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日本旅行編
私の夢
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日本に向けて飛び立ってから、到着まではあっという間に感じられた。それだけ私も楽しみにしているということなのだろう。
正式に私の伴侶となったユヅルを連れての旅行だから注目を浴びるだろうが、ロレーヌ家の威信をかけてユヅルをしっかりと守ってみせる。
空港への出迎えはアヤシロとケイトだけだと連絡が来ていた。みんなからの出迎えを楽しみにしていたユヅルは残念がっていたが、これが賢明な判断なのだ。ただでさえ、今は注目を浴びている私たちに加え、あの子ら全員が空港に集まっていたら大騒ぎにはなるのは間違いない。
てっきりどこかの店で集まっているのかと思ったが、アヤシロの運転で連れて行かれたのはミヅキの実家。
ユヅルたちに会いたがっているという話は聞いていたが、まさか到着早々会うことになるとは思っても見なかった。日本での日程は任せておいてくれと言われたから何も聞かずにいたからすっかり驚かされてしまった。
だが、日本では家族で正月を過ごすことが一般的であることを考えれば、大家族さながらに集まって正月を祝うのを体験できるのは、アマネと二人っきりの正月を過ごしてきたユヅルにとって夢だったかもしれない。ここにニコラとアマネ、それに私の両親も一緒ならさぞ喜んだことだろう。
私は彼らの分まで、ユヅルが楽しむ姿を目に焼き付けるとしよう。
ミヅキの実家で待ち構えていたリオたちの大歓迎を受け、早速食事会が始まった。テーブルには見たことのない日本料理が多く並んでいる。
汁物を三種類から選ぶように言われたが、正直言ってどれを選んだらいいのか見当もつかない。とりあえずユヅルが選んだものとは別のものにしようと思い、カントーフウなるものを選んだが、どんな味なのだろう?
美味しい食事を前にミヅキの母君がユヅルに手渡したのは、手のひらよりも小さな封筒。
『お年玉』というそれは、日本の正月に大人から子どもに渡す贈り物なのだそう。こっそりアヤシロから教えられたが、中身はお金なのだそうだ。
ミヅキ家だけでなく、全員の家から渡されるお年玉でユヅルの前には小さな封筒でいっぱいになった。
ロレーヌ家ともあろうものが貰いっぱなしで済ませるわけにいかない。
すぐにジュールに同じように小さな封筒を用意させ、いくらくらい入れたらいいかわからないが、とりあえず一人当たり200ユーロ札を10枚くらい入れておいたらいいだろうか?
日本の風習を知らずに申し訳なかったと思いつつ、みんなには後で我が家からもお年玉を用意しようと話をしていると、ミヅキたちの母君から気にしないでほしいと言われてしまった。
見返りを求めないことに驚きつつも、友人たちの親がこのような考えでいてくれることに喜びを感じる。
ここにいる者は皆、私たちがロレーヌ一族だと特別扱いをしないのだ。ここは心から休むことができる場所なのだな。それが嬉しくてここは甘えさせてもらうことにしたが、セルジュもジョルジュも、それにジュールも嬉しそうにしていた。
食事が始まり、ユヅルがオゾウニなるものに口をつけて美味しいと目を輝かせる。キョーフウなるユヅルの汁物と、私のカントーフウは見た目も何も違うが、かなり興味が出てきて、口をつけると素材の優しい味が広がってものすごく美味しかった。フランスでは到底食べられそうにない味に感動したのだ。
ユヅルが食べてみたいというので器を交換して、私もキョーフウなるものを食べてみたが、こちらもうまい。
カントーフウとはまるっきり違うものだが、これはこれで美味しいものだ。同じ料理だというのにこうも違うものかと驚いてしまう。
ユヅルはどうだろうと思っていると、一口汁を啜って驚きの声をあげたかと思ったら、突然目にいっぱい涙を浮かべた。一体何が起こったのかと思ったが、どうやらこの汁物の味がアマネの作っていたものに似ていたようだ。
味は全ての記憶を呼び起こす。
今は亡き母親の味に出会うのがどれほど嬉しいことか……。
食事が始まって早々に泣き出したユヅルを咎める者はここにはいない。みんながユヅルの気持ちに寄り添ってくれる。このカントーフウを作ったケイトはユヅルのためにアマネの味を再現してくれるとまで言ってくれた。本当にここには優しい者しかいないのだなと嬉しくなる。
すると、さっと私の元に駆け寄ってきたジュールが興奮気味に言葉を話した。
『旦那さま。私はアマネさまがお作りになったこのスープをいただいたことがあります。スープを飲んで思い出しました』
『それはどういうことだ?』
『アマネさまがロレーヌ邸でお過ごしの際に、ニコラさまが珍しい日本食を食べてみたいと仰られたのです。そこでアマネさまがフランス中から必要な日本食材を取り揃えて、ニコラさまにこのスープと同じものをお作りになりました。日本にいる時も全く同じものが出来たと仰っておいででしたので、ユヅルさまがお召し上がりになっておられたのも同じものかと存じます』
『そんなことがあったのか? 知らなかったな』
『はい。旦那さま方は家を空けられていらっしゃる時でしたので、ニコラさまとアマネさま以外は私とエミールだけが御相伴に預かりました。それがあまりにも美味しかったもので、エミールがアマネさまにレシピを伺い、それを我が家とエミールで保管しているはずでございます』
『何? それはまことか?』
『はい。ですから、エミールに連絡を取れば、すぐにアマネさまのレシピを手に入れることができるはずです』
『おお……っ!』
ジュールが思い出してくれたことにより、アマネの味を完全に再現することができる。それをユヅルに伝えると涙を流して喜んでいた。ここにいる間にアマネの味をユヅルに食べさせてあげたい。そんな私の夢ができた。
正式に私の伴侶となったユヅルを連れての旅行だから注目を浴びるだろうが、ロレーヌ家の威信をかけてユヅルをしっかりと守ってみせる。
空港への出迎えはアヤシロとケイトだけだと連絡が来ていた。みんなからの出迎えを楽しみにしていたユヅルは残念がっていたが、これが賢明な判断なのだ。ただでさえ、今は注目を浴びている私たちに加え、あの子ら全員が空港に集まっていたら大騒ぎにはなるのは間違いない。
てっきりどこかの店で集まっているのかと思ったが、アヤシロの運転で連れて行かれたのはミヅキの実家。
ユヅルたちに会いたがっているという話は聞いていたが、まさか到着早々会うことになるとは思っても見なかった。日本での日程は任せておいてくれと言われたから何も聞かずにいたからすっかり驚かされてしまった。
だが、日本では家族で正月を過ごすことが一般的であることを考えれば、大家族さながらに集まって正月を祝うのを体験できるのは、アマネと二人っきりの正月を過ごしてきたユヅルにとって夢だったかもしれない。ここにニコラとアマネ、それに私の両親も一緒ならさぞ喜んだことだろう。
私は彼らの分まで、ユヅルが楽しむ姿を目に焼き付けるとしよう。
ミヅキの実家で待ち構えていたリオたちの大歓迎を受け、早速食事会が始まった。テーブルには見たことのない日本料理が多く並んでいる。
汁物を三種類から選ぶように言われたが、正直言ってどれを選んだらいいのか見当もつかない。とりあえずユヅルが選んだものとは別のものにしようと思い、カントーフウなるものを選んだが、どんな味なのだろう?
美味しい食事を前にミヅキの母君がユヅルに手渡したのは、手のひらよりも小さな封筒。
『お年玉』というそれは、日本の正月に大人から子どもに渡す贈り物なのだそう。こっそりアヤシロから教えられたが、中身はお金なのだそうだ。
ミヅキ家だけでなく、全員の家から渡されるお年玉でユヅルの前には小さな封筒でいっぱいになった。
ロレーヌ家ともあろうものが貰いっぱなしで済ませるわけにいかない。
すぐにジュールに同じように小さな封筒を用意させ、いくらくらい入れたらいいかわからないが、とりあえず一人当たり200ユーロ札を10枚くらい入れておいたらいいだろうか?
日本の風習を知らずに申し訳なかったと思いつつ、みんなには後で我が家からもお年玉を用意しようと話をしていると、ミヅキたちの母君から気にしないでほしいと言われてしまった。
見返りを求めないことに驚きつつも、友人たちの親がこのような考えでいてくれることに喜びを感じる。
ここにいる者は皆、私たちがロレーヌ一族だと特別扱いをしないのだ。ここは心から休むことができる場所なのだな。それが嬉しくてここは甘えさせてもらうことにしたが、セルジュもジョルジュも、それにジュールも嬉しそうにしていた。
食事が始まり、ユヅルがオゾウニなるものに口をつけて美味しいと目を輝かせる。キョーフウなるユヅルの汁物と、私のカントーフウは見た目も何も違うが、かなり興味が出てきて、口をつけると素材の優しい味が広がってものすごく美味しかった。フランスでは到底食べられそうにない味に感動したのだ。
ユヅルが食べてみたいというので器を交換して、私もキョーフウなるものを食べてみたが、こちらもうまい。
カントーフウとはまるっきり違うものだが、これはこれで美味しいものだ。同じ料理だというのにこうも違うものかと驚いてしまう。
ユヅルはどうだろうと思っていると、一口汁を啜って驚きの声をあげたかと思ったら、突然目にいっぱい涙を浮かべた。一体何が起こったのかと思ったが、どうやらこの汁物の味がアマネの作っていたものに似ていたようだ。
味は全ての記憶を呼び起こす。
今は亡き母親の味に出会うのがどれほど嬉しいことか……。
食事が始まって早々に泣き出したユヅルを咎める者はここにはいない。みんながユヅルの気持ちに寄り添ってくれる。このカントーフウを作ったケイトはユヅルのためにアマネの味を再現してくれるとまで言ってくれた。本当にここには優しい者しかいないのだなと嬉しくなる。
すると、さっと私の元に駆け寄ってきたジュールが興奮気味に言葉を話した。
『旦那さま。私はアマネさまがお作りになったこのスープをいただいたことがあります。スープを飲んで思い出しました』
『それはどういうことだ?』
『アマネさまがロレーヌ邸でお過ごしの際に、ニコラさまが珍しい日本食を食べてみたいと仰られたのです。そこでアマネさまがフランス中から必要な日本食材を取り揃えて、ニコラさまにこのスープと同じものをお作りになりました。日本にいる時も全く同じものが出来たと仰っておいででしたので、ユヅルさまがお召し上がりになっておられたのも同じものかと存じます』
『そんなことがあったのか? 知らなかったな』
『はい。旦那さま方は家を空けられていらっしゃる時でしたので、ニコラさまとアマネさま以外は私とエミールだけが御相伴に預かりました。それがあまりにも美味しかったもので、エミールがアマネさまにレシピを伺い、それを我が家とエミールで保管しているはずでございます』
『何? それはまことか?』
『はい。ですから、エミールに連絡を取れば、すぐにアマネさまのレシピを手に入れることができるはずです』
『おお……っ!』
ジュールが思い出してくれたことにより、アマネの味を完全に再現することができる。それをユヅルに伝えると涙を流して喜んでいた。ここにいる間にアマネの味をユヅルに食べさせてあげたい。そんな私の夢ができた。
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