上 下
21 / 163

偶然は必然

しおりを挟む
「それにしてもやけに話が盛り上がっているみたいだな」

「ああ、佳都は弓弦くんが気に入ったみたいだ」

「アヤシロのうさぎが私の可愛いうさぎとこんなにも似たタイプだとは思わなかったな」

今までのアヤシロのイメージなら、男女はともかくもっと年の近い大人なタイプを選ぶと思っていた。
だが、ケイトくんと一緒のところを見るとアヤシロの表情が今までにみたことがないほど柔らかく、心から気を許しているのがわかる。

そんなふうに本当の自分をさらけ出せる恋人を求めていたのだろう。
そう考えれば本当にあの可愛らしい彼はアヤシロの理想通りの恋人だといえよう。

まぁ、同じことを私もセルジュに思われているのだろうな。

ユヅルは、私が今までに相手にしたこともないような幼い存在なのに、ユヅルだけは出会った時から違っていた。
年齢とか性別とか何もかも関係なく、私を癒してくれるユヅルが私の特別だったのだ。

私とアヤシロ、どちらも同じようなタイプを一生のパートナーとして選んだのは、私たち自身が似ているということなのかもしれないな。

「ああ、それは俺も思ってた。それに最近こういうことが続いていて、驚いてるんだ」

「そうなのか?」

「ああ、前に話したことがある俺の親友たちを覚えているか?」

「ああ。もちろん! avocat弁護士docteur医者の彼らだろう?」

「そうそう。あの二人も最近揃って恋人ができたんだが、弓弦くんと同じ18歳の男の子なんだよ」

「――っ! 本当か?」

「ああ、驚くだろう?」

「それは……確かに驚くな……」

「あいつらも俺たちと同じように人に関心がなくて、心から愛する人に出会ったことがなかったんだ。だが、俺が佳都に出会ってからその繋がりであいつらも立て続けに一生のパートナーに出会えて、そして、ロレーヌも……なんて。偶然にしちゃ出来すぎてるだろう?」

確かにそうだ。
私とユヅルが出会えたのも偶然が重なったようなものだ。
とはいえ、偶然も重なれば必然となる。
私とユヅルはいろいろなことを乗り越えて、あの時ようやく出会ったのだ。
とすれば、あの出会いは決して偶然ではない。

私とユヅルが出会うようにしてくれたのだ。
そうとしか考えられない。

「我々が同じように幸せになれるようにどこかで繋がっていたんだろうな。だから、きっとavocat弁護士の彼とその恋人もdocteur医者の彼とその恋人も、出会ったのは必然だよ」

「ははっ。必然か……そうかもな」

幸せの連鎖が幸運をもたらしたな。
そんなことを思っていると、

「僕も絶対遊びに行くよ!! わぁーい、楽しみだな」

という、ケイトくんの声が耳に入ってきた。

その声に誘われるように、ユヅルに声をかけると、どうやらフランスに遊びにきてくれるという約束をしたのだという。

そうか、ケイトくんがフランスに来る。
ということはアヤシロも一緒だろうな。

そう確信しながら尋ねると、当然のように一緒について行くと話しながら、先日の二人の新婚旅行の話題を出してきた。

アヤシロとケイトくんがフランスを含めたヨーロッパに新婚旅行に向かっていた時、私はちょうどアメリカに行っていた。
そもそもの予定では、アヤシロと打ち合わせを終えてからアメリカへ行く予定だったが、アヤシロがその期間、この新婚旅行に向かうと連絡があったから、予定を変更して先にアメリカに行ったのだ。

考えてみれば、もし、アヤシロたちがこの期間に新婚旅行に行っていなければ、当初の予定なら今頃はアメリカにいたはずなのだ。

もし、アメリカにいればユヅルのあの助けを求めてきた電話にすぐに対応できたかどうか……。
もし、すぐに電話を取れたとしてもユヅルの元に駆けつけるまでにどれほど待たせてしまったか……。

あの時、ユヅルをあの部屋に一人で過ごさせていたらきっとユヅルは不安と悲しみに押しつぶされて辛い夜を過ごしていたに違いない。

やはり私とユヅルの出会いは偶然ではなく、必然だったのだ。

アヤシロがケイトくんと出会ったのも、私たちを出会わせるための布石だったのかもしれないとさえ思えてくる。

そう話すと、アヤシロは満更でもなさそうな笑みを浮かべながら珍しくご褒美をねだってきた。
私ほどでないとはいえ、日本でも富裕層の部類に入るだろうアヤシロが私にそんなことを頼んでくるとは一体何が欲しいのか?

それでも友人の頼みは聞いてあげねばならない。
それが大切な友人ならばなおのことだ。

何が欲しいのかと尋ねた私に、アヤシロがねだってきたのは

「近いうちにフランス行くから、あのホテル・・・・・に宿泊させてくれないか?」

というあまりにも簡単すぎる願いだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

処理中です...