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ずっと呼ばれたかった
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真琴くんと楽しい時間を過ごし、満足していると、そろそろお開きにしようというユウさんの声が聞こえた。
気づけばもう数時間経過していたみたいだ。
楽しい時間ってあっという間に経つんだな。
「あ、ちょっと最後に大事な話があって……」
ユウさんと真琴くんが腰をあげかけた時に慎一さんがそう声をかけた。
「砂川くんにちゃんと自己紹介してなかったので……」
その言葉で、慎一さんのあの仕事と名前のことだとすぐにわかった。
真琴くんはユウさんからやっぱり何も知らされていないんだというのは、ここにきて慎一さんのことを河北さんと呼んだからすぐにわかった。
「自己紹介って……僕、河北さんのこと知ってますよ。シンさんですよね」
真琴くんの笑顔に胸が痛くなる。
仕事上のことで仕方がなかったとしても騙されたって思うだろうか?
せっかく真琴くんとの距離が縮まったと思ったけれど、少し距離を置かれたりするかもしれない。でも真琴くんにはちゃんと慎一さんの気持ちをわかってもらいたい。
「それは間違い無いんだけど実は苗字が違うんだ。砂川くんとあの店で会った時は、偽名を使って潜入捜査をしていたから、砂川くんに本名を伝えるわけにはいかなかったんだよ。でも、これから四人で過ごすことが多くなるから、いつまでも偽名のままでいるわけにはいかないから、今日伝えようと思っていたんだ。騙しててごめんね」
丁寧に説明をする慎一さんを見て、真琴くんは少し困惑した様子を見せている。
ここは僕が慎一さんを守らなきゃ!!
「あ、あの、真琴くん! 慎一さんは真琴くんを騙そうと思ったわけじゃなくて守るために頑張ってて! だからっ」
決して騙そうとしていたんじゃないって伝えたかった。優しい慎一さんのことを誤解してほしくなくて僕は必死になっていた。
そんな時、突然僕の隣から
「伊月……ありがとう」
という慎一さんの声が聞こえた。
えっ? 今、伊月って……。
僕の聞き間違いかな?
「し、慎一さん……今、なんて……?」
「あ、ごめん。俺のこと守ってくれたのが嬉しくてつい……。呼び捨て、嫌だった?」
嫌だなんて思うわけがない!
真琴くんがユウさんから真琴って呼び捨てにされているのが羨ましいって、二人を見ながらずっと思っていた。
ずっと呼ばれたかったって気持ちをぶつけると、慎一さんはぎゅっと抱きしめてくれた。
真琴くんと距離が縮まったのも嬉しかったけれど、慎一さんとももっと距離が近い恋人になれた気がしてすごく嬉しい。
僕……本当に幸せだ……。
慎一さんの温もりに幸せを感じていると、
「続きは二人っきりになってからやってくれ」
というユウさんの声が聞こえてビクッとしてしまった。
そうだ、ここお店だったんだ。
慎一さんに名前で呼ばれたのが嬉しくてすっかり忘れてしまっていた。
真琴くんに、慎一さんと抱き合っているところ見られちゃって恥ずかしい!!
慌てて慎一さんから離れようとしたけれど、
「いいよ。伊月はここにいて」
と優しく耳元で囁かれる。そんなことをされて離れられるわけがない。
きっと顔は真っ赤になっているだろうなと思いながら、僕は静かに慎一さんの腕の中にいた。
「話は元に戻すけど、そういうわけで俺は河北じゃなくて、本当は『甲斐』っていうんだ。甲斐慎一」
「ああ、だからシンさんなんですね」
慎一さんは僕を抱きしめたまま、話を続け自分が『甲斐』という苗字だと告げた。
これからも仕事で偽名を使うことがあるから、『シン』でいいよと慎一さんが伝えると、真琴くんは意外と簡単に受け入れてくれてホッとした。
これで、真琴くんには何も隠し事は無くなったな。
なんだか心が軽くなった気がする。よかった。
「伊月くんはまだ学校には来れないんだよね?」
部屋を出る直前に真琴くんにそう尋ねられた。
そうだ、学校のことを言っておかないとね。
「お医者さんからはあと一ヶ月くらいは安静にしてた方がいいって言われてるんだ。でも慎一さんが家で講義を受けられるようにしてくれたから大丈夫」
テストには十分間に合うからその点ではよかったかな。
「レポートとか書くときは一緒にやろう。いつでもメッセージとか電話とかしてね」
そんな誘いも嬉しい。でも僕は慎一さんがいない時はあまり外には出られないし、どうしようかなと思っていると、
「うちのゲストルームは真琴くんとユウさんならいつでも大歓迎だから、好きな時にきてくれていいよ」
と慎一さんが声をかけてくれた。
そうだ、ゲストルームがあるんだった。前に慎一さんに教えてもらったんだよね。
あそこなら誰にも気兼ねなくのんびりしながらレポートも書けるな。
「じゃあ出ようか」
ユウさんの声掛けで部屋を出て駐車場に向かうと真琴くんたちもすぐ近くに車を止めていたみたい。
真琴くんたちの車はどれかな? なんて思っていると、
「伊月くんとシンさんが乗ってきた車はどれ?」
と真琴くんから尋ねられた。どうやら同じことを考えていたみたいだ。
「えーっと、あ、あれかな」
「わぁー、まるっとして可愛い!」
僕が選んだ慎一さんの車を褒められるのはなんだかとっても嬉しいな。
気づけばもう数時間経過していたみたいだ。
楽しい時間ってあっという間に経つんだな。
「あ、ちょっと最後に大事な話があって……」
ユウさんと真琴くんが腰をあげかけた時に慎一さんがそう声をかけた。
「砂川くんにちゃんと自己紹介してなかったので……」
その言葉で、慎一さんのあの仕事と名前のことだとすぐにわかった。
真琴くんはユウさんからやっぱり何も知らされていないんだというのは、ここにきて慎一さんのことを河北さんと呼んだからすぐにわかった。
「自己紹介って……僕、河北さんのこと知ってますよ。シンさんですよね」
真琴くんの笑顔に胸が痛くなる。
仕事上のことで仕方がなかったとしても騙されたって思うだろうか?
せっかく真琴くんとの距離が縮まったと思ったけれど、少し距離を置かれたりするかもしれない。でも真琴くんにはちゃんと慎一さんの気持ちをわかってもらいたい。
「それは間違い無いんだけど実は苗字が違うんだ。砂川くんとあの店で会った時は、偽名を使って潜入捜査をしていたから、砂川くんに本名を伝えるわけにはいかなかったんだよ。でも、これから四人で過ごすことが多くなるから、いつまでも偽名のままでいるわけにはいかないから、今日伝えようと思っていたんだ。騙しててごめんね」
丁寧に説明をする慎一さんを見て、真琴くんは少し困惑した様子を見せている。
ここは僕が慎一さんを守らなきゃ!!
「あ、あの、真琴くん! 慎一さんは真琴くんを騙そうと思ったわけじゃなくて守るために頑張ってて! だからっ」
決して騙そうとしていたんじゃないって伝えたかった。優しい慎一さんのことを誤解してほしくなくて僕は必死になっていた。
そんな時、突然僕の隣から
「伊月……ありがとう」
という慎一さんの声が聞こえた。
えっ? 今、伊月って……。
僕の聞き間違いかな?
「し、慎一さん……今、なんて……?」
「あ、ごめん。俺のこと守ってくれたのが嬉しくてつい……。呼び捨て、嫌だった?」
嫌だなんて思うわけがない!
真琴くんがユウさんから真琴って呼び捨てにされているのが羨ましいって、二人を見ながらずっと思っていた。
ずっと呼ばれたかったって気持ちをぶつけると、慎一さんはぎゅっと抱きしめてくれた。
真琴くんと距離が縮まったのも嬉しかったけれど、慎一さんとももっと距離が近い恋人になれた気がしてすごく嬉しい。
僕……本当に幸せだ……。
慎一さんの温もりに幸せを感じていると、
「続きは二人っきりになってからやってくれ」
というユウさんの声が聞こえてビクッとしてしまった。
そうだ、ここお店だったんだ。
慎一さんに名前で呼ばれたのが嬉しくてすっかり忘れてしまっていた。
真琴くんに、慎一さんと抱き合っているところ見られちゃって恥ずかしい!!
慌てて慎一さんから離れようとしたけれど、
「いいよ。伊月はここにいて」
と優しく耳元で囁かれる。そんなことをされて離れられるわけがない。
きっと顔は真っ赤になっているだろうなと思いながら、僕は静かに慎一さんの腕の中にいた。
「話は元に戻すけど、そういうわけで俺は河北じゃなくて、本当は『甲斐』っていうんだ。甲斐慎一」
「ああ、だからシンさんなんですね」
慎一さんは僕を抱きしめたまま、話を続け自分が『甲斐』という苗字だと告げた。
これからも仕事で偽名を使うことがあるから、『シン』でいいよと慎一さんが伝えると、真琴くんは意外と簡単に受け入れてくれてホッとした。
これで、真琴くんには何も隠し事は無くなったな。
なんだか心が軽くなった気がする。よかった。
「伊月くんはまだ学校には来れないんだよね?」
部屋を出る直前に真琴くんにそう尋ねられた。
そうだ、学校のことを言っておかないとね。
「お医者さんからはあと一ヶ月くらいは安静にしてた方がいいって言われてるんだ。でも慎一さんが家で講義を受けられるようにしてくれたから大丈夫」
テストには十分間に合うからその点ではよかったかな。
「レポートとか書くときは一緒にやろう。いつでもメッセージとか電話とかしてね」
そんな誘いも嬉しい。でも僕は慎一さんがいない時はあまり外には出られないし、どうしようかなと思っていると、
「うちのゲストルームは真琴くんとユウさんならいつでも大歓迎だから、好きな時にきてくれていいよ」
と慎一さんが声をかけてくれた。
そうだ、ゲストルームがあるんだった。前に慎一さんに教えてもらったんだよね。
あそこなら誰にも気兼ねなくのんびりしながらレポートも書けるな。
「じゃあ出ようか」
ユウさんの声掛けで部屋を出て駐車場に向かうと真琴くんたちもすぐ近くに車を止めていたみたい。
真琴くんたちの車はどれかな? なんて思っていると、
「伊月くんとシンさんが乗ってきた車はどれ?」
と真琴くんから尋ねられた。どうやら同じことを考えていたみたいだ。
「えーっと、あ、あれかな」
「わぁー、まるっとして可愛い!」
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