大富豪ロレーヌ総帥の初恋

波木真帆

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一生の友として

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数日ぶりの我が家に到着する。
出発した時と、今では私とユヅルの関係も大いに変わった。

愛しい相手であることに変わりはないが、ユヅルが正式に私のつまとなったと思うと感慨深いものがある。

同様に夫夫となった日本の友人たちとの最後の夜をこれから楽しむのだ。

愛しいユヅルと共に車から降りると、すぐにもう一台の車から降りてきたソラがユヅルの元に駆け寄ってくる。

頬を高揚させながら、先ほどのヴァイオリンの演奏の感想を伝えているようだ。
その屈託のない笑顔と心からの賛辞にユヅルは少し恥ずかしそうに礼を言いつつも、一緒に演奏をしたミシェルとシュウゴを褒め称えた。

確かに二人の演奏も素晴らしかった。
それぞれの実力もさることながら、あれは三人揃ってこそ成し得たもの。
見事に調和したあの演奏が見るもの全ての心を魅了したのだ。

シュウゴとミシェルもユヅルたちに会話に加わって、また演奏をしたいという話で盛り上がっているがシュウゴには感謝だな。
ユヅルはミシェルの思いつきにはもう慣れたところもあるだろうが、シュウゴは自由奔放なミシェルに疲れていても不思議はない。
だが、こうして一緒に演奏できて嬉しかったと言ってくれる。
その優しさについ甘えてしまうのだ。

「演奏の時の話も後でゆっくり聞かせて! とりあえず、中に入ってこれからパジャマパーティーだよ!!」

嬉しそうにユヅルたちの元に飛び込んできたのはもちろんケイト。
ユヅルたちの可愛らしいパジャマパーティーは私も楽しみだ。
その可愛い姿を皆に見せることと、私もその着ぐるみを着ることについて以外は。

だが、ユヅルたちはケイトの言葉にさらなる盛り上がりを見せている。

ケイトはそのパジャマを用意してくるからコンサバトリーで待っていてと言葉を残し、アヤシロと屋敷の中に入って行った。
続くようにジョルジュとリュカがついていったのは、荷物を運ぶためだろう。

「じゃあ弓弦くん。先に行って待ってようよ」

リオの言葉に嬉しそうにユヅルとソラがリオと手を繋いで屋敷の中に入っていく。

すっかり私たちにことは頭にないようだ。

「ユヅ――っ」
「り――っ」
「そ――っ」

私たちの呼びかけを背に嬉しそうに進んでいく姿を見守ることしかできなかった。

「ロレーヌ……気を取り直して、私たちも行きましょうか」

「そう、だな……」

シュウゴとミシェルはまだヴァイオリンの話が尽きないようだ。
やはり演奏家としてのミシェルのファンだと言っていたから、楽しくてたまらないのだろうな。

そんな二人の会話を邪魔しないようにセルジュとスオウは寄り添っているのが見える。

私たち三人とセルジュたち四人に分かれてコンサバトリーに向かっていると、

「そう言えば、悠木……俺、フランス移住の件を理央に話したよ」

とミヅキが声をかけた。

「そうか、それで理央くんはなんだって?」

「両親と会えなくなるから寂しがるんじゃないかってそこは気にしていたみたいだったが、移住することに反対はなかったようだな。まだ実感していないからと言うのもあるんだろうが……」

「そうだな。一度日本に帰ったら、実感するかもしれないな」

「お前はどうする?」

「うーん、俺ももう少し考えて、空良とも話し合ってみるよ。ただ、フランス移住は空良には良いことだとは思ってるから、できるだけその方向にしたいとは思ってるんだがな」

ソラにもリオにも一生会わせたくない奴らがいる。
ユウキもミヅキもこれからの人生は愛しい伴侶を優先に考えていきたいのだろう。

日本からの移住は確かに即断できることではない。
だが、彼らにはそれができる実力を持っている。

私はただ日本の友人たちが幸せな未来となるように決断したことを手助けするだけだ。
たとえそれが日本に留まる結果であったとしても。

ここ数日の彼らとの生活は彼らの為人や考え方を知る上でかなり有効だったな。
きっと彼らとは一生の友として繋がっていけるだろう。


コンサバトリーに入ると、ふわっと紅茶の香りが漂ってくる。
早速ジュールが紅茶を淹れてくれているようだ。

冷えて疲れた身体には何よりもありがたい。

そのジュールの近くでユヅルたちが楽しそうに会話を続けている。
友人たちとこうして楽しげな会話をしているところを見られるのもこれで最後なのかと思うと少し寂しくなるが、ユヅルたちの表情は明るい。

きっと最後の夜を笑顔で過ごそうとしているのだろう。

楽しそうな会話をしているユヅルの元にいき、声をかけてみると、

「パピーが紅茶を淹れてくれているから、それに合うお菓子も欲しいなって空良くんと話してたんです。エヴァンさん……パピーにお菓子をお願いしてくれますか?」

と可愛らしいお願い事がやってきた。

そんな願い事など喜んで引き受けよう。

すぐにジュールの元に行き、ユヅルたちが菓子を望んでいると告げると、ジュールはさも当然とでも言うように

『はい。皆さまがお好きなマカロンも、ミシェルさまがお好きなウイークエンドシトロンもご用意しておりますよ』

と笑顔で返された。

ウイークエンドシトロン……あの甘さにはなかなか慣れるものではないが、それでもユヅルから食べさせて貰えばそれも極上と感じるのだから、不思議なものだ。

ユヅルたちに菓子も用意されていると告げ、座って待っていようとテーブルに案内した。
当然のように私の膝に座らせれば、リオたちも当然のようにミヅキたちの膝に座っている。
これが当たり前となってくれたことを心底幸せだと思いながら、私は腕の中のユヅルをギュッと抱きしめた。
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