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お箸が気になる!
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今日の食事はクリスさんにとっては見慣れないものばかりだろう。
口に合うか気になって、じっと見つめているとクリスさんが少し顔を赤らめながら
「そんなに見られると恥ずかしいのだが……」
と言いながら、鶏つくねをパクリと口に運んだ。
「あっ、ごめんなさい! つい、気になっちゃって……」
「いや、いい。それよりもこの《つくね》とやら、美味しいな」
「えっ、本当ですか? 良かった。クリスさんの口に合うかドキドキしてました」
「――っ! トモキは……」
「えっ? なんですか?」
「い、いや。なんでもない」
そう言って、クリスさんはまたご飯を食べ始めた。
なんだったんだろう?
気になりながらも、僕も食事を始めた。
つくねを箸で半分に切って口に入れると、いつもよりジューシーに感じられた。
やっぱりあれだけ叩いたからだろうな。
ふわふわで美味しい。
手伝ってもらえてよかったなと思っていると、
「トモキ、其方が使っている棒はなんだ?」
と尋ねられた。
箸では食べにくいだろうと彼のだけフォークとスプーンを用意していたのだけど、どうやら僕の使っている箸が気になったみたいだ。
「これはお箸と言って、ここではこれを使って食事をすることが多いんです。でも料理によっては、今クリスさんが使っているようなフォークやスプーン、ナイフも使いますよ。だから、別に使えなくても問題はないです」
「だが、この料理はそのお箸とやらを使うのが正解なのだろう?」
「正解……というか、まぁ使いやすいとは思いますけど、そこまで気にすることでは……」
「いや、私もいつまでここにいることになるのかわからないのだから、練習はしておくべきだろう」
「わ、わかりました」
すごい負けず嫌いというかなんというか……やっぱり騎士団長さんともなると、色々大変なんだろうな……と思いつつ、台所にあった割り箸を持ってきた。
「じゃあ、これどうぞ。ちゃんとしたお箸は明日買ってきますから、今日はこれで練習してください」
クリスさんは割り箸を受け取ると、見様見真似で箸を動かし始めた。
だけど、さすがにそんなに簡単に使えるようになるほど、簡単なものじゃない。
「これで物を掴めるとは……トモキは本当に多才なのだな」
と僕を尊敬の眼差しで見てくれる。
「そんなことないです。慣れですよ、クリスさんならすぐに使えるようになると思います。ゆっくり練習してください。でも今日は疲れているでしょうから、フォークとスプーンでいいですよ」
「かたじけない」
クリスさんは申し訳なさそうにフォークに持ち替えて、食事を再開し、あっという間に完食してくれてホッとしながら僕も食事を終えた。
後片付けをするのもクリスさんは片手ながら手伝ってくれて、もうあとは寝るだけだ。
布団はついこの前、干しておいたばかりでよかった。
押し入れからまだふんわりとした布団を二組畳間に並べて敷いた。
「すみません、こんな布団しかないんですけどよかったらここに寝てください」
「――っ、ここでトモキも一緒に寝るのか?」
「はい。あの、ダメでしたか? 僕、寝相も悪くないし、寝言は……ちょっとわかんないですけど、イビキとかはかいたりしないと思うので迷惑はかけないと思いますが……」
「いや、そんなことを心配しているのではないのだが……」
「???」
クリスさんの言っている意味がわからなくて見つめていると、
「その、いや……なんでもない。トモキが良ければ私は気にしない」
と言われたので、そのままにすることにした。
「明日は僕、仕事は休みなのでクリスさんの必要なものを買いに行ってきますね」
「私が急に来たせいでトモキに余計な出費をかけているのではないか?」
「大丈夫です。こういうのはお互い様ですから」
「お互い様……」
「それに僕……クリスさんと一緒で楽しいですよ。食事も、こうやって一緒に寝られるのも……一人でいるのは寂しいですから」
「トモキ……」
クリスさんの視線に、君はなぜ一人でいるんだと聞かれそうな気がして、僕は急いで話題を変えた。
「あ、あの、そういえばクリスさんのいたビスカリア王国、でしたっけ? そこはどんな世界で、騎士団長のお仕事ってどんなことをするんですか?」
「そうだな、まだ何も話していなかった。私のいたビスカリア王国は花と緑に囲まれた美しい国で……」
そう言って、クリスさんは自分の世界について話をしてくれた。
口に合うか気になって、じっと見つめているとクリスさんが少し顔を赤らめながら
「そんなに見られると恥ずかしいのだが……」
と言いながら、鶏つくねをパクリと口に運んだ。
「あっ、ごめんなさい! つい、気になっちゃって……」
「いや、いい。それよりもこの《つくね》とやら、美味しいな」
「えっ、本当ですか? 良かった。クリスさんの口に合うかドキドキしてました」
「――っ! トモキは……」
「えっ? なんですか?」
「い、いや。なんでもない」
そう言って、クリスさんはまたご飯を食べ始めた。
なんだったんだろう?
気になりながらも、僕も食事を始めた。
つくねを箸で半分に切って口に入れると、いつもよりジューシーに感じられた。
やっぱりあれだけ叩いたからだろうな。
ふわふわで美味しい。
手伝ってもらえてよかったなと思っていると、
「トモキ、其方が使っている棒はなんだ?」
と尋ねられた。
箸では食べにくいだろうと彼のだけフォークとスプーンを用意していたのだけど、どうやら僕の使っている箸が気になったみたいだ。
「これはお箸と言って、ここではこれを使って食事をすることが多いんです。でも料理によっては、今クリスさんが使っているようなフォークやスプーン、ナイフも使いますよ。だから、別に使えなくても問題はないです」
「だが、この料理はそのお箸とやらを使うのが正解なのだろう?」
「正解……というか、まぁ使いやすいとは思いますけど、そこまで気にすることでは……」
「いや、私もいつまでここにいることになるのかわからないのだから、練習はしておくべきだろう」
「わ、わかりました」
すごい負けず嫌いというかなんというか……やっぱり騎士団長さんともなると、色々大変なんだろうな……と思いつつ、台所にあった割り箸を持ってきた。
「じゃあ、これどうぞ。ちゃんとしたお箸は明日買ってきますから、今日はこれで練習してください」
クリスさんは割り箸を受け取ると、見様見真似で箸を動かし始めた。
だけど、さすがにそんなに簡単に使えるようになるほど、簡単なものじゃない。
「これで物を掴めるとは……トモキは本当に多才なのだな」
と僕を尊敬の眼差しで見てくれる。
「そんなことないです。慣れですよ、クリスさんならすぐに使えるようになると思います。ゆっくり練習してください。でも今日は疲れているでしょうから、フォークとスプーンでいいですよ」
「かたじけない」
クリスさんは申し訳なさそうにフォークに持ち替えて、食事を再開し、あっという間に完食してくれてホッとしながら僕も食事を終えた。
後片付けをするのもクリスさんは片手ながら手伝ってくれて、もうあとは寝るだけだ。
布団はついこの前、干しておいたばかりでよかった。
押し入れからまだふんわりとした布団を二組畳間に並べて敷いた。
「すみません、こんな布団しかないんですけどよかったらここに寝てください」
「――っ、ここでトモキも一緒に寝るのか?」
「はい。あの、ダメでしたか? 僕、寝相も悪くないし、寝言は……ちょっとわかんないですけど、イビキとかはかいたりしないと思うので迷惑はかけないと思いますが……」
「いや、そんなことを心配しているのではないのだが……」
「???」
クリスさんの言っている意味がわからなくて見つめていると、
「その、いや……なんでもない。トモキが良ければ私は気にしない」
と言われたので、そのままにすることにした。
「明日は僕、仕事は休みなのでクリスさんの必要なものを買いに行ってきますね」
「私が急に来たせいでトモキに余計な出費をかけているのではないか?」
「大丈夫です。こういうのはお互い様ですから」
「お互い様……」
「それに僕……クリスさんと一緒で楽しいですよ。食事も、こうやって一緒に寝られるのも……一人でいるのは寂しいですから」
「トモキ……」
クリスさんの視線に、君はなぜ一人でいるんだと聞かれそうな気がして、僕は急いで話題を変えた。
「あ、あの、そういえばクリスさんのいたビスカリア王国、でしたっけ? そこはどんな世界で、騎士団長のお仕事ってどんなことをするんですか?」
「そうだな、まだ何も話していなかった。私のいたビスカリア王国は花と緑に囲まれた美しい国で……」
そう言って、クリスさんは自分の世界について話をしてくれた。
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