大富豪ロレーヌ総帥の初恋

波木真帆

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日本旅行編

素晴らしい計画

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皆もユヅルの喜びを分かち合ってくれながら、楽しい正月の宴が始まった。

日本酒を片手にテーブルに並んだ料理を味わう。

重箱に入った見たことのない日本の伝統的な料理が並び、見た目の美しさと繊細な味わいに感動したが、その全てに意味が込められていることを知りさらに感動を覚える。さらに、ミヅキの父が作ったローストビーフはもちろん最高の味わいだったが、何よりも私を驚かせたのはユウキの父が作った鹿肉のテリーヌ。ここにエミールやシャルルがいたら真っ先にレシピを尋ねに行くだろう。自宅での手料理とは思えないほどのクオリティに、自国でテリーヌなど数えきれないほど食してきたセルジュもジョルジュも驚きを隠せない様子だった。
ユヅルもこの味には感動している様子だったから、これは是非ともレシピを聞いて、我が家でも味わえるようにしてもらいたいものだな。

初めての正月料理は、大変満足いくものだった。
さすがもてなしの国だと思っていると、

「少しお腹が落ち着いたらデザートにしましょうね。特別限定の美味しいケーキを用意しているのよ」

とミヅキの母がユヅルたちに声をかけた。
本当に痒いところまで手の届くもてなしっぷりに驚きを隠せなかったが、これが日本人というものなのだろう。

食事が終わるとミヅキたちや父上たちも揃って食器を運んだりテーブルの上を片付け始めた。
それがあまりも自然で普段でもこうしているのだろうということが窺い知れた。

母君たちはその間は何をするのかと思っていると、

「さぁ、食事も終わったし、片付けは旦那さまたちにお任せするとして、弓弦くんとミシェルさんとリュカさんに見せたいものがあるの。一緒に来てもらえるかしら」

とユヅルたちに声をかけていた。

ユヅルは即座に了承し、

「はい。エヴァンさん、行ってくるね」

と笑顔でミシェルたちと母君についていった。
あちらで今から何をするのかと少し不安になってユヅルたちが行ってしまった方を見ていると、

「ロレーヌ、心配はいらないよ」

と片付けを終えたらしいアヤシロが声をかけてきた。

「あの奥の部屋に何があるんだ?」

「その話も含めてこれからの話をしようか」

笑顔のアヤシロに押されるように私とセルジュ、そしてジョルジュはソファーに腰を下ろした。
ジュールはリオやソラたちと少し離れた場所で楽しそうに話をしているようだ。

「それでこれからの話とはなんだ?」

アヤシロたちや父君たちも腰を下ろしたところで尋ねると、口を開いたのはこの家の主人であるミヅキの父だった。

「実は、私たちの妻が弓弦くんたちを奥の部屋に連れていったのは、初詣に行くための着物を選ばせるためなのです」

「初詣に行くための着物?」

「ええ。元々、うちの可愛い息子の理央と、悠木家の空良くん、そして綾城家の佳都くんのために妻たちが自身の着物を仕立て直してそれを着て初詣に行く予定にしていたんです。それで弓弦くんやミシェルさん、それにリュカさんもちょうどお正月に来られることになったので、せっかくなら彼らにも理央たちと同じように美しい着物を着て初詣に出掛けてはどうかということになったんですよ。それで今、奥の部屋で着物を選んでもらっているんです」

「なんと――っ!!」

美しい着物を着たユヅルと初詣? なんと素晴らしい計画だろう。
隣に座るセルジュもジョルジュもこの素晴らしい計画を喜んでいるのが表情でわかる。

「それは素晴らしいアイディアだ」

「ロレーヌさんならそう仰っていただけると思っていましたよ」

ミヅキの父はもちろん、他の者もみんな笑顔を見せていた。

「それでなんだが……」

ただ、アヤシロだけが少し表情を曇らせながら私に話しかけてきた。

「何かあるのか?」

「いや、ロレーヌが今日はホテルに泊まるつもりなのはわかってるんだが、その着物のために今日は俺たちの家に泊まってもらいたいと思っているんだよ」

「俺たちの家? どういうことだ?」

「俺たちの家というか、実家なんだけど。明日の着付けの関係もあって、ロレーヌと弓弦くんはこのまま観月の実家に。セルジュさんとミシェルさんには秀吾くんの実家に。ジョルジュさんとリュカさんには周防くんの実家に。それぞれ別れて泊まってもらいたいんだ。ジュールさんは、俺の実家か、悠木の実家に泊まってもらおうと思っているんだが、どうだろう?」

思いがけない提案に驚きが隠せない。なんて言おうか考えていると、

「実家には私たちも泊まりますし、理央も弓弦くんと一緒に泊まることが出来たら喜ぶと思うんですよ」

とミヅキが声を上げた。

「秀吾もミシェルさんと一緒に泊まれたら喜びますし、俺もジュルジュさんとリュカさんとパリ市警のことについていろいろ話も聞きたいし実家に泊まってもらえると嬉しいです」

確かにスオウはジョルジュたちからパリ市警に来ないかと誘われていたし、話を聞くには絶好のチャンスなのだろう。シューゴと離れて夜を過ごしても不安にはならないというのもさすがな二人だ。

「セルジュ、ジョルジュ。どうする?」

「滅多にないことですし、着物のためなら喜んで泊まらせていただきたいですね」

「ああ、俺も賛成だ」

「それならそうしようか」

私たちの言葉に、彼らはほっと胸を撫で下ろしたように見えた。
というわけで今日はそれぞれ別れての宿泊が決定した。

友人宅、しかもその実家に泊まるなど初めての体験だから楽しくなりそうだ。
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