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Merci de m'avoir rencontré
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名残惜しいが、そろそろ出発した方がいいだろう。
私が声をかけると、皆それぞれ部屋に戻り、最後の荷物を持って戻ってきた。
もちろん、空港まで見送る私たちも一度部屋に戻り、ユヅルは嬉しそうな、でも物悲しそうな表情でケイトたちと揃いのコートと、リオからもらった手作りの手袋を手に取った。
リビングに戻ると、リオたちの手にも同じようにコートと手袋がある。
それを見て、ああ本当にお別れなのだなと実感したのだろう。
ユヅルは必死に涙を堪えているように見える。
私はその気持ちに寄り添ってあげたい。
ユヅルに笑顔を向け、
「リオとソラと同じ車に乗るから、手を繋いでやるといい」
と声をかけてやると、ユヅルは嬉しそうに目の前を歩く二人の間に飛び込んで行き、
「理央くん、空良くん! 車まで一緒に行こう!」
と言いながら手をぎゅっと握った。
リオの手編みの手袋をつけた手でぎゅっと握り合う三人の様子を微笑ましく思いながら後ろから見つめていると、
『『ロレーヌ、ありがとうございます』』
とミヅキとユウキの声が聞こえた。
『いや、私も三人で戯れる姿が見たかったのでな』
『私もです。しばらく見られないと思うと寂しくなりますよ』
『でも、ロレーヌから頂いたあの映像があるからしばらくは空良も我慢できるでしょう』
『そうだな。じゃあ、その効果が切れる前に日本に遊びに行くとしよう』
『ええ、ぜひ。楽しみにしていますよ』
仕事で世界中を飛び回っていたが、こうして完全オフで日本に遊びに行くのは初めてだな。
いつもバカンスは静かに過ごしたくて、スイスの別荘や無人島で過ごしていたし。
友人と過ごす海外も楽しそうだ。
『どこか良いオンセンリョカンがあったら教えてください』
『セルジュ、なんだ急に』
隣を歩いていたセルジュが私たちの話に突然入ってきて驚いた。
『ふふっ。別行動の日にミシェルと行きたいんです。ミシェルがオンセンに入ってみたいと言っているので連れて行ってあげたいと思いまして』
『ああ、それならいい旅館を知っているので、後で詳細をお送りしますよ。部屋に露天風呂がついているので最高です』
『部屋に露天風呂? 最高ですね。ミシェルはみんなと行きたがっているんですが、さすがにみんなの前で裸にはさせられませんからね』
確かにユヅルも行きたいというだろうな。
だが私も、いくらリオたちにでもユヅルの裸は見せられない。
どうしてもというなら何か対策を考えなければいけないだろうな。
そんなことを考えながら、玄関を出るとユヅルたちが車の前にいたリュカと話をして乗り込んでいくのが見えた。
セルジュは別の車にミシェルと乗り込み、私はミヅキとユウキと一緒にユヅルたちの後を追いかけるように車に乗り込んだ。
ユヅルを真ん中にソラとリオが並んで座る向かいに私たちも座るが、可愛らしくて小さな身体の三人が楽しげに座るのに反して、我々の席はどうも暑苦しい。
それでもユヅルたちの姿を真正面で見ていたくて、私もミヅキもユウキもその場から離れようとはしなかった。
「同じ格好で並んでいると、三つ子みたいだな」
そんなユウキの言葉も嬉しそうに微笑みあう。
それだけで癒される。
「写真を撮ろうか」
あまりの可愛さに見入ってしまっていたが、そうだ写真だ。
ミヅキの声にあわててスマホを取り出すと、同じようにユウキもスマホを取り出していた。
やっぱり私たちは似たもの同士だ。
お互いに自分の伴侶をメインで撮っているが、きっと後でこの写真データは送られてくる。
互いに共有するのが暗黙のルールになっている。
他の角度からのユヅルも可愛いのだから仕方がない。
ユヅルたちは私たちの撮影にも気にする様子もなく、普通に話を始めた
そんな姿も可愛らしい。
お互いにスマホを取り出し、お揃いで買ったエッフェル塔とマカロンの飾りがついたキーホルダーを見せ合う。
こんなに喜んでくれるのだから、スマホケースにつけてあげてよかった。
笑顔でいっぱいだったユヅルたちも空港が近づいてくると、少し淋しげな表情に変わってくる。
ソラは必死で思いを伝え始めた。
「あ、あのね……僕、弓弦くんと、ミシェルさんやリュカさんと離れるのが寂しいんだ。でもね……出会えなかったら、寂しいなんて思うこともなくてそれだったら出会えてよかったっていうか……あの……」
必死に言葉を紡ごうとするソラにユウキが優しく声をかける。
「空良、大丈夫。焦らなくていい。ちゃんと伝わってるから」
その言葉に安堵したのかソラはまたユヅルたちに思いを伝え始めた。
「今日は確かにお別れだけど、離れてもずっと繋がっているっていうか、終わりじゃなくて始まりだから……僕、寂しくないよ。本当に弓弦くんに出会えてよかったから……」
終わりじゃなくて始まり……ああ、ソラはいいことを言う。
そうだな。
ここで終わりじゃない。
ここからずっと繋がっていくのだな。
『ユウキ、ミヅキ。これからもよろしくな』
『はい。ロレーヌ』
『これからもよろしく』
私たちはかたく手を握り合った。
空港に到着し、車から降りるともう一台の車からミシェルたちが降りてくるのが見えた。
シュウゴとケイトに支えられたミシェルが、涙でぐずぐずになっているのが見える。
ふふっ。感情豊かなミシェルらしいな。
「さぁ、ユヅル。これから空港の中は私のところに戻っておいで」
車の中は別々に座っていても、空港の中はそう言うわけにはいかない。
私がユヅルを抱きかかえるとそれに倣うようにミヅキとユウキも自分の伴侶を抱きかかえる。
そうして、私たちは空港に入った。
保安検査場の前まで見送り、ユヅルたちの別れのひとときを見守る。
「次は日本で会おうね」
そんなケイトの心強い言葉に、ユヅルは笑顔を見せた。
ミシェルはみんなに自分の好きな、いやセルジュの好きな菓子を手渡し、
「みんなの週末が素敵なものになりますように……」
と祈りを込めた。
「弓弦くん! ミシェルさん! リュカさん! またねー!!」
「うん、またねーー!!! 会いにいくからねーー!!!」
ユヅルはみんなの姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。
ああ、ユヅルは笑顔で見送ることができたな。
本当によく頑張った。
そんな私の声に、ユヅルはフッと糸が切れたように私に抱きついて泣き始めた。
「またすぐに会えるからな」
そう、またすぐに会える。
なんせ、私たちはもう家族以上の繋がりを持っているのだから。
ユヅルと出会えたことで、私は最高の親友たちとも出会うことができた。
私はそのかけがえのない出会いを与えてくれたニコラとアマネに心から伝えたい。
Merci de m'avoir rencontré.
* * *
ここまで読んでいただきありがとうございます!
エヴァン視点のこちらのお話もこれで本編完結となります。
弓弦視点のお話と合わせるとはなり長くなりましたが、最後まで読んでいただき嬉しいです。
これからも番外編でたくさん書いていきたいと思っていますので、どうぞお楽しみに。
長い間読んでいただき本当にありがとうございました!
追伸:今気づきましたが、このお話、単独にしてちょうど今日で一年でした。
この日に本編完結を迎えられて嬉しいです。
ありがとうございました!
私が声をかけると、皆それぞれ部屋に戻り、最後の荷物を持って戻ってきた。
もちろん、空港まで見送る私たちも一度部屋に戻り、ユヅルは嬉しそうな、でも物悲しそうな表情でケイトたちと揃いのコートと、リオからもらった手作りの手袋を手に取った。
リビングに戻ると、リオたちの手にも同じようにコートと手袋がある。
それを見て、ああ本当にお別れなのだなと実感したのだろう。
ユヅルは必死に涙を堪えているように見える。
私はその気持ちに寄り添ってあげたい。
ユヅルに笑顔を向け、
「リオとソラと同じ車に乗るから、手を繋いでやるといい」
と声をかけてやると、ユヅルは嬉しそうに目の前を歩く二人の間に飛び込んで行き、
「理央くん、空良くん! 車まで一緒に行こう!」
と言いながら手をぎゅっと握った。
リオの手編みの手袋をつけた手でぎゅっと握り合う三人の様子を微笑ましく思いながら後ろから見つめていると、
『『ロレーヌ、ありがとうございます』』
とミヅキとユウキの声が聞こえた。
『いや、私も三人で戯れる姿が見たかったのでな』
『私もです。しばらく見られないと思うと寂しくなりますよ』
『でも、ロレーヌから頂いたあの映像があるからしばらくは空良も我慢できるでしょう』
『そうだな。じゃあ、その効果が切れる前に日本に遊びに行くとしよう』
『ええ、ぜひ。楽しみにしていますよ』
仕事で世界中を飛び回っていたが、こうして完全オフで日本に遊びに行くのは初めてだな。
いつもバカンスは静かに過ごしたくて、スイスの別荘や無人島で過ごしていたし。
友人と過ごす海外も楽しそうだ。
『どこか良いオンセンリョカンがあったら教えてください』
『セルジュ、なんだ急に』
隣を歩いていたセルジュが私たちの話に突然入ってきて驚いた。
『ふふっ。別行動の日にミシェルと行きたいんです。ミシェルがオンセンに入ってみたいと言っているので連れて行ってあげたいと思いまして』
『ああ、それならいい旅館を知っているので、後で詳細をお送りしますよ。部屋に露天風呂がついているので最高です』
『部屋に露天風呂? 最高ですね。ミシェルはみんなと行きたがっているんですが、さすがにみんなの前で裸にはさせられませんからね』
確かにユヅルも行きたいというだろうな。
だが私も、いくらリオたちにでもユヅルの裸は見せられない。
どうしてもというなら何か対策を考えなければいけないだろうな。
そんなことを考えながら、玄関を出るとユヅルたちが車の前にいたリュカと話をして乗り込んでいくのが見えた。
セルジュは別の車にミシェルと乗り込み、私はミヅキとユウキと一緒にユヅルたちの後を追いかけるように車に乗り込んだ。
ユヅルを真ん中にソラとリオが並んで座る向かいに私たちも座るが、可愛らしくて小さな身体の三人が楽しげに座るのに反して、我々の席はどうも暑苦しい。
それでもユヅルたちの姿を真正面で見ていたくて、私もミヅキもユウキもその場から離れようとはしなかった。
「同じ格好で並んでいると、三つ子みたいだな」
そんなユウキの言葉も嬉しそうに微笑みあう。
それだけで癒される。
「写真を撮ろうか」
あまりの可愛さに見入ってしまっていたが、そうだ写真だ。
ミヅキの声にあわててスマホを取り出すと、同じようにユウキもスマホを取り出していた。
やっぱり私たちは似たもの同士だ。
お互いに自分の伴侶をメインで撮っているが、きっと後でこの写真データは送られてくる。
互いに共有するのが暗黙のルールになっている。
他の角度からのユヅルも可愛いのだから仕方がない。
ユヅルたちは私たちの撮影にも気にする様子もなく、普通に話を始めた
そんな姿も可愛らしい。
お互いにスマホを取り出し、お揃いで買ったエッフェル塔とマカロンの飾りがついたキーホルダーを見せ合う。
こんなに喜んでくれるのだから、スマホケースにつけてあげてよかった。
笑顔でいっぱいだったユヅルたちも空港が近づいてくると、少し淋しげな表情に変わってくる。
ソラは必死で思いを伝え始めた。
「あ、あのね……僕、弓弦くんと、ミシェルさんやリュカさんと離れるのが寂しいんだ。でもね……出会えなかったら、寂しいなんて思うこともなくてそれだったら出会えてよかったっていうか……あの……」
必死に言葉を紡ごうとするソラにユウキが優しく声をかける。
「空良、大丈夫。焦らなくていい。ちゃんと伝わってるから」
その言葉に安堵したのかソラはまたユヅルたちに思いを伝え始めた。
「今日は確かにお別れだけど、離れてもずっと繋がっているっていうか、終わりじゃなくて始まりだから……僕、寂しくないよ。本当に弓弦くんに出会えてよかったから……」
終わりじゃなくて始まり……ああ、ソラはいいことを言う。
そうだな。
ここで終わりじゃない。
ここからずっと繋がっていくのだな。
『ユウキ、ミヅキ。これからもよろしくな』
『はい。ロレーヌ』
『これからもよろしく』
私たちはかたく手を握り合った。
空港に到着し、車から降りるともう一台の車からミシェルたちが降りてくるのが見えた。
シュウゴとケイトに支えられたミシェルが、涙でぐずぐずになっているのが見える。
ふふっ。感情豊かなミシェルらしいな。
「さぁ、ユヅル。これから空港の中は私のところに戻っておいで」
車の中は別々に座っていても、空港の中はそう言うわけにはいかない。
私がユヅルを抱きかかえるとそれに倣うようにミヅキとユウキも自分の伴侶を抱きかかえる。
そうして、私たちは空港に入った。
保安検査場の前まで見送り、ユヅルたちの別れのひとときを見守る。
「次は日本で会おうね」
そんなケイトの心強い言葉に、ユヅルは笑顔を見せた。
ミシェルはみんなに自分の好きな、いやセルジュの好きな菓子を手渡し、
「みんなの週末が素敵なものになりますように……」
と祈りを込めた。
「弓弦くん! ミシェルさん! リュカさん! またねー!!」
「うん、またねーー!!! 会いにいくからねーー!!!」
ユヅルはみんなの姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。
ああ、ユヅルは笑顔で見送ることができたな。
本当によく頑張った。
そんな私の声に、ユヅルはフッと糸が切れたように私に抱きついて泣き始めた。
「またすぐに会えるからな」
そう、またすぐに会える。
なんせ、私たちはもう家族以上の繋がりを持っているのだから。
ユヅルと出会えたことで、私は最高の親友たちとも出会うことができた。
私はそのかけがえのない出会いを与えてくれたニコラとアマネに心から伝えたい。
Merci de m'avoir rencontré.
* * *
ここまで読んでいただきありがとうございます!
エヴァン視点のこちらのお話もこれで本編完結となります。
弓弦視点のお話と合わせるとはなり長くなりましたが、最後まで読んでいただき嬉しいです。
これからも番外編でたくさん書いていきたいと思っていますので、どうぞお楽しみに。
長い間読んでいただき本当にありがとうございました!
追伸:今気づきましたが、このお話、単独にしてちょうど今日で一年でした。
この日に本編完結を迎えられて嬉しいです。
ありがとうございました!
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