大富豪ロレーヌ総帥の初恋

波木真帆

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心に刺さるもの

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美術館の入り口には大勢の人が並んでいるのが見える。
この美術館には四ヶ所の入り口が存在するが、このガラスのピラミッド入り口から入場したいという観光客が多く、ここは時間を問わずいつでも並んでいる。

まぁ、混んでいるのはチケットを買い求めるためというよりは厳重なセキュリティチェックがあるためと言っても過言ではない。

私を含めロレーヌ一族はこの美術館に今まで多くの美術品を寄贈してきたという功績もあり、チケット購入する必要もない。
またジョルジュたち警備隊を同行しているため、セキュリティチェックも同様に必要がない。

これは私たちの同行者であるアヤシロたちも同じだ。

そのことをユヅルやミヅキたちに告げると、驚きつつも

「価値のある美術品を寄贈だなんて素晴らしいですね」

と言ってくれた。

ロレーヌ家で代々受け継いでいく家宝は我が家で大事に保管するしかないが、他の美術品は多くの目に触れてこそ価値がある。
その思いを持ってきた祖先たちの気持ちを私も受け継いでいくだけだが、改めてミヅキに褒められるとなんだか嬉しくなる。
おそらく私も含めてロレーヌ家の祖先たちに敬意を払ってくれたことが嬉しかったのかもしれない。

車を降りる時はもちろんジョルジュとリュカたちから。
安全を確認してから、ミヅキたち、そして最後に私とユヅルが車から降りる。

ここは今までの比ではないくらい、一般人たちとの距離が近くなる。

その証拠に車から降りた途端、夥しい視線が注がれる。
ユヅルはその視線に少し怯えているように見えて、コートの中にいれ抱きしめるとユヅルの方からもギュッと抱きついてくれた。

ふふっ。これでいい。

みれば、ミヅキのコートの中にもリオの姿が見える。
ここが一番安心安全にいられる場所だからな。

後ろの車から降りてきたユウキとアヤシロもコートの中に愛しい伴侶をいれている。
やはりそれが一番安全なのだ。

流石にセルジュとスオウはしていないようだが、ピッタリと身体に寄り添わせて見せつけているのが、周りへのいい牽制になっているようだ。

リュカの案内でガラスのピラミッドを通り、セキュリティチェックの列も通過して、まず最初に見せたい場所に向かう。

世界的な名画 モナ・リザだ。

教科書で見たのとおんなじだ! と声をあげるリオ。
すごーい! と感嘆の声をあげ続けるソラ。

やはり初めて観た時の反応はこれに尽きる。

ユヅルも感嘆の声をあげたまま、じっと絵から目を離さずに見入っている。
ああ、これがユヅルの心に刺さったのか。

それならじっくりと心行くまで観させておこう。

元々みんなとはここで別行動の予定だったし問題ない。

私はユヅルが目と心にその絵を焼き付ける間、ずっとそのユヅルの姿を見つめていた。
ユヅルの新たな一面が見られたな。
今日はこれだけでここにきた甲斐があったというものだ。

しばらく鑑賞していたユヅルは私に長時間付き合わせたことに謝罪してきたが、謝ることなど何もない。
私はユヅルのそばにいられたらそれでいいのだから。

たっぷりとモナ・リザを鑑賞し、その後はいろいろな絵を観に行く。
とはいえ、この美術館は広い。

どの絵にもたっぷりと時間をかけて鑑賞しようとすれば数日は平気でかかるだろう。
とりあえず今日は主要なものだけを鑑賞して回ることにした。

ニコラも絵を観るのが好きだった。
ふふっ。やはり親子なのだな。

ふとした瞬間にニコラとやはり親子なのだと感じさせられる。

今度は早朝にでも一緒に観にこようと約束をして、アヤシロたちとの集合場所に戻る。
朝から精力的に動いたユヅルは相当疲れたことだろう。

ユヅルを抱き上げて出口まで戻っている間に、ユヅルはすっかり眠ってしまっていた。
腕の中で安心したように眠るユヅルをみて微笑ましく思いながら、出口への道を急いだ。

『ユヅルくん、眠ったのか?』

『ああ、それほど真剣に絵を観ていたのだろうな』

『確かに。最初身動き一つせずにモナ・リザに釘付けになっていたから驚いたよ』

『あの絵はアマネも好きだったようだよ』

『そうなのか?』

『ああ、ニコラが話していた。初めて美術館に行った時、アマネがじっとあの絵を見入っていたって。だからユヅルもそうじゃないかと思っていたんだ』

『そうか、だから先に観せに行ったんだな?』

『ああ。だから、今日観せて回ったのはニコラとアマネが好きだと聞いたものばかりだよ』

きっと家族で一緒に回ったように思えただろう。
今日はいい思い出になってよかったな。
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