大富豪ロレーヌ総帥の初恋

波木真帆

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ユヅルのおねだり

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周りを砂糖でコーティングされたこの菓子は私には甘すぎるが、ユヅルが美味しそうに食べているのを見るのはなんとも楽しい。

私だけでなく、菓子を持ってきたミシェルはもちろん、セルジュもそしてジュールもユヅルの嬉しそうな笑顔にすっかり魅了されているようだ。

この子が私の大事な子なのだと誇りに思うと同時に、この可愛らしい顔を独占したくなる。
なんとも複雑な心境だ。

あまりもみんなで見つめていると、ユヅルもその視線が気になったのか恥ずかしそうにミシェルにも菓子を食べるように
勧める。
ミシェルが自分の持ってきた菓子を食べようとするとすかさずセルジュが、日本から持ってきたあのケーキを差し出した。

ミシェルは目を輝かせて喜び、セルジュに抱きつき笑顔でキスを贈った。
ユヅルは目の前で人がキスするところを初めて目撃したからか、顔を真っ赤にして見ていた。
その姿があまりにも可愛くてギュッと腰を抱き寄せて寄り添うと、

「あの……フランスでは、こうやって……き、キスで喜びとか表すのが常識なんですか?」

と尋ねられた。

この質問の返答はかなり重要だ。
なんと言っても、これでユヅルからキスをもらえるかどうかが決まるのだからな。

私は平静を装いながら

「嬉しい時や幸せなときにこうやって抱きしめたり、セルジュたちのようにキスしたりというのは恋人なら当然のことだよ。これは家の中だけじゃなく、外でも同じだ」

と話すと、ユヅルは大きな目をさらに丸くして驚いていた。
よし、もうひと押しだ!

「ここは日本じゃないんだ。しないと恋人じゃないと誤解されるだけだ。だからユヅルも嬉しい時や幸せな時、それだけじゃなくてどんな時でも私たちが恋人だと思われるように愛情表現してくれ」

そう熱心に言葉を続けると、ユヅルは

「わかりました! がんばります!」

と力強く言ってくれた。
よし、これでユヅルに少々激し目に愛情表現をしても嫌がられることはなさそうだ。

自分の作戦がうまくいったとほくそ笑んでいると、何やら視線を感じる。
見ればセルジュがこちらを向いている。
怪しげな笑みを浮かべているのを見ると、どうもさっきの会話を聞かれていたらしい。

別に悪いことをしていたわけではないが、少しばつが悪い。
だが、愛する恋人と愛情表現をどこでもできるかという大事な問題なのだ。
これくらいしてもバチは当たらないだろう。

ユヅルがミシェルとの会話を楽しみながら菓子を食べ終えたのを見て、私はそろそろ部屋に案内することにした。

ユヅルは私の部屋かと聞いてきたから、私たち・・・の部屋だと念押しをしてやると一気に顔を赤らめた。
どうやらユヅルも意識してくれているようだ。

ふふっ。実に可愛らしい。

ユヅルにちょっと待つように言って頬にキスを贈り、ジュールの元へ向かった。
ユヅルがフランス語がわからないとわかっていても、なんとなく聞かれるのは恥ずかしいと思ってしまった。

『ジュール、そろそろユヅルを部屋に案内しようと思うが、部屋の準備は整っているか?』

『はい。問題ございません』

『寝室は特に準備に抜かりはないか?』

『はい。遺漏なく準備整えてございます』

『寝室に入ったら、私が呼ぶまで入ってきてはならぬぞ』

『承知いたしました』

ようやく待ち望んだユヅルとの初夜なのだ。
誰にも邪魔などさせない。

ジュールとの話を終え、ユヅルの元へ戻ると何やらミシェルたちと話が盛り上がっているようだ。

何事だと話を聞いてみれば、これから出張の際にはミシェルも同行したいと言い出したらしい。
どうしてそのような話になったのかと聞けば、私がユヅルを出張に同行させるから、ミシェルと留守番をすることにはならないとセルジュが言ったようだ。

確かにそうだな。
ユヅルをこの家に残し、今回のような長期出張に行くのはありえないと言っていいだろう。

ユヅルが心配なのもそうだが、何より私がユヅルと離れることが耐えられないからだ。

ユヅルにそう教えてやると、ユヅルは満面の笑みを見せながら

「僕……早くエヴァンさんの役に立てるように勉強しますね!!」

と言ってくれた。

ああ、私の狭量な心に呆れることもなく、そんな可愛いことを言ってくれるとは……。

私のユヅルは本当に愛おしい。

フランス語で言い合いを続けているセルジュとミシェルを窘めると、2人は興奮してユヅルのわからない言葉で話をしていたことを詫びたが、ユヅルは逆に気を遣わせて悪いと謝り、そして、自分が早くフランス語を覚えて我々と話をできるようになると言ってくれた。

ミシェルはそんなユヅルのひたむきさに感動したのか、またユヅルを強く抱きしめた。
一度ならず2度までも……流石に許しがたい。

すぐにミシェルからユヅルを引き離し、

「ミシェル、ユヅルが可愛いのはわかるが、ユヅルに触れていいのは私だけだ」

と窘めると流石に私の本気に気づいたのか、大人しく納得してくれたようだ。
スッとセルジュに視線を向けると、本気で謝罪する目をしていたからまぁ、許してやるとしよう。

そのままユヅルを抱きかかえて、自室へと向かう。

気に入ってくれるか心配だったが部屋に入った瞬間、ユヅルは嬉しそうに声をあげていた。
特に窓から見えるセーヌ川の美しさを気に入ってくれたようだな。
この景色は幼少の頃から私もお気に入りだった。
同じものを気にいるとはやはり私たちは心から繋がっているようだ。

リビングを一通り見せた後で他の部屋も案内するというと、ユヅルは驚いていたが部屋ごとに風呂やキッチンなどもあるのは当然だろう。

全てを案内すると喜んでくれていると思ったユヅルが不思議そうな表情で見つめている。

一体どうしたのだろう?

気になって問い掛ければ、こんなに広い部屋に住んでいたならあの日本での部屋は不便だったのではと気に病んでいたようだ。

確かに私が今までに暮らしたことのないほど狭く小さな家だったが、そんなのは大した問題ではない。
今までユヅルが成長してきた思い出の部屋でユヅルのものに包まれながら生活するのがどれだけ幸せだったか……。
本当に今まで生きてきた中で至福の時間と言っていいほど、何物にも変え難い時間だった。

「あの家でユヅルと過ごせた日々を宝物だと思っているんだ。私はあの家で過ごした日々を一生忘れることはないだろう」

そういうと、ユヅルは嬉しそうに顔を綻ばせ涙を潤ませた。

その美しい微笑みに吸い寄せられるように顔を近づけると、ユヅルの大きな瞳がそっと瞑られた。

ユヅルが私とのキスを望んでくれていることが嬉しくて、ゆっくり唇を重ね合わせた。
ほんの少し重ねるだけのつもりだったが、ユヅルの腕が私の首に回ったのが私の興奮のスイッチを押したようで止まらなくなり、気づけばユヅルの小さな唇も、そして、ユヅルの甘い口内も貪ってしまっていた。

こんなに早急にする予定ではなかったのだが、つい興奮してしまった。
ゆっくりと唇を離すと、ユヅルの方から強く抱きついてくる。

こんなことをされたらもう我慢もできなくなってしまう。
そう思っていると、

「エヴァンさん……僕……エヴァンさんと、最後までしたい……」

とねだってくる。

まさかユヅルから誘ってくれるとは思っても見なかった。

こんな可愛いおねだりにもう我慢などできるわけもない。
嫌だと言っても止められないと言った私に、

「あの、でも……優しく、してください……」

恥じらいながらも言ってくるユヅルに、一気に愚息が昂ってしまう。
ユヅルの無自覚な煽りにもはや勝てるわけもなく、私は急いでユヅルを寝室へと連れ込んだ。
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