大富豪ロレーヌ総帥の初恋

波木真帆

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一番なんか選べない

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『スオウがこちらに腰を据えるというのなら、私の口添えでパリ警視庁に入庁も可能だ。もちろん、試験は受けてもらうが、スオウなら問題はないだろう。そしてゆくゆくはジョルジュのバディとなって頑張ってもらいたいんだ』

『私がジョルジュさんのバディに? そんな……っ』

『いや、スオウならやれるよ。ジョルジュはずっとリュカとバディを組んできたが、私としてはこれから先ずっとリュカをユヅルの専属護衛としてそばにつけたい。だがそうなると、ジョルジュにはバディが不在になってしまうだろう? スオウならジョルジュとうまくやっていけると私は思っている。すぐに返事が欲しいとは言わない。日本に戻ってからでも、シュウゴと話をしてみてはくれないか?』

私の言葉にスオウは思案顔を見せたが、すぐにいつもの穏やかな表情を見せた。

『わかりました。これからのことを秀吾と考えてみます。私自身の未来のこともありますが、私にとって一番優先すべきことは秀吾のことだというのは理解していただければ嬉しいです』

『ああ、もちろんだ。どちらの結果になったとしても、我々の関係は変わらない。それだけは信じてほしい』

『ありがとうございます。それをお聞きできてホッとしました』

ユヅルのために皆がフランスに来てくれたら嬉しい。
それは確かにそうだが、皆にも今まで築き上げてきた生活がある。
それを全て捨ててでも来て欲しいと望んでいるわけではない。

だから来てくれた暁には最大限尽力するつもりだが、日本に住むことを決断したとしても、それで私たちの仲を終わりにしたりはしない。
これはあくまでも選択肢の一つとして考えてほしいという気持ちだけだ。

決断も拒否もできるのは本当の友人だからだと言える。
これから先どうなるかはわからないが、お互いにとってより良い未来になるように望むだけだ。

「ええーっ、100人、ですか? すごいっ!」

ユヅルの驚く声が聞こえるが、声に笑みを含んでいるからきっと楽しい話なのだろう。

『ははっ。二人は盛り上がっているようだな』

『ええ、本当に。秀吾にあんなふうに話せる友人が増えたことは嬉しいことです』

『ああ、そうだな。私もだよ、ユヅルが笑顔でいてくれることだけが望みだ』

『それが一番幸せですね』

楽しげに笑うシュウゴの姿を見つめながら、蕩けるような甘い笑顔を見せるスオウのことをもっと知りたくなって、私は尋ねてみた。

『そういえば昨夜はどうだった?』

『えっ? 昨夜、ですか?』

『ああ、昨夜はお楽しみだったんだろう? あんなに可愛らしいシュウゴの姿を前によく手加減できたものだな』

『――っ、そ、それは……』

『ははっ。隠す必要はない。我々は皆、同じだ。私もユヅルの可愛さにどれだけ理性を手放しそうになったか。今日が帰国の日でなければ、今頃はベッドの中だ』

そこまで言ってやると、スオウは納得するように何度も頷いた。

『私も帰国の日でなければ、ここにはいないでしょうね。自分が狼になったような気持ちになって大変でしたよ。でも私は皆さんより耐性がある方なのでなんとか堪えられたのかもしれません』

『耐性? というと?』

『実は私と秀吾の母親が、小さい時から秀吾に可愛い格好をさせるのが好きで……浴衣や着物はもちろん、パジャマも普段着もいつも可愛いものを着せてはどこかに連れ回してましたから、私も父たちもいつも気を張って護衛していたものです。流石に赤ずきんは見たことがなかったので興奮しましたが、破壊力のあるものを何度も見ているせいか、なんとか理性を止めることができましたよ』

『なるほど。そういうことか。確かにあれだけ可愛らしければ母君たちが着せ替え人形のように楽しむのもわかるな』

きっと私の母が存命であったなら、可愛いユヅルに同じようなことをしていただろう。
幼い時から最愛がそばにいて、羨ましいと思ったがそれにはそれなりの大変さもあったのだろうな。

『んっ? ユヅルたちが静かになっているな。そろそろ話が終わったのかもしれないな』

急に静かになったのが気になって、スオウと二人で近づいてみれば、

「えー、そうだな……。うーん、難しいな。どれだろう……どれも喜んでたんだよね……」

と困った様子のシュウゴの声が聞こえる。
一体何があったのだろう?

そう思った時には、

「秀吾? どうした? 何を悩んでるんだ?」

とスオウが直接問いかけていた。
やはり最愛が悩んでいるとどうしても気になるらしい。
まぁ、それは私も同じだが。

突然の声かけにユヅルもシュウゴも驚いていたが、

「ユヅル、何があった?」

と尋ねれば、ユヅルは素直に教えてくれた。
それもスオウに向かって、

「サンタさんと結婚式の時のドレスと、ベビードールとそれから赤ずきんちゃん! どれが一番興奮してくれたのかなって」

と無邪気な笑顔を見せながら、そんなことを尋ねたのだ。

あどけない笑顔を見せるユヅルからそんなことを尋ねられて、スオウの顔は真っ赤になっている。
同時に、シュウゴも話を聞かれて恥ずかしかったのか、スオウ同様に顔を真っ赤にしている。

二人の表情を見て、ユヅルの表情が曇っていく。
きっと聞いてはいけないことだったのかと心配したのだろう。

ここは年長者であり、ユヅルの最愛である私の出番だな。

二人は照れているだけだから気にしなくていいのだと伝えると少しホッとした表情を見せたが、ここでダメ押しだ。

「せっかくだから私の意見を伝えておこう。私はどれも興奮するが、それはユヅルだからだ。ユヅルが着ているものならなんでも興奮するよ。だから、一番は選べないな」

正直に答えると、ユヅルは驚きつつも嬉しそうな表情を見せた。

でも本当のことだ。
一番は選べない。
きっとスオウだけでなく、皆そうだというだろう。
なんせ着ているのが自分の愛しい伴侶なのだから。
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