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秘めた想い
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「いやーー、あいつが結婚まで決めるとはな」
「ほんとに。でも……幸せそうだったな」
「ああ。蓮見のあのデレデレした顔見たか?」
「ふっ。あれは朝陽くん大変だろうな」
「確かに」
「「ははっ」」
ゴーッと響くエンジン音にかき消されながらも、ずっと見守ってきた親友の幸せに俺たちは顔を見合わせて喜びを分かち合った。
今、俺、浅香敬介と親友倉橋祐悟は、学生時代からの親友蓮見涼平とその恋人である南條朝陽くんの挙式に参列した帰りの飛行機の中にいる。
蓮見と朝陽くんは5年の付き合いを経て、今回カナダでの挙式を決めた。
2人がなぜわざわざ海外で挙式をしたのかというと、男同士だからというのも大きな理由だが、そのほかにも紆余曲折あった。
なんと言っても朝陽くんは、今、俺たちの事務所である『テリフィックオフィス』の看板俳優なのだ。
まぁ、俺がスカウトしたんだから当然といえば当然なのだが。
彼がうちの事務所に入ってすぐに主演した舞台で見せた素晴らしい演技が各方面で認められ、瞬く間にトップ俳優への道を駆け抜けていった。
次々とドラマ、映画の主演を務め、その全てにおいて30%近い高視聴率と驚くほどの興行収入を叩き出した彼は今、日本でいちばん演技力のある俳優とも称されている。
さらに、ドラマや映画で見せるクールでカッコいいイメージとは対照的にバラエティで見せる朝陽くんの純朴で可愛らしい言動に女性ファンばかりか男性ファンまで惹きつけ、好きな俳優、抱かれたい男、恋人にしたい俳優など主要なランキングはもちろん、ピュアな俳優、可愛い俳優などといったランキングでも1位になるほどの超人気っぷりだ。
そんな朝陽くんには泣く子も恐れる恋人がいる。
それが俺たちの学生時代からの親友で、この『テリフィックオフィス』のG Mでもある蓮見涼平だ。
そのことは表向きは一応事務所内での秘密ということになってはいたが、朝陽くんが新しいドラマや映画の撮影に入るときにはあいつは必ず一緒についていき、男性・女性問わず全ての共演者・スタッフに牽制をかけるという所業に及んでいたため、業界内で『南條朝陽』に手を出すと鬼が抹殺にやってくるという恐ろしい噂が蔓延っていた。
しかも、本人である朝陽くんはあいつの所業に全くもって気づいていない。
天然なのかどうなのかはよくわからないが、おそらくあいつが朝陽くんの耳には一切入らないように影であれこれ画策しているのだろう。
本当に敵にはしたくないタイプの人間だ、蓮見は。
尋常でないほどに朝陽くんを溺愛している蓮見のことだ。
これが異性の恋人ならすぐに結婚して名実ともに自分のものにしていただろう。
しかし、喧嘩ひとつしたことがなく、お互い心から好き合ってはいても同性婚のできない日本では結婚することもできない。
それに朝陽くんはいまや、押しも押されもせぬ超人気トップ俳優。
恋愛が人気を左右すると言っても過言ではない。
だからこそいくら業界内で恋人だと黙認されていても、大っぴらに公表することはなかった。
蓮見も朝陽くんもそれでいいと思っていたんだ。
そんなあいつらの関係に転機が訪れたのはある事件がきっかけだった。
蓮見と朝陽くんはうちの事務所に入った頃から、蓮見の豪華なマンションで同棲生活をしていたが、
(一応、名目は演技の勉強をするための寮となっているが、実際は同棲に間違いない)
ある迷惑な女性ファンが2人の住んでいるマンションに押しかけ、警察が出動する騒ぎを起こした。
その女の供述によれば、朝陽くんの髪の毛を手に入れることができたら恋人になれるとかいう馬鹿な噂がファンの中で出回っていて、それを信じ込んだ女がハサミを持って帰宅する朝陽くんに襲い掛かったのだ。
ちょうど同じ時間に帰宅しようとした蓮見が咄嗟に朝陽くんを守りことなきを得たのだが、その際の2人の様子に蓮見と朝陽くんが付き合っているのではないかと騒ぎを聞いて集まったものたちの間で瞬く間に話題になり、トップ俳優である朝陽くんにとって初のスキャンダルとなった。
いや、正直に言えば初ではない。
朝陽くんは前の事務所『劇団桃花』にいたときに、強姦未遂騒ぎを起こしている。
とはいえ、あれは完全に相手の女性のでっち上げで彼は冤罪だったのだが、今回のことで彼が思い出したくなかったその事件までもが掘り起こされ、彼はみるみるうちに憔悴しきっていった。
彼を知る業界の人間の中にはそれを信じるものなど1人もいなかったが、それでも俳優はやはり人気商売。
ワイドショーでは何も知らない奴らが彼のことを叩いていた。
「蓮見、どうするつもりだ?」
俺たち3人の人脈とうちの事務所の圧力をかけたことで、朝陽くんのことがテレビで取り上げられることは減り騒ぎは沈静化していたものの、一度下げられたイメージを回復させることはなかなか難しい。
朝陽くん主演で決まりかけていたドラマも一旦白紙に戻った。
そのことは朝陽くんにはまだ話してはいないが。
「考えたんだが、俺は朝陽との関係を公表しようと思ってる」
「公表って、付き合ってることを話すのか? 記者会見でもして?」
「ああ。そのためには朝陽とちゃんとした関係になろうと思ってるんだ」
「ちゃんとした関係って……式でも挙げるのか?」
「そうだ。日本ではまだ認められていないが、カナダなら外国人でも証明書がもらえる。
俺たちが正式な夫夫になれば、もう誰にも何も言わせない。
あの事件のことが掘り起こされることもないはずだ。
朝陽のことを今まで以上に守ってやれる。
俺はもう朝陽にあんな悲しい顔はさせたくないんだ」
蓮見の気持ちはよくわかる。
俺が初めて朝陽くんと会った時も、彼には生きる気力というか、やる気みたいなものが消え失せていた。
冤罪にも関わらず、強姦魔のレッテルを貼られ、それを訂正することも叶わずに悔しい気持ちで沖縄に逃げてきた彼。
それを全て受け止め、彼に再び前を向かせたのが蓮見だった。
朝陽くんにもう一度俳優として表舞台に立つように思わせることができたのも全て蓮見の朝陽くんを思う気持ちの賜物だ。
蓮見が守ってくれている、その安心と信頼が朝陽くんを生まれ変わらせたんだ。
その朝陽くんが今また沈みかけようとしているのを黙って見ていられるわけがないな。
蓮見の深い愛情があれば彼をまた浮上させることができるかもしれない。
ならば、俺はそれを反対することなどできるはずがない。
「お前が決めたことなら応援するよ。だが、お前の独りよがりにはなるなよ。
朝陽くんの気持ちをちゃんと汲んでやれ」
「ああ。わかってる」
あいつの目に強い信念のようなものが見えて、俺は安心した。
✳︎ ✳︎ ✳︎
蓮見には日本でも有名な企業の社長をしている両親がいるという肩書きがついて回って、高校まではその親の名声にあやかろうと色んな人が近づいてきたらしい。
しかも、蓮見は男の俺でもビビるほど顔がいい。
顔が良くて背も高く、性格も良い上に実家は金持ちとくれば、周りに人が集まらないわけがない。
その上、俺と知り合ったのは大学になってからだったが、その頃には自分で起業していてさらに金持ちになっていた。
そんな蓮見にはいつも女が集まっていたし、あいつもそれなりに彼女はいたようだったが、あいつの表情を見る限り誰ひとり本気で好きになっているとは思えなかった。
いつも一方的に告白され付き合って、そして振られるを繰り返していた蓮見には、きっと恋愛感情というものが欠落していたんだろう。
そこが完璧なあいつの唯一の欠点だったのかもしれない。
いつも相手に執着することもなく一夜限りの関係を楽しんでいるように見えた。
俺はそんな特定の恋人を持たない蓮見を近くで見てホッとしてたんだ。
きっと蓮見は知らない。
俺が蓮見に惹かれていたのを。
でも言うつもりなんか微塵もなかった。
蓮見は誰も本気で愛さないし、一夜限りの相手にも女性しか選ばないことも知っていたし、もちろん俺のことなんかなんの意識もしていないこともわかってたから。
大学卒業後も仕事仲間として傍に居られればいい、そう思って芸能事務所の共同経営を持ちかけた。
その時には蓮見はすでに別の会社を起業していたが、芸能事務所というのも面白そうだと俺の話に乗ってくれた時は嬉しかったな。
蓮見と一緒に別会社を立ち上げ、大学時代から仲のいい倉橋も誘って3人で芸能事務所『テリフィックオフィス』を立ち上げた。
会社代表は人脈のある倉橋が、そして、経営や企業戦略、実質上のオーナーに蓮見を置き、俺はまだ世に出ていない原石をスカウトするために全国の劇場や舞台を直接見て回った。
それぞれに役割を任せたことで事務所経営はかなりうまくいっていた。
しかも、自分で言うのもなんだが、俺の目はかなりすごいらしい。
所属させる役者は俺が認めたものしか入れないと決めているのでまだまだ少人数なのだが、うちの事務所は業界でも入りたいと願うものが後を絶たないほどの人気事務所になっていた。
そんな中、『ウォーブラーシアター』で新作の舞台が始まったという噂を聞きつけ、俺は早速観にいった。
ここ『ウォーブラーシアター』は大きな劇場ではないが、リバイバルでない面白い脚本の舞台が多いことで有名だ。
客席の後ろ端に座り、舞台が始まるのを待った。
復刻の舞台であれば、もう有名な役者が主演を務め脇役も実力派で固めるが、ここは割と無名の役者が主演を務める。
それは新進気鋭の監督だからこその起用なのだろう。
私はここで原石を見つけるのが楽しくてたまらないんだ。
まぁそんなにうまくは見つからないのだが……それもまた楽しいものだ。
幕が上がり、芝居が始まった。
そして、ある役者が出てきた一瞬で俺は舞台に釘付けになった。
俺を釘付けにさせたその役者は主役の子じゃない。
主役を陰で見守り続ける儚げな青年役の彼。
結局彼の思いは主人公に伝わることはなかったけれど、彼の一途な思いは観客の心をとらえて離さなかった。
彼の演技力と圧倒的な存在感に鳥肌がおさまらず、幕が下りた後もしばらく席から動くことができずにいた。
彼みたいな役者こそうちの事務所に入って欲しい!
そう思って彼の所属事務所を調べたところ、彼の所属先はあの劇団桃花。
元俳優で事務所のトップである桃原恵三(本名:葛井恵三)は、役者をやっている自分の息子をゴリ押しし、他の所属俳優にはあまり目をかけないことで有名だ。
ならば、彼ひとり引き抜いてもなんの問題はないだろう。
あまり良い待遇を受けているとは思えない彼を引き抜くための土台をしっかりと整え、劇団桃花にまずは『テリフィックオフィス』の名前を伏せ引き抜き交渉するための連絡をした。
ー私、浅香と申します。そちらに所属している『南條朝陽』くんについてお話をお伺いしたいのですが――
南條くんの名前を出した途端、電話越しにもピリッと冷たい空気が流れたのがわかった。
ーああ、そいつはもうとっくに辞めたんで。連絡されても迷惑です。
もううちには一切関係ないんで。
それだけいうと、俺の言葉を聞くこともなく相手はブツっと電話を切った。
一体どういうことだ?
この前まで普通に舞台に出ていたのにもう辞めたとは。
あの天才的な演技力を埋もれさせるというのか?
それは日本演劇界の損失だ。
なんとかして探す方法はないだろうか……。
そんなことを考えていたとき、蓮見から連絡があった。
ーもしもし。俺だけど。今、大丈夫か?
ーああ。大丈夫だ。どうした?
ー明日から仕事で沖縄行くんだけど、仕事終わったらそのまま夏休み取ろうと思ってて、明後日からいつもの部屋お願いして良いか?
ーオッケー。何日くらいにする?
ーそうだな、とりあえず1週間くらいかな?
ーおお、今回は割とゆっくりできるんだな。
ーたまにはゆっくり休んでくれって社員たちがうるさくってな。
ーまぁ、たまには良いんじゃないか。じゃあ、明後日な。
蓮見は自分の会社が今忙しくてなかなか会う暇もなかったが、明後日沖縄に行くなら俺も沖縄に行くとするか。
この前あっちで見つけた美味しいレストランを案内するのも良さそうだ。
スカウトする俳優については俺に決定権を与えられているからあまり相談することはないが、今回の彼については蓮見に相談してみようか。
あの子を引き入れるのには蓮見の力が必要なこともあるかもしれない。
そう思いながら、沖縄へと飛んだのだが、まさか蓮見が俺が追い求めていた彼を連れてくるとは思っても見なかった。
ようやく会えた彼はあのとき舞台で放っていた輝きを全て失くし、名前を聞いても同姓同名の別人としか思えないほどに落ち込んでいた。
怯えているような彼の様子にその件を追及するのもかえって彼を追い詰めることになりかねないと素知らぬ素振りをしたが、内心彼に何があったのか、気になって仕方がなかった。
傷ついた彼がウサギと戯れる姿を見ながら、俺は蓮見に問いかけた。
「蓮見……彼をどうするつもりだ?」
「まずは彼の傷を癒してからだな」
そう言って彼を見守る蓮見の眼差しに、彼が特別なんだとすぐにわかった。
そうか……やっと本気で好きになれる人に出会えたんだな……。
そうわかってなぜかホッとした気持ちの方が大きかった。
彼が蓮見にとっての初恋であり、最後の恋だろうと言い切れるほど、蓮見は彼に惹かれていた。
そして、彼もまた蓮見のことを少なからず思っている。
まだ小さな火だけれど、彼の心に宿った蓮見への思いは本物だろう。
俺は始まったばかりの恋を心の中で見守りつつ数日を過ごした。
あれほどまでに心を閉ざしていた彼の苦しみを聞き出せたのは蓮見の思いの深さだろう。
それから2人の間に何があったのかはわからないが、離島を巡ってきた2人はすっかり表情も変わり距離がぐんと縮まっていたのは見てすぐにわかった。
2人の仲睦まじい様子に俺は蓮見への思いをすっかり断ち切ることができた。
それは泣く泣く諦めたわけじゃない。
俺の中には蓮見の幸せそうな姿を見ることができて嬉しいという気持ちしかなかった。
おそらく俺の蓮見への思いは全てにおいて超越した蓮見に対するただの憧れだったんだろう。
それから5年、2人の愛しあう姿というよりは、蓮見の激重な独占欲に塗れた執着愛によく朝陽くんが耐えられているなと感心しつつ、2人の恋の行方を見守ってきた。
そして、先日カナダで式を挙げた2人。
挙式後、そのままネット配信で同性婚を発表した。
今、日本ではトップ俳優の同性婚に激震が走っていることだろう。
調べたところ、ネットでは概ね好意的なコメントが上がってきている。
それは朝陽くんの可愛らしいイメージと蓮見がかなりのイケメンであることも左右しているのかもしれない。
この発表で朝陽くんのあの例の事件については影を潜めたようだ。
蓮見の狙い通りになったことに安堵しながら、あの幸せそうな笑顔を絶やさないよういつまでも仲良く過ごしていってほしいと切に願う。
俺はファーストクラスの広々とした座席に座りながら、それを堪能することもなく蓮見と朝陽くんの事後処理に追われ、あっという間に成田へと到着した。
その後の対応を機内で休んでいた倉橋に任せ、俺はひとり夜の街へと足を運んだ。
「ほんとに。でも……幸せそうだったな」
「ああ。蓮見のあのデレデレした顔見たか?」
「ふっ。あれは朝陽くん大変だろうな」
「確かに」
「「ははっ」」
ゴーッと響くエンジン音にかき消されながらも、ずっと見守ってきた親友の幸せに俺たちは顔を見合わせて喜びを分かち合った。
今、俺、浅香敬介と親友倉橋祐悟は、学生時代からの親友蓮見涼平とその恋人である南條朝陽くんの挙式に参列した帰りの飛行機の中にいる。
蓮見と朝陽くんは5年の付き合いを経て、今回カナダでの挙式を決めた。
2人がなぜわざわざ海外で挙式をしたのかというと、男同士だからというのも大きな理由だが、そのほかにも紆余曲折あった。
なんと言っても朝陽くんは、今、俺たちの事務所である『テリフィックオフィス』の看板俳優なのだ。
まぁ、俺がスカウトしたんだから当然といえば当然なのだが。
彼がうちの事務所に入ってすぐに主演した舞台で見せた素晴らしい演技が各方面で認められ、瞬く間にトップ俳優への道を駆け抜けていった。
次々とドラマ、映画の主演を務め、その全てにおいて30%近い高視聴率と驚くほどの興行収入を叩き出した彼は今、日本でいちばん演技力のある俳優とも称されている。
さらに、ドラマや映画で見せるクールでカッコいいイメージとは対照的にバラエティで見せる朝陽くんの純朴で可愛らしい言動に女性ファンばかりか男性ファンまで惹きつけ、好きな俳優、抱かれたい男、恋人にしたい俳優など主要なランキングはもちろん、ピュアな俳優、可愛い俳優などといったランキングでも1位になるほどの超人気っぷりだ。
そんな朝陽くんには泣く子も恐れる恋人がいる。
それが俺たちの学生時代からの親友で、この『テリフィックオフィス』のG Mでもある蓮見涼平だ。
そのことは表向きは一応事務所内での秘密ということになってはいたが、朝陽くんが新しいドラマや映画の撮影に入るときにはあいつは必ず一緒についていき、男性・女性問わず全ての共演者・スタッフに牽制をかけるという所業に及んでいたため、業界内で『南條朝陽』に手を出すと鬼が抹殺にやってくるという恐ろしい噂が蔓延っていた。
しかも、本人である朝陽くんはあいつの所業に全くもって気づいていない。
天然なのかどうなのかはよくわからないが、おそらくあいつが朝陽くんの耳には一切入らないように影であれこれ画策しているのだろう。
本当に敵にはしたくないタイプの人間だ、蓮見は。
尋常でないほどに朝陽くんを溺愛している蓮見のことだ。
これが異性の恋人ならすぐに結婚して名実ともに自分のものにしていただろう。
しかし、喧嘩ひとつしたことがなく、お互い心から好き合ってはいても同性婚のできない日本では結婚することもできない。
それに朝陽くんはいまや、押しも押されもせぬ超人気トップ俳優。
恋愛が人気を左右すると言っても過言ではない。
だからこそいくら業界内で恋人だと黙認されていても、大っぴらに公表することはなかった。
蓮見も朝陽くんもそれでいいと思っていたんだ。
そんなあいつらの関係に転機が訪れたのはある事件がきっかけだった。
蓮見と朝陽くんはうちの事務所に入った頃から、蓮見の豪華なマンションで同棲生活をしていたが、
(一応、名目は演技の勉強をするための寮となっているが、実際は同棲に間違いない)
ある迷惑な女性ファンが2人の住んでいるマンションに押しかけ、警察が出動する騒ぎを起こした。
その女の供述によれば、朝陽くんの髪の毛を手に入れることができたら恋人になれるとかいう馬鹿な噂がファンの中で出回っていて、それを信じ込んだ女がハサミを持って帰宅する朝陽くんに襲い掛かったのだ。
ちょうど同じ時間に帰宅しようとした蓮見が咄嗟に朝陽くんを守りことなきを得たのだが、その際の2人の様子に蓮見と朝陽くんが付き合っているのではないかと騒ぎを聞いて集まったものたちの間で瞬く間に話題になり、トップ俳優である朝陽くんにとって初のスキャンダルとなった。
いや、正直に言えば初ではない。
朝陽くんは前の事務所『劇団桃花』にいたときに、強姦未遂騒ぎを起こしている。
とはいえ、あれは完全に相手の女性のでっち上げで彼は冤罪だったのだが、今回のことで彼が思い出したくなかったその事件までもが掘り起こされ、彼はみるみるうちに憔悴しきっていった。
彼を知る業界の人間の中にはそれを信じるものなど1人もいなかったが、それでも俳優はやはり人気商売。
ワイドショーでは何も知らない奴らが彼のことを叩いていた。
「蓮見、どうするつもりだ?」
俺たち3人の人脈とうちの事務所の圧力をかけたことで、朝陽くんのことがテレビで取り上げられることは減り騒ぎは沈静化していたものの、一度下げられたイメージを回復させることはなかなか難しい。
朝陽くん主演で決まりかけていたドラマも一旦白紙に戻った。
そのことは朝陽くんにはまだ話してはいないが。
「考えたんだが、俺は朝陽との関係を公表しようと思ってる」
「公表って、付き合ってることを話すのか? 記者会見でもして?」
「ああ。そのためには朝陽とちゃんとした関係になろうと思ってるんだ」
「ちゃんとした関係って……式でも挙げるのか?」
「そうだ。日本ではまだ認められていないが、カナダなら外国人でも証明書がもらえる。
俺たちが正式な夫夫になれば、もう誰にも何も言わせない。
あの事件のことが掘り起こされることもないはずだ。
朝陽のことを今まで以上に守ってやれる。
俺はもう朝陽にあんな悲しい顔はさせたくないんだ」
蓮見の気持ちはよくわかる。
俺が初めて朝陽くんと会った時も、彼には生きる気力というか、やる気みたいなものが消え失せていた。
冤罪にも関わらず、強姦魔のレッテルを貼られ、それを訂正することも叶わずに悔しい気持ちで沖縄に逃げてきた彼。
それを全て受け止め、彼に再び前を向かせたのが蓮見だった。
朝陽くんにもう一度俳優として表舞台に立つように思わせることができたのも全て蓮見の朝陽くんを思う気持ちの賜物だ。
蓮見が守ってくれている、その安心と信頼が朝陽くんを生まれ変わらせたんだ。
その朝陽くんが今また沈みかけようとしているのを黙って見ていられるわけがないな。
蓮見の深い愛情があれば彼をまた浮上させることができるかもしれない。
ならば、俺はそれを反対することなどできるはずがない。
「お前が決めたことなら応援するよ。だが、お前の独りよがりにはなるなよ。
朝陽くんの気持ちをちゃんと汲んでやれ」
「ああ。わかってる」
あいつの目に強い信念のようなものが見えて、俺は安心した。
✳︎ ✳︎ ✳︎
蓮見には日本でも有名な企業の社長をしている両親がいるという肩書きがついて回って、高校まではその親の名声にあやかろうと色んな人が近づいてきたらしい。
しかも、蓮見は男の俺でもビビるほど顔がいい。
顔が良くて背も高く、性格も良い上に実家は金持ちとくれば、周りに人が集まらないわけがない。
その上、俺と知り合ったのは大学になってからだったが、その頃には自分で起業していてさらに金持ちになっていた。
そんな蓮見にはいつも女が集まっていたし、あいつもそれなりに彼女はいたようだったが、あいつの表情を見る限り誰ひとり本気で好きになっているとは思えなかった。
いつも一方的に告白され付き合って、そして振られるを繰り返していた蓮見には、きっと恋愛感情というものが欠落していたんだろう。
そこが完璧なあいつの唯一の欠点だったのかもしれない。
いつも相手に執着することもなく一夜限りの関係を楽しんでいるように見えた。
俺はそんな特定の恋人を持たない蓮見を近くで見てホッとしてたんだ。
きっと蓮見は知らない。
俺が蓮見に惹かれていたのを。
でも言うつもりなんか微塵もなかった。
蓮見は誰も本気で愛さないし、一夜限りの相手にも女性しか選ばないことも知っていたし、もちろん俺のことなんかなんの意識もしていないこともわかってたから。
大学卒業後も仕事仲間として傍に居られればいい、そう思って芸能事務所の共同経営を持ちかけた。
その時には蓮見はすでに別の会社を起業していたが、芸能事務所というのも面白そうだと俺の話に乗ってくれた時は嬉しかったな。
蓮見と一緒に別会社を立ち上げ、大学時代から仲のいい倉橋も誘って3人で芸能事務所『テリフィックオフィス』を立ち上げた。
会社代表は人脈のある倉橋が、そして、経営や企業戦略、実質上のオーナーに蓮見を置き、俺はまだ世に出ていない原石をスカウトするために全国の劇場や舞台を直接見て回った。
それぞれに役割を任せたことで事務所経営はかなりうまくいっていた。
しかも、自分で言うのもなんだが、俺の目はかなりすごいらしい。
所属させる役者は俺が認めたものしか入れないと決めているのでまだまだ少人数なのだが、うちの事務所は業界でも入りたいと願うものが後を絶たないほどの人気事務所になっていた。
そんな中、『ウォーブラーシアター』で新作の舞台が始まったという噂を聞きつけ、俺は早速観にいった。
ここ『ウォーブラーシアター』は大きな劇場ではないが、リバイバルでない面白い脚本の舞台が多いことで有名だ。
客席の後ろ端に座り、舞台が始まるのを待った。
復刻の舞台であれば、もう有名な役者が主演を務め脇役も実力派で固めるが、ここは割と無名の役者が主演を務める。
それは新進気鋭の監督だからこその起用なのだろう。
私はここで原石を見つけるのが楽しくてたまらないんだ。
まぁそんなにうまくは見つからないのだが……それもまた楽しいものだ。
幕が上がり、芝居が始まった。
そして、ある役者が出てきた一瞬で俺は舞台に釘付けになった。
俺を釘付けにさせたその役者は主役の子じゃない。
主役を陰で見守り続ける儚げな青年役の彼。
結局彼の思いは主人公に伝わることはなかったけれど、彼の一途な思いは観客の心をとらえて離さなかった。
彼の演技力と圧倒的な存在感に鳥肌がおさまらず、幕が下りた後もしばらく席から動くことができずにいた。
彼みたいな役者こそうちの事務所に入って欲しい!
そう思って彼の所属事務所を調べたところ、彼の所属先はあの劇団桃花。
元俳優で事務所のトップである桃原恵三(本名:葛井恵三)は、役者をやっている自分の息子をゴリ押しし、他の所属俳優にはあまり目をかけないことで有名だ。
ならば、彼ひとり引き抜いてもなんの問題はないだろう。
あまり良い待遇を受けているとは思えない彼を引き抜くための土台をしっかりと整え、劇団桃花にまずは『テリフィックオフィス』の名前を伏せ引き抜き交渉するための連絡をした。
ー私、浅香と申します。そちらに所属している『南條朝陽』くんについてお話をお伺いしたいのですが――
南條くんの名前を出した途端、電話越しにもピリッと冷たい空気が流れたのがわかった。
ーああ、そいつはもうとっくに辞めたんで。連絡されても迷惑です。
もううちには一切関係ないんで。
それだけいうと、俺の言葉を聞くこともなく相手はブツっと電話を切った。
一体どういうことだ?
この前まで普通に舞台に出ていたのにもう辞めたとは。
あの天才的な演技力を埋もれさせるというのか?
それは日本演劇界の損失だ。
なんとかして探す方法はないだろうか……。
そんなことを考えていたとき、蓮見から連絡があった。
ーもしもし。俺だけど。今、大丈夫か?
ーああ。大丈夫だ。どうした?
ー明日から仕事で沖縄行くんだけど、仕事終わったらそのまま夏休み取ろうと思ってて、明後日からいつもの部屋お願いして良いか?
ーオッケー。何日くらいにする?
ーそうだな、とりあえず1週間くらいかな?
ーおお、今回は割とゆっくりできるんだな。
ーたまにはゆっくり休んでくれって社員たちがうるさくってな。
ーまぁ、たまには良いんじゃないか。じゃあ、明後日な。
蓮見は自分の会社が今忙しくてなかなか会う暇もなかったが、明後日沖縄に行くなら俺も沖縄に行くとするか。
この前あっちで見つけた美味しいレストランを案内するのも良さそうだ。
スカウトする俳優については俺に決定権を与えられているからあまり相談することはないが、今回の彼については蓮見に相談してみようか。
あの子を引き入れるのには蓮見の力が必要なこともあるかもしれない。
そう思いながら、沖縄へと飛んだのだが、まさか蓮見が俺が追い求めていた彼を連れてくるとは思っても見なかった。
ようやく会えた彼はあのとき舞台で放っていた輝きを全て失くし、名前を聞いても同姓同名の別人としか思えないほどに落ち込んでいた。
怯えているような彼の様子にその件を追及するのもかえって彼を追い詰めることになりかねないと素知らぬ素振りをしたが、内心彼に何があったのか、気になって仕方がなかった。
傷ついた彼がウサギと戯れる姿を見ながら、俺は蓮見に問いかけた。
「蓮見……彼をどうするつもりだ?」
「まずは彼の傷を癒してからだな」
そう言って彼を見守る蓮見の眼差しに、彼が特別なんだとすぐにわかった。
そうか……やっと本気で好きになれる人に出会えたんだな……。
そうわかってなぜかホッとした気持ちの方が大きかった。
彼が蓮見にとっての初恋であり、最後の恋だろうと言い切れるほど、蓮見は彼に惹かれていた。
そして、彼もまた蓮見のことを少なからず思っている。
まだ小さな火だけれど、彼の心に宿った蓮見への思いは本物だろう。
俺は始まったばかりの恋を心の中で見守りつつ数日を過ごした。
あれほどまでに心を閉ざしていた彼の苦しみを聞き出せたのは蓮見の思いの深さだろう。
それから2人の間に何があったのかはわからないが、離島を巡ってきた2人はすっかり表情も変わり距離がぐんと縮まっていたのは見てすぐにわかった。
2人の仲睦まじい様子に俺は蓮見への思いをすっかり断ち切ることができた。
それは泣く泣く諦めたわけじゃない。
俺の中には蓮見の幸せそうな姿を見ることができて嬉しいという気持ちしかなかった。
おそらく俺の蓮見への思いは全てにおいて超越した蓮見に対するただの憧れだったんだろう。
それから5年、2人の愛しあう姿というよりは、蓮見の激重な独占欲に塗れた執着愛によく朝陽くんが耐えられているなと感心しつつ、2人の恋の行方を見守ってきた。
そして、先日カナダで式を挙げた2人。
挙式後、そのままネット配信で同性婚を発表した。
今、日本ではトップ俳優の同性婚に激震が走っていることだろう。
調べたところ、ネットでは概ね好意的なコメントが上がってきている。
それは朝陽くんの可愛らしいイメージと蓮見がかなりのイケメンであることも左右しているのかもしれない。
この発表で朝陽くんのあの例の事件については影を潜めたようだ。
蓮見の狙い通りになったことに安堵しながら、あの幸せそうな笑顔を絶やさないよういつまでも仲良く過ごしていってほしいと切に願う。
俺はファーストクラスの広々とした座席に座りながら、それを堪能することもなく蓮見と朝陽くんの事後処理に追われ、あっという間に成田へと到着した。
その後の対応を機内で休んでいた倉橋に任せ、俺はひとり夜の街へと足を運んだ。
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2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
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【未完】
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