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番外編

楽しい一日  <前編>

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いつも読んでいただきありがとうございます。
ようやく願いが叶った周平&敬介 伊織&悠真の4人での食事会の様子を書いてみました。
少し長くなったので分けています。
視点が途中で変わります。
楽しんでいただけると嬉しいです♡







「周平さんは安慶名さんのご自宅には行かれたことがあるんですか?」

「ああ、何度か行ったがここ数年は伊織はほとんど石垣島にいたからな。かなり久しぶりだよ」

「そうなんですね。安慶名さんとは仕事では結構長いお付き合いですけど、プライベートではあまり接点がなかったものでこの前倉橋の家で初めてゆっくり話しましたよ」

「そうなのか。伊織からは敬介の話をよく聞いていたからてっきり――あっ」

周平さんは罰が悪そうに慌てて口を抑える。
ふふっ。砂川さんの言ってた通りだ。
周平さんはずっと安慶名さんや砂川さんから俺の情報を聞いてたって。
そうやって何年も何年も俺のことを見ててくれたんだな。
他の人ならストーカーかよって思ってしまうんだろうけど、それが周平さんだと思うと嬉しいと思ってしまうんだから、俺も相当周平さんのことが好きってことなんだろうな。

もっと早くに声をかけてくれていれば今頃は蓮見と朝陽くんみたいに、安慶名さんと砂川さんみたいに揺るがない絆みたいなものができるんじゃないかとか思ったりもするけれど、でもきっと、あのBARで出会った時が俺たちの運命だったんだよな。

たらればの話を考えるより、せっかく繋がった周平さんとの縁を強固なものにすることを考えた方がいいよな。

まずは一緒に住めるようになることか。
この前は冗談だってはぐらかされたけど、俺はいつでも一緒に住みたいって思ってるし。
だって、別に暮らす時間なんて勿体無いよな。
これからの人生一分一秒でも長く同じ時間を過ごしていたいのに……。

「2人に俺のこと、聞いてたんですか?」

「悪い、敬介のことが心配でずっと伊織と悠真くんに頼んでたんだ。怒ったか?」

「ふふっ。正直に言ってくれたんで許してあげます。でも、これからは俺に直接聞いてくださいね」

「ああ、もちろんだ」

俺は運転する周平さんの左手を取り

「約束ですよ。嘘ついたら針千本飲ます……のは可哀想だから俺の秘書として働いてもらいますよ。ふふっ」

と声をかけ、指切りをした。

笑ってくれるかと思ったのに、なぜか微動だにしない。

「周平さん?」

「あ、ああ。約束、よし、約束だな」

なぜか赤い顔で何度も約束だと繰り返し、そのまま車を走らせていった。

ふざけすぎて怒ったのかな?
と思ったけれど、聞くタイミングも失ったまま、車は安慶名さんの家についてしまった。


周平さんに紹介したい人がいると言われた日から、少し時間を空けて今日ようやく紹介してもらえることになった。
とはいえ、もう知っている人なんだけれど。

まぁ倉橋の家で会った時は他にたくさんいたし、何よりあの時は倉橋と藤乃くんがメインだったしな。

こうやって4人でゆっくりじっくりというのは初めてだから少し緊張する。


マンションかと思っていた安慶名さんの自宅は、緑に溢れた広い庭付きの一軒家。
倉橋の自宅ほどではないけど、安慶名さんの家も十分広い。

大きな地下のガレージに車を止め、玄関に戻ると思いきや周平さんはそのまま地下の扉のインターフォンを鳴らした。

「はい。どうぞ」

カチャンとロックが開き、扉を開けると室内エレベーターが現れた。
驚く俺をよそに周平さんは慣れた手つきで操作して、あっという間に1階についた。

チンと扉が開くと目の前に砂川さんの姿が見えた。

「周平さん、浅香さん。いらっしゃい。さぁどうぞ中へ」

「今日はお招きありがとう。伊織は?」

「すみません、今ちょうどローストビーフを切っていたところで手が離せないって」

「そうか。いや、いいんだ。伊織のローストビーフ楽しみだな」

「ふふっ。昨日から張り切って仕込んでましたから楽しみにしててください。浅香さんもゆっくりくつろいでくださいね」

「はい。ありがとうございます」

リビングに案内されると、奥のダイニングルームで料理を準備している安慶名さんの姿が目に入った。

「安慶名さんの料理美味しそうですね。料理のできる男性ってやっぱり憧れるなぁ」

そうポツリと呟くと、隣を歩いていた周平さんの肩がぴくっと動いた気がした。
んっ? どうしたんだろう?

それにしても白いシェフコート姿の安慶名さんはしょっちゅう見ていたから特に思うことはなかったけれど、黒のギャルソンエプロン姿はいつになく新鮮で思わずドキッとしてしまった。
なんだろう、もしかしたら周平さんのエプロン姿を想像してしまったからかもしれない。

「浅香さん、どうぞ」

砂川さんに案内されたところでシャンパンを持ってきていたことを思い出し、

「あ、そうだ。これ、後でゆっくり飲みましょう」

と手渡すと、

「わぁっ、ありがとうございます。冷やしておきますね」

と笑顔で受け取ってさっとワインセラーへと入れてくれた。


「伊織、私も手伝おう」

てっきり案内されたソファーでくつろぐのかと思っていたら、周平さんは突然キッチンの方へと向かって安慶名さんにそう話しかけていた。

「お客さまに申し訳ないですが……」

「いや、私も少しくらいは敬介にいいところを見せたいからな」

「ああ、なるほど。じゃあ、こちらをお願いします」


何やら、2人でコソコソと喋りながら周平さんは手伝いを始めた。
俺はその様子を不思議そうに見ていると、砂川さんが

「私たちはこちらでくつろいでおきましょうか」

と声をかけてくれた。

今まであまり接点がなかった彼だけど、この前話した時に結構気があうと感じたんだ。
それはお互いに同じ立場・・・・だってこともあると思うけれど、彼の物腰が柔らかくなんでも話を聞いてくれそうなところが落ち着くんだよな。

俺の方が年上なのにそれもおかしな話だが、年齢よりも器の問題ってことなのかもしれないな。

「私、浅香さんとゆっくりお話がしたかったので、今日を楽しみにしていたんですよ」

「えっ? そうなんですか?」

「はい。もうずっとあなたに恋焦がれる周平さんのお話を伺っていましたから、2人がようやく恋人になられたと聞いて嬉しかったんです。実を言うと、社長と藤乃くんの話より周平さんの恋が実ったことの方が驚いたくらいで」

「周平さん、砂川さんにどんなことを話してたんですか?」

「ふふっ。それは本人に直接聞かれたほうがいいと思いますけど、そうですね……ひとつだけお教えするとしたら、周平さんのスマホのホーム画面、ご覧になったことありますか?」

「ホーム画面? いえ、俺といる時はスマホ自体あんまり出されないので……何かあるんですか?」

「それが周平さんの宝物だそうですよ」

「えっ、それって……」

「ふふっ。どうでしょうかね」

「砂川さん、意外と意地悪なんですね」

そういうと、いたずらっ子のような可愛らしい顔を見せて、

「浅香さんには素でいられる気がして楽しいんですよ」

と言ってくれた。

そうか、砂川さんもそう思ってくれていたのか。
なんだかすごく嬉しいな。
この歳になって友達になりたいなんて言い出すのは恥ずかしいが言ってみようか。

「あの、砂川さん……名前で呼んでも?」

「はい。もちろんです。私の方が年下なので呼び捨てでも構いませんよ」

「いえ、とりあえず悠真さんにしておきます。安慶名さんに悪いので」

「伊織さんは気にしないと思いますけど。じゃあ、私も敬介さんとお呼びしても?」

「はい。どうぞ」

ああ、倉橋とも蓮見とも全く違う意味で落ち着ける友達ができたな。
喜びで心が満たされていく気がする。


  ✳︎     ✳︎     ✳︎


「悠真くんと馬が合うみたいだな」

「はい。周平さんからお話を伺っていた時から、すごく気にしていたようでしたから。
やっと気兼ねなく話せるようになって喜んでいるんだと思います」

「そうか……伊織と悠真くんにはずっと私の愚痴を聞いてもらっていたからな」

「よければこれからもお聞きしますよ。お付き合いを始めたら大なり小なり恋人への不満はあるでしょうから」

「ははっ。悪いが、その心配はないな。敬介への愛情は日々増えても、不満など一切ないからな。
まぁ惚気を聞いてもらうことはあるかもしれないが」

「ふふっ。それでも構いませんよ。その時は私の惚気も聞いていただきますが」

「ああ、そうだな。たまにはそれも楽しいかもな」

伊織がこんなにも嬉しそうに笑うのはやはり自宅というリラックスできる雰囲気だからだろうか。
仕事柄いつも気を張っているだろうからな。

「なぁ、伊織。今から料理を習うのは難しいだろうか?」

「急にどうしたんですか?」

「いや、敬介が料理ができる男に憧れるというのでな」

「ふふっ。だからお手伝いを?」

「ああ、そうだ。敬介がお前に見惚れるのは困るからな」

「ふふっ。私でよければいつでもお教えしますよ。料理は心ですから、食べさせたい人がいるだけですぐに上手くなるものです」

「そうか、それなら頑張ってみるとするか」

「はい、その意気です」

話をしていながらでも手際の良い伊織はあっという間に料理を仕上げて、ダイニングテーブルには色鮮やかで豪華な料理が並んだ。

「悠真、そろそろ浅香さんを連れてきて」

「はい。さぁ、敬介・・さん行きましょう」

悠真くんが敬介のことを名前で呼んでいることに気づき、私と伊織は顔を見合わせて笑った。
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