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お父さんとお母さん

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「凌也さん……ここ、ですか……?」

「ああ。間違いないよ」

到着したのは、高い壁に囲まれた不思議な建物で中の様子は何も見えない。
入り口は僕でも屈まないといけないほど小さくて人ひとり入るのがやっとくらいの大きさしかない。
外にはお店の案内も看板もなく、ここが店だと知らなければきっと素通りしてしまうようなところだ。
まるで秘密基地のようなその店に緊張もしつつ、なんだかワクワクしてしまう。

「さぁ、行こうか」

凌也さんが入り口の前に立つと、

「ご予約のお名前をどうぞ」

とどこからともなく声が聞こえた。

凌也さんが名前をいうと、

「ご予約承っております」

と突然入り口が開いた。

凌也さんはそのシステムに驚いている僕を先に中へと入れてくれて、すぐに後ろから入ってきた。

庭のような場所を抜けると、

「ようこそお越しくださいました。観月さま。お連れさまはお部屋でおまちでございます。ご案内いたします」

とスタッフさんが現れて、僕たちをお父さんたちの待つ部屋へと連れて行ってくれた。

「観月さま。お連れさまがお越しになりました」

その言葉にお母さんが駆け寄ってくる。

「ああ、理央くん! 会えて嬉しいわ!」

「えっ……あっ、あの……」

びっくりする僕の手を取り、

「ほら、早く中に入って」

とあっという間に部屋の中へと連れて行かれた。

「理央っ! 母さんっ!」

後ろから凌也さんの呼び止める声が聞こえる。
いつも冷静で落ち着いた凌也さんの声とは思えないくらい焦っていて驚いてしまう。

僕たちに追いつくとさっと僕をお母さんの手から離し、あっという間に僕は凌也さんの腕の中に閉じ込められる。

「ちょっと、凌也! もうっ! せっかく理央くんと手を繋いでたのに」

「勝手に連れてくなよ。俺のだぞ」

自分の好きなおもちゃを取られた子どものような、少し拗ねている凌也さんの態度が可愛く思える。

「理央くんが驚いてるわよ」

「――っ、理央。悪い、びっくりさせたか?」

焦り顔の凌也さんとは対照的に、お母さんはにっこりと優しく微笑みかけてくれている。
こんな感じ、初めてだ。

なんか、いいな。

頭を横に振りながら、

「大丈夫です」

と答えると凌也さんはホッとしたように僕をぎゅっと抱きしめた。

「ほら、お前たち。いい加減、席に着いたらどうだ?」

お父さんの声にハッとして、急いでテーブルへと向かう。

広くて綺麗な畳の部屋に広いテーブルがあって、凌也さんによく似た顔立ちのお父さんが笑顔でこっちを見ていた。
笑い皺がすごく優しそう。
凌也さんも将来こんな感じになるのかな。

そんな想像をするだけでなんだか楽しかった。

お父さんとお母さんが並ぶ席の向かいに僕と凌也さんが腰を下ろすと、

「料理はおまかせで頼んでおいたから。苦手なものは食べなくていいからな」

とお父さんが声をかけてくれた。

「父さん、ありがとう。改めて紹介するよ。この子が、俺が一生大切したいと思ってる理央だよ。
将来は俺と一緒に働きたいと言ってくれて、一生懸命勉強を頑張ってくれているんだ」

「ほお、そうか」

凌也さんの言葉に嬉しそうに相槌を打ってくれるお父さん。
やっぱり良い人。

「ほら、理央。自分で挨拶できるか?」

「は、はい。あの、俺……じゃない、僕、木坂理央です。この前、18歳になりましたけど、あの……僕、中卒で……まだ何も凌也さんの役に立ててないですけど、一生懸命勉強してずっと凌也さんといられるように頑張ります!
これからどうかよろしくお願いします!」

言えたぁっ!!

緊張して最後の方何言ってるのかわかんないくらい早口になっちゃったけど、なんとか聞こえたよね?

と思っていると、突然隣から腕が伸びてきて凌也さんの腕の中に閉じ込められてしまった。

「り、凌也さん……、あの」

「何も役に立ててないなんて、何言っているんだ! 理央がいてくれるだけで俺がどれだけやる気になってるか……。理央がいるから仕事も頑張れてるんだぞ」

「凌也さん……それ、本当ですか?」

「ああ。もちろんだよ。理央と出会えてから毎日が楽しくてたまらないんだからな。
それに理央、さっきの挨拶ひとつ間違えてる。理央はもう観月だぞ。榊くんにもそう紹介しただろう?」

「――っ! はい。僕、観月理央です!」

凌也さんの言葉が嬉しすぎて、そう叫びながら凌也さんにぎゅっと抱きつくと

「まさか、凌也のこんな姿が見られるとはな……」
「本当に。もうすっかり理央くんにメロメロじゃない」

とお父さんとお母さんの声が耳に入ってきた。

そういえば、お父さんたちの前だったんだ!
慌てて凌也さんから離れようとしたけれど、凌也さんの腕の力が強すぎてびくともしない。

「あの、凌也さん……お父さんたちの前ですよ」

小声で必死に言ったけれど、

「別に構わない。俺たちは家族だから、理央と仲良い姿見せた方が安心するんだ。ねぇ、父さん、母さん」

と言われてしまった。

「ああ、理央くん。気にしないでいい。いつも通り仲良くしてくれていいよ」

「でも、凌也。少しは私に理央くんを貸してよね」

「母さん、さっきも言っただろう? 理央は俺のだからな」

「言っとくけど、私の息子でもあるんだからね。せっかくこんなに可愛い息子ができたんだから。ねぇ、理央くん」

綺麗なお母さんににっこりと笑顔を向けられて思わず顔が赤くなってしまう。
この人が僕のお母さん……。
嬉しいな。

「僕、そんなふうに言ってもらえて嬉しいです……お、お母さん……」

生まれて初めてお母さんって呼べる人ができたんだ!!
呼びかけてみて、ようやく実感できた。

「きゃーっ!! 理央くんがお母さんって呼んでくれたわ! 嬉しいっ! ふふっ。はーい。お母さんよ」

なんだかものすごくテンションが高くなったお母さんを見て、お父さんと凌也さんが笑ってる。

「私のこともお父さんと呼んでくれていいんだぞ」

「はい。お父さん……」

「ははっ。いいもんだな」

こんなに優しいお父さんとお母さんができて僕は本当に幸せだ。



「お料理をお持ちいたしました」

部屋の襖が開き、次々と料理が並べられ僕たちが座っている、10人は座れそうなほど広いテーブルが瞬く間に料理で埋め尽くされていく。

「わぁーっ、綺麗っ!」

芸術品みたいに綺麗に並べられ彩られた料理に思わず声を上げてしまったけれど、

「そうだろう。ここの料理は本当に芸術品のように綺麗で、しかもほっぺたが落ちるほど美味しいぞ」

とお父さんがにこやかに同調してくれる。
お父さんもお母さんもすごく良い人で本当に嬉しい。
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