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楽しい日々のはじまり
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長いと思っていた空の旅もユヅルが一緒だと驚くほど早く感じた。
普段なら見ようとも思わない映画も、ただの栄養補給だった食事も、見慣れすぎた景色も、ユヅルと一緒なら全てが輝いて見えた。
ユヅルが隣にいてくれるだけで、私の変哲もない日常が幸せに変わるのだ。
もうユヅルのいない時間をどうやって過ごしていたのかさえ、思い出せない。
だが、思い出せなくてもいい。
どうせこれからひとりで過ごすことなどなくなるのだから……。
飛行機が着陸態勢に入り、ユヅルは嬉しそうに窓の外の景色に目を向けている。
フランスでの生活が待ちきれないと喜びを表すユヅルの姿に私もまた嬉しくなる。
ああ、これから楽しい日々の始まりだ!
無事に空港へと到着し、シートベルトを外そうとしたところで、突然
「Ça alors !」
とセルジュの尋常ではない大声が機内に響き渡った。
いつも冷静でどんなことにも動じないセルジュがこんなにも大声をあげるなんて、何かとんでもないことが起こったに違いない。
慌ててセルジュの元に駆け寄り、話を聞けばどうやらミシェルが空港へ向かうと連絡してきたようだ。
すでに到着ゲートで待っているらしいと話すセルジュの表情は苦悶に満ちていた。
運転手付きの車で空港まで来たとはいえ、到着ゲートでは一人で待っているはずだ。
あのミシェルが一人で空港で立っていれば、邪な思いを持った奴らが近づいてくるのは容易に想像できる。
ユヅルと出会う前の私でも、ミシェルが一人で空港まで来たと聞けば心配はしただろうが、おそらく今のセルジュの心配する気持ちの半分も理解できていなかったかもしれない。
だが、今の私は愛しい恋人を持つ身。
もし、これがユヅルなら……。
私は発狂してしまうかもしれない。
セルジュの今の姿でさえ、まだ理性的だと感心するだろう。
だからこそ、セルジュは早くミシェルの元に行けるようにしてやらなければ!
荷物や私たちのことは気にせず、すぐに到着ゲートに向え!
そう送り出してやると、申し訳なさそうにしながらも扉が開くと同時に駆け出していった。
それでいい。
恋人の方を何よりも優先して当然なのだからな。
セルジュのただならぬ様子を心配していたユヅルにことのあらましを告げると、ユヅルもまたミシェルの行動力に驚いているようだった。
荷物はスタッフに任せて、私たちも急いで到着ゲートへと向かうことにした。
向かっている最中にセルジュから無事にミシェルと合流したと連絡があってホッとした。
こんなことがもう2度と起こってはならないが、もしものために早くアヤシロが紹介してくれたGPSアプリをミシェルのスマホに入れておく必要があるな。
本当にいいアプリを教えてもらったものだ。
あのあと、こっそりとユヅルのスマホに早速GPSアプリを入れておいたのだが、あの高性能さに驚いた。
大体の場所までしかわからないGPSアプリと違って、どの部屋のどこにスマホがあるのかまでもわかる。
しかも、スマホの電源を切っていたとして、そのスマホがある場所はわかると言うのだから本当に優れものだ。
ユヅルには必ずスマホは持ち歩かせるようにして、スマホを忘れて出かけた時のためのGPSを別に身につけさせておくことにしよう。
ピアスか、指輪か、ネックレスか……ああ、アンクレットという手もあるな。
お守りだから絶対に外すなといえば、真面目なユヅルのことだ
決して外しはしないだろう。
ミシェルと待っているというゲートに向かうと、二人の姿が見えない。
ユヅルと二人で辺りを見渡していると、
「ユヅルーーっ!!!」
と大きな声を張り上げ、手を大きく振っているミシェルの姿と隣で必死に止めようとしているセルジュの姿が見えた。
ミシェルのその声に、空港にいるものたちからの視線がユヅルに一斉に注がれるのを感じ、私は思いっきり威圧感を漂わせながら、ユヅルの手を繋ぎ、できるだけ寄り添ってセルジュたちの元へ急いだ。
威圧感たっぷりの私の様子を見て、恐れをなしたのか深々と頭を下げるセルジュの隣で、ミシェルもまた、少し辿々しい日本語で謝罪の言葉を述べる。
別に威圧感はセルジュたちに浴びせているわけではないのだが……。
「あの、謝ることないですよ。僕、ミシェルさんにこんなに早く会えてとっても嬉しいです」
ユヅルは申し訳なさそうに謝るミシェルに向かって、こんなに可愛らしい言葉をかけた。
こんなに優しい言葉をかけてくるとは思っていなかったのだろう。
ミシェルは驚いて、ユヅルを見つめているとユヅルはさっきの言葉をミシェルが理解できなかったのかと勘違いして、必死にミシェルに伝えようと言葉を探す。
その姿に、ミシェルは感動したようで突然ユヅルに
「ユヅルっ! 可愛いっ!!」
と言いながらギュッと抱きついたので、慌ててミシェルからユヅルを引き離した。
本当に油断も隙もあったものじゃない。
言っておくがユヅルは私のものだ。
触れていいのも抱きついていいのも私だけだ!
それだけはしっかりと理解してもらわないとな。
普段なら見ようとも思わない映画も、ただの栄養補給だった食事も、見慣れすぎた景色も、ユヅルと一緒なら全てが輝いて見えた。
ユヅルが隣にいてくれるだけで、私の変哲もない日常が幸せに変わるのだ。
もうユヅルのいない時間をどうやって過ごしていたのかさえ、思い出せない。
だが、思い出せなくてもいい。
どうせこれからひとりで過ごすことなどなくなるのだから……。
飛行機が着陸態勢に入り、ユヅルは嬉しそうに窓の外の景色に目を向けている。
フランスでの生活が待ちきれないと喜びを表すユヅルの姿に私もまた嬉しくなる。
ああ、これから楽しい日々の始まりだ!
無事に空港へと到着し、シートベルトを外そうとしたところで、突然
「Ça alors !」
とセルジュの尋常ではない大声が機内に響き渡った。
いつも冷静でどんなことにも動じないセルジュがこんなにも大声をあげるなんて、何かとんでもないことが起こったに違いない。
慌ててセルジュの元に駆け寄り、話を聞けばどうやらミシェルが空港へ向かうと連絡してきたようだ。
すでに到着ゲートで待っているらしいと話すセルジュの表情は苦悶に満ちていた。
運転手付きの車で空港まで来たとはいえ、到着ゲートでは一人で待っているはずだ。
あのミシェルが一人で空港で立っていれば、邪な思いを持った奴らが近づいてくるのは容易に想像できる。
ユヅルと出会う前の私でも、ミシェルが一人で空港まで来たと聞けば心配はしただろうが、おそらく今のセルジュの心配する気持ちの半分も理解できていなかったかもしれない。
だが、今の私は愛しい恋人を持つ身。
もし、これがユヅルなら……。
私は発狂してしまうかもしれない。
セルジュの今の姿でさえ、まだ理性的だと感心するだろう。
だからこそ、セルジュは早くミシェルの元に行けるようにしてやらなければ!
荷物や私たちのことは気にせず、すぐに到着ゲートに向え!
そう送り出してやると、申し訳なさそうにしながらも扉が開くと同時に駆け出していった。
それでいい。
恋人の方を何よりも優先して当然なのだからな。
セルジュのただならぬ様子を心配していたユヅルにことのあらましを告げると、ユヅルもまたミシェルの行動力に驚いているようだった。
荷物はスタッフに任せて、私たちも急いで到着ゲートへと向かうことにした。
向かっている最中にセルジュから無事にミシェルと合流したと連絡があってホッとした。
こんなことがもう2度と起こってはならないが、もしものために早くアヤシロが紹介してくれたGPSアプリをミシェルのスマホに入れておく必要があるな。
本当にいいアプリを教えてもらったものだ。
あのあと、こっそりとユヅルのスマホに早速GPSアプリを入れておいたのだが、あの高性能さに驚いた。
大体の場所までしかわからないGPSアプリと違って、どの部屋のどこにスマホがあるのかまでもわかる。
しかも、スマホの電源を切っていたとして、そのスマホがある場所はわかると言うのだから本当に優れものだ。
ユヅルには必ずスマホは持ち歩かせるようにして、スマホを忘れて出かけた時のためのGPSを別に身につけさせておくことにしよう。
ピアスか、指輪か、ネックレスか……ああ、アンクレットという手もあるな。
お守りだから絶対に外すなといえば、真面目なユヅルのことだ
決して外しはしないだろう。
ミシェルと待っているというゲートに向かうと、二人の姿が見えない。
ユヅルと二人で辺りを見渡していると、
「ユヅルーーっ!!!」
と大きな声を張り上げ、手を大きく振っているミシェルの姿と隣で必死に止めようとしているセルジュの姿が見えた。
ミシェルのその声に、空港にいるものたちからの視線がユヅルに一斉に注がれるのを感じ、私は思いっきり威圧感を漂わせながら、ユヅルの手を繋ぎ、できるだけ寄り添ってセルジュたちの元へ急いだ。
威圧感たっぷりの私の様子を見て、恐れをなしたのか深々と頭を下げるセルジュの隣で、ミシェルもまた、少し辿々しい日本語で謝罪の言葉を述べる。
別に威圧感はセルジュたちに浴びせているわけではないのだが……。
「あの、謝ることないですよ。僕、ミシェルさんにこんなに早く会えてとっても嬉しいです」
ユヅルは申し訳なさそうに謝るミシェルに向かって、こんなに可愛らしい言葉をかけた。
こんなに優しい言葉をかけてくるとは思っていなかったのだろう。
ミシェルは驚いて、ユヅルを見つめているとユヅルはさっきの言葉をミシェルが理解できなかったのかと勘違いして、必死にミシェルに伝えようと言葉を探す。
その姿に、ミシェルは感動したようで突然ユヅルに
「ユヅルっ! 可愛いっ!!」
と言いながらギュッと抱きついたので、慌ててミシェルからユヅルを引き離した。
本当に油断も隙もあったものじゃない。
言っておくがユヅルは私のものだ。
触れていいのも抱きついていいのも私だけだ!
それだけはしっかりと理解してもらわないとな。
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