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私の癒し
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子どものようにはしゃぐユヅルを見ていると、本当に癒される。
それはリュカもジュールも同じ気持ちのようだ。
ユヅルの可愛い顔は独占したいと思う気持ちもあるが、この二人ならば幸せな気持ちを分かち合うのもいいものだと思ってしまう。
それはやはりリュカも、ジュールもユヅルを邪な気持ちで見ていないことがわかるからだろう。
「中に入ってみるか?」
その声に少し戸惑いつつも、表情は明るく嬉しそうだ。
子どもだった頃の私専用に作ったものだが、ユヅルなら屈めば余裕で入れるだろう。
だが、ユヅルは木の周りを見回してどうやってあのツリーハウスまで上がるのかと不安に思ったようだ。
「僕、木登りは……」
木をよじ登るとでも思ったのか。
ふふっ。実に可愛らしい。
まぁ私なら登れないこともない。
ユヅルを紐で私の身体に抱きつかせていれば、ユヅルを抱いたまま登ることも可能だろう。
それくらい身体能力に自信はあるが、このツリーハウスにはきちんと昇降階段が存在する。
大丈夫だと安心させつつ、木の幹に垂れ下がっている紐を引っ張って見せれば、ツリーハウスから縄梯子が降りてきた。
体重200キロまでは余裕で登れる頑丈ものだから、ユヅルも怖がらずに登れるだろう。
縄梯子を見て、
「忍者屋敷みたいっ!」
と感想を言うユヅルはやはり日本人だなと思う。
実はこのツリーハウスを建設するにあたって、最初は階段を設置する予定だったのだがニンジャが好きな父上の意向を汲んで縄梯子になったのだ。
本当ならば、このツリーハウスにカラクリ要素も組んでみたかったのだが……と後々聞いたことがある。
こういうユニークなセンスも持ち合わせていた父上なら、きっとユヅルのことを一瞬で気に入って愛情をかけてくれただろうと思う。
ふふっ。
ユヅルの取り合いになりそうだな。
縄梯子をするすると上がっていったユヅルは扉を開けると、下にまで聞こえるほど興奮した声で、
「わぁっ!!! すごいっ!!! 本当にお家だっ!!」
と嬉しそうに声を上げた。
『ふふっ。あの頃の旦那さまより喜んでいらっしゃいますね』
『ああ、ユヅルは本当に純粋で可愛らしい』
目を細めて嬉しそうにツリーハウスを見上げるジュールの頭の中には、幼かった私と父の姿も浮かんでいるのだろうか。
少し涙ぐんで見える。
本当にユヅルがいるだけで、この屋敷が明るくなるな。
部屋の中に入ったユヅルは窓を開けて、可愛く手を振ってくる。
自分が我々を見下ろすのが不思議な気分だと言いながらも表情は楽しそうに見える。
確かにそうだな。
ユヅルに見下ろされるのは、なかなか楽しいものだ。
「ねぇ、エヴァンさんも来られないですか?」
ユヅルの願いには答えてやりたいが、なんと言っても小さなツリーハウスだ。
耐荷重は問題ないが、大きさ的に入れるかどうかだ。
とりあえず扉さえ入れればなんとかなるだろう。
とりあえず行ってみるかと言うと喜んでくれるユヅルをみているとどうしても入ってやりたい気になってくる。
『総帥、お気をつけください』
『ああ、無理はしないから大丈夫だ』
『旦那さま、中でオイタはされませんように……』
子どもの頃もそんな注意を受けたことがあるが、その時とは意味が全く違っていることはわかっている。
『するわけないだろう! 私を信用しろ!』
そう言いながらも、私がユヅルと二人になればすぐに狼になってしまうことは、これまでの生活でジュールにはすっかりバレてしまっている。
説得力もないなとわかっていながらも、
『大丈夫だ』
ともう一度言って、縄梯子に手をかけた。
梯子は問題なく上がれたが、やはり扉だ。
心配そうなユヅルに大丈夫だと言い張って、なんとか屈んで中に入ることができた。
記憶の中ではもう少し広くて大きかったが、私が成長したのだろうな。
それにしても懐かしい。
一時は毎日のようにここに上がって、一人の時間を過ごしていた。
ロレーヌ家の跡継ぎである重圧に押しつぶされそうになっていたあの頃、この家があったから私はなんとかここまでやってこられたのだと思う。
今思えば、父上はそんな私の様子を思って、あの本を贈ってくれたのかもしれない。
子ども時代の思いを吐露すれば、ユヅルが少し心配そうに
「今は……一人になりたい時間とか、欲しかったりしますか?」
と尋ねてくる。
ユヅルと出会ってから、一人になりたいと思ったことが一度もないな。
そんな時間があるならば、ユヅルと一緒の時を過ごしたい。
「今は、何よりもユヅルと過ごす時間が癒されるよ。ユヅルと出会ってからは、自分が一人でどうやって過ごしていたのかも思い出せない。それくらい、ユヅルがそばにいてくれるのが安心するし、自然なんだよ。だから……ずっとそばにいてくれるだろう?」
自分よりも随分と若い子に縋るような言葉をかけるとは、以前の私なら信じられないがそれが私の本音なのだ。
「僕が癒しになるなら……ずっと、そばにいます」
私の思いが重すぎると嫌がるそぶりもなく、そうはっきりと断言してくれたユヅルが愛おしく思っていると、どちらからともなく唇が重なり合った。
――旦那さま、中でオイタはされませんように……
ジュールの忠告が頭をよぎるが、これはオイタではない。
恋人たちの愛を確かめ合っているだけだ。
なぁ、そうだろう。ユヅル。
ユヅルの可愛い唇を啄み、ゆっくりと唇を離すとユヅルが寂しそうに私の唇を見つめる。
「ふふっ。続きは部屋に戻ってからだ」
そういうと、ここがツリーハウスだと気づいたのが小さく頷いた。
「さぁ、そろそろ下りようか」
ユヅルを誘導し扉を開けば、地面が遠くに見えて怖くなったのか、ユヅルが怖いと言い出した。
リュカが下で手を伸ばし
「大丈夫ですよ」
と優しく声をかけているが、足がすくんで動かないようだ。
「ユヅル、目を瞑っていろ」
「えっ? は、はい」
何かわからないと言った様子で目を瞑ったユヅルを屈んだまま抱きかかえ、
『そこをどいていろ』
とリュカとジュールに声をかけ、私はそのまま飛び降りた。
スタッと地面に下り立ち、
「ユヅル、もう大丈夫だぞ」
と声をかけると、ユヅルは恐る恐る目を開けた。
「えっ? もしかして、と、びおりた……んですか?」
「ああ、羽のように軽いユヅルなら大したことないよ」
そう笑って見せると、ユヅルが尊敬の眼差しで私を見つめてくれた。
それはリュカもジュールも同じ気持ちのようだ。
ユヅルの可愛い顔は独占したいと思う気持ちもあるが、この二人ならば幸せな気持ちを分かち合うのもいいものだと思ってしまう。
それはやはりリュカも、ジュールもユヅルを邪な気持ちで見ていないことがわかるからだろう。
「中に入ってみるか?」
その声に少し戸惑いつつも、表情は明るく嬉しそうだ。
子どもだった頃の私専用に作ったものだが、ユヅルなら屈めば余裕で入れるだろう。
だが、ユヅルは木の周りを見回してどうやってあのツリーハウスまで上がるのかと不安に思ったようだ。
「僕、木登りは……」
木をよじ登るとでも思ったのか。
ふふっ。実に可愛らしい。
まぁ私なら登れないこともない。
ユヅルを紐で私の身体に抱きつかせていれば、ユヅルを抱いたまま登ることも可能だろう。
それくらい身体能力に自信はあるが、このツリーハウスにはきちんと昇降階段が存在する。
大丈夫だと安心させつつ、木の幹に垂れ下がっている紐を引っ張って見せれば、ツリーハウスから縄梯子が降りてきた。
体重200キロまでは余裕で登れる頑丈ものだから、ユヅルも怖がらずに登れるだろう。
縄梯子を見て、
「忍者屋敷みたいっ!」
と感想を言うユヅルはやはり日本人だなと思う。
実はこのツリーハウスを建設するにあたって、最初は階段を設置する予定だったのだがニンジャが好きな父上の意向を汲んで縄梯子になったのだ。
本当ならば、このツリーハウスにカラクリ要素も組んでみたかったのだが……と後々聞いたことがある。
こういうユニークなセンスも持ち合わせていた父上なら、きっとユヅルのことを一瞬で気に入って愛情をかけてくれただろうと思う。
ふふっ。
ユヅルの取り合いになりそうだな。
縄梯子をするすると上がっていったユヅルは扉を開けると、下にまで聞こえるほど興奮した声で、
「わぁっ!!! すごいっ!!! 本当にお家だっ!!」
と嬉しそうに声を上げた。
『ふふっ。あの頃の旦那さまより喜んでいらっしゃいますね』
『ああ、ユヅルは本当に純粋で可愛らしい』
目を細めて嬉しそうにツリーハウスを見上げるジュールの頭の中には、幼かった私と父の姿も浮かんでいるのだろうか。
少し涙ぐんで見える。
本当にユヅルがいるだけで、この屋敷が明るくなるな。
部屋の中に入ったユヅルは窓を開けて、可愛く手を振ってくる。
自分が我々を見下ろすのが不思議な気分だと言いながらも表情は楽しそうに見える。
確かにそうだな。
ユヅルに見下ろされるのは、なかなか楽しいものだ。
「ねぇ、エヴァンさんも来られないですか?」
ユヅルの願いには答えてやりたいが、なんと言っても小さなツリーハウスだ。
耐荷重は問題ないが、大きさ的に入れるかどうかだ。
とりあえず扉さえ入れればなんとかなるだろう。
とりあえず行ってみるかと言うと喜んでくれるユヅルをみているとどうしても入ってやりたい気になってくる。
『総帥、お気をつけください』
『ああ、無理はしないから大丈夫だ』
『旦那さま、中でオイタはされませんように……』
子どもの頃もそんな注意を受けたことがあるが、その時とは意味が全く違っていることはわかっている。
『するわけないだろう! 私を信用しろ!』
そう言いながらも、私がユヅルと二人になればすぐに狼になってしまうことは、これまでの生活でジュールにはすっかりバレてしまっている。
説得力もないなとわかっていながらも、
『大丈夫だ』
ともう一度言って、縄梯子に手をかけた。
梯子は問題なく上がれたが、やはり扉だ。
心配そうなユヅルに大丈夫だと言い張って、なんとか屈んで中に入ることができた。
記憶の中ではもう少し広くて大きかったが、私が成長したのだろうな。
それにしても懐かしい。
一時は毎日のようにここに上がって、一人の時間を過ごしていた。
ロレーヌ家の跡継ぎである重圧に押しつぶされそうになっていたあの頃、この家があったから私はなんとかここまでやってこられたのだと思う。
今思えば、父上はそんな私の様子を思って、あの本を贈ってくれたのかもしれない。
子ども時代の思いを吐露すれば、ユヅルが少し心配そうに
「今は……一人になりたい時間とか、欲しかったりしますか?」
と尋ねてくる。
ユヅルと出会ってから、一人になりたいと思ったことが一度もないな。
そんな時間があるならば、ユヅルと一緒の時を過ごしたい。
「今は、何よりもユヅルと過ごす時間が癒されるよ。ユヅルと出会ってからは、自分が一人でどうやって過ごしていたのかも思い出せない。それくらい、ユヅルがそばにいてくれるのが安心するし、自然なんだよ。だから……ずっとそばにいてくれるだろう?」
自分よりも随分と若い子に縋るような言葉をかけるとは、以前の私なら信じられないがそれが私の本音なのだ。
「僕が癒しになるなら……ずっと、そばにいます」
私の思いが重すぎると嫌がるそぶりもなく、そうはっきりと断言してくれたユヅルが愛おしく思っていると、どちらからともなく唇が重なり合った。
――旦那さま、中でオイタはされませんように……
ジュールの忠告が頭をよぎるが、これはオイタではない。
恋人たちの愛を確かめ合っているだけだ。
なぁ、そうだろう。ユヅル。
ユヅルの可愛い唇を啄み、ゆっくりと唇を離すとユヅルが寂しそうに私の唇を見つめる。
「ふふっ。続きは部屋に戻ってからだ」
そういうと、ここがツリーハウスだと気づいたのが小さく頷いた。
「さぁ、そろそろ下りようか」
ユヅルを誘導し扉を開けば、地面が遠くに見えて怖くなったのか、ユヅルが怖いと言い出した。
リュカが下で手を伸ばし
「大丈夫ですよ」
と優しく声をかけているが、足がすくんで動かないようだ。
「ユヅル、目を瞑っていろ」
「えっ? は、はい」
何かわからないと言った様子で目を瞑ったユヅルを屈んだまま抱きかかえ、
『そこをどいていろ』
とリュカとジュールに声をかけ、私はそのまま飛び降りた。
スタッと地面に下り立ち、
「ユヅル、もう大丈夫だぞ」
と声をかけると、ユヅルは恐る恐る目を開けた。
「えっ? もしかして、と、びおりた……んですか?」
「ああ、羽のように軽いユヅルなら大したことないよ」
そう笑って見せると、ユヅルが尊敬の眼差しで私を見つめてくれた。
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