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攻略方法がわからない
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不思議そうな表情で俺を見る藤乃くんに『高校生かと思ってびっくりした』と揶揄うように言ってやると、どうやら自分でもそのことを自覚していたらしく、『実はこの服、高校の時買ったんです』と教えてくれた。
そうか、休みもろくにもらえないあの会社なら服を買いに行くひまもなかったんだな。
大丈夫、これからは俺が君の全ての服を用意してやる。
それこそ、下着まで……全て、な。
藤乃くんは俺の淹れたお茶を飲みながら、
「あ、あの……先に言っときますけど、俺が寝巻きに持って来たやつ見ても絶対に笑わないでくださいね!」
と真剣な眼差しで頼んできた。
笑うような寝巻き??
一体どういうものだ?
うーん、バスローブで寝ているとか?
いや、それにしてはあのとき着慣れない様子だった。
まさか裸とか?
いや、寝巻きを持ってきたと言っているのだからそれは無いだろう。
俺としては裸で寝てくれて全然構わないのだが……。
ならばなんだ?
動物の着ぐるみか……それともまさかのベビードールとか?
くぅ――っ、想像するだけで鼻血が出そうだ。
にやけそうになるのを必死に抑えながら『笑ったりしない』と約束すると、彼はホッとしているようだった。
一体どんな服が見られるのか……まぁどんな服を来ていたとしても結局全部脱がせるのだから関係ないんだが。
ふふっ。夜が楽しみでたまらないな。
お茶を飲んで一息ついたところで、俺はこの部屋の中を案内することにした。
きっと驚いてくれるだろうなとほくそ笑みながら、俺はいつも自分が使っている部屋を案内した。
俺の使っている部屋は見た目は藤乃くんの部屋とほぼ同じだが、一つだけ大きく違うところがあるんだ。
この離れの中で俺が一番気に入っている、その入り口に藤乃くんの手を取り連れて行き扉を開けるように促した。
恐る恐ると言った様子でガラガラと引き戸を開けた藤乃くんの表情がみるみるうちに高揚していく。
「まさか……温泉?」
ふふっ。よくわかったな。
俺は手を取って中の岩風呂へと連れていくと藤乃くんは目を輝かせて喜んでいた。
後でゆっくり入ろうと声をかけ、俺たちは観光へと向かうことにした。
藤乃くんを連れロビーに向かうと、俺たちの元へと支配人が駆け寄ってきた。
俺たちに『行ってらっしゃいませ』と声をかけながら、藤乃くんには見えないようにさりげなく俺の手に手渡してくる。
これはさっき頼んでおいたアレか。
後でゆっくり見るとするか。
車で宿を出て、海沿いを走らせながらどこに行こうかと考えて、今朝空港で藤乃くんが食べようとしていたソフトクリームを思い出した。
服についた量から見てあれはほとんど食べられなかったはずだ。
彼に『アイスを食べに行こう』と声をかけると嬉しそうに目を輝かせた。
ふふっ、アイスでこんなに喜んでくれるとはな。
よし、石垣で一番美味しいアイスを食べさせてやるぞ。
彼を連れて行ったカフェはここ最近できたカフェだが、とても美味しいアイスを食べさせてくれる店だと会社の子達が話していたのを聞いていた。
俺自身何度か来たことはあるがいつもコーヒーばかりで実際に食べたことはないし、そもそも甘いものはそんなに得意でもない。
だが、彼の喜ぶ顔が見られるのならアイスくらい大したことではない。
石垣島の海を望むように建てられたこのカフェはかなりの絶景ポイントだ。
その海がよく見えるカウンターの席に腰を下ろし、メニューを見せるとあまりにもたくさんのメニューに悩んでいるように見えた。
俺は藤乃くんがメニューに夢中になっている間に、さっき松川から渡されたメモにそっと目を通した。
ふうん、やっぱりな。
どうやらあいつらはこの石垣島や近くの離島で予約もなしで高級宿に入り込み、宿泊予定の男性客に言葉巧みに声をかけ、宿泊費と飲食代を奢ってもらうということを繰り返しているらしい。
浅香の宿でも宿の外で入ってくる宿泊客を吟味して狙いを定めて中に入り込んだんだろう。
残念ながら、女性ドアマンに接触を邪魔されたようだがな。
松川の情報にはあいつらを泊めた宿泊者たちの部屋で盗難騒ぎがいくつか起こっていて要注意人物としてリストアップされていることも書かれていた。
はぁーっ、GK興業の沼田といい、こいつらといいホテル業界はおかしな奴らが現れて本当に大変だな。
浅香に同情するよ。
とりあえず、朝香の宿からは追い出したが奴らは絶対に今日の宿を求めてこの石垣島で誰かをターゲットにするはずだ。
よし、後で彼らに協力を頼んでおくかな。
と、そんなことを考えながら藤乃くんの様子をみると、一つのアイスの前で彼の視線が止まっているのに気づいた。
マンゴーかき氷の上にバニラアイスの乗ったかなりボリュームのあるものだから、きっと悩んでいるのだろう。
残すのは忍びない……そう思っている顔だ。
そんなこと気にせずに好きなものを食べればいいのに……まぁそういうところに好感が持てるのだけど。
結局二人で分けて食べようという俺の提案に乗り、彼は出てきたマンゴーかき氷&アイスを見て喜びの声をあげた。
ワクワクを隠しきれないと言った様子で、スプーンで一口掬い取り口へと入れると途端に目を輝かせた。
ここのマンゴーかき氷は石垣島で採れたマンゴーをそのまま凍らせ削ったものだから、美味しくないわけがない。
藤乃くんの嬉しそうな笑顔が眩しくてついこのかき氷に使われている地元のマンゴーについて語っていると、突然
『倉田さん?』と名前を呼ばれた。
反射的に彼に目を向けると、急に冷たいかき氷とバニラアイスが口の中に入れられた。
しかも『あーん』の言葉付きで。
これは、間接キス……。
彼の口に入ったスプーンが俺の口に……そう思っただけで俺のドキドキが止まらなくなった。
なんだ、これ。
まるで中学生にでもなってしまったかのような胸の高鳴りにおかしくなりそうだ。
『溶けちゃいますよ』と可愛らしく微笑む藤乃くんはきっと俺がこんなにもドキドキしているなど思っても見ないのだろうな。
ならば、このまま彼の『あーん』を堪能するとしよう。
口を開けると『えっ?』と驚いた表情をしつつも、その後も俺の口に運んでは自分の口にも運び入れ、中学生の初デートのような甘い時間はあっという間に終わった。
彼に食べさせてもらった甘い甘いかき氷……この甘さを俺は一生忘れないだろう。
テーブルの上にあった伝票をとりレジへと向かおうとすると、藤乃くんがさっと俺の手から伝票をとりさっさとレジで会計をしてしまった。
あんな貴重な体験をさせてもらった上にこの俺が奢られるとは思っても見なかった。
藤乃くんは代金を支払った上に、店員に『美味しかったです。ご馳走さまでした』とにこやかな笑顔を向け、店をでた。
そういえば、藤乃くんと出会ってから彼は何かあるごとに必ずお礼の言葉や美味しかったという感想を述べている。
しかも、それが自然に口から吐いて出ているのだ。
恩着せがましいわけでもない藤乃くんの本当の感想に言われた相手もほんのりと笑顔を浮かべる。
何年もあんなにひどい環境にいながら、こうやって素直にお礼が言える藤乃くんのことを素直にすごいと思った。
と同時に一度ちゃんと聞いてみたいと思ったんだ。
俺はご馳走してくれたことへのお礼を伝えてから、藤乃くんに『どうして毎回店員にお礼を言うのか?』と尋ねてみた。
彼はどんな反応をするだろう?
少し緊張しながら彼の答えを待っていると、藤乃くんは俺の質問の意図がわからないと言った様子を見せた。
俺は『客としてお金を払う以上、相手はその対価としてサービスしているだけでそこにお礼は必要ないと考える人もいる』と話すと、藤乃くんはさらに困惑の表情を浮かべながら、俺の言っている意味がわからないと言い出した。
人に何かをしてもらったら自然とお礼は出てくるものだと話す藤乃くんの表情に俺はハッとした。
そうか。
考え方が根本から違うんだ。
だからあんなに素直にお礼が言えるのだ。
これは彼の親の影響なのか、それとも彼自身の?
いずれにしても藤乃くんのこの感性は俺にとって深い衝撃を与えた。
彼は俺からされることを当然だと思わない。
いつでも遠慮して、決して自分からは甘えたりしない。
今までの相手とは全てが違うんだ。
だからこんなにも藤乃くんに惹かれたのかもしれない。
だが、どうしよう。
藤乃くんのようなタイプの攻略方法がわからない。
俺の財力を持ってすればすぐに恋人くらいにはと考えていたのに……金には靡かないとなるといよいよどうしていいかわからない。
俺はもう決して藤乃くんを手放す気はないが、彼をどうやって自分のものにするか作戦を練り直す必要があるな。
そうか、休みもろくにもらえないあの会社なら服を買いに行くひまもなかったんだな。
大丈夫、これからは俺が君の全ての服を用意してやる。
それこそ、下着まで……全て、な。
藤乃くんは俺の淹れたお茶を飲みながら、
「あ、あの……先に言っときますけど、俺が寝巻きに持って来たやつ見ても絶対に笑わないでくださいね!」
と真剣な眼差しで頼んできた。
笑うような寝巻き??
一体どういうものだ?
うーん、バスローブで寝ているとか?
いや、それにしてはあのとき着慣れない様子だった。
まさか裸とか?
いや、寝巻きを持ってきたと言っているのだからそれは無いだろう。
俺としては裸で寝てくれて全然構わないのだが……。
ならばなんだ?
動物の着ぐるみか……それともまさかのベビードールとか?
くぅ――っ、想像するだけで鼻血が出そうだ。
にやけそうになるのを必死に抑えながら『笑ったりしない』と約束すると、彼はホッとしているようだった。
一体どんな服が見られるのか……まぁどんな服を来ていたとしても結局全部脱がせるのだから関係ないんだが。
ふふっ。夜が楽しみでたまらないな。
お茶を飲んで一息ついたところで、俺はこの部屋の中を案内することにした。
きっと驚いてくれるだろうなとほくそ笑みながら、俺はいつも自分が使っている部屋を案内した。
俺の使っている部屋は見た目は藤乃くんの部屋とほぼ同じだが、一つだけ大きく違うところがあるんだ。
この離れの中で俺が一番気に入っている、その入り口に藤乃くんの手を取り連れて行き扉を開けるように促した。
恐る恐ると言った様子でガラガラと引き戸を開けた藤乃くんの表情がみるみるうちに高揚していく。
「まさか……温泉?」
ふふっ。よくわかったな。
俺は手を取って中の岩風呂へと連れていくと藤乃くんは目を輝かせて喜んでいた。
後でゆっくり入ろうと声をかけ、俺たちは観光へと向かうことにした。
藤乃くんを連れロビーに向かうと、俺たちの元へと支配人が駆け寄ってきた。
俺たちに『行ってらっしゃいませ』と声をかけながら、藤乃くんには見えないようにさりげなく俺の手に手渡してくる。
これはさっき頼んでおいたアレか。
後でゆっくり見るとするか。
車で宿を出て、海沿いを走らせながらどこに行こうかと考えて、今朝空港で藤乃くんが食べようとしていたソフトクリームを思い出した。
服についた量から見てあれはほとんど食べられなかったはずだ。
彼に『アイスを食べに行こう』と声をかけると嬉しそうに目を輝かせた。
ふふっ、アイスでこんなに喜んでくれるとはな。
よし、石垣で一番美味しいアイスを食べさせてやるぞ。
彼を連れて行ったカフェはここ最近できたカフェだが、とても美味しいアイスを食べさせてくれる店だと会社の子達が話していたのを聞いていた。
俺自身何度か来たことはあるがいつもコーヒーばかりで実際に食べたことはないし、そもそも甘いものはそんなに得意でもない。
だが、彼の喜ぶ顔が見られるのならアイスくらい大したことではない。
石垣島の海を望むように建てられたこのカフェはかなりの絶景ポイントだ。
その海がよく見えるカウンターの席に腰を下ろし、メニューを見せるとあまりにもたくさんのメニューに悩んでいるように見えた。
俺は藤乃くんがメニューに夢中になっている間に、さっき松川から渡されたメモにそっと目を通した。
ふうん、やっぱりな。
どうやらあいつらはこの石垣島や近くの離島で予約もなしで高級宿に入り込み、宿泊予定の男性客に言葉巧みに声をかけ、宿泊費と飲食代を奢ってもらうということを繰り返しているらしい。
浅香の宿でも宿の外で入ってくる宿泊客を吟味して狙いを定めて中に入り込んだんだろう。
残念ながら、女性ドアマンに接触を邪魔されたようだがな。
松川の情報にはあいつらを泊めた宿泊者たちの部屋で盗難騒ぎがいくつか起こっていて要注意人物としてリストアップされていることも書かれていた。
はぁーっ、GK興業の沼田といい、こいつらといいホテル業界はおかしな奴らが現れて本当に大変だな。
浅香に同情するよ。
とりあえず、朝香の宿からは追い出したが奴らは絶対に今日の宿を求めてこの石垣島で誰かをターゲットにするはずだ。
よし、後で彼らに協力を頼んでおくかな。
と、そんなことを考えながら藤乃くんの様子をみると、一つのアイスの前で彼の視線が止まっているのに気づいた。
マンゴーかき氷の上にバニラアイスの乗ったかなりボリュームのあるものだから、きっと悩んでいるのだろう。
残すのは忍びない……そう思っている顔だ。
そんなこと気にせずに好きなものを食べればいいのに……まぁそういうところに好感が持てるのだけど。
結局二人で分けて食べようという俺の提案に乗り、彼は出てきたマンゴーかき氷&アイスを見て喜びの声をあげた。
ワクワクを隠しきれないと言った様子で、スプーンで一口掬い取り口へと入れると途端に目を輝かせた。
ここのマンゴーかき氷は石垣島で採れたマンゴーをそのまま凍らせ削ったものだから、美味しくないわけがない。
藤乃くんの嬉しそうな笑顔が眩しくてついこのかき氷に使われている地元のマンゴーについて語っていると、突然
『倉田さん?』と名前を呼ばれた。
反射的に彼に目を向けると、急に冷たいかき氷とバニラアイスが口の中に入れられた。
しかも『あーん』の言葉付きで。
これは、間接キス……。
彼の口に入ったスプーンが俺の口に……そう思っただけで俺のドキドキが止まらなくなった。
なんだ、これ。
まるで中学生にでもなってしまったかのような胸の高鳴りにおかしくなりそうだ。
『溶けちゃいますよ』と可愛らしく微笑む藤乃くんはきっと俺がこんなにもドキドキしているなど思っても見ないのだろうな。
ならば、このまま彼の『あーん』を堪能するとしよう。
口を開けると『えっ?』と驚いた表情をしつつも、その後も俺の口に運んでは自分の口にも運び入れ、中学生の初デートのような甘い時間はあっという間に終わった。
彼に食べさせてもらった甘い甘いかき氷……この甘さを俺は一生忘れないだろう。
テーブルの上にあった伝票をとりレジへと向かおうとすると、藤乃くんがさっと俺の手から伝票をとりさっさとレジで会計をしてしまった。
あんな貴重な体験をさせてもらった上にこの俺が奢られるとは思っても見なかった。
藤乃くんは代金を支払った上に、店員に『美味しかったです。ご馳走さまでした』とにこやかな笑顔を向け、店をでた。
そういえば、藤乃くんと出会ってから彼は何かあるごとに必ずお礼の言葉や美味しかったという感想を述べている。
しかも、それが自然に口から吐いて出ているのだ。
恩着せがましいわけでもない藤乃くんの本当の感想に言われた相手もほんのりと笑顔を浮かべる。
何年もあんなにひどい環境にいながら、こうやって素直にお礼が言える藤乃くんのことを素直にすごいと思った。
と同時に一度ちゃんと聞いてみたいと思ったんだ。
俺はご馳走してくれたことへのお礼を伝えてから、藤乃くんに『どうして毎回店員にお礼を言うのか?』と尋ねてみた。
彼はどんな反応をするだろう?
少し緊張しながら彼の答えを待っていると、藤乃くんは俺の質問の意図がわからないと言った様子を見せた。
俺は『客としてお金を払う以上、相手はその対価としてサービスしているだけでそこにお礼は必要ないと考える人もいる』と話すと、藤乃くんはさらに困惑の表情を浮かべながら、俺の言っている意味がわからないと言い出した。
人に何かをしてもらったら自然とお礼は出てくるものだと話す藤乃くんの表情に俺はハッとした。
そうか。
考え方が根本から違うんだ。
だからあんなに素直にお礼が言えるのだ。
これは彼の親の影響なのか、それとも彼自身の?
いずれにしても藤乃くんのこの感性は俺にとって深い衝撃を与えた。
彼は俺からされることを当然だと思わない。
いつでも遠慮して、決して自分からは甘えたりしない。
今までの相手とは全てが違うんだ。
だからこんなにも藤乃くんに惹かれたのかもしれない。
だが、どうしよう。
藤乃くんのようなタイプの攻略方法がわからない。
俺の財力を持ってすればすぐに恋人くらいにはと考えていたのに……金には靡かないとなるといよいよどうしていいかわからない。
俺はもう決して藤乃くんを手放す気はないが、彼をどうやって自分のものにするか作戦を練り直す必要があるな。
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