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話をしよう
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<sideジュア皇帝>
ミオが私に縋り付いて謝罪している。
私にはそれが一体どういう状況なのか、わからなかった。
「ミ、オ……一体どうしたのだ? なぜ、ミオが謝る?」
「だって……ジュアの隠し事を暴いてしまったから! ごめんなさい!」
私の隠し事を暴いてしまったから?
この仮面の下を見てしまったから、ミオが謝罪を口にしたというのか?
どうして?
ミオは謝る理由など何もない。
私が怖がらせてしまっただけなのに。
私に謝罪などいらない。
そう言おうとして、アーキルの言葉を思い出した。
――ジュア皇帝は頭の中で考えすぎでございます。頭の中ではなく、目の前の水の神子様としっかりとお話をなさるべきです。
また私はミオを傷つけるところだったのかもしれない。
ここは、どうしてと思ったことを素直に聞くべきなのか?
勝手に自分で結論づけるところも私の悪い癖なのかもしれないな。
私は深呼吸をして、腹に回ったミオの手を取った。
私を行かせないように必死に捕まえているようだが、私からすれば子猫がイタズラしているくらいの力だ。
痛みを与えないようにゆっくりと腕を取り、ミオに向き合うように身体を移動させた。
正直に言うと、まだミオの顔を見るのは怖い。
ミオはもうこの仮面の下がどうなっているのか知っているのだから。
それでもミオと話をしようと思ってきたのは私の意思だ。
「ミオ……」
「ジュア……少し、話しませんか?」
「そう、だな……」
ミオの表情は固かったが恐怖の色は見えなかった。
だから素直に頷けたのかもしれない。
「あの、嫌なら何も答えなくていいです。それだけは覚えていてください」
「わかった」
ミオがベッドに腰を下ろしたのを確認して、私は少しミオと離れた場所に腰を下ろした。
顔の傷について尋ねられるのだろう。
だが、私もそこまで詳しくは覚えていない。
私にとっては思い出したくない過去だ。
「あの……さっきは、話の途中で部屋に閉じこもってしまってごめんなさい」
「えっ?」
「僕……自分が何かの役に立つんじゃないかって勝手に思っていたんです。だから何もしなくていいって言われて、自分の存在を全て否定された気がして……」
ミオの存在を否定?
「ミオの存在を否定するなど断じてあり得ない!」
つい大声が出てしまって、ミオがピクリと肩を揺らした。
しまった、怯えさせたか。
「す、すまない」
「い、いえ。大丈夫です。でも、僕……一人で考えてわかったんです。これから何をするか考える前に、この国のことや、ジュアのことを知ろうって」
「私のことを?」
「はい。僕はまだここにきたばかりで何も知らないので、まずはいろんなことを勉強したいんです。それで自分に何ができるのかを知ってから、これから先何がやれるのか考えたいなって……」
ミオの言葉に驚きしかない。
自分に何かできるのか知るために勉強したいだなんて……。
このようなことを自ら言ってくれた水の神子殿は今までいなかった。
「僕は、ジュアのことも知りたいです。でも、その仮面の下の傷をジュアが隠したいと言うのなら、僕は聞きませんし、気になりません」
「どうしてだ? 自分の伴侶になろうという者がこのような怪物で本当に気にならないのか?」
「怪物って……ジュアは自分をそのように思っているんですか? 僕はこれでも医師を志していたんです。傷を負った人も多く見てきましたし、僕の両親は事故で亡くなりましたが、その事故のせいでどちらが父なのか、母なのかもわからない状態でした。それでも怪物なんて思わなかったですよ。ジュアは怪我を負っても生きているんです。それだけでよかったって思ってますよ」
「――っ!! ミオ!!」
生きているだけでよかった……。
誰もそのような言葉をかけてくれたものはいなかった。
両親でさえ、私を憐れみの目で見ていたのだ。
アーキルだけは変わらず接してくれたが、それでもいつも気を遣われていた気がする。
「本当に……私が、怖くないのか?」
「はい。怖くないです。でも心配なら隠していていいですよ。いつか、ジュアが僕を信用した時、外してくれたら嬉しいです」
「――っ!」
ミオの優しい笑顔に心を奪われる。
――神がジュア皇帝のお相手に選んでくださったのですよ。
アーキルの言葉通りかもしれないな。
自分の顔を好きになれない私に、神が気にしないと言ってくれる人を選んでくれたのかもしれない。
それでもまだ今は、この笑顔を曇らせたくないと思ってしまう。
私は本当に弱い人間だ。
最強の皇帝が聞いて呆れる。
「あの、一つだけ聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「なんだ?」
ミオの表情がどうも言いづらそうにしている。
顔のことは聞かないと言っていたがそのこと以外で聞きにくいことなどあっただろうか?
「あの……僕が、ジュア皇帝の、その、は、伴侶っていうのは、間違いはないですか?」
「な――っ」
思いがけない言葉に思わず大声が出そうになったが、大声はダメだ。ミオの本意を聞かなければ。
私はできるだけ優しく問いかけた。
「どうしてそう思う?」
「あの、僕……こんな顔ですけど、男なんです! だから、ジュアの伴侶になるなんて無理なんです! 男同士だと将来の皇帝が生まれないでしょう?」
真っ赤な顔で理由を告げるミオを見て、私はようやくミオが私の伴侶になるのは無理だと言った理由がわかったのだった。
ミオが私に縋り付いて謝罪している。
私にはそれが一体どういう状況なのか、わからなかった。
「ミ、オ……一体どうしたのだ? なぜ、ミオが謝る?」
「だって……ジュアの隠し事を暴いてしまったから! ごめんなさい!」
私の隠し事を暴いてしまったから?
この仮面の下を見てしまったから、ミオが謝罪を口にしたというのか?
どうして?
ミオは謝る理由など何もない。
私が怖がらせてしまっただけなのに。
私に謝罪などいらない。
そう言おうとして、アーキルの言葉を思い出した。
――ジュア皇帝は頭の中で考えすぎでございます。頭の中ではなく、目の前の水の神子様としっかりとお話をなさるべきです。
また私はミオを傷つけるところだったのかもしれない。
ここは、どうしてと思ったことを素直に聞くべきなのか?
勝手に自分で結論づけるところも私の悪い癖なのかもしれないな。
私は深呼吸をして、腹に回ったミオの手を取った。
私を行かせないように必死に捕まえているようだが、私からすれば子猫がイタズラしているくらいの力だ。
痛みを与えないようにゆっくりと腕を取り、ミオに向き合うように身体を移動させた。
正直に言うと、まだミオの顔を見るのは怖い。
ミオはもうこの仮面の下がどうなっているのか知っているのだから。
それでもミオと話をしようと思ってきたのは私の意思だ。
「ミオ……」
「ジュア……少し、話しませんか?」
「そう、だな……」
ミオの表情は固かったが恐怖の色は見えなかった。
だから素直に頷けたのかもしれない。
「あの、嫌なら何も答えなくていいです。それだけは覚えていてください」
「わかった」
ミオがベッドに腰を下ろしたのを確認して、私は少しミオと離れた場所に腰を下ろした。
顔の傷について尋ねられるのだろう。
だが、私もそこまで詳しくは覚えていない。
私にとっては思い出したくない過去だ。
「あの……さっきは、話の途中で部屋に閉じこもってしまってごめんなさい」
「えっ?」
「僕……自分が何かの役に立つんじゃないかって勝手に思っていたんです。だから何もしなくていいって言われて、自分の存在を全て否定された気がして……」
ミオの存在を否定?
「ミオの存在を否定するなど断じてあり得ない!」
つい大声が出てしまって、ミオがピクリと肩を揺らした。
しまった、怯えさせたか。
「す、すまない」
「い、いえ。大丈夫です。でも、僕……一人で考えてわかったんです。これから何をするか考える前に、この国のことや、ジュアのことを知ろうって」
「私のことを?」
「はい。僕はまだここにきたばかりで何も知らないので、まずはいろんなことを勉強したいんです。それで自分に何ができるのかを知ってから、これから先何がやれるのか考えたいなって……」
ミオの言葉に驚きしかない。
自分に何かできるのか知るために勉強したいだなんて……。
このようなことを自ら言ってくれた水の神子殿は今までいなかった。
「僕は、ジュアのことも知りたいです。でも、その仮面の下の傷をジュアが隠したいと言うのなら、僕は聞きませんし、気になりません」
「どうしてだ? 自分の伴侶になろうという者がこのような怪物で本当に気にならないのか?」
「怪物って……ジュアは自分をそのように思っているんですか? 僕はこれでも医師を志していたんです。傷を負った人も多く見てきましたし、僕の両親は事故で亡くなりましたが、その事故のせいでどちらが父なのか、母なのかもわからない状態でした。それでも怪物なんて思わなかったですよ。ジュアは怪我を負っても生きているんです。それだけでよかったって思ってますよ」
「――っ!! ミオ!!」
生きているだけでよかった……。
誰もそのような言葉をかけてくれたものはいなかった。
両親でさえ、私を憐れみの目で見ていたのだ。
アーキルだけは変わらず接してくれたが、それでもいつも気を遣われていた気がする。
「本当に……私が、怖くないのか?」
「はい。怖くないです。でも心配なら隠していていいですよ。いつか、ジュアが僕を信用した時、外してくれたら嬉しいです」
「――っ!」
ミオの優しい笑顔に心を奪われる。
――神がジュア皇帝のお相手に選んでくださったのですよ。
アーキルの言葉通りかもしれないな。
自分の顔を好きになれない私に、神が気にしないと言ってくれる人を選んでくれたのかもしれない。
それでもまだ今は、この笑顔を曇らせたくないと思ってしまう。
私は本当に弱い人間だ。
最強の皇帝が聞いて呆れる。
「あの、一つだけ聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「なんだ?」
ミオの表情がどうも言いづらそうにしている。
顔のことは聞かないと言っていたがそのこと以外で聞きにくいことなどあっただろうか?
「あの……僕が、ジュア皇帝の、その、は、伴侶っていうのは、間違いはないですか?」
「な――っ」
思いがけない言葉に思わず大声が出そうになったが、大声はダメだ。ミオの本意を聞かなければ。
私はできるだけ優しく問いかけた。
「どうしてそう思う?」
「あの、僕……こんな顔ですけど、男なんです! だから、ジュアの伴侶になるなんて無理なんです! 男同士だと将来の皇帝が生まれないでしょう?」
真っ赤な顔で理由を告げるミオを見て、私はようやくミオが私の伴侶になるのは無理だと言った理由がわかったのだった。
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