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ユヅルがいないと……※
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「――っ!!!」
美しいヴァイオリンの音色に乗って、ユヅルの想いが、感情が流れてくる。
悲しみと喜びとこの上ない幸せと、そして愛に溢れた美しい曲。
もはやこれはエルガーの<愛の挨拶>ではない。
ユヅルの<愛の挨拶>だ。
私はあまりの美しい音色に思わず立ち上がった。
なんという感性を持っているのだろう。
まるでニコラが乗り移ったような……そんな音がする。
初めてアマネを我が家に連れてきたあの日、ニコラが演奏するのをこの特等席から見つめていた。
私の耳に飛び込んできたニコラの音色は、今までのニコラの演奏からは想像もつかないほど私の心を震わせた。
今まで真っ白だった世界が淡く色づいたような……そんな甘く切ない音がしたのだ。
今、私の目の前で美しい音色を奏でるユヅルの周りもキラキラと華やかに色づいている。
これが私への想いか……。
ああ、なんと幸せなのだろう……。
『エヴァンさま……ユヅルさまのあの音色……アマネさまとのお別れで聴いた音色とは随分と違って聞こえますね』
『ああ、私との愛を知ったからな』
『なるほど、それで……。納得がいきました。晩年のニコラさまの音色とよく似ていらっしゃいます』
『そうだな。やはり親子だ。愛を知ると、音が変わる』
『これは才能ですよ。ミシェルのようにこれから真剣に指導を受けられたらユヅルさまも……』
『おそらく、素晴らしい演奏家になるだろうな……』
『では、ニコラさまの音楽学校に――』
『いや、それはない』
『えっ? なぜですか』
『ユヅルの演奏は私だけのものにしたい。ユヅルの愛が他の者を魅了するのは嫌なのだ』
『エヴァンさま……』
『狭量だと言われようが、その想いはどうしようもない。だから悪いが……』
『いいえ、エヴァンさまのお気持ちはお察しします。私もミシェルの演奏を独り占めしたいと思う時がありますから……』
『そうか……お前にそう言ってもらえて安心した』
それ以上セルジュは何も言わず、ただユヅルの演奏に耳を傾けていた。
最後の最後まで、私への愛を伝えてくれるユヅルの音色に酔いしれていた私は演奏が終わってすぐに反応できなかった。
演奏部屋に、はぁっ、はぁっとユヅルの荒い息遣いが響いてはっと我に返った。
私だけでなく、セルジュもミシェルもそして、ジュールも誰も何も言葉を発さないことに一瞬焦った。
ユヅルを勘違いさせるわけにはいかない。
私は考える間も無く、舞台にいるユヅルに駆け寄り、そして強く抱きしめた。
本当にユヅルはどれほど私を喜ばせれば気が済むのだろう。
こんなにもたくさんの愛を惜しげなく伝えてくれるなんて……。
私の腕の中で混乱しているユヅルに
「ユヅルからの愛をあれほど浴びせられて平気でいられるわけがないだろう!」
と訴える。
だから、ユヅルへの反応が遅れてしまったのだと。
決してユヅルの演奏に不満があったわけではないのだと。
必死に想いを伝えたのだ。
「エヴァンさん……僕の気持ち、伝わりましたか?」
嬉しそうにそう尋ねるユヅルに言葉にできないほど伝わったと告げると、まるでイタズラがうまくいったとでもいうようなあどけない笑顔で
「ふふっ。嬉しいっ!」
と私にぎゅっと抱きついてくる。
ああ、ユヅルはどこまで私を翻弄する気なのだろう。
もう今日は手加減できる気がしない。
私はユヅルを抱き上げ、
『今日はこれで終わりだ。ジュール、私たちは寝室に籠る。呼ぶまで絶対に声をかけるな。わかったな?』
と言い放つと、
『承知いたしました』
というジュールの言葉を背に急いで我々の部屋へ向かった。
なぜ3階に作ってしまったのかと悪態を吐きたくなるほど、この道のりがもどかしい。
ようやく辿り着いた部屋に入った途端、私の興奮がピークを迎え我慢できずにユヅルの唇を奪った。
小さくて柔らかくて甘い私だけの唇。
後にも先にも私しか知らないその唇を喰み、一気に口内に侵入して唾液もろとも舌で嬲る。
獰猛な獣になったように口内を貪り、唾液を吸い取る。
ユヅルは私の勢いに恐れをなしたのか、抗うこともなくキスを受け続けた。
ようやく少し気持ちが落ち着いて、ゆっくりと唇を離すとユヅルはぐったりと力が抜けた様子で私に寄りかかってきた。
その姿を見ていると、
「ユヅル、愛してるよ」
心からの言葉が漏れた。
ああ、ユヅル。可愛いユヅル。
どうかあの時の、私を幸せにしたあの言葉をもう一度その唇で紡いでくれないか?
そう願うと、ユヅルは一瞬考えたそぶりを見せたが、ゆっくりと愛情の籠った言葉で
『テュ エ らムール でゅ マ ゔぃ』
と言ってくれた。
あの時より随分発音が上手になったのは、私の発音を覚えていてくれたからだろうか。
そんなことすらも愛おしくて、
『Je ne peux pas vivre sans toi. 』
私の想いと共に、ユヅルを寝室へ連れ込んだ。
美しいヴァイオリンの音色に乗って、ユヅルの想いが、感情が流れてくる。
悲しみと喜びとこの上ない幸せと、そして愛に溢れた美しい曲。
もはやこれはエルガーの<愛の挨拶>ではない。
ユヅルの<愛の挨拶>だ。
私はあまりの美しい音色に思わず立ち上がった。
なんという感性を持っているのだろう。
まるでニコラが乗り移ったような……そんな音がする。
初めてアマネを我が家に連れてきたあの日、ニコラが演奏するのをこの特等席から見つめていた。
私の耳に飛び込んできたニコラの音色は、今までのニコラの演奏からは想像もつかないほど私の心を震わせた。
今まで真っ白だった世界が淡く色づいたような……そんな甘く切ない音がしたのだ。
今、私の目の前で美しい音色を奏でるユヅルの周りもキラキラと華やかに色づいている。
これが私への想いか……。
ああ、なんと幸せなのだろう……。
『エヴァンさま……ユヅルさまのあの音色……アマネさまとのお別れで聴いた音色とは随分と違って聞こえますね』
『ああ、私との愛を知ったからな』
『なるほど、それで……。納得がいきました。晩年のニコラさまの音色とよく似ていらっしゃいます』
『そうだな。やはり親子だ。愛を知ると、音が変わる』
『これは才能ですよ。ミシェルのようにこれから真剣に指導を受けられたらユヅルさまも……』
『おそらく、素晴らしい演奏家になるだろうな……』
『では、ニコラさまの音楽学校に――』
『いや、それはない』
『えっ? なぜですか』
『ユヅルの演奏は私だけのものにしたい。ユヅルの愛が他の者を魅了するのは嫌なのだ』
『エヴァンさま……』
『狭量だと言われようが、その想いはどうしようもない。だから悪いが……』
『いいえ、エヴァンさまのお気持ちはお察しします。私もミシェルの演奏を独り占めしたいと思う時がありますから……』
『そうか……お前にそう言ってもらえて安心した』
それ以上セルジュは何も言わず、ただユヅルの演奏に耳を傾けていた。
最後の最後まで、私への愛を伝えてくれるユヅルの音色に酔いしれていた私は演奏が終わってすぐに反応できなかった。
演奏部屋に、はぁっ、はぁっとユヅルの荒い息遣いが響いてはっと我に返った。
私だけでなく、セルジュもミシェルもそして、ジュールも誰も何も言葉を発さないことに一瞬焦った。
ユヅルを勘違いさせるわけにはいかない。
私は考える間も無く、舞台にいるユヅルに駆け寄り、そして強く抱きしめた。
本当にユヅルはどれほど私を喜ばせれば気が済むのだろう。
こんなにもたくさんの愛を惜しげなく伝えてくれるなんて……。
私の腕の中で混乱しているユヅルに
「ユヅルからの愛をあれほど浴びせられて平気でいられるわけがないだろう!」
と訴える。
だから、ユヅルへの反応が遅れてしまったのだと。
決してユヅルの演奏に不満があったわけではないのだと。
必死に想いを伝えたのだ。
「エヴァンさん……僕の気持ち、伝わりましたか?」
嬉しそうにそう尋ねるユヅルに言葉にできないほど伝わったと告げると、まるでイタズラがうまくいったとでもいうようなあどけない笑顔で
「ふふっ。嬉しいっ!」
と私にぎゅっと抱きついてくる。
ああ、ユヅルはどこまで私を翻弄する気なのだろう。
もう今日は手加減できる気がしない。
私はユヅルを抱き上げ、
『今日はこれで終わりだ。ジュール、私たちは寝室に籠る。呼ぶまで絶対に声をかけるな。わかったな?』
と言い放つと、
『承知いたしました』
というジュールの言葉を背に急いで我々の部屋へ向かった。
なぜ3階に作ってしまったのかと悪態を吐きたくなるほど、この道のりがもどかしい。
ようやく辿り着いた部屋に入った途端、私の興奮がピークを迎え我慢できずにユヅルの唇を奪った。
小さくて柔らかくて甘い私だけの唇。
後にも先にも私しか知らないその唇を喰み、一気に口内に侵入して唾液もろとも舌で嬲る。
獰猛な獣になったように口内を貪り、唾液を吸い取る。
ユヅルは私の勢いに恐れをなしたのか、抗うこともなくキスを受け続けた。
ようやく少し気持ちが落ち着いて、ゆっくりと唇を離すとユヅルはぐったりと力が抜けた様子で私に寄りかかってきた。
その姿を見ていると、
「ユヅル、愛してるよ」
心からの言葉が漏れた。
ああ、ユヅル。可愛いユヅル。
どうかあの時の、私を幸せにしたあの言葉をもう一度その唇で紡いでくれないか?
そう願うと、ユヅルは一瞬考えたそぶりを見せたが、ゆっくりと愛情の籠った言葉で
『テュ エ らムール でゅ マ ゔぃ』
と言ってくれた。
あの時より随分発音が上手になったのは、私の発音を覚えていてくれたからだろうか。
そんなことすらも愛おしくて、
『Je ne peux pas vivre sans toi. 』
私の想いと共に、ユヅルを寝室へ連れ込んだ。
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