131 / 166
三者三様の演奏
しおりを挟む
『――っ!!!』
『……素晴らしいな。ますます上達していらっしゃる』
『本当に。感情を入れるのが本当に上手ですね』
ユヅルの思いに満ち溢れた演奏に言葉を出せないでいる私の隣で、セルジュとスオウが感嘆の声をあげる。
もちろんお互いに愛しい伴侶に視線は向いているが、美しい音を奏でるユヅルの音は判別できているようだ。
甘く艶やかな音を奏でるミシェル。
清らかで素直な音を奏でるシュウゴ。
そして、心に入り込んで震えさせる音を奏でるユヅル。
その三者三様の音色がなんとも言えない特別なハーモニーを生み出している。
ああ、なんと美しいのだろうな。
曲が終わり、あたりはしんと静まり返った。
それはそうだろう。
あんなにも心震える音楽を間近で聴いて、すぐに反応できるわけがない。
一拍ののち、あたりは大歓声と拍手に包まれた。
とんでもない才能だな。
『Une autre! Une autre!』
あまりの美しい演奏にギャラリーたちがもう一曲などと叫んでいるが、こんなにも美しい曲を披露したのだ。
そこまで付き合う必要はない。
だが、ユヅルたちは私たちの元に戻ることもせず中央に集まって何やら話をしている。
慌ててセルジュたちと共に駆け寄り声をかけたが、どうやら『Une autre』の声にどう対応しようかと悩んでいるようだ。
本当に優しい子たちだが、これを受け入れれば次々と続きかねない。
そう言ったのだが、それでもユヅルたちは集まったギャラリーに視線を向け、悩んでいるように見えた。
「わかった。じゃあ、最後の一曲だ」
そういうと、三人が嬉しそうに顔を見合わせる。
ああ、もしかしたら、ギャラリーのためだけではなくて、三人で演奏することが楽しかったのかもしれない。
なんせ、三人の視線の先にはリオやソラ、ケイトたちの姿がある。
彼らに向けての演奏でもあったのだろう。
私はもう一度ギャラリーたちに身体を向け、大声を張り上げた。
『静かに! 心優しい彼らがもう一曲だけ演奏をしてくれる。いいか、これで最後だ。静かにしなければ演奏は終わりだ! いいな!』
私の声に『Une autre』と叫んでいた者たちが一気に静まり返る。
その目には期待と興奮が見て取れる。
ああ、この短時間にこの三人はここまで聴衆の心を魅了してしまったのだな。
きっとここにいる者たちはこの興奮と感動を忘れることはできないだろう。
ミシェルの
「なら、決まり!」
と言う声が耳に飛び込んでくる。
私がギャラリーたちに話をしている間にユヅルたちは演奏する曲を決めたようだ。
しんと静寂が続くその場で、ユヅルに何を弾くか決まったかを尋ねると、なんと『Salut d'amour』
まさかの選曲に嫌な予感を覚える。
エドガーの愛の挨拶は、ユヅルが私に初めて弾いてくれた曲。
あの時は私への愛を表現してくれた。
そして、今は私にたっぷりと愛されてその思いをのせてくれることだろう。
私への溢れる思いをユヅルがヴァイオリンの音色にのせて弾いたら、私もそしてギャラリーたちもどうなってしまうかわからない。
だが、もうやる気に満ち溢れたユヅルたちに曲を変えてくれとは言えない。
「演奏が終わったらすぐに帰るぞ!」
とだけ告げて、私とセルジュ、スオウの三人は少し離れた場所で見守った。
『スオウ、シュウゴの『Salut d'amour』は聴いたことがあるか?』
『はい。もちろんです。幼い時から今まで何十回となく聴いてきましたが、毎回私への愛の大きさが増してきて興奮が止まりません』
『やはり、そうか……セルジュもか?』
『もちろんです。二人だけの時ならまだしも、こんなにも大勢の前であの曲を弾かれて、自然に振る舞える自信がありません』
『ああ、そうだな。あれだけ人前での戯れは恥ずかしがるのに、こんなにも大勢の前で私への愛を見せつけるのだからおかしなものだ』
『それがわからないのが可愛いところでもあるのですけどね』
『確かに。だが、いいか、終わったらギャラリーが腰を抜かしている間にさっとこの場から立ち去るのだぞ。セルジュ、アヤシロたちのところに行って、この演奏が終わったらすぐに車に戻るように指示を出しておいてくれ』
『承知しました』
そんなやりとりを済ませていると、とうとう三人の演奏が始まった。
『ぐぅ――っ!!』
『あ゛ぁ――っ!!』
『ゔぅ――っ!!!』
可愛らしい三者三様の思いの詰まった愛の挨拶に、心が掴まれる。
以前聞いた時よりももっとずっとユヅルの思いが強くなっている。
これは私だけでなく、リオたちへの思いも詰まっているようだな。
ああ、興奮を抑えられない。
このままさっさと屋敷に連れ帰って部屋でたっぷりとユヅルを堪能したいところだが、まだ我慢の時間が続くのだったな……。
そこまで我慢できるが甚だ疑問なのだが……。
ギャラリーの中には早々に彼らの演奏にやられて崩れ落ちているものも多数いる。
あれだけの曲を聴けば無理もない。
興奮の間にようやく演奏が終わり、またあたりには静けさが戻った。
ギャラリーの中で立っている者は皆無。
三人はその姿に驚いているが、今のうちだ。
私たちは三人のもとに駆け寄り、抱きかかえて、ヴァイオリンをミシェルの恩人とやらに返し、急いで階段を降りてその場を離れた
アヤシロたちもきっとついてきているだろうが今は確認する余裕もない。
ただひたすらに車めがけて歩きを進める。
腕の中でユヅルが驚いているが後でゆっくりと説明しよう。
ようやく車が見えて、中に乗り込むと一気に安堵した。
ああ、よかった。
ホッとしている間に、ミヅキたちとジョルジュたちも車に乗り込んできた。
なんとかうまく終わったようだな。
『……素晴らしいな。ますます上達していらっしゃる』
『本当に。感情を入れるのが本当に上手ですね』
ユヅルの思いに満ち溢れた演奏に言葉を出せないでいる私の隣で、セルジュとスオウが感嘆の声をあげる。
もちろんお互いに愛しい伴侶に視線は向いているが、美しい音を奏でるユヅルの音は判別できているようだ。
甘く艶やかな音を奏でるミシェル。
清らかで素直な音を奏でるシュウゴ。
そして、心に入り込んで震えさせる音を奏でるユヅル。
その三者三様の音色がなんとも言えない特別なハーモニーを生み出している。
ああ、なんと美しいのだろうな。
曲が終わり、あたりはしんと静まり返った。
それはそうだろう。
あんなにも心震える音楽を間近で聴いて、すぐに反応できるわけがない。
一拍ののち、あたりは大歓声と拍手に包まれた。
とんでもない才能だな。
『Une autre! Une autre!』
あまりの美しい演奏にギャラリーたちがもう一曲などと叫んでいるが、こんなにも美しい曲を披露したのだ。
そこまで付き合う必要はない。
だが、ユヅルたちは私たちの元に戻ることもせず中央に集まって何やら話をしている。
慌ててセルジュたちと共に駆け寄り声をかけたが、どうやら『Une autre』の声にどう対応しようかと悩んでいるようだ。
本当に優しい子たちだが、これを受け入れれば次々と続きかねない。
そう言ったのだが、それでもユヅルたちは集まったギャラリーに視線を向け、悩んでいるように見えた。
「わかった。じゃあ、最後の一曲だ」
そういうと、三人が嬉しそうに顔を見合わせる。
ああ、もしかしたら、ギャラリーのためだけではなくて、三人で演奏することが楽しかったのかもしれない。
なんせ、三人の視線の先にはリオやソラ、ケイトたちの姿がある。
彼らに向けての演奏でもあったのだろう。
私はもう一度ギャラリーたちに身体を向け、大声を張り上げた。
『静かに! 心優しい彼らがもう一曲だけ演奏をしてくれる。いいか、これで最後だ。静かにしなければ演奏は終わりだ! いいな!』
私の声に『Une autre』と叫んでいた者たちが一気に静まり返る。
その目には期待と興奮が見て取れる。
ああ、この短時間にこの三人はここまで聴衆の心を魅了してしまったのだな。
きっとここにいる者たちはこの興奮と感動を忘れることはできないだろう。
ミシェルの
「なら、決まり!」
と言う声が耳に飛び込んでくる。
私がギャラリーたちに話をしている間にユヅルたちは演奏する曲を決めたようだ。
しんと静寂が続くその場で、ユヅルに何を弾くか決まったかを尋ねると、なんと『Salut d'amour』
まさかの選曲に嫌な予感を覚える。
エドガーの愛の挨拶は、ユヅルが私に初めて弾いてくれた曲。
あの時は私への愛を表現してくれた。
そして、今は私にたっぷりと愛されてその思いをのせてくれることだろう。
私への溢れる思いをユヅルがヴァイオリンの音色にのせて弾いたら、私もそしてギャラリーたちもどうなってしまうかわからない。
だが、もうやる気に満ち溢れたユヅルたちに曲を変えてくれとは言えない。
「演奏が終わったらすぐに帰るぞ!」
とだけ告げて、私とセルジュ、スオウの三人は少し離れた場所で見守った。
『スオウ、シュウゴの『Salut d'amour』は聴いたことがあるか?』
『はい。もちろんです。幼い時から今まで何十回となく聴いてきましたが、毎回私への愛の大きさが増してきて興奮が止まりません』
『やはり、そうか……セルジュもか?』
『もちろんです。二人だけの時ならまだしも、こんなにも大勢の前であの曲を弾かれて、自然に振る舞える自信がありません』
『ああ、そうだな。あれだけ人前での戯れは恥ずかしがるのに、こんなにも大勢の前で私への愛を見せつけるのだからおかしなものだ』
『それがわからないのが可愛いところでもあるのですけどね』
『確かに。だが、いいか、終わったらギャラリーが腰を抜かしている間にさっとこの場から立ち去るのだぞ。セルジュ、アヤシロたちのところに行って、この演奏が終わったらすぐに車に戻るように指示を出しておいてくれ』
『承知しました』
そんなやりとりを済ませていると、とうとう三人の演奏が始まった。
『ぐぅ――っ!!』
『あ゛ぁ――っ!!』
『ゔぅ――っ!!!』
可愛らしい三者三様の思いの詰まった愛の挨拶に、心が掴まれる。
以前聞いた時よりももっとずっとユヅルの思いが強くなっている。
これは私だけでなく、リオたちへの思いも詰まっているようだな。
ああ、興奮を抑えられない。
このままさっさと屋敷に連れ帰って部屋でたっぷりとユヅルを堪能したいところだが、まだ我慢の時間が続くのだったな……。
そこまで我慢できるが甚だ疑問なのだが……。
ギャラリーの中には早々に彼らの演奏にやられて崩れ落ちているものも多数いる。
あれだけの曲を聴けば無理もない。
興奮の間にようやく演奏が終わり、またあたりには静けさが戻った。
ギャラリーの中で立っている者は皆無。
三人はその姿に驚いているが、今のうちだ。
私たちは三人のもとに駆け寄り、抱きかかえて、ヴァイオリンをミシェルの恩人とやらに返し、急いで階段を降りてその場を離れた
アヤシロたちもきっとついてきているだろうが今は確認する余裕もない。
ただひたすらに車めがけて歩きを進める。
腕の中でユヅルが驚いているが後でゆっくりと説明しよう。
ようやく車が見えて、中に乗り込むと一気に安堵した。
ああ、よかった。
ホッとしている間に、ミヅキたちとジョルジュたちも車に乗り込んできた。
なんとかうまく終わったようだな。
144
お気に入りに追加
1,709
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる