大富豪ロレーヌ総帥の初恋

波木真帆

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ロレーヌ家の伝統衣装

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「すぐに支度を済ませるから、ここで座っていてくれ」

「はい。わかりました」

ユヅルが疲れないように椅子に座らせ、私は急いで自分の支度を済ませた。

今日の私の衣装は、ロレーヌ家当主としての伝統衣装。
代々当主だけが着ることを許された宮廷服だ。

ロレーヌ家が貴族であった頃、時の国王に拝謁した時にも着ていた物と同じ衣装に身を包み、代々受け継がれる国王から授けられた勲章を胸につけ、ユヅルの前に出れば、どんな反応をしてくれるだろう。

少し緊張しながらユヅルの前に出ると、ユヅルはほんのりと頬を染め、恍惚とした表情を浮かべていた。

ああ、良かった。
どうやら気に入ってもらえたようだ。

そんなに気に入ってもらえたなら、たっぷりと撮影をして屋敷の至る所に飾るとしよう。
ユヅルの美しい姿も見せびらかせるし、一石二鳥だ。

いや、ユヅルの愛らしい姿を見せるのは勿体無いか?
やはり私だけが見られる場所に隠しておこうか……。

いや、せっかくの結婚写真だというのにそれは流石にダメか。
ジュールにもなんと言われるか分からないな。

あまりにも狭量すぎる自分に呆れながら、私は用意しておいた箱を手に取った。

この日のために用意していたユヅルの靴。
手足が長いのに24センチにも満たないユヅルの足は、指が長く普通の女性用の靴では合わないことはわかっていた。

以前服を仕立てる時に、足のサイズも測っておいたから今回に靴はそれに合わせてオーダーメイドで作らせたのだ。
フランス国内での屈指の靴職人に依頼をして作ったこの靴は、初めてヒールを履くユヅルにも履きやすい靴のはずだ。

椅子に座るユヅルの前に片膝をつき、ユヅルの小さくて可愛い足にその靴を履かせていく。
ユヅルは最初こそ緊張しているようだったが、その履き心地に感嘆の声を上げた。

ふふっ。良かった。
足を痛めては最悪の一日になってしまうからな。

ユヅルが立ち上がると、いつもよりユヅルが近くに見えた。
そう思ったのはユヅルも同じだったようで、嬉しそうにしていた。

さぁ行こうと声をかけた瞬間、慣れない靴にユヅルが躓いた。
危ない、危ない。
さっとユヅルを受け止め、抱きかかえる。
ドレスを着てもいつもと変わらぬ軽いユヅルは何時間抱きかかえても私の負担になることはない。

それよりも無理して歩かせて、挙式前に怪我をしては元も子もないからな。

ユヅルもそれをわかっているからか、そっと私の首に手を回してくれた
ああ、ユヅルの重みが心地良い。

扉を開け外に出ると、クララと撮影カメラマンのトリスタンが待っていた。

ユヅルにトリスタンを紹介し、同じようにトリスタンにもユヅルを紹介すると、ユヅルのあまりの美しさに驚いていたが、すぐに日本語で挨拶をしていた。

「とりすたん、デス。よろしく、オネゴイ、シマス」

この日のために練習していたのか、それとも待っている間にクララに教えてもらったのか。
トリスタンの辿々しい日本語はどうやらユヅルには好印象だったようだ。
多少間違っていても、誰でも一生懸命母国語で話されると嬉しいものだからな。

ユヅルはそんなトリスタンにフランス語で挨拶を返す。
ここ数ヶ月で自己紹介は随分と発音が上手になったものだ。
ユヅルの頑張りが目に見えて嬉しくなる。


『ロレーヌ総帥、ではどちらから撮影を始めましょうか?』

『ああ、大階段からだ。ユヅルの美しいロングトレーンが一番映えるからな』

『承知しました』

トリスタンに最初の撮影場所を説明すると、トリスタンは準備のために先に撮影場所に駆けて行った。
きっと今頃ミヅキたちもそれぞれの場所で撮影を始めていることだろう。

ユヅルにまずは大階段で撮影すると説明した。
大階段での撮影は、ユヅルのロングトレーンが一番映えると教えてやると、ユヅルはトレーンを知らないようだった。

ドレスの裾をトレーンというのだが、フランスを含めたヨーロッパ各国ではその昔、トレーンの長さが身分の高さを示していたことがあり長ければ長いほど身分が高いと言われていたのだ。
そんな昔の慣習だが、わがロレーヌ家にもその慣習は未だ根強く残っている。

もちろん、それだけでロングトレーンのドレスを作ったわけではない。
ユヅルの美しさを形に表すためだ。
長く美しいトレーンがユヅルの美しい後ろ姿をさらに綺麗に見せてくれることだろう。
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