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家族の再会
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出来上がった料理を全てベントー箱に詰めていく。
さすが慣れているだけあって詰めるのも上手だ。
すると、ユヅルはもうひとつ小さなベントー箱が欲しいと言い出した。
確かに料理はまだ残っているがどうするのだろうと思っていると、
「お父さんのお墓に供えたくて……。僕のお弁当、お父さんにも食べて欲しいんです」
と少し照れた様子で話してくれた。
ああ、そうだな。
ニコラもきっと息子の作ってくれた料理を食べたかっただろう。
一緒に並べていれば、きっとニコラにもユヅルの思いは届くはずだ。
ユヅルの思いをジュールに伝えると、目を輝かせて喜んでいた。
父親を慕うユヅルの気持ちがジュールも嬉しいのだろうな。
すぐにジュールが用意した小さなベントー箱に料理を詰め、ジュールはそれらを全て大きな籠に積み込んで出かける準備を始めた。
その間に私たちは着替えを済ませ、玄関へ向かった時には全て準備万端整えてジュールが待っていた。
『ジュール、お前も一緒に行くのか?』
『もちろんでございます。エヴァンさまはユヅルさまをお守りくださることだけお考えになってくださいませ。食事やそのほかの荷物は私にお任せください』
『そうか、そうだな。助かるよ』
『それでは参りましょう』
ユヅルを先に後部座席に座らせると、
『エヴァンさま。アマネさまはユヅルさまがお抱きになる方がよろしいかと存じます』
とジュールがアマネのお骨入れを渡してきた。
重くて大変だろうが、やはり肉親であるユヅルが抱きかかえるのが良いだろうな。
ユヅルに抱かせると、ユヅルはアマネとの別れを惜しむようにギュッと胸に抱きかかえていた。
最後だからユヅルの気持ちもよくわかるが、さっきの米で真っ赤になっていた手がさらに赤くなっている気がする。
心配で声をかけたが、ユヅルは私たちとアマネとでドライブしているのが楽しいのだと言ってくれた。
3人でのドライブも最初で最後だと思うと感慨深い。
アマネがいた頃の懐かしい思い出を話しながら、車はあっという間にニコラの眠る墓地庭園へ到着した。
ユヅルが車から降りる間、アマネを抱いていたがここからの道のりはさすがにユヅルには辛いかもしれない。
ニコラの墓に着いたら交代するつもりで私が抱えて行こうかと提案したのだが、ユヅルはどうしても手放したくないとでもいうように、自分に持たせて下さいと頼んできた。
やはりそうした方がいいだろうな。
なんと言っても最後の別れだ。
後悔を残すわけにはいかない。
私はユヅルの気持ちを慮って、アマネを抱きかかえたユヅルを腕に抱くことにした。
これならばユヅルへの負担も減るし、ユヅルの思いも汲むことができる。
まさに一石二鳥だ。
『エヴァンさま。素晴らしいアイディアでございますね。エヴァンさまがお抱きになられた方がよからぬものが近づいて来ませんから』
『そうだろう? ユヅルは可愛いからな。じゃあ、見せつけながら歩くとするか』
可愛いユヅルを抱いたまま、庭園を歩いているとすれ違った老夫婦に、
『C’est un beaucouple』
と声をかけられたが、お似合いだと言われて悪い気はしない。
喜んで礼を言うと、ユヅルはどうしてお礼を言ったのかと尋ねてきた。
美人カップルだと言われたと教えてやると、ユヅルは恥ずかしそうに
「美人ってそれは、エヴァンさんだけでしょう? 僕はただの子どもで……」
と言っているが、やはりユヅルは自分の可愛さをわかっていない。
ロレーヌ家総帥である私が抱いていて目立っているということを差し引いても、庭園にいるもの全ての視線の先にはユヅルしかいない。
それほどユヅルの可愛さに皆目を奪われているのだ。
ユヅルが其方に目を向けようとするのを制し、
「ユヅル、ダメだ。そんなにじっとみては。相手に期待を持たせてしまうだろう? ユヅルは私だけのものなのだからな」
と髪にキスを贈ると、周りから口笛が飛んでくる。
その口笛にユヅルは顔を赤らめるが、こんな可愛い顔を他の者になど見せるなんて勿体無い。
ユヅルの可愛い顔を見るのは私だけでいいんだ。
私はユヅルの可愛らしい顔を自分の胸元に隠し、ニコラの墓へと急いだ。
到着したニコラの墓には相変わらず綺麗な花が供えられている。
ニコラが亡くなって20年近く経った今でもこの花は絶えることは無い。
これは全てニコラのヴァイオリンを今でも愛してくれる者たちのおかげだ。
ここにアマネを連れてくることができたことをきっとニコラは喜んでくれていることだろう。
ジュールに声をかけ、アマネを埋葬するとユヅルはようやく安堵の表情を浮かべた。
「これでようやく2人は一緒になれたな」
そういうと、ユヅルは少し悲しげな顔をしていた。
アマネとの別れが辛いのかと思っていたが、
「あのヴァイオリン……ここに持ってきたらよかったかなって……。母さんがお父さんのヴァイオリンを大切にしてたって見せられたし、それに……お父さんに演奏を聞いてもらいたかったなって」
と言ってくれたのだ。
まさかユヅルの方からそう言ってくれるとは思わなかった。
もしかしたらユヅルが弾きたいと言い出すかもしれない、もし言い出さなくてもニコラに演奏を聴かせてあげてくれないか?
そう頼むつもりで実は持って来ていたのだ。
ニコラがアマネに託し、アマネが大切に守ってくれていたストラディヴァリウスを見せながら、
「ユヅル、ここで演奏してくれるか? ニコラとアマネとそして、私たちに聞かせてほしい」
と頼むと、ユヅルは少し目を潤ませながらストラディヴァリウスを受け取ってくれた。
さすが慣れているだけあって詰めるのも上手だ。
すると、ユヅルはもうひとつ小さなベントー箱が欲しいと言い出した。
確かに料理はまだ残っているがどうするのだろうと思っていると、
「お父さんのお墓に供えたくて……。僕のお弁当、お父さんにも食べて欲しいんです」
と少し照れた様子で話してくれた。
ああ、そうだな。
ニコラもきっと息子の作ってくれた料理を食べたかっただろう。
一緒に並べていれば、きっとニコラにもユヅルの思いは届くはずだ。
ユヅルの思いをジュールに伝えると、目を輝かせて喜んでいた。
父親を慕うユヅルの気持ちがジュールも嬉しいのだろうな。
すぐにジュールが用意した小さなベントー箱に料理を詰め、ジュールはそれらを全て大きな籠に積み込んで出かける準備を始めた。
その間に私たちは着替えを済ませ、玄関へ向かった時には全て準備万端整えてジュールが待っていた。
『ジュール、お前も一緒に行くのか?』
『もちろんでございます。エヴァンさまはユヅルさまをお守りくださることだけお考えになってくださいませ。食事やそのほかの荷物は私にお任せください』
『そうか、そうだな。助かるよ』
『それでは参りましょう』
ユヅルを先に後部座席に座らせると、
『エヴァンさま。アマネさまはユヅルさまがお抱きになる方がよろしいかと存じます』
とジュールがアマネのお骨入れを渡してきた。
重くて大変だろうが、やはり肉親であるユヅルが抱きかかえるのが良いだろうな。
ユヅルに抱かせると、ユヅルはアマネとの別れを惜しむようにギュッと胸に抱きかかえていた。
最後だからユヅルの気持ちもよくわかるが、さっきの米で真っ赤になっていた手がさらに赤くなっている気がする。
心配で声をかけたが、ユヅルは私たちとアマネとでドライブしているのが楽しいのだと言ってくれた。
3人でのドライブも最初で最後だと思うと感慨深い。
アマネがいた頃の懐かしい思い出を話しながら、車はあっという間にニコラの眠る墓地庭園へ到着した。
ユヅルが車から降りる間、アマネを抱いていたがここからの道のりはさすがにユヅルには辛いかもしれない。
ニコラの墓に着いたら交代するつもりで私が抱えて行こうかと提案したのだが、ユヅルはどうしても手放したくないとでもいうように、自分に持たせて下さいと頼んできた。
やはりそうした方がいいだろうな。
なんと言っても最後の別れだ。
後悔を残すわけにはいかない。
私はユヅルの気持ちを慮って、アマネを抱きかかえたユヅルを腕に抱くことにした。
これならばユヅルへの負担も減るし、ユヅルの思いも汲むことができる。
まさに一石二鳥だ。
『エヴァンさま。素晴らしいアイディアでございますね。エヴァンさまがお抱きになられた方がよからぬものが近づいて来ませんから』
『そうだろう? ユヅルは可愛いからな。じゃあ、見せつけながら歩くとするか』
可愛いユヅルを抱いたまま、庭園を歩いているとすれ違った老夫婦に、
『C’est un beaucouple』
と声をかけられたが、お似合いだと言われて悪い気はしない。
喜んで礼を言うと、ユヅルはどうしてお礼を言ったのかと尋ねてきた。
美人カップルだと言われたと教えてやると、ユヅルは恥ずかしそうに
「美人ってそれは、エヴァンさんだけでしょう? 僕はただの子どもで……」
と言っているが、やはりユヅルは自分の可愛さをわかっていない。
ロレーヌ家総帥である私が抱いていて目立っているということを差し引いても、庭園にいるもの全ての視線の先にはユヅルしかいない。
それほどユヅルの可愛さに皆目を奪われているのだ。
ユヅルが其方に目を向けようとするのを制し、
「ユヅル、ダメだ。そんなにじっとみては。相手に期待を持たせてしまうだろう? ユヅルは私だけのものなのだからな」
と髪にキスを贈ると、周りから口笛が飛んでくる。
その口笛にユヅルは顔を赤らめるが、こんな可愛い顔を他の者になど見せるなんて勿体無い。
ユヅルの可愛い顔を見るのは私だけでいいんだ。
私はユヅルの可愛らしい顔を自分の胸元に隠し、ニコラの墓へと急いだ。
到着したニコラの墓には相変わらず綺麗な花が供えられている。
ニコラが亡くなって20年近く経った今でもこの花は絶えることは無い。
これは全てニコラのヴァイオリンを今でも愛してくれる者たちのおかげだ。
ここにアマネを連れてくることができたことをきっとニコラは喜んでくれていることだろう。
ジュールに声をかけ、アマネを埋葬するとユヅルはようやく安堵の表情を浮かべた。
「これでようやく2人は一緒になれたな」
そういうと、ユヅルは少し悲しげな顔をしていた。
アマネとの別れが辛いのかと思っていたが、
「あのヴァイオリン……ここに持ってきたらよかったかなって……。母さんがお父さんのヴァイオリンを大切にしてたって見せられたし、それに……お父さんに演奏を聞いてもらいたかったなって」
と言ってくれたのだ。
まさかユヅルの方からそう言ってくれるとは思わなかった。
もしかしたらユヅルが弾きたいと言い出すかもしれない、もし言い出さなくてもニコラに演奏を聴かせてあげてくれないか?
そう頼むつもりで実は持って来ていたのだ。
ニコラがアマネに託し、アマネが大切に守ってくれていたストラディヴァリウスを見せながら、
「ユヅル、ここで演奏してくれるか? ニコラとアマネとそして、私たちに聞かせてほしい」
と頼むと、ユヅルは少し目を潤ませながらストラディヴァリウスを受け取ってくれた。
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