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アヤシロの助言
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「ロレーヌ、今日はワインでいいか? ここの料理に合ういいワインが手に入ったから持ち込んだんだ」
「それは素晴らしいな。楽しみだよ」
アヤシロのワインを見る目は本物だ。
アヤシロの選ぶワインは値段ではなく、その日の料理にぴったり合ったものを選んでくれる。
だから、値段を聞けば驚くほど安いこともあるし、料理に合わせるのでなくワインそのものを味わいたいときには、それこそ数百万するようなワインを出してくれることもある。
アヤシロとってワインの値段などあってないようなものだ。
ここの料理は絶品だが、アヤシロのワインと合わせればそれは数百倍も美味しく感じられることだろう。
いつかユヅルともその味を分かち合う日が来るといいのだが。
そう思っていたが、アヤシロの可愛いうさぎはどうやらユヅルと同じくジュースにするようだ。
もしかしたらひとりでジュースを飲むユヅルを気遣ってくれたのだろうか。
それなら申し訳ないことをしてしまったな。
「アヤシロ、君の可愛いうさぎはジュースでいいのか?」
「ああ、ありがとう。気にしてくれたんだな。だけど、佳都はいいんだ。外で酒は呑ませないことにしてるから」
「えっ? なぜだ?」
「前に俺の家族と妹の彼氏と食事をしたことがあったんだが、妹の彼氏に酔っ払って佳都の方から抱きついてたんだ。まぁ、そこはまだ許せるんだが、可愛らしく煽ってきたり、人前で服を脱ごうとしたり、キスを強請ってきたり……私がいる前でもかなり危険だからな。二人っきりの時以外は禁止にしたんだよ」
「なるほど……それは禁止にして正解だ」
「だろう? 気をつけた方がいいぞ、ロレーヌのうさぎちゃんもきっと佳都とよく似てるはずだ。だから、初めて酒を呑ませる時は二人っきりの時にしてちゃんと確認しておいた方がいい」
「わかった。それは肝に銘じておこう。アヤシロに聞いておいてよかったな」
「まぁなんでも聞いてくれ。佳都とユヅルくん、二人の様子を見ていると大体系統が似ているから俺の意見はかなり参考になると思うぞ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、ワイングラスを差し出してきた。
その隣ではユヅルとケイトくんがもう二人で楽しそうに会話を始めている。
ならば、今日はケイトくんにユヅルを預けてアヤシロと大人の話題で盛り上がるとするか。
私はワイングラスを掲げ、ワインを味わった。
芳醇な葡萄の香りが鼻を抜けていく。
「ああ、このワイン。最高だな」
「だろう? この料理も一緒に食べてみてくれ」
誘われるままに料理を口にすると、先ほどのワインが料理を引き立てる。
「ああ、この組み合わせはまさにマリアージュだな」
「ふふっ。さすがロレーヌ、わかってくれて嬉しいよ」
「東京での最後の夜、アヤシロと食事ができてよかったよ」
「そう言ってくれると誘った甲斐があるな。ところで、ロレーヌ。彼はまだ高校生だったんだろう? 卒業まであと半年くらいなのに、フランスに連れ帰ってよかったのか?」
アヤシロの真剣な表情に本気でユヅルを心配してくれているのがありありとわかる。
本当にありがたいことだ。
「ああ、心配してくれてありがとう。だが、ユヅルはあの町にはそこまで思い入れもないようだったから心機一転フランスで過ごすのもいいと思ったんだ」
「そうなのか? それでも生まれてからずっと暮らしていた町だろう? それを全部捨ててフランスに旅立つのは高校生にしては並大抵の決断じゃないぞ」
「そうだろうな。だが、ユヅルはずっとあの町で余所者扱いされていたみたいだからな」
「余所者扱い? なんで? あっ、もしかしてあの、見た目か?」
私が頷くと綾城は、はぁーっと大きなため息を吐いた。
「そうか……弓弦くん、嫌な思いをしたんだな……。弓弦くんがいたような小さな町はよく言えば一体感があるのだろうが、悪く言えば余所者を受け入れない排他的なところがあるからな。それでもお母さんがいる間は必死で我慢していたんだろう。ロレーヌが来てくれたことで救われたんじゃないか」
「そう思うか?」
「ああ、見た目もよく似ているだろう? 自分に似た人が自分を守ってくれるのは安心したと思うぞ」
アヤシロの言葉が突き刺さる。
そうか……。
ユヅルと初めてあった時、私をみても怖がらなかったのは自分によく似た私に安心感を持ってくれたからかもしれないな。
「フランスは良くも悪くも人を尊重するから、あの町よりは弓弦くんはのびのびと過ごせるんじゃないか」
「ああ、そうだな。言葉がわからないことだけが不安だと言っていたから、当分は家で好きに過ごさせるつもりだよ。今まで窮屈だったろうからな」
「それはいいな。ロレーヌがつきっきりで教えたら若い子だからすぐに言葉も覚えるだろうしな。だが、甘い言葉ばかり教えるなよ。弓弦くんが喋ったらすぐに変なのが寄ってくるぞ」
「ああ、わかってるよ。セルジュにも注意されてるからな」
セルジュといい、アヤシロといい、私をなんだと思っているんだろうな。本当に。
「それは素晴らしいな。楽しみだよ」
アヤシロのワインを見る目は本物だ。
アヤシロの選ぶワインは値段ではなく、その日の料理にぴったり合ったものを選んでくれる。
だから、値段を聞けば驚くほど安いこともあるし、料理に合わせるのでなくワインそのものを味わいたいときには、それこそ数百万するようなワインを出してくれることもある。
アヤシロとってワインの値段などあってないようなものだ。
ここの料理は絶品だが、アヤシロのワインと合わせればそれは数百倍も美味しく感じられることだろう。
いつかユヅルともその味を分かち合う日が来るといいのだが。
そう思っていたが、アヤシロの可愛いうさぎはどうやらユヅルと同じくジュースにするようだ。
もしかしたらひとりでジュースを飲むユヅルを気遣ってくれたのだろうか。
それなら申し訳ないことをしてしまったな。
「アヤシロ、君の可愛いうさぎはジュースでいいのか?」
「ああ、ありがとう。気にしてくれたんだな。だけど、佳都はいいんだ。外で酒は呑ませないことにしてるから」
「えっ? なぜだ?」
「前に俺の家族と妹の彼氏と食事をしたことがあったんだが、妹の彼氏に酔っ払って佳都の方から抱きついてたんだ。まぁ、そこはまだ許せるんだが、可愛らしく煽ってきたり、人前で服を脱ごうとしたり、キスを強請ってきたり……私がいる前でもかなり危険だからな。二人っきりの時以外は禁止にしたんだよ」
「なるほど……それは禁止にして正解だ」
「だろう? 気をつけた方がいいぞ、ロレーヌのうさぎちゃんもきっと佳都とよく似てるはずだ。だから、初めて酒を呑ませる時は二人っきりの時にしてちゃんと確認しておいた方がいい」
「わかった。それは肝に銘じておこう。アヤシロに聞いておいてよかったな」
「まぁなんでも聞いてくれ。佳都とユヅルくん、二人の様子を見ていると大体系統が似ているから俺の意見はかなり参考になると思うぞ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、ワイングラスを差し出してきた。
その隣ではユヅルとケイトくんがもう二人で楽しそうに会話を始めている。
ならば、今日はケイトくんにユヅルを預けてアヤシロと大人の話題で盛り上がるとするか。
私はワイングラスを掲げ、ワインを味わった。
芳醇な葡萄の香りが鼻を抜けていく。
「ああ、このワイン。最高だな」
「だろう? この料理も一緒に食べてみてくれ」
誘われるままに料理を口にすると、先ほどのワインが料理を引き立てる。
「ああ、この組み合わせはまさにマリアージュだな」
「ふふっ。さすがロレーヌ、わかってくれて嬉しいよ」
「東京での最後の夜、アヤシロと食事ができてよかったよ」
「そう言ってくれると誘った甲斐があるな。ところで、ロレーヌ。彼はまだ高校生だったんだろう? 卒業まであと半年くらいなのに、フランスに連れ帰ってよかったのか?」
アヤシロの真剣な表情に本気でユヅルを心配してくれているのがありありとわかる。
本当にありがたいことだ。
「ああ、心配してくれてありがとう。だが、ユヅルはあの町にはそこまで思い入れもないようだったから心機一転フランスで過ごすのもいいと思ったんだ」
「そうなのか? それでも生まれてからずっと暮らしていた町だろう? それを全部捨ててフランスに旅立つのは高校生にしては並大抵の決断じゃないぞ」
「そうだろうな。だが、ユヅルはずっとあの町で余所者扱いされていたみたいだからな」
「余所者扱い? なんで? あっ、もしかしてあの、見た目か?」
私が頷くと綾城は、はぁーっと大きなため息を吐いた。
「そうか……弓弦くん、嫌な思いをしたんだな……。弓弦くんがいたような小さな町はよく言えば一体感があるのだろうが、悪く言えば余所者を受け入れない排他的なところがあるからな。それでもお母さんがいる間は必死で我慢していたんだろう。ロレーヌが来てくれたことで救われたんじゃないか」
「そう思うか?」
「ああ、見た目もよく似ているだろう? 自分に似た人が自分を守ってくれるのは安心したと思うぞ」
アヤシロの言葉が突き刺さる。
そうか……。
ユヅルと初めてあった時、私をみても怖がらなかったのは自分によく似た私に安心感を持ってくれたからかもしれないな。
「フランスは良くも悪くも人を尊重するから、あの町よりは弓弦くんはのびのびと過ごせるんじゃないか」
「ああ、そうだな。言葉がわからないことだけが不安だと言っていたから、当分は家で好きに過ごさせるつもりだよ。今まで窮屈だったろうからな」
「それはいいな。ロレーヌがつきっきりで教えたら若い子だからすぐに言葉も覚えるだろうしな。だが、甘い言葉ばかり教えるなよ。弓弦くんが喋ったらすぐに変なのが寄ってくるぞ」
「ああ、わかってるよ。セルジュにも注意されてるからな」
セルジュといい、アヤシロといい、私をなんだと思っているんだろうな。本当に。
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