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私の幸せ

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「エヴァンさん、起きて……」

いつもは私が起こすまで眠ったままでいるユヅルが、嬉しそうな笑顔を見せながら起こしてくれた。

「ふふっ。ユヅル……おはよう」

ギュッと抱きしめ、いつものように唇にキスを贈ると一瞬で顔を赤くする。

「どうしたんだ? キスなら毎朝しているだろう?」

「だって……いつもは寝起きだから」

「ああ、そうだな。まだ目も開いてない子猫のようなユヅルにキスをして起こしてるな」

「だから気づいてなかったけど……エヴァンさん、寝起きでもかっこいいなって……」

「ふふっ。気に入ってくれたなら嬉しいよ」

そう言ってもう一度キスをすると、嬉しそうに笑っていた。

「楽しみで目が覚めたのか?」

「はい。友達が来てくれるなんて……初めてだから……」

「ふふっ。きっとみんなも今頃飛行機の中でユヅルに会えるのを楽しみにしてくれているよ」

私の言葉に満面の笑みを浮かべて頷く。
ああ、本当にユヅルは可愛らしい。

早く起きたおかげでゆったりと朝食をとりながら、ユヅルと談笑していると部屋の扉が叩かれセルジュとミシェルが挨拶をしながら入ってきた。

『Bonjour! Michelle』

もうすっかり慣れたユヅルの朝の挨拶はもはやフランス人と同じような綺麗な発音になっていた。
ふふっ。
あの辿々しい子どものような発音も可愛かったが、滑らかな発音をするユヅルも麗しいな。

挨拶もそこそこにユヅルに駆け寄ってきたミシェルの後ろにいるセルジュが申し訳なさそうな目で私を見ている。
と同時にミシェルがユヅルに買い物に出かけようと誘っているのを見て合点がいった。

まぁ、ミシェルがそれを言い出すのは想定の範囲内。
そのまま空港に迎えにいくだけで終わらないとは思っていた。

出かける準備と称して30分の猶予を与えている間に、セルジュがジョルジュたちに連絡をしていることだろう。

その間にゆっくりと着替えておこうか。
ユヅルのクローゼットから服を選ぶのは私の役目。
躊躇いなく私の前で着替えるユヅルの姿を目に焼き付けながら、自分の着替えも済ませた。

ふとユヅルに目を向けると首に巻いてあげた私のマフラーに顔を埋めているのが見える。
その嬉しそうな表情に私もたまらなく嬉しくなる。

ユヅルに決して私から離れないことを約束させて玄関に向かうと、セルジュとミシェルがキスをしているのが見えた。

その姿を見て赤くなっているユヅルを可愛らしく思いながら、私たちもキスを交わす。
やはりセルジュたちがいると、ユヅルもキスを交わすのが当たり前だと思ってくれるから助かるな。

車に乗り込み、ミシェルのおすすめのケーキ屋を巡る。
すでにその店にはジョルジュたち警備隊が先回りして安全は確保されている。
そのおかげで特段大騒ぎになることもなく買い物を済ませることができた。

あっという間に昼食の時間になり、ユヅルに食べたいものを聞けば

「僕、スパゲティーが食べたいです」

とリクエストしてくれた。

ふふっ。
このスバゲティーという発音、可愛いな。

スパゲティーがなんなのかわからない様子のミシェルにセルジュがパスタだと説明をして、私の行きつけの店に向かう。

ここは個室もあるしユヅルも気楽に食べられるだろう。

私のおすすめがいいというユヅルのために厳選した料理を注文し、それを私がユヅルに食べさせていく。
なんと至福のひとときだろう。

セルジュも同じようにミシェルに食べさせてくれているおかげで、ユヅルも恥ずかしがることなく口を開けてくれる。
二人っきりの食事もいいが、こうやって食べさせるところを見せつけながら食事をするのも実にいい。

食事を済ませ空港に向かうとジョルジュとリュカが現れた。
といっても今までずっとこっそりと警備をしてくれていたのだがユヅルもミシェルも何も気づいていなかったようだ。

二人の護衛を受けながら、アヤシロたちが出てくる到着口で待ち侘びていると突然ミシェルが大声でケイトの名を呼んだ。

慌ててセルジュが押さえたものの、もうすっかり周りの注目を浴びてしまっている。

私はユヅルの姿が周りから見えないようにさりげなく自分の身体で覆い隠した。

そのおかげか、ユヅルは自分が注目を浴びていることに気づいていないようで助かった。

ユヅルたちの姿を捉えて駆け寄ってきたアヤシロと友人たちの伴侶は、流石に可愛らしい顔をしている。
もちろんユヅルは比べようがないほど美しいが。

だが、その中でも気になるのはミヅキが連れているあのリオという子。
確かユヅルと同じ年だといっていたが……。


昔からの友人のように楽しそうに会話を始めるユヅルたちには申し訳ないがあまりにも注目を浴びてしまっている。
こんなに目を惹く集団になってしまったから当然といえば当然なのだが。

ユヅルに声をかけ、駐車場へと誘導し3台の車に分かれて乗り込んだ。

我々と一緒に乗り込んだのはミヅキとリオ。
やはり目の前で見てもリオがユヅルと同じ18には全く見えない。

ユヅルがリオを窓際に案内する。
二人で外の景色に見入っている間に、私はミヅキに声をかけた。

「長旅で疲れただろう?」

「いいえ。素晴らしい飛行機でのんびりと過ごせました」

「そうか、ならよかった。それはそうと……君の恋人だが……」

「はい。理央がどうかしましたか?」

「い、いや。彼は本当に18なのか? ユヅルも15くらいに間違われたこともあるが、彼はそれ以上じゃないか」

「ああ。確かにそうですね。理央はもしかしたら中学生に見えるかもしれませんね。私も初めて見た時は高校生には満たないかもと思いましたよ。栄養状態も悪い中で育ってきたから身体も小さくて……」

「そうか……話には聞いていたが、そこまで悪い状況だったのだな。彼にとってはミヅキに見つけてもらえて幸せだったろう」

そういうとミヅキはにこやかな笑顔を見せながら、ゆっくりと口を開いた。

「いいえ、私が理央に見つけてもらえて幸せなんですよ。理央と出会わなかったら人間的な感情を思い出すこともなかったですから……」

ミヅキの言葉は私の気持ちそのものだ。
私もユヅルに出会わなければ、一生こんなに満ち足りた気持ちにはなれなかったろう。
私もミヅキも伴侶に出会えたことで幸せになれたのだな。
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