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誰か助けて!

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いつも読んでいただきありがとうございます!
理央の所持金の説明がわかりにくかったので加筆修正しています。



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翌日、9時前には篁さんが施設にやってきて、俺を見て満面の笑みで

「理央くん、誕生日おめでとう。これで成人か。ようやくだな」

とやけに嬉しそうに俺の肩を抱き、

「さぁ、乗るんだ」

と無理やり俺を車の助手席に座らせ車を走らせた。

「ど、どこに行くんですか……?」

「ふふっ。祝いの食事の前に良いところに連れて行ってやろうと思ってね」

そう言って連れて行かれたのは高そうなホテル。
入り口からそのままエレベーターに乗せられ、降りた場所の目の前にあった部屋に連れて行かれた。

「あ、あの……」

「ようやくこの日がきた! お前が18になるこの日がな」

そういうと、篁さんは俺に抱きつきお尻を揉みしだいてきた。

「やめ――っ」
「うるさいっ!!」

そう怒鳴られた瞬間、バシーンと顔に激痛が走った。

頬がビリビリと痛む。
一瞬、何が起こったのかわからなかったけれど、その途轍もない痛みにようやく殴られたんだとわかった。

「18になったらお前をもらうためにあの施設にせっせと金を出してやってたんだ。
その分、きっちりと返してもらうからな。ひひっ、初物か。お前みたいな上玉、滅多に食えないんだ。
今日はせいぜい楽しませてもらうよ」

ギトギトと油ぎった、ニヤついた顔を見せながらジリジリと俺のそばに寄ってくる。

嫌だ、気持ち悪い……。

「嫌だ、嫌だっ!!! こっちにくるなっ!!!」

吐きそうになるほどの嫌悪感に、俺は無我夢中で周りにあったものを掴んで投げた。
その中の一つがどうやら篁さんにあたったらしい。

「ぐふっ――!」

と声がして、どさっと倒れ込んだ音を聞いて俺は急いで立ち上がり、扉へと走った。

「くっ――、待てっ!! あの子らが、どうなってもいいのかっ!!」

苦しげな声で俺の背中に向かってそう怒鳴りつけていたけれど、それでも戻る気にはなれなかった。

俺は心の中で子どもたちに謝りながら、必死に階段を駆け降りた。
ここがどこかもわからないままひたすら走り続けていると気が付けば俺はどこかの駅についた。

とりあえずここから離れた場所に行かないと!
その一心で、靴下に隠していた数枚のお札から1000円札を1枚取り出し、新宿へと向かった。
人が多い場所に行けば、紛れられると思ったんだ。

電車を降り当てもなく彷徨いながらも、今日からどうしようという不安は拭えなかった。
出かけるときには荷物を持ちだしてはいけないという決まりだったから、俺は何も持ってきていない。
けれど、なんとなく嫌な予感がしてこっそり隠し持ってたお金を靴下に入れてきたんだ。

お小遣いも給料ももらっていなかった俺は、お使いでお店の人が安くおまけしてくれた分を貯めていた。
この5~6年くらいの間にかなりの小銭が溜まっていたけれど、持ち運びしやすいようにお札に両替しておいて正解だった。
小銭じゃ運び出しにくいもんな。

とはいえ、貯められたのは6000円。
さっき電車代で1000円近く使ってしまったから、残りは5000円とちょっと。

これっぽっちでこれからどうやって暮らしていけばいいのか……。

まずはなんとかして働き口を探さないといけない。
その時俺の目に入ってきたのはコンビニに置いてあったフリーペーパーだった。

俺はそれを手に取り、近くの公園のベンチに座りじっくりと目を通した。

ファストフードやコンビニなどのバイト求人は山ほどあったけれど、俺には住み込みでなければ意味がない。
だって、今この瞬間も住む家に困っているんだから……。

けれど、いくつかある住み込み可の求人はどれも高卒以上で中卒の俺には資格すら与えられていない。

ああ……。
俺はこれから一体どうしたらいいんだろう……。

流石にもうあの施設には帰れないし、そもそも帰る気もない。
帰ったが最後、どんな目に遭わされるかもわからない。
怒り狂った篁さんが施設に何かしていないといいけど……それだけが心配だ。

俺はとんでもないことをしてしまったという罪悪感に苛まれながらも、あの時の恐怖を思い返すと自分が逃げたことは間違いじゃなかったと思う。

とりあえずここにいても仕方がない。
住む場所と仕事をなんとかしなくちゃ!
俺は公園を出てまた仕事を探し彷徨い始めた。

「あっ、これっ……!!」

彷徨い歩いていた俺の目に留まったのは、電信柱に貼り付けられた求人募集の張り紙。

<中卒以上、働く意欲のある人なら誰でもOK! 住み込み可!
頑張れば頑張るほど稼げます! 詳しくは事務所にお越しください!>

「これだぁ~~!!!」

俺は嬉しくなって張り紙に書いてあった住所を覚え、そこに向かった。
張り紙を見つけた場所からそんなに離れておらず、目的のビルはあっという間に見つかった。
住所に書いてあった場所は通りから離れた古びたビル。
その3階が事務所だと書いてあった。

「ここの3階か……。ちょっと怖そうな雰囲気だけど、大丈夫かな?」

見るからに怪しげな雰囲気だけど、中卒の俺を雇ってくれそうなところはここしかないんだし行くしかない。

よし、やるぞっ!

俺は気持ちを奮い立たせて階段を上がった。

震える指でピンポンとチャイムを鳴らすと、強面のおじさんが出てきた。

「なんだ、お前は?」

その低い声にビビりながらも、

「あ、あの……きゅ、求人募集の、張り紙を見て……それで……」

必死に答えると、強面のおじさんは急に笑顔になって、俺を上から下まで舐めるように見つめた後で

「そうか、なら入んな」

と俺の肩をガッと抱き、部屋の中へと入れてくれた

「――っ!」

肩を抱かれてあの篁さんを思い出して気持ち悪くなる。
抵抗しようとしたけれど、あまりの力の強さに俺にはどうすることもできず、ただ我慢するしかなかった。

中に入ると事務所には他にもう1人男性がいた。
きっと社員さんなんだろう。

「ケン、こいつ雇ってほしいんだと」

「おおっ、そうか。じゃあそっちに座らせろ」

俺は肩を抱かれたまま、部屋の隅にあるソファーの奥側に座らされた。
すぐ隣と向かいにおじさんたちが座り、かなりの圧迫感と威圧感がある。

どうしよう……やっぱりここやばいんじゃ……。
そう思ったけれど、奥側に座らされた俺はいまさら出ていけそうもない。

恐怖にゴクリと唾を呑み込みながらどうしていいかわからずにいると、目の前にいたおじさんが口を開いた。

「お前にやってもらうのはチラシやティッシュ配りが主だな。まぁ簡単だから仕事はすぐにできるだろう」

チラシとティッシュ配り……ああ、なんだ……。
仕事はまともそうだ。
少しホッとしながら、

「あ、あの……住み込みっていうのは?」

と尋ねると、途端に男たちの目が光った気がした。

「そうか、お前……住み込み希望か。なんだ、それならそうと早くいえ。ふーん、まぁまぁ良さそうだな。
住み込みの場合は俺たちと一緒に住んでもらって、俺たちのまぁ雑用をしてもらうのが仕事だからしっかり頼むよ」

「ざ、雑用ってなんですか?」

「お前もわかってんだろう? お前の身体で俺たちに奉仕してもらうんだよ」

ニヤニヤとした顔つきに吐き気が込み上げる。

「俺、帰りますっ!!」

一気に血の気が引き気持ち悪くなり、慌てて立ち上がって帰ろうとすると、

「お前、今更ふざけんなよっ」

と隣にいた男に突然身体を押された。

「わぁ――っ!」

押された拍子に俺の隣に置いてあった大きな壺にぶつかり、壺はそのままガシャーーンと大きな音を立てて割れてしまった。

「おいっ、お前! なんてことをしやがるんだっ! この壺、1000万円するんだぞ!!」

「い、1000万??」

「お前が壊したんだから弁償だな。俺たちの家でた~っぷり働いて弁償してもらうしかないな」

「そ、そんなっ! 俺は押されたからぶつかっただけでっ!!」

「お前、人様のもの壊しておいて人のせいにする気か? ああっ?? テメェ、大概にしろよ!!」

「――った!!」

俺は腕を引っ張られ床に引きずり倒されて髪を掴まれた。

「今更ガタガタ言うんじゃねぇよ!
この契約書にさっさとサインしろっ! ほらっ! 早く! サインしないと事務所から出さないからな!!」

何が書かれているかもわからない契約書を押し付けられ、ボールペンを持たされて手を無理やり動かされそうになっていたその時、突然ピンポンとチャイムが鳴った。

「チッ!! なんだよ、こんな時に」

男はブツブツと文句を言いながら玄関へと向かった。

俺は助けが呼べるチャンスだと思ったけれど、

「お前、余計なことすると殺すぞっ!」

と言われて大人しくするしかなかった。

しんと静まり返った事務所にお客さんの声が響く。

「失礼します。観月法律事務所から参りました弁護士の観月と申します。
こちらで働いていた笹原空良さんのご依頼により伺いました。少しお話をさせていただきたいのですが、宜しいでしょうか?」

「はぁ? 弁護士がなんでこの事務所に? 笹原ってあのガキか? なんであいつが弁護士なんか……。
おい、お前余計なこと言うんじゃねぇよ!」

強面の男にそう睨まれたけれど、俺は救世主とも言える人の出現に期待するしかなかった。
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