上 下
84 / 163

おすすめの場所

しおりを挟む
ユヅルはクラウンティアラを大切に箱に戻すと、大事そうに胸に抱きかかえた。
そんなにも喜んでもらえると嬉しいものだ。

ショコラショーとケーキを楽しんで、私たちはエミールの店を後にした。

「ここからはもう城に向かっていくだけだ。後30分ほどだからゆったりと寛いでいてくれ」

ユヅルは嬉しそうにはーいと返事をすると、リオとソラと嬉しそうに車に乗り込んだ。
私たちも後を追うように車に乗り込むと、隣に座ったミヅキが

『あの……ロレーヌ総帥……』

と少し言いにくそうにしながら声をかけてきた。
フランス語だったのは、リオたちに聞かれたくないからだろうか?

『どうした?』

『あの……さっきの、クラウンティアラですが……あれは本気で、フェーヴが当たった人に渡すおつもりだったんですか?』

『んっ? そのつもりだったが、何か悪かったか?』

『い、いえ。悪いも何も……あれはおそらく億は下らないかと思うのですが……』

『そうだな。三億くらいか、まぁ大したことはないよ』

「――っ!!」

私の言葉に大きく目を見開いたミヅキと、そして私たちの会話を聞いていたユウキも同じように目を丸くしていた。

『ミヅキもユウキもどうかしたか?』

『いえ……心からあのクラウンティアラが当たらなくてホッとしたところです』

『ええ。三億は流石に受け取れませんからね』

『そういうものか?』

ふむ。
私からの贈り物なら誰でも欲しがるものだが、やはりこの二人はアヤシロと同じであまり物欲がないようだ。
そういうところも気に入ったな。

『と、ところで、これからのことですが、着替えを済ませたらカメラマンとの撮影だとおっしゃってましたよね?』

『ああ。そうだ。あの城の中で、どこで撮ってもらっても構わないよ。今日は全ての部屋を開放しているからそれぞれ思い思いの場所で撮ってもらったらいい』

『庭もいいですか?』

『ああ。もちろん! そうか、庭もあったな。確かに今日のような天気なら外での撮影も映えるはずだ。庭も広いからどこを使ってくれてもいいよ。噴水も、花壇もいいな。観光客エリアからは私たちのエリアには絶対に入ってこられないから、安心するといい』

『城内でおすすめの場所はありますか?』

『そうだな、大階段では撮っておいた方がいいだろうな。あとはギャラリーもいいぞ。それから舞踏室と、ああ、テラスから湖が見えるんだ。そこで撮るのもおすすめだな』

『わぁ、撮りたい場所が多すぎて1時間で回れるかどうか……。うれしい悲鳴ですね』

そういうと、ミヅキとユウキはそれぞれ話し合いを始めた。

『じゃあ、俺は庭から撮るよ』
『わかった。じゃあ、俺はテラスとギャラリーにしよう』

お互いに取る順番を決めているようだ。
場所が広いとはいえ、やはり二人っきりの撮影がいいのだろう。

『ならば、私は大階段で撮っておこうか。私がユヅルに仕立てたドレスはトレーンが長いから、階段で映えるぞ』

『ああ、それはいいですね。私のは光に当たるとほのかなピンク色に変わるのですよ』

『私のは理央がずっと見ていた絵本のままのドレスなので、可愛らしいと思いますよ』

私もその話し合いに参加しながら、お互いに仕立てたドレスの素晴らしさを熱く語った。
どれも違って、見ているだけで楽しめそうだ。

そんなことを話していると、車はとうとう目的地の城に到着した。

『ああ、やっぱり素晴らしいな。このお城は。まさかここで結婚式が挙げられるとは……』

ミヅキもユウキも感動してくれているようだが、ユヅルたちは先ほどまで盛り上がっていたというのに、突然静かになってしまった。
一体どうしたのだろう?

気になって、ユヅルに話しかけにいくと、どうやらこの城の大きさに驚いたようだ。

あまりにも古い城だから想像と違ったと思ったが、驚いただけのようでホッとした。

ミヅキたちが車から降りていったのを確認して、私もユヅルをエスコートして降りる。
実際に大きな城を目の当たりにしてポカーンと口を開けているユヅルが実に可愛らしい。

続けてやってきたシュウゴたちもまた驚いているようだったが、アヤシロとケイトは懐かしいと嬉しそうに笑っていた。

そういえば新婚旅行であちらの観光客エリアに泊まったと言っていたな。
きっとこちらの方がより気に入ってくれることだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

処理中です...