間違いではなさそうだ。
これはしっかりと見ておかないと、無理しそうだ。
すぐに毛糸専門店を調べ、理央を連れていった。
ここは値段表示がなくて助かる。
かなり高品質で柔らかく暖かな毛糸ばかりを揃えているこの店の毛糸で編んだ手袋ならばきっとみんな喜ぶだろう。
理央が選ぶ毛糸をそれぞれ取り出してもらい、袋いっぱいになった毛糸を理央は嬉しそうに見つめていた。
「あ、あの茶色の毛糸と、桜の花みたいな色の毛糸もお願いします」
「これは誰の分だ?」
「お父さんとお母さんの分です。せっかくだから、一緒に作りたいなと思って……」
「理央……父さんも母さんも絶対喜ぶよ。ありがとう」
理央の手編み……正直、勿体無い気もするが、理央が家族に作りたいと言ってくれるのだからここは受け入れよう。ああ、父さんと母さんが大喜びするのが目に浮かぶな。
今からハイテンションになっている両親の様子を思い浮かべながら、俺は心の中で小さなため息をついた。
「理央、どれがいい?」
「どれも美味しそうで悩みますね」
「そうだな、だがこの後ランチをするからな………ああ、この苺のパフェはどうだ? 小さいサイズなら大丈夫だろう?」
「わぁっ! 美味しそう! これがいいですっ!」
さっきまで落ち込んでいた理央の表情に笑顔が戻ったのを喜びながら、私は苺パフェとブラックコーヒーを注文した。
すぐに可愛いサイズのパフェとコーヒーが運ばれてきた。
ファストフード並みに早かったのは、おそらく理央が可愛かったからだろう。
「美味しそうっ!!」
パフェを前にこんなにも目を輝かせるような子の注文なら、少しでも早く持ってきたいと思うだろうからな。
「凌也さんっ、見てください! 赤いアイスですよ!」
「ふふっ。本当だ。理央、食べてごらん」
細くて長いパフェ専用のスプーンで理央は嬉しそうにアイスをひと掬いすると、ゆっくりと口に運び入れた。
口に入れた瞬間、大きな目をさらに大きく開き、
「うわっ! すごいっ! 苺をそのまま食べているみたいですよ」
と興奮気味に教えてくれた。
「ふふっ。良かったな」
「凌也さんも食べてみてください!」
「いいのか、なら……」
理央の前に口を開けて見せると、理央は嬉しそうに私の口に運び入れてくれた。
外だと恥ずかしそうにするのに……と思ったが、きっとあまりの美味しさにここが外だと言うことを忘れているのだろう。
そんなところも可愛いんだ。
「ねぇ、美味しいでしょう?」
「ああ、本当に苺を食べているみたいだ。だが、甘くて美味しいのは理央が食べさせてくれたからだろうな」
「ふふっ。凌也さんったら……」
「――っ!!」
この席があまり人から見えない場所でよかった。
今の理央の蕩けるような笑顔は俺だけのものだからな。
その後も理央は生クリームや苺、スポンジなど違うものを食べるたびに俺にも食べさせてくれて本当に可愛かった。
あっという間に完食したが、ランチ前にはちょうどいい大きさのスイーツだったな。
理央は食べ終わって、今日の外出の目的を思い出したのか一気に表情が暗くなってしまった。
「理央、みんなが喜ぶものを選びにきたんだ。理央が落ち込んでいると、見つかるものも見つからないぞ」
「でも……僕、何を選んでいいのかわからなくて……」
「ふふっ。そうだな。理央は一生懸命相手のことを考えているから返って選べないんだろうな」
「ごめんなさい……」
「何も謝ることはないよ。それくらい真剣なんだから、相手は嬉しいと思うぞ」
「凌也さん……」
「ちょっと考え方を変えてみようか。今、苺のパフェを食べただろう?」
俺は空っぽになったパフェグラスを見ながら理央に語りかけた。
「理央は苺を食べたことがあるだろう? この前も父さんたちが大きくて甘い苺をもってきてくれたのを嬉しそうに食べていたな?」
理央は俺の話の意味を考えるように小さく頷いた。
「理央は苺を食べたことがあるのに、どうして今日の苺パフェをあんなに喜んだんだ? 同じ苺だろう?」
「えっ……えっと、同じ苺、ですけど……でも、手を加えてあって……見た目も可愛かったし、全然違うものみたいでした」
「ふふっ。そうだな。贈り物も同じじゃないかな? たとえ、持っているものであってもその人が一生懸命選んでくれたと思えば嬉しいし、その人にとってはきっと同じものだとは思わないんじゃないか? もし、理央がその人だけの特別をあげたいと思うなら、何か手を加えてあげるのはどうだ?」
「手を、加える……」
「ああ、ほら。絵本で言えば、王子さまのためにハンカチにせっせと名前を刺繍しているものがあったろう? それだけでそれは世界に一つだけのハンカチになった」
「――っ!!! そ、そうですね。同じハンカチでもそうすれば違うものになるんですね、そうか、そうなんだ!!」
俺の話に何かを閃いたように、理央の顔に明るさが戻ってきた。
「あ、あの……贈り物としてふさわしいか、わからないんですけど……僕、編み物ができるんです」
「編み物?」
「はい。それで、みんなに手袋を作ったら贈り物になりますか?」
「理央の手編みということか?」
「はい、ダメ、ですか?」
心配そうに俺を見上げる顔がとてつもなく可愛い。
ここで押し倒したくなるくらいに可愛い。
俺は滾る気持ちを必死に抑えながら、
「いや、この上ない贈り物じゃないか!! みんな喜ぶぞ!!」
というと、理央は満面の笑みを浮かべた。
「だが、6人分、いや、7人分作るのはたいへんじゃないか?」
「7、人分?」
「ああ、俺のだよ。俺も理央の手編みの手袋が欲しい」
「ふふっ。凌也さんったら。でも大丈夫です。僕、集中すると2時間くらいでひとつ編めるんですよ」
「えっ……手袋一つ、2時間?」
嘘だろ……そんなに?
まさか……と思ったが、勉強でのあの集中力を考えたらあながち間違いではなさそうだ。
これはしっかりと見ておかないと、無理しそうだ。
すぐに毛糸専門店を調べ、理央を連れていった。
ここは値段表示がなくて助かる。
かなり高品質で柔らかく暖かな毛糸ばかりを揃えているこの店の毛糸で編んだ手袋ならばきっとみんな喜ぶだろう。
理央が選ぶ毛糸をそれぞれ取り出してもらい、袋いっぱいになった毛糸を理央は嬉しそうに見つめていた。
「あ、あの茶色の毛糸と、桜の花みたいな色の毛糸もお願いします」
「これは誰の分だ?」
「お父さんとお母さんの分です。せっかくだから、一緒に作りたいなと思って……」
「理央……父さんも母さんも絶対喜ぶよ。ありがとう」
理央の手編み……正直、勿体無い気もするが、理央が家族に作りたいと言ってくれるのだからここは受け入れよう。ああ、父さんと母さんが大喜びするのが目に浮かぶな。
今からハイテンションになっている両親の様子を思い浮かべながら、俺は心の中で小さなため息をついた。
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