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タツオミの望み
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「それで、タツオミ。其方の願いはなんだ?」
「陛下……智己と違ってかなり我儘になりますがお許しいただけますか?」
「ははっ。どんな願いでも叶えると申し出たのは私だ。なんなりと好きなように申すがいい」
さて、タツオミは何を願うか?
まさかこの国とは言わないだろうが……。
「私は……ジョバンニと暮らすための家を望みます」
「なに?」
「今はまだクリスさん……いえ、バーンスタイン公爵邸の客間に居候の身です。ですが、私もジョバンニという伴侶を得た身。本来ならば、自身の力で家を用意するのが当然ではございますが、如何せん不慣れな土地での新しい生活でジョバンニを不安な環境におかせるわけには参りません。陛下には働いてご恩返しをする所存でございますので、どうか我々の新居をご用意いただけないでしょうか?」
私に頭をさげるタツオミの横でジョバンニが驚きの表情を見せている。
「ジョバンニ、タツオミはこう申しているが、其方も同じ意見か?」
「えっ? はい。あの、タツオミが働くことについては後で話し合うつもりでおりますが、家に関しては私も考えておりました。陛下がご用意くださるなら、これほど嬉しいことはございません」
「ははっ。そうか、ならばすぐにでも用意しよう。私の別宅が王都にある。それを其方たち二人の新居にするが良い」
「えっ……陛下の別宅とは、あのお屋敷でございますか?」
「そうだ。今から其方たちの望む家を建築しても良いが、そうなると完成まで時間がかかるだろう? あの別宅なら今日からでも暮らせる。どうだ、良い考えだろう」
「はい。それは素晴らしいお考えでございますが、本当にいただいてもよろしいのですか?」
「ああ、そもそもあの別宅は救世主殿が来られた時のために代々受け継がれてきた屋敷なのだ。だから、タツオミが住むことになんの異論もない」
「そのためのお屋敷だったのでございますか?」
「ははっ。知らなかっただろう? これは時の王だけが知りうる情報だったのでな」
ようやくあの屋敷に住むものが現れたのだ。
きっと家も喜んでいることだろう。
「ジョバンニ、タツオミ。トモキがあの屋敷に住むことはないのだから、あの屋敷は二人の新居としてふさわしいじゃないか。すぐにでも移り住むといい。トモキ、その屋敷までは我々の家から目と鼻の先だ。いつだって会えるからな」
クリスティアーノがそう声をかけてやると、トモキは安堵の表情を見せた。
やはり同郷のものがそばにいるというのは安心に繋がるものだからな。
とはいえ、あの独占欲の強いクリスティアーノがタツオミとトモキの接触を許していることに驚きを隠せない。
あのタツオミはクリスティアーノからかなりの信頼を勝ち得ているのだな。
見た目だけでなく、中身まで素晴らしい男なのだな、タツオミは。
「あの、陛下。タツオミの仕事なのですが、発言してもよろしいでしょうか?」
「構わん、なんだ? 申してみよ」
「はい。団長がしばらく騎士団から離れていらっしゃった間、事務仕事の手が足りなくなりましてタツオミに手伝っていただいたのです。すると、いつもの半分ほどの時間で事務作業を終えることができました」
「なんと――っ! まことか、タツオミ」
「はい。あちらで店を始めるまでは、事務作業を伴う仕事に従事しておりましたので、効率の良い仕事のやり方を考えるのが好きなのです」
そのような仕事をしていたとは……ますます感心する。
「救世主殿を働かせて申し訳ないが、せっかくのその才能をぜひ使ってほしい。できることなら、タツオミには騎士団に入り、ジョバンニの補佐として作業してもらいたいと思うが、どうだろうか?」
「はいっ!! 喜んでお引き受けいたします!!」
「ははっ。そうか、そう言ってもらえるとありがたい。公私共にジョバンニのよきパートナーとなってくれ」
「はい。私が精一杯ジョバンニを支えますので、陛下はどうぞご安心ください」
ああ、タツオミもか。
かなりの威圧が漂っている。
クリスティアーノとあれほどまでに信頼し合っていた意味が今、分かった気がする。
クリスティアーノもタツオミも、どちらも伴侶以外見えておらず、独占欲に溢れている。
お互いに相手のパートナーに興味がないと分かっているからこそ、信頼し合えるのだ。
どちらも似たもの同士だな。
誰にも興味を持つこともなかったクリスティアーノがジョバンニにだけは心を開いて傍に置いていたのは、きっといつの日かやってくるジョバンニの伴侶、タツオミのために余計な虫が来ないように見張っていたのかもしれない。
そして、タツオミもまたあちらの世界でトモキに変な虫が来ないように見守っていたのだろう。
この二人は持ちつ持たれつ。
唯一無二の親友となるのだろうな。
「陛下……智己と違ってかなり我儘になりますがお許しいただけますか?」
「ははっ。どんな願いでも叶えると申し出たのは私だ。なんなりと好きなように申すがいい」
さて、タツオミは何を願うか?
まさかこの国とは言わないだろうが……。
「私は……ジョバンニと暮らすための家を望みます」
「なに?」
「今はまだクリスさん……いえ、バーンスタイン公爵邸の客間に居候の身です。ですが、私もジョバンニという伴侶を得た身。本来ならば、自身の力で家を用意するのが当然ではございますが、如何せん不慣れな土地での新しい生活でジョバンニを不安な環境におかせるわけには参りません。陛下には働いてご恩返しをする所存でございますので、どうか我々の新居をご用意いただけないでしょうか?」
私に頭をさげるタツオミの横でジョバンニが驚きの表情を見せている。
「ジョバンニ、タツオミはこう申しているが、其方も同じ意見か?」
「えっ? はい。あの、タツオミが働くことについては後で話し合うつもりでおりますが、家に関しては私も考えておりました。陛下がご用意くださるなら、これほど嬉しいことはございません」
「ははっ。そうか、ならばすぐにでも用意しよう。私の別宅が王都にある。それを其方たち二人の新居にするが良い」
「えっ……陛下の別宅とは、あのお屋敷でございますか?」
「そうだ。今から其方たちの望む家を建築しても良いが、そうなると完成まで時間がかかるだろう? あの別宅なら今日からでも暮らせる。どうだ、良い考えだろう」
「はい。それは素晴らしいお考えでございますが、本当にいただいてもよろしいのですか?」
「ああ、そもそもあの別宅は救世主殿が来られた時のために代々受け継がれてきた屋敷なのだ。だから、タツオミが住むことになんの異論もない」
「そのためのお屋敷だったのでございますか?」
「ははっ。知らなかっただろう? これは時の王だけが知りうる情報だったのでな」
ようやくあの屋敷に住むものが現れたのだ。
きっと家も喜んでいることだろう。
「ジョバンニ、タツオミ。トモキがあの屋敷に住むことはないのだから、あの屋敷は二人の新居としてふさわしいじゃないか。すぐにでも移り住むといい。トモキ、その屋敷までは我々の家から目と鼻の先だ。いつだって会えるからな」
クリスティアーノがそう声をかけてやると、トモキは安堵の表情を見せた。
やはり同郷のものがそばにいるというのは安心に繋がるものだからな。
とはいえ、あの独占欲の強いクリスティアーノがタツオミとトモキの接触を許していることに驚きを隠せない。
あのタツオミはクリスティアーノからかなりの信頼を勝ち得ているのだな。
見た目だけでなく、中身まで素晴らしい男なのだな、タツオミは。
「あの、陛下。タツオミの仕事なのですが、発言してもよろしいでしょうか?」
「構わん、なんだ? 申してみよ」
「はい。団長がしばらく騎士団から離れていらっしゃった間、事務仕事の手が足りなくなりましてタツオミに手伝っていただいたのです。すると、いつもの半分ほどの時間で事務作業を終えることができました」
「なんと――っ! まことか、タツオミ」
「はい。あちらで店を始めるまでは、事務作業を伴う仕事に従事しておりましたので、効率の良い仕事のやり方を考えるのが好きなのです」
そのような仕事をしていたとは……ますます感心する。
「救世主殿を働かせて申し訳ないが、せっかくのその才能をぜひ使ってほしい。できることなら、タツオミには騎士団に入り、ジョバンニの補佐として作業してもらいたいと思うが、どうだろうか?」
「はいっ!! 喜んでお引き受けいたします!!」
「ははっ。そうか、そう言ってもらえるとありがたい。公私共にジョバンニのよきパートナーとなってくれ」
「はい。私が精一杯ジョバンニを支えますので、陛下はどうぞご安心ください」
ああ、タツオミもか。
かなりの威圧が漂っている。
クリスティアーノとあれほどまでに信頼し合っていた意味が今、分かった気がする。
クリスティアーノもタツオミも、どちらも伴侶以外見えておらず、独占欲に溢れている。
お互いに相手のパートナーに興味がないと分かっているからこそ、信頼し合えるのだ。
どちらも似たもの同士だな。
誰にも興味を持つこともなかったクリスティアーノがジョバンニにだけは心を開いて傍に置いていたのは、きっといつの日かやってくるジョバンニの伴侶、タツオミのために余計な虫が来ないように見張っていたのかもしれない。
そして、タツオミもまたあちらの世界でトモキに変な虫が来ないように見守っていたのだろう。
この二人は持ちつ持たれつ。
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