妻に不倫された俺がなぜか義兄に甘々なお世話されちゃってます

波木真帆

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妻の不倫が発覚しました

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「えっ? どういうことですか?」

定時を大幅に過ぎた金曜の夜。
人もまばらになってきたカフェの奥の席で告げられた衝撃の言葉に疲れ果てていた俺の脳は処理することができなかった。

「だから、巧巳くんの奥さんであり、私の妹でもある由夏ゆかがこの男と不倫してるんだよ」

つい数時間ほど前に名古屋から東京へと戻り、クタクタになったその身体で出張日誌と領収書を会社に提出した。後処理を全て終えやっと家に帰れると会社をでたところを、待ち伏せていた義兄である高杉たかすぎ佑介ゆうすけに連れてこられたカフェのテーブルにバサッと広げられた調査資料には、俺の妻である由夏が男性とホテルに入っていく様子が何枚も写っていた。その派手な外観はどう見てもラブホテルとしか思えなかった。

「う、うそだろ……っ」

嘘だと思いたい、これが目の前にいるお義兄さんの戯言ざれごとだと一蹴してやりたい。だが、次々と出てくる、俺が目を覆いたくなるほど仲睦まじい2人の写真の数々が、これが事実なのだと告げていた。


俺、風丘かざおか巧巳たくみ。結婚2年目の32歳
今日2ヶ月の長期出張を終え、本社に戻ってきたばかり。妻の由夏とは大学時代の友達の結婚式で出会った。

二次会で隣に座って意気投合したのがきっかけで出会って半年でとんとん拍子に結婚した。長期出張の多い仕事だから、本当は専業主婦になって支えて欲しかった。でも、結婚しても仕事を続けたいっていう由夏の気持ちを尊重し、家事もちゃんと分担しながらお互い仕事を頑張っていこうって決めた。長い出張に行っても週末ごとに由夏の元に戻って、いろんなところに遊びに行った。
夜の方は……お互いに淡白でそんなに回数はなかったけれど、俺たちはうまくいってると思ってた。
それなのに……。


「由夏のこんな笑顔……初めて見た……」

ぽつりと呟いたその言葉に、

「本当に申し訳ない」

とお義兄さんは小さく答えた。

「3ヶ月前に由夏を夜の街で見かけたんだ。最初は仕事帰りに君とデートでもしているのかと思ったんだけどね、隣を歩く男がどう見ても巧巳くんとは似ても似つかない男で……私も驚いたよ。それからは何度かそこを通ったんだが、由夏に会うこともなくてあれは見間違いだったのかって思っていたんだ。だが2ヶ月前から度々見かけるようになってね、聞けば君は長期出張中だというし、調べるなら今かと知り合いの探偵に頼んだんだ。そしたら、出るわ出るわ。本当に自分の妹ながら情けない。これ以上、君を裏切るのは許せないと思って知らせに来たんだ。本当に申し訳ない」

お義兄さんが悪いわけではないのに、本当に悔しそうに、そして悲しげな表情でそう語った。

俺は何も気づいてなかった。長期出張で2ヶ月家を空けていたのだから当然といえば、当然なのだが……。俺が名古屋にいた2ヶ月、由夏はその男との楽しい時間を過ごしていたというわけか。どうりで俺が週末戻ると言っても仕事が忙しいと断ってたはずだ。

その背後でお義兄さんが俺への罪悪感に苦しんでいるのも知らずに。俺は由夏へのいいようもない怒りにテーブルの下で拳を震わせていた。

「――んです」

「えっ?」

「明日、俺たちの結婚記念日なんです」

「ああ、そうだったな。2周年か……」

「俺……由夏を驚かせようと、必死で1日早く出張を終わらせて明日は有給休暇をとったんです。由夏が行きたがっていたテーマパークに行って帰りに温泉へ連れて行こうと思って予約していたんです。それなのに……由夏には俺はもう必要なかったってことなんですね……」

「由夏はなんてことを……。巧巳くん、本当にすまない」

「いえ、お義兄さんに謝っていただくことでは……でも、俺……もう無理です。幸いと言っていいかわからないですけど、子どももいないし、すぐに離婚します」

慰謝料も何もいらない。もう由夏の顔を見たくない、それだけだった。

「巧巳くん、ちょっと落ち着いて」

「いえ、もういいんです。教えていただきありがとうございました。失礼します」

勢いに任せて立ち上がった瞬間、目の前が真っ暗になって何も聞こえなくなった。ああ、倒れたのか……なら、もうこのまま死んでもいいや。そんな俺を何かが優しく包み込んだのを感じながら、俺はそのまま意識を失った。


「う、うーん」

ぱちっと目を覚ますと、見慣れないベッドに寝かされていた。

なに? ここ、どこ?

仄暗い部屋で少しずつ目が馴染んでくるのを待って辺りを見回すと、俺が寝かされていたのはシングルサイズのベッドより少し広めのベッド。ふかふかのマットはものすごく気持ちがいい。そして周りには観葉植物やセンスの良いテーブルと椅子が置かれていた。

見る限り病院でもホテルでもなさそうだ。結局手がかりになるものを見つけられず、一体ここはどこなんだ? と考えていると、唐突に部屋の扉がガチャリと開いた。

「うわぁっ!」

思わず大声を出すと、扉の方から

「おっと!」

と声が聞こえた。この声は、まさか……。

「巧巳くん、目が覚めたんだね」

やっぱりお義兄さんだ。

「あの、俺……」

「あのカフェで倒れたんだ。出張で疲れていたのにあんな話をしたもんだから身体がオーバーヒートしちゃったみたいだね。私が君の事情も弁えず、突然あんなことを話したからだ、本当に申し訳ない。それで今日は家に帰るのも嫌だろうと思って、私の家に連れてきたんだ。勝手にすまなかったね」

「いえ、おかげで助かりました。今日は由夏の顔をどうやってみたらいいのかわからなかったんで……。でも、これ以上お義兄さんにご迷惑かけるわけにはいかないんで、どこかホテルでも取ります」

ベッドから起きあがろうとすると、

「何言ってるんだっ!」

と全力で止められた。

「まだ君の身体は万全じゃないんだから、ここでゆっくり休んでいってくれ。明日も有休取ってるって言ってたし急ぐことはないだろう?」

そうだ、由夏のために有休取ったんだっけ。無駄になったけど……。

俯いた俺を見て、悪いことを言ってしまったと思ったのか

「あっ、いや、そういう意味じゃなくて……本当に申し訳ない」

と頭を下げるお義兄さんの姿に思わず笑ってしまった。お義兄さんは俺が笑ったのを嬉しそうに見つめていた。

「何か食べられそうなら作ろうか?」

正直お腹は空いている。でもお願いしますとも言いづらい。

どうしようかと悩んでいると、

「グゥゥーーッ」

と大きな腹の虫がなってしまった。

「今から準備するから先にお風呂に入っておいで」

湯船も着替えも用意してあるからと案内され、あっという間に今、俺はお義兄さんの家の湯船に浸かっている。

なんだ、この状態。

それにしても、由夏のあの写真……。あれはどう見ても由夏だったよな。ということはあれは全部本物ってことだ。俺が名古屋に行っている間、あんな男と逢瀬を重ねてたわけか……。

お義兄さんは3ヶ月前に初めて見かけたって言ってたな。それよりもっと長い期間不倫してたかもしれないんだ。俺と最後にヤったのはいつだっけ?

確か……そうだ、名古屋に出張に行く前日だ。

あの時は珍しくあいつの方からノリノリで誘ってきたんだったな。でも、もうその時にはあいつもう不倫してたのか……。

ゔっ……そう考えただけで吐き気を催した。こんなところで吐いちゃいけないとわかっていたけど、我慢することもできずに風呂の排水溝に目がけて吐いた。何も食べていなかったから、固形物は何も出ず、ただ苦い胃液だけが口から流れていく。

ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ

大きな咳をしていることに気づいたのか、お義兄さんが飛んできた。

「巧巳くんっ! 大丈夫か?」

「だ、だいじょ――ゴホッ、ゴホッ」

「全然大丈夫じゃないじゃないか! 巧巳くん、開けるぞ」

外から開ける方法なんてあるんだと思いながら、湯船から身を乗り出したままの体勢でぼーっと見ていると、ガチャリと扉が開いた。

顔面蒼白なお義兄さんが駆け寄ってくる。

「顔色が悪くなってる。やっぱりまだ風呂は無理だったな、悪い」

もう何度お義兄さんからの謝罪の言葉をもらったんだろう。由夏本人からはまだ何の謝罪の言葉ももらっていないのに。

「ごめ、なさい……おふろ、よごしちゃって……」

「そんなこと気にしなくていいから」

お義兄さんはシャワーの水で俺の口を濯ぐと、大きなバスタオルを持ってきて俺を湯船から出してくれた。そして、手早く身体を拭き、着替えさせるとすぐに寝室のベッドへと運んでくれた。柔らかで弾力のあるベッドに横たわり、俺はようやく一息ついた。

「すみません、いろんなこと考えてたら急に気分が悪くなって……」

流石に由夏とのセックスを思い出して吐き気を催したなどというわけにもいかず、言葉を濁したのだが聡いお義兄さんは気付いたと思う。

「嫌なことは忘れて、今日明日ゆっくり休もう」

そう優しく声をかけてくれた。

吐いたばかりで迷惑をかけたというのに、空気を読めない俺のお腹がグゥグゥ鳴いて、お義兄さんに心配されながらうどんを食した。

「美味しかったです。ごちそうさまでした」

俺のその言葉に、やっと安心したように微笑んでくれた。

その後風呂場を片付けようとしたのだが、お義兄さんにもう片付けたから大丈夫だとベッドに連れ戻された。いろんなことがあって眠れないかもと思ったが、長期出張の疲れとあの話に身も心も疲れ切っていた俺は、知らぬ間にぐっすりと眠ってしまっていた。
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