100 / 163
愛しい伴侶のために
しおりを挟む
クローゼットから取り出したのは、今回のクリスマスパーティーで贈り物の中に入っていた可愛らしいコート。
これはユヅルに実によく似合っていた。
フランスの寒い冬を初めて過ごすユヅルのためにいくつものコートを誂えたが、このコートはユヅルの可愛らしさをよく引き出していたな。
もしかしたら庭に誰かが出ているかもしれない。
このコートを着せておく方がいいだろう。
中にも暖かなセーターを着せ、コートを羽織らせるとユヅルは近くにあった濃いグリーンの手袋を手に取った。
確か、これはリオからの贈り物だったな。
手編みだと言っていたが、実に上手だ。
売り物と遜色ない出来だ。
やはり日本人は手先が器用なのだな。
私もコートを羽織り、準備が整ったユヅルを抱き上げる。
腕に乗るユヅルの重さが心地良い。
重くないかと心配している様だが、ユヅルの体重なら数キロは余裕で歩けるだろう。
ユヅルを重いと感じて下ろすことなど一生訪れないだろうな。
「ユヅルがこれから先どれだけ縦にも横にも大きくなったとしても、私はいつだってユヅルを軽々と抱き上げられる自信があるよ。心配しないでいい」
そう言ってやると、ユヅルは嬉しそうに私に抱きついてきた。
庭に出ると、昨夜の雪が少し積もっているのが見えた。
寒寒としているが、ユヅルの表情は明るい。
日本人の美的感覚で言えば、この情景は寒さよりも美しく見えるのだろう。
ユヅルが寒くないかだけが心配だが、私と抱きついているから暖かいだなんて嬉しいことを言ってくれる。
ああ、こんな時間を幸せだというんだろうな。
庭を進んでいくと、少し離れた場所に人影が見える。
やはり想像していた通り先客がいたようだ。
ユヅルに先客がいると教えてやると、
「あれは……理央くんだ! おーいっ、理央くんっ!!」
と嬉しそうに声をあげ、手を振り始めた。
せっかくの二人っきりの時間を邪魔しない方がいいのではないかと一瞬思ったが、向こうも嬉しそうにこちらに駆けてくる。
同じようにリオを抱きかかえたミヅキがこちらを見て苦笑しているから、私と同じ気持ちなのだろう。
まぁ、二人っきりの時間などいくらでもある。
それよりは可愛い夫たちの喜ぶ顔を見られる方が何よりも幸せだからな。
私たちの腕に抱かれたまま、ユヅルとリオは嬉しそうに話をしている。
話題はどうやらリオの作ってくれた手袋のようだ。
「僕もエヴァンさんに作ってあげたいんだ。難しいかな?」
そんな言葉がユヅルの口から出てきて驚いてしまう。
まさかユヅルがそんなことを思ってくれていたなんて……。
ああ、私はなんて幸せ者だろう。
あまりにも嬉しすぎてユヅルを強く抱きしめたのだが、リオたちの前だということもあってユヅルは恥ずかしそうに声をあげた。
だが、
「愛しい夫にそんなことを言われて喜ばない旦那はいないよ。私だって、理央にそんなことを言われたら、人前だって関係なく抱きしめると思うよ。もう夫夫なんだし気にしなくていいよ」
とミヅキに言われてユヅルは嬉しそうに私の腕の中に留まってくれた。
やはり同じ気持ちを分かち合える友人の存在は偉大だな。
「手袋の編み方だけど、理央が編んでるのをビデオ通話で見せながら、弓弦くんも一緒に編んだらいいんじゃないか?」
そんな素晴らしいミヅキの提案にユヅルは嬉しそうに乗った。
手袋を作れることもそうだが、きっと日本に帰ってからもリオと繋がっていられるのが嬉しいのだろう。
やはりミヅキたちにはこちらへの移住を考えてもらいたいものだな。
庭でしばらく話していたが暖かいコートを着ているとはいえ、やはり底冷えする。
コンサバトリーに移動しようと声をかけると、ミヅキたちも賛成してくれた。
暖かなコンサバトリーに入り、コートを脱がせるとすぐにジュールが紅茶を持ってきた。
これでユヅルの寒さも癒えるだろう。
「理央くんたちはあと数日いられるんだよね?」
ユヅルの問いにリオは頷きながら、ずっとこっちにいたいと言い出した。
それほどここでの生活を楽しんでくれているのだと思うと嬉しくなる。
家族同然の中だからいつだって来てくれていい。
そういうとリオもミヅキも手放しで喜んでくれた。
と同時に、
「ロレーヌ総帥たちもぜひ日本に来てください。仕事ではなく、旅行で。歓待しますよ」
と嬉しい言葉をかけてくれるが、いい加減この呼び方だけは変えてもらわなくてはな。
本当に家族同然だと思っているのだから。
「ロレーヌ、楽しみにしてますよ」
私の要望に少し照れながらも聞き入れてくれたミヅキと、これでまた一歩仲が深まったと嬉しくなった私だった。
「あっ、弓弦くん! 理央くん! 早いね。もうお茶してたの?」
コンサバトリーに優しい声が響き渡る。
スオウとシュウゴだ。
やはりというか、当然とでも言おうか。
スオウもシュウゴを腕に抱いている。
夫夫になって長いと聞いていたが、そんなのは関係ないくらいに昨夜はお楽しみだった様だな。
抱きかかえられているのをユヅルとリオに指摘されて恥ずかしそうにしているシュウゴもまた初々しい。
夫夫になってどれだけ経っても、きっとユヅルもあんなふうに初々しい姿を見せてくれるのだろうな。
こっちにきておしゃべりをしようというユヅルの誘いに乗った二人が私たちにそばに腰を下ろす。
もちろん愛しい伴侶は腕に抱いたままだ。
「意外と早く起きてたんですね。てっきり僕たちが一番乗りだと思ってました」
そんなふうに気さくに声をかけてくれるスオウに好感を抱きながらミヅキと三人での会話を楽しむ。
年齢も職業も違う我々だが、話していて楽だと感じられるのは実に楽しい。
「あ、そうだ。弓弦くん。どこかでお買い物できるところないかな?」
シュウゴの質問にユヅルは少し難しい顔をした。
それはそうだろう。
ユヅルはここにきてまだほとんど外の世界を知らないのだから。
「母たちにお土産と、それからクリスマスプレゼントをくださった方たちにお返しを買いたいなと思って……」
シュウゴの言葉にリオも賛同する。
ユヅルはなんと答えるだろうかと思っていると、
「どこか、いいところあるかなぁ。あっ、あのクリスマスマーケットならいろいろ選べるかも。エヴァンさんどうですか?」
と期待に満ちた目で私を見つめる。
クリスマスマーケットか……。
ユヅル一人でも大変だったが、リオたちも全員一緒だとなると警備も大変そうだが……まぁ伴侶は各々が守ればいけるか。
ミヅキとスオウに目で合図を送れば、頷きが見える。
大丈夫そうだな。
とりあえずはジョルジュに話してみないとなんとも言えないが、きっとジョルジュもリュカの願いを叶えるだろう。
私たちは愛しい伴侶のために存在するのだから。
* * *
いつも読んでいただきありがとうございます!
こちらのお話も今回で無事に100話を迎えることができました。
これもひとえに読んでくださる皆さまのおかげです。
フランス編が終わったら一応完結かなと思っていますが、まだしばらくは続くと思いますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです♡
これはユヅルに実によく似合っていた。
フランスの寒い冬を初めて過ごすユヅルのためにいくつものコートを誂えたが、このコートはユヅルの可愛らしさをよく引き出していたな。
もしかしたら庭に誰かが出ているかもしれない。
このコートを着せておく方がいいだろう。
中にも暖かなセーターを着せ、コートを羽織らせるとユヅルは近くにあった濃いグリーンの手袋を手に取った。
確か、これはリオからの贈り物だったな。
手編みだと言っていたが、実に上手だ。
売り物と遜色ない出来だ。
やはり日本人は手先が器用なのだな。
私もコートを羽織り、準備が整ったユヅルを抱き上げる。
腕に乗るユヅルの重さが心地良い。
重くないかと心配している様だが、ユヅルの体重なら数キロは余裕で歩けるだろう。
ユヅルを重いと感じて下ろすことなど一生訪れないだろうな。
「ユヅルがこれから先どれだけ縦にも横にも大きくなったとしても、私はいつだってユヅルを軽々と抱き上げられる自信があるよ。心配しないでいい」
そう言ってやると、ユヅルは嬉しそうに私に抱きついてきた。
庭に出ると、昨夜の雪が少し積もっているのが見えた。
寒寒としているが、ユヅルの表情は明るい。
日本人の美的感覚で言えば、この情景は寒さよりも美しく見えるのだろう。
ユヅルが寒くないかだけが心配だが、私と抱きついているから暖かいだなんて嬉しいことを言ってくれる。
ああ、こんな時間を幸せだというんだろうな。
庭を進んでいくと、少し離れた場所に人影が見える。
やはり想像していた通り先客がいたようだ。
ユヅルに先客がいると教えてやると、
「あれは……理央くんだ! おーいっ、理央くんっ!!」
と嬉しそうに声をあげ、手を振り始めた。
せっかくの二人っきりの時間を邪魔しない方がいいのではないかと一瞬思ったが、向こうも嬉しそうにこちらに駆けてくる。
同じようにリオを抱きかかえたミヅキがこちらを見て苦笑しているから、私と同じ気持ちなのだろう。
まぁ、二人っきりの時間などいくらでもある。
それよりは可愛い夫たちの喜ぶ顔を見られる方が何よりも幸せだからな。
私たちの腕に抱かれたまま、ユヅルとリオは嬉しそうに話をしている。
話題はどうやらリオの作ってくれた手袋のようだ。
「僕もエヴァンさんに作ってあげたいんだ。難しいかな?」
そんな言葉がユヅルの口から出てきて驚いてしまう。
まさかユヅルがそんなことを思ってくれていたなんて……。
ああ、私はなんて幸せ者だろう。
あまりにも嬉しすぎてユヅルを強く抱きしめたのだが、リオたちの前だということもあってユヅルは恥ずかしそうに声をあげた。
だが、
「愛しい夫にそんなことを言われて喜ばない旦那はいないよ。私だって、理央にそんなことを言われたら、人前だって関係なく抱きしめると思うよ。もう夫夫なんだし気にしなくていいよ」
とミヅキに言われてユヅルは嬉しそうに私の腕の中に留まってくれた。
やはり同じ気持ちを分かち合える友人の存在は偉大だな。
「手袋の編み方だけど、理央が編んでるのをビデオ通話で見せながら、弓弦くんも一緒に編んだらいいんじゃないか?」
そんな素晴らしいミヅキの提案にユヅルは嬉しそうに乗った。
手袋を作れることもそうだが、きっと日本に帰ってからもリオと繋がっていられるのが嬉しいのだろう。
やはりミヅキたちにはこちらへの移住を考えてもらいたいものだな。
庭でしばらく話していたが暖かいコートを着ているとはいえ、やはり底冷えする。
コンサバトリーに移動しようと声をかけると、ミヅキたちも賛成してくれた。
暖かなコンサバトリーに入り、コートを脱がせるとすぐにジュールが紅茶を持ってきた。
これでユヅルの寒さも癒えるだろう。
「理央くんたちはあと数日いられるんだよね?」
ユヅルの問いにリオは頷きながら、ずっとこっちにいたいと言い出した。
それほどここでの生活を楽しんでくれているのだと思うと嬉しくなる。
家族同然の中だからいつだって来てくれていい。
そういうとリオもミヅキも手放しで喜んでくれた。
と同時に、
「ロレーヌ総帥たちもぜひ日本に来てください。仕事ではなく、旅行で。歓待しますよ」
と嬉しい言葉をかけてくれるが、いい加減この呼び方だけは変えてもらわなくてはな。
本当に家族同然だと思っているのだから。
「ロレーヌ、楽しみにしてますよ」
私の要望に少し照れながらも聞き入れてくれたミヅキと、これでまた一歩仲が深まったと嬉しくなった私だった。
「あっ、弓弦くん! 理央くん! 早いね。もうお茶してたの?」
コンサバトリーに優しい声が響き渡る。
スオウとシュウゴだ。
やはりというか、当然とでも言おうか。
スオウもシュウゴを腕に抱いている。
夫夫になって長いと聞いていたが、そんなのは関係ないくらいに昨夜はお楽しみだった様だな。
抱きかかえられているのをユヅルとリオに指摘されて恥ずかしそうにしているシュウゴもまた初々しい。
夫夫になってどれだけ経っても、きっとユヅルもあんなふうに初々しい姿を見せてくれるのだろうな。
こっちにきておしゃべりをしようというユヅルの誘いに乗った二人が私たちにそばに腰を下ろす。
もちろん愛しい伴侶は腕に抱いたままだ。
「意外と早く起きてたんですね。てっきり僕たちが一番乗りだと思ってました」
そんなふうに気さくに声をかけてくれるスオウに好感を抱きながらミヅキと三人での会話を楽しむ。
年齢も職業も違う我々だが、話していて楽だと感じられるのは実に楽しい。
「あ、そうだ。弓弦くん。どこかでお買い物できるところないかな?」
シュウゴの質問にユヅルは少し難しい顔をした。
それはそうだろう。
ユヅルはここにきてまだほとんど外の世界を知らないのだから。
「母たちにお土産と、それからクリスマスプレゼントをくださった方たちにお返しを買いたいなと思って……」
シュウゴの言葉にリオも賛同する。
ユヅルはなんと答えるだろうかと思っていると、
「どこか、いいところあるかなぁ。あっ、あのクリスマスマーケットならいろいろ選べるかも。エヴァンさんどうですか?」
と期待に満ちた目で私を見つめる。
クリスマスマーケットか……。
ユヅル一人でも大変だったが、リオたちも全員一緒だとなると警備も大変そうだが……まぁ伴侶は各々が守ればいけるか。
ミヅキとスオウに目で合図を送れば、頷きが見える。
大丈夫そうだな。
とりあえずはジョルジュに話してみないとなんとも言えないが、きっとジョルジュもリュカの願いを叶えるだろう。
私たちは愛しい伴侶のために存在するのだから。
* * *
いつも読んでいただきありがとうございます!
こちらのお話も今回で無事に100話を迎えることができました。
これもひとえに読んでくださる皆さまのおかげです。
フランス編が終わったら一応完結かなと思っていますが、まだしばらくは続くと思いますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです♡
139
お気に入りに追加
1,683
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる