69 / 163
Beraweckaに酔う
しおりを挟む
ユヅルたちはケーキを食べながら何やら楽しそうな話に夢中になっているようだ。
私の隣にいる時よりも楽しそうな表情をしていると少しばかり嫉妬してしまいそうになるが、ユヅルが友人たちと語り合っている姿を見るのも悪くない。
一緒にいる者たちが皆、伴侶が居る身だからというのも私の心に寛大さを与えているのかもしれないな。
んっ? リオの顔が少し赤い気がするが……気のせいだろうか?
そう感じてなんとなく注視していると、リオが皿をもって立ち上がった。
どうやらデザートのおかわりをしにいくようだ。
なら大丈夫か……と思っていると、
「あっ、理央くん! 危ないっ!」
というユヅルの声が響くよりも前に私の隣に座っていたミヅキがあっという間にリオの元に駆けて行って、床に倒れ込む前にリオを抱き止めた。
その衝撃にリオは持っていた皿を落としてしまったようで、皿はリオからほんの少し離れた場所で割れてしまっていた。
破片が飛び散って怪我をしていないかということもだが、ふらついて倒れたリオの身に何かあったのかとミヅキは心配そうな声を駆けていたが、リオは真っ青な顔で割れた皿の心配ばかりしている。
ミヅキが何度、皿のことは気にしないでいい、それよりも怪我はないかと尋ねるもリオはごめんなさいと謝罪を繰り返すだけ。
身体を震わせ必死に謝り続ける様子にただならぬものを感じてしまう。
これはその施設とやらで相当虐げられていたに違いない。
ミヅキがあれほどまでに過保護に溺愛するのもこれが原因なのか。
日本にいれば、いつなん時昔の知り合いに会うとも限らない。
その度にリオが辛い思いをしてしまうなら、本気でこちらに移住させることを説得してもいいかもしれないな。
ミヅキは優しくリオを包み込みながら、耳元でずっと何かを囁いている。
リオを落ち着かせるための呪文だろうか。
恋人ならではの対処法だな。
「エヴァンさん、理央くんを怒ったりしないよね?」
ユヅルもリオの様子が心配でたまらないのか、不安そうに私に尋ねてくるが私はこのロレーヌ家の当主。
皿の一枚や二枚のことで怒るような器の小さい男ではない。
それよりも大事な客人、そしてユヅルの大事な友人に怪我がなければそれでいい。
私はすぐにジュールに指示をだし、割れた皿を片付けさせ、新しいケーキを用意させた。
ジュールにケーキ皿を差し出され、リオは
『め、るしぃ……ぱ、ぴぃ……』
と涙を潤ませてお礼を言っていた。
ああ、本当に赤子のような心の綺麗な子なのだな。
そんな穏やかな気持ちになっていると、ミヅキが皿に乗ったケーキを見て怪訝そうな表情になった。
ケーキについてリオに何かを尋ねるとリオの答えに納得したように頷き、その理由を教えてくれた。
どうやらリオはフランスのクリスマス定番のスイーツである『Berawecka』を食べて酔ってしまったらしい。
確かにベラベッカにはブランデー漬けにしたドライフルーツがふんだんに入っていて大人のスイーツと言われてはいるが子どもが食べられないわけではない。
ましてやそれで酔っ払うものなど見たことがないのだが……リオは相当酒に弱いと見える。
まさかクリスマススイーツでこんなことがあろうとは思いもしなかった。
ミヅキにこちらの落ち度だと詫びを入れ、リオの無事を喜ぶとリオはようやく落ち着いたようだ。
本当によかった。
ホッとしたのも束の間、大広間に突然、
「うふふーっ。りおくん、ちゅーしないと!」
というソラの可愛い声が響き渡った。
皆が驚く中、
「うれしいときはちゅーするんだよね? だって、ここふらんすだもん。うふふーっ、ちゅーだよ、ちゅー!」
となおも嬉しそうに話を続けるソラに今度はユウキが駆け寄った。
どうやらソラもリオと同じようにベラベッカを食べて酔っていたようだ。
日本人はこんなにも酒に弱い人種なのか?
それともこの二人だけが異様に弱いのか?
あまりの出来事に私もジュールも驚きを隠せない。
そういえば、ユヅルもあのベラベッカを食べたはず。
そう思ってユヅルを見たが、いつもと様子は全く変わっていない。
ユヅル自身も特におかしなところはないようだ。
まぁユヅルの場合、アマネだけでなく、あのニコラの血も受け継いでいる。
わがロレーヌ家は酒にはめっぽう強く、ニコラはその中でも群を抜いて強かったようだ。
そんなニコラの息子なのだから、あんなベラベッカの一片で酔うはずがないな。
リオやソラのように酔っ払った可愛い姿が見られないのはほんの少し残念に思うところもあるが、二人で酒が楽しめるのは喜びの方が多い。
ユヅルの20歳の誕生日にはどんなふうに祝ってやろうか。
そう考えるだけで楽しくなってくる。
そんなことを考えながら、ミヅキたちに目をやるとリオがほんのりと頬を染めながらミヅキの唇にキスをしている姿が飛び込んできた。
突然の出来事にミヅキは驚き半分嬉しさ半分と言ったところか、すくっと立ち上がるとリオを抱き抱えたまま我々から離れたソファー席に移動した。
ああ、ミヅキの気持ちは痛いほどわかる。
私だってユヅルからのキスはとてつもなく興奮するのだから。
しばらくの間、二人っきりにさせてあげよう。
私が思ったのと同じように二人の邪魔をするものはどこにもいなかった。
私の隣にいる時よりも楽しそうな表情をしていると少しばかり嫉妬してしまいそうになるが、ユヅルが友人たちと語り合っている姿を見るのも悪くない。
一緒にいる者たちが皆、伴侶が居る身だからというのも私の心に寛大さを与えているのかもしれないな。
んっ? リオの顔が少し赤い気がするが……気のせいだろうか?
そう感じてなんとなく注視していると、リオが皿をもって立ち上がった。
どうやらデザートのおかわりをしにいくようだ。
なら大丈夫か……と思っていると、
「あっ、理央くん! 危ないっ!」
というユヅルの声が響くよりも前に私の隣に座っていたミヅキがあっという間にリオの元に駆けて行って、床に倒れ込む前にリオを抱き止めた。
その衝撃にリオは持っていた皿を落としてしまったようで、皿はリオからほんの少し離れた場所で割れてしまっていた。
破片が飛び散って怪我をしていないかということもだが、ふらついて倒れたリオの身に何かあったのかとミヅキは心配そうな声を駆けていたが、リオは真っ青な顔で割れた皿の心配ばかりしている。
ミヅキが何度、皿のことは気にしないでいい、それよりも怪我はないかと尋ねるもリオはごめんなさいと謝罪を繰り返すだけ。
身体を震わせ必死に謝り続ける様子にただならぬものを感じてしまう。
これはその施設とやらで相当虐げられていたに違いない。
ミヅキがあれほどまでに過保護に溺愛するのもこれが原因なのか。
日本にいれば、いつなん時昔の知り合いに会うとも限らない。
その度にリオが辛い思いをしてしまうなら、本気でこちらに移住させることを説得してもいいかもしれないな。
ミヅキは優しくリオを包み込みながら、耳元でずっと何かを囁いている。
リオを落ち着かせるための呪文だろうか。
恋人ならではの対処法だな。
「エヴァンさん、理央くんを怒ったりしないよね?」
ユヅルもリオの様子が心配でたまらないのか、不安そうに私に尋ねてくるが私はこのロレーヌ家の当主。
皿の一枚や二枚のことで怒るような器の小さい男ではない。
それよりも大事な客人、そしてユヅルの大事な友人に怪我がなければそれでいい。
私はすぐにジュールに指示をだし、割れた皿を片付けさせ、新しいケーキを用意させた。
ジュールにケーキ皿を差し出され、リオは
『め、るしぃ……ぱ、ぴぃ……』
と涙を潤ませてお礼を言っていた。
ああ、本当に赤子のような心の綺麗な子なのだな。
そんな穏やかな気持ちになっていると、ミヅキが皿に乗ったケーキを見て怪訝そうな表情になった。
ケーキについてリオに何かを尋ねるとリオの答えに納得したように頷き、その理由を教えてくれた。
どうやらリオはフランスのクリスマス定番のスイーツである『Berawecka』を食べて酔ってしまったらしい。
確かにベラベッカにはブランデー漬けにしたドライフルーツがふんだんに入っていて大人のスイーツと言われてはいるが子どもが食べられないわけではない。
ましてやそれで酔っ払うものなど見たことがないのだが……リオは相当酒に弱いと見える。
まさかクリスマススイーツでこんなことがあろうとは思いもしなかった。
ミヅキにこちらの落ち度だと詫びを入れ、リオの無事を喜ぶとリオはようやく落ち着いたようだ。
本当によかった。
ホッとしたのも束の間、大広間に突然、
「うふふーっ。りおくん、ちゅーしないと!」
というソラの可愛い声が響き渡った。
皆が驚く中、
「うれしいときはちゅーするんだよね? だって、ここふらんすだもん。うふふーっ、ちゅーだよ、ちゅー!」
となおも嬉しそうに話を続けるソラに今度はユウキが駆け寄った。
どうやらソラもリオと同じようにベラベッカを食べて酔っていたようだ。
日本人はこんなにも酒に弱い人種なのか?
それともこの二人だけが異様に弱いのか?
あまりの出来事に私もジュールも驚きを隠せない。
そういえば、ユヅルもあのベラベッカを食べたはず。
そう思ってユヅルを見たが、いつもと様子は全く変わっていない。
ユヅル自身も特におかしなところはないようだ。
まぁユヅルの場合、アマネだけでなく、あのニコラの血も受け継いでいる。
わがロレーヌ家は酒にはめっぽう強く、ニコラはその中でも群を抜いて強かったようだ。
そんなニコラの息子なのだから、あんなベラベッカの一片で酔うはずがないな。
リオやソラのように酔っ払った可愛い姿が見られないのはほんの少し残念に思うところもあるが、二人で酒が楽しめるのは喜びの方が多い。
ユヅルの20歳の誕生日にはどんなふうに祝ってやろうか。
そう考えるだけで楽しくなってくる。
そんなことを考えながら、ミヅキたちに目をやるとリオがほんのりと頬を染めながらミヅキの唇にキスをしている姿が飛び込んできた。
突然の出来事にミヅキは驚き半分嬉しさ半分と言ったところか、すくっと立ち上がるとリオを抱き抱えたまま我々から離れたソファー席に移動した。
ああ、ミヅキの気持ちは痛いほどわかる。
私だってユヅルからのキスはとてつもなく興奮するのだから。
しばらくの間、二人っきりにさせてあげよう。
私が思ったのと同じように二人の邪魔をするものはどこにもいなかった。
127
お気に入りに追加
1,683
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる