大富豪ロレーヌ総帥の初恋

波木真帆

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père noëlからの贈り物

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ユヅルは嬉しそうにプレゼントのリボンを外そうとしていたが、急に手が止まった。
どうしたのだろうと思っていると、ユヅルが私の方に顔を向けた。

その可愛らしい顔に思わずキスをしそうになったが、少し悩んでいる様子にユヅルにふざけるわけにはいかない。
必死にキスしたい気持ちを抑えながら、どうかしたのかと尋ねると、

「あの……エヴァンさんは観月さんたちとプレゼント交換はしなくて良かったんですか?」

と突拍子もないことを言い出した。

ユヅルはなんだかんだと自分の頭の中で考えて、思い至った言葉を突然話し始める事がある。
その経緯を知らない私にとっては驚くばかりだが、ユヅルがこんなことを言い出したのにも何か必ず理由があるのだ。

それをわかっているから、少し戸惑いつつも、どうしてそんなことを思ったのか尋ねてみると、

「僕たちばっかりプレゼント貰ってばかりだったなって……今更だけど、思ってしまって……」

と胸の内を教えてくれた。

なるほど。
そういうことだったか。
クリスマスだというのに、私が何もプレゼントをもらっていないどころか、自分だけがたくさん貰ってしまったことを申し訳ないと思ってくれたのだろう。
本当に優しい子だ。

だが、そんな心配はいらない。

友人たちと楽しく過ごすユヅルの姿に始まり、演奏会で見せてくれたあの愛くるしい格好も、自分の贈り物を渡してドキドキしている様子も、père noëlに会って嬉しそうにしている表情も全てが私への贈り物だ。

この瞬間でしか見られない姿も表情もいっぱい貰った。
それだけで十分だ。
いや、多すぎるくらいいっぱい貰った。

そして、私自身もこの家で友人と過ごす初めてのクリスマスを経験した。
同じように美しく可愛らしい伴侶を持つ、話の合うものたちとの時間は何よりも変え難い素晴らしい時間だった。

これだけ貰っておきながらこれ以上に贈り物をもらうなど、それこそ贅沢というものだ。

今まで贅沢などと考えたことは一度もなかったが、こんな感情を私に教えてくれたのもユヅルのおかげといえよう。

「贈り物は形あるものだけじゃない。こういう思い出の一つ一つが素晴らしい贈り物なんだよ。だから気にしなくていい」

私の言葉にユヅルは納得したように笑った。

「さぁ、素敵な思い出の一つ、père noëlからの贈り物を見せてくれ」

そういうと、ユヅルは手に持っていた贈り物のリボンを外し始めた。
リオもソラも皆、ユヅルがリボンを解くのを待っていたように、ゆっくりと外し始めた。

「わぁっ!! 綺麗っ!!!」

箱を開けて出てきたものを見て、ユヅルが嬉しそうな声をあげた。
と同時にあちらこちらから、同じように嬉しそうな声が聞こえる。

その声に私を始め、皆がニヤリと笑みを浮かべた。

今回、père noëlからの贈り物として、私たちが用意したのは、アヤシロが手配してくれた最新式のGPSが内蔵されたジュエリー。
肌身離さずつけられるように、私とミヅキ、そしてユウキはブレスレットに。
そして、すでに社会人として働いているケイト、シュウゴ、ミシェル、そしてリュカは邪魔にならないようにネックレスを特注で頼んだのだ。

それぞれ思い思いのデザインで作らせたジュエリーたちは、どれもこの世に二つとない一点物。
そして、一度つけるとロックがかかり、一人では決して取る事ができないという代物だ。
しかもこれはリアルタイムでユヅルがどこにいるか、一切の狂いも無くピンポイントに場所を教えてくれるという優れものだ。

試しに何度かチェックしてみたが、本当に素晴らしい機能で私ですら驚いてしまった。
これをユヅルがつけていると思うだけで安心できる。
本当に良いものを手配してくれたものだ。

「père noëlからの贈り物は一生物だ。これは肌身離さずつけておくんだぞ」

そう言って、ユヅルの左の手首につけてやると、ユヅルは嬉しそうに返事をしてしばらく、そのブレスレットを見つめていた。

ソラとリオが自分の貰ったブレスレットを見せにきた。

ユウキたちのデザインしたものを私も初めてみたが、さすが自分の愛しい伴侶への贈り物だけあって、ぴったりと似合っている。

他の誰がつけても似合うことのない、そのデザインにやはりなと納得させられる。
私がユヅルに贈ったものも誰一人似合うものはいないだろう。
それがわかっただけで嬉しくなる。

おそらくケイト、ミシェル、シュウゴ、リュカはこのジュエリーにGPSがついていることはわかっているだろう。
それでも何も言わずに一緒にpère noëlからの贈り物だと喜んでくれるのはとても嬉しい。

さて、メインイベントも無事に終わったことだし、そろそろパーティーもお開きにした方がいいだろう。
なんと言っても今日は前夜祭。

今回の一番重要なイベントは明日の結婚式なのだ。

明日の結婚式を無事に終える事が何よりも大事なのだから、そろそろ休ませておいた方がいいだろう。

今日はユヅルの可愛らしいコスチュームに煽られもしたが、明日挙式後に待っているあの美しいランジェリーを纏ったユヅルを堪能するために今日は必死に我慢しよう。

きっとミヅキたちも同じことを考えているだろうな。

ここを我慢してこそ、明日の楽しみになる。
私は必死に愚息に言い聞かせてから、ユヅルを連れ自室に戻った。

それでもキスだけはしてもいいだろう。
昂った愚息を落ち着かせるためにも、キスだけさせてほしい。

部屋に入ってすぐにリビングまで進むのも耐えきれずにユヅルの唇を奪った。
甘い甘い唇を舐めていると自然に舌が入っていった。

ここまで激しいキスにするつもりではなかったが、仕方ない。
キスだけ堪能しよう。

しばらく味わってからユヅルをリビングへと連れて行くと、ユヅルに怪訝な顔をされてしまった。
どうやら私がすぐに寝室に連れ込むと思っていたようだ。

それは間違いではないが、今日だけは我慢する。

「明日が結婚式だから、我慢しようとしただけだ。明日は夫夫になって初めての夜が待っているからな」

不安げな表情をしていたユヅルに理由を告げると、安心したように笑って、

「あの……僕も、初めての夜……楽しみにしてます。エヴァンさんを僕がいっぱい喜ばせるから楽しみにしていてくださいね」

と爆弾を落としてきた。

――え、ゔぁん、さぁん……、みてぇ……っ。

あのいやらしいランジェリーを着ているユヅルが一気に頭に浮かんできて、愚息が一気に昂りを見せる。
まさかここでやられるとは思わなかった。

それでもここで負けるわけにはいかない。

明日ユヅルの足腰がたたなかったらジュールにどれだけ説教されることか……。

必死に愚息に言い聞かせながら、長い長い夜が更けていった。
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