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子猫の戯れ

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朝方、心地良い温もりに目を覚ますとユヅルが腕の中で気持ちよさそうにスヤスヤと
穏やかな寝息を立てていた。

どうやら魘されることなく眠れているらしい。

ユヅルが助けを求めて連絡をくれたあの時、電話を取ることができて本当によかった。
もし、あの一度を取ることができていなければ……ユヅルは必死に縋り付いた一本の糸を切られ、絶望の底に叩きつけられ這い上がることもできなかったかもしれない。

母を亡くし、どうすればいいのかもわからないまま、この部屋で身を震わせながら孤独を噛み締めていただろう。

そんな未来をぎりぎりのところで掬い上げることができた。

それもこれもアマネが父の電話番号を残しておいてくれたからこそだ。
最期の時までユヅルのことを思っていたアマネに代わって、これからは私がユヅルを幸せにするよ。
だから、アマネ……そして、ニコラ……。
ユヅルを愛し、共に生きることを許してくれ。

まだ起きるには少し早そうだ。
もう少しだけ、ユヅルの温もりを感じながら微睡んでいよう。

私の人生で初めて、こんなにも穏やかな朝の時間を過ごせることに感謝しながら……。


それからどれくらい経っただろう?
可愛らしい重みを身体に感じてそっと目を開けると、ユヅルが私の胸元に身体を擦り寄せてクンクンと匂いを嗅ぎながら嬉しそうに微笑んでいた。

目を瞑っているところを見ると、おそらくまだ寝ぼけているのだろう。
まるで子猫が戯れついているような可愛らしい姿に思わず、笑い声が漏れてしまった。

その声にピクリと身体を震わせ、恐る恐る私を見上げる子猫に朝の挨拶をかけると、ほんのりと頬を染めながら挨拶を返してくれた。

起きようとするユヅルの身体を抱きしめたまま、今日は学校は休みだからと声をかけるとユヅルはハッとしながらも安堵の表情を浮かべた。
おそらく学校に仲の良い友達はいないのだろう。

こんな小さな町だ。
ユヅルが母親を亡くしたことはもうとっくに知れ渡っているだろう。
それなのに、ユヅルを心配して人が訪ねてくる事どころか、連絡の一本もない。
気を遣っているといえばそうなのだろうが、本当に心配ならばどんなことがあっても駆けつけるというものだ。

ニコラによく似たユヅルの顔立ちはきっとこのあたりでは奇特な存在として扱われていたのだろう。
そうだとすれば、ユヅルがどうしてもここの学校で卒業したいと言い出さない限り、いつまでもここにいる必要はないな。

ぐっすり眠れたと教えてくれたユヅルに、私もユヅルが一緒だったからよく眠れたというと

「あ、じゃあ……今日も」

と期待に満ちた目で言ってくれた。

ああ、もちろんだよ。
昨夜の時点でこれからずっと一緒に寝ることは決定事項だ。
むしろ離れて眠ることなど頭の片隅にもない。

すると、突然ユヅルの顔が真っ赤になってきた。
ついさっきまでほんのりとピンク色に染めていたのに。

もしかして、あまりの環境の変化に体調でも崩したのかとおでこを合わせて熱を計ってやると、

「だ、大丈夫です。あの……寝起き、だから……そう、寝起きだから急に暑くなってきて」

と手で顔を仰ぎながら、必死に弁解していた。

ふふっ。もしかしたら少しは私のことを意識し始めてくれたのだろうか?
それならば嬉しいのだが……。

もうすっかり目も冴えて眠れそうにない。
それなら起きて朝食の支度でもしようというと、ユヅルも手伝うと言ってくれた。

これから家族としてやっていくなら、料理をできるようになりたい……そう言ってくれるユヅルの気持ちが嬉しかった。

嬉しそうに布団から跳ね起きたユヅルが一緒に被っていた布団を捲ると、突然布団を私に押し付けてさらに真っ赤な顔をして

「ごめんなさい!!」

と叫びながら部屋を出て行ってしまった。

あまりにも一瞬の出来事に何が起こったのかわからなかったが、身体を起こし押し付けられた布団をとって気づいた。

寝相が悪かったのか、それともユカタの特性なのか……昨夜ユヅルが綺麗に着付けてくれたユカタは裾が大きく広がって、愚息が丸見えになってしまっていた。

しかも、昨夜不慮の事故で見せてしまった愚息とは違い、朝の生理現象で半分ほど勃ち上がっている愚息がそこにあった。

C’est incroyaなんてことだle !

完全に勃った時の半分ほどの大きさだが、ユヅルにしてみれば目を疑うほどの大きさだったに違いない。
朝からこんなモノを見せてしまって……きっと動揺しているはずだ。
いや、私だって動揺している。

だが、ここで私が謝ったりすればきっとユヅルが昨夜同様申し訳ないと罪悪感に苛まれることだろう。

ならば、何も反応を返さない方がいいのではないか。

それにこれからのことを考えれば見てはいけないモノという認識よりも、私のモノであれば見てもいいと思ってくれるように仕向けた方が……。
そうだな。
ならば、さっさとトイレに行って、この愚息を治めておくか。

トイレを済ませると、朝の生理現象を起こしていた愚息は少し大人しくなった。
そのまま洗面所に向かうとユヅルは最初こそ真っ赤な顔で出迎えたが、私が普通に接すると何事もなかったように接し返してくれた。

ああ、これでいい。
このままで行こう。

食事を作ろうとユヅルをキッチンに誘ったタイミングで玄関のチャイムが鳴る。
この時間だ。
来るとすればセルジュだろう。

私が行こうとすると、ユヅルが自分が行くと言い出したが、ユヅルだけを行かせるなんてするはずがない。
もしセルジュでなければ私がしっかりと守ってやらなければと思い、ユヅルの手をとって玄関へ向かうと玄関扉のガラスに映るシルエットからすぐにセルジュだとわかった。

中に入ってきたセルジュは挨拶もそこそこに袖も丈も短い、子どもの服を着たような私の出で立ちに目を細めて嬉しそうに笑っていた。

これがユヅルの手作りのユカタなのだと話すと、セルジュは素晴らしいとユヅルを褒め称えた。

ユヅルは謙遜していたが、サイズが小さいなど何の問題もない。
この世にユヅルの服を着られるのが私だけだということに意義があるのだ。

セルジュはそれをわかっているからこそ、あれほど嬉しそうにしてくれたのだ。
さすが、セルジュ。
私の気持ちをよくわかってくれているな。
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