161 / 163
日本旅行編
最善の方法
しおりを挟む
『そういえば、ロレーヌさんはうちの理央と凌也にフランス移住を勧めていらっしゃるそうですね』
『えっ? ええ。二人にとってもそれが最善の方法かと思っています』
突然のミヅキの父上からの話題に驚きつつも、私は冷静に言葉を返した。
『我がロレーヌ一族が創設したシュベルニー大学は素晴らしい教授たちも集まっていますし、セキュリティの観点から言ってもリオを学ばせるには最適な場所です。私の愛しいユヅルもいずれはその大学に進学させるつもりですよ』
『シュベルニー大学の功績はこちらにも轟いていますよ。ロレーヌさんが弓弦くんを行かせるというのなら、それは本当に素晴らしい大学なのでしょうね』
『ええ。それはもう。安心して預けてくださってかまいませんよ』
『ただ、今の時点でリオをフランスに行かせるのはかなり難しいでしょう』
ミヅキの父上のキッパリとした言葉に、一瞬その場がしんと静まり返った。
『その理由を伺っても?』
『ええ。理央は高卒認定試験に合格したとはいえ、まだまだ学校には不慣れな状況です。大学進学と同時に学校の勉強だけでなく言葉のハンデもある場所で新生活を始めるのは理央の心にかなりの負担がかかるでしょう。たとえ、凌也がそばにいても、弓弦くんのような友人がそばにいても、きっと理央は無理をし過ぎます。私は理央の父としても、主治医としても今現在でのフランス移住は認められません』
父上が心からリオを大切にしているというのが言葉の端々から伝わってくる。だからこそ、隣に座るミヅキも反論しないのだろう。
『まずはこちらの大学に進学させて、学校生活というものを学ばせてから編入という形でフランスに移住しても遅くはないでしょう』
『確かにリオの負担を考えればそれが最善なのかもしれないな……ユヅルもまだフランスの生活に慣れたというわけではない。だがそこにもっと不慣れなリオが来たら、リオを守ろうとしてユヅルも無理をしかねない。ユヅル自身ももう少し慣れさせてからリオたちを受け入れる方がいいのかもしれない』
『ええ、その通りだと思います。ロレーヌさんはさすが弓弦くんのことをよく考えていらっしゃる』
『ユウキにも同じ話を伝えた方がいいな』
『ええ、もうすぐ戻ってくるでしょうから話をしますよ。空良くんも理央とほとんど変わらない状況ですからね』
春にでも友人がフランスに移住してくれる。それを夢見ていたユヅルには少し残念な結果となったが、ユヅルのためにもリオとソラのためにもそれが最善だと分かれば、ユヅルは理解してくれるだろう。それに遅くなっても必ず来てくれるのだ。それがわかっているからこそ待つのもまた楽しいに違いない。
それからすぐにユウキがやってきた。
ユウキの母上はミヅキの母上に迎えられ奥の和室へと入っていき、ユウキとユウキの父上はミヅキに誘われてテラスへやってきた。
『久嗣。いいものを飲んでいたな。私もお土産を持ってきたぞ』
ユウキの父上は笑顔で紙袋からワインを取り出した。
こちらもペトリュスと変わらぬ希少なワイン。シャトー・マルゴー。
その年代を見ればかなりの価値がある逸品だとわかる。
それを惜しげもなく持参し、彼もまた手慣れた手つきでコルクを開けていく。
すぐにミヅキが新しいワイングラスを持ってきてくれて、美しいワインがそれに注がれていくのを幸せな気持ちで見つめた。
全員が揃っての乾杯をして、ワインをいただく。本当に贅沢な時間だ。
『寛海、先日話していたことをロレーヌさんに話したよ』
どうやら先ほどの話は二人の間でしっかりと話し合って決定していたことのようだ。
こうして話ができるというのも信頼関係があるからこそだろう。
『ロレーヌさん、うちの空良と寛人をお誘いいただいたことは本当に感謝しています』
『ええ。わかっています、私もミヅキの父上からの話で答えは決まりました。私のユヅルのためにもソラとリオのためにも無理はさせない方向でいきましょう』
私の言葉に父上たちは顔を見合わせて喜んでいた。
と同時にミヅキとユウキもお互いに顔を見合わせていた。
まだまだ父は偉大だと思っているのかもしれないな。
『ロレーヌさん、理央と凌也がフランスに移住した後は、私たちも近いうちに移住するつもりでいますので、家族ぐるみでよろしくお願いしますね』
『おお、それは楽しくなりそうですね。ユウキの父上も同じですか?』
『ええ。ソラがいないとうちの茜音が寂しがりますから、家族で移住するつもりですよ』
『それは素晴らしい。私たちも楽しくなりますよ』
私たちの未来は友人たちに囲まれて楽しくなりそうだ。
『そういえば、ユヅルたちはまだリオの部屋にいるのか?』
『ええ。きっと話が弾んでいるんでしょう。あの三人は本当に三つ子のように仲がいいですから』
『ああ。確かに。だが、一体なんの話で盛り上がっているんだろうな?』
『気になりますか?』
『まぁな、愛しいユヅルのことならなんでも知っておきたいと思うのが当然だろう。ミヅキもユウキも、それに父上たちも同じでしょう?』
『そうですね。ここにいる者みんな似た者同士ですよ』
狭量で嫉妬深い。きっと私の父もそうだったように遺伝だろうな。
『えっ? ええ。二人にとってもそれが最善の方法かと思っています』
突然のミヅキの父上からの話題に驚きつつも、私は冷静に言葉を返した。
『我がロレーヌ一族が創設したシュベルニー大学は素晴らしい教授たちも集まっていますし、セキュリティの観点から言ってもリオを学ばせるには最適な場所です。私の愛しいユヅルもいずれはその大学に進学させるつもりですよ』
『シュベルニー大学の功績はこちらにも轟いていますよ。ロレーヌさんが弓弦くんを行かせるというのなら、それは本当に素晴らしい大学なのでしょうね』
『ええ。それはもう。安心して預けてくださってかまいませんよ』
『ただ、今の時点でリオをフランスに行かせるのはかなり難しいでしょう』
ミヅキの父上のキッパリとした言葉に、一瞬その場がしんと静まり返った。
『その理由を伺っても?』
『ええ。理央は高卒認定試験に合格したとはいえ、まだまだ学校には不慣れな状況です。大学進学と同時に学校の勉強だけでなく言葉のハンデもある場所で新生活を始めるのは理央の心にかなりの負担がかかるでしょう。たとえ、凌也がそばにいても、弓弦くんのような友人がそばにいても、きっと理央は無理をし過ぎます。私は理央の父としても、主治医としても今現在でのフランス移住は認められません』
父上が心からリオを大切にしているというのが言葉の端々から伝わってくる。だからこそ、隣に座るミヅキも反論しないのだろう。
『まずはこちらの大学に進学させて、学校生活というものを学ばせてから編入という形でフランスに移住しても遅くはないでしょう』
『確かにリオの負担を考えればそれが最善なのかもしれないな……ユヅルもまだフランスの生活に慣れたというわけではない。だがそこにもっと不慣れなリオが来たら、リオを守ろうとしてユヅルも無理をしかねない。ユヅル自身ももう少し慣れさせてからリオたちを受け入れる方がいいのかもしれない』
『ええ、その通りだと思います。ロレーヌさんはさすが弓弦くんのことをよく考えていらっしゃる』
『ユウキにも同じ話を伝えた方がいいな』
『ええ、もうすぐ戻ってくるでしょうから話をしますよ。空良くんも理央とほとんど変わらない状況ですからね』
春にでも友人がフランスに移住してくれる。それを夢見ていたユヅルには少し残念な結果となったが、ユヅルのためにもリオとソラのためにもそれが最善だと分かれば、ユヅルは理解してくれるだろう。それに遅くなっても必ず来てくれるのだ。それがわかっているからこそ待つのもまた楽しいに違いない。
それからすぐにユウキがやってきた。
ユウキの母上はミヅキの母上に迎えられ奥の和室へと入っていき、ユウキとユウキの父上はミヅキに誘われてテラスへやってきた。
『久嗣。いいものを飲んでいたな。私もお土産を持ってきたぞ』
ユウキの父上は笑顔で紙袋からワインを取り出した。
こちらもペトリュスと変わらぬ希少なワイン。シャトー・マルゴー。
その年代を見ればかなりの価値がある逸品だとわかる。
それを惜しげもなく持参し、彼もまた手慣れた手つきでコルクを開けていく。
すぐにミヅキが新しいワイングラスを持ってきてくれて、美しいワインがそれに注がれていくのを幸せな気持ちで見つめた。
全員が揃っての乾杯をして、ワインをいただく。本当に贅沢な時間だ。
『寛海、先日話していたことをロレーヌさんに話したよ』
どうやら先ほどの話は二人の間でしっかりと話し合って決定していたことのようだ。
こうして話ができるというのも信頼関係があるからこそだろう。
『ロレーヌさん、うちの空良と寛人をお誘いいただいたことは本当に感謝しています』
『ええ。わかっています、私もミヅキの父上からの話で答えは決まりました。私のユヅルのためにもソラとリオのためにも無理はさせない方向でいきましょう』
私の言葉に父上たちは顔を見合わせて喜んでいた。
と同時にミヅキとユウキもお互いに顔を見合わせていた。
まだまだ父は偉大だと思っているのかもしれないな。
『ロレーヌさん、理央と凌也がフランスに移住した後は、私たちも近いうちに移住するつもりでいますので、家族ぐるみでよろしくお願いしますね』
『おお、それは楽しくなりそうですね。ユウキの父上も同じですか?』
『ええ。ソラがいないとうちの茜音が寂しがりますから、家族で移住するつもりですよ』
『それは素晴らしい。私たちも楽しくなりますよ』
私たちの未来は友人たちに囲まれて楽しくなりそうだ。
『そういえば、ユヅルたちはまだリオの部屋にいるのか?』
『ええ。きっと話が弾んでいるんでしょう。あの三人は本当に三つ子のように仲がいいですから』
『ああ。確かに。だが、一体なんの話で盛り上がっているんだろうな?』
『気になりますか?』
『まぁな、愛しいユヅルのことならなんでも知っておきたいと思うのが当然だろう。ミヅキもユウキも、それに父上たちも同じでしょう?』
『そうですね。ここにいる者みんな似た者同士ですよ』
狭量で嫉妬深い。きっと私の父もそうだったように遺伝だろうな。
702
お気に入りに追加
1,683
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる