何もできない僕が甘えてもいい? 〜イケメンな彼の優しさに戸惑っています

波木真帆

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もっと仲良くなりたい!

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「お待たせいたしました」

テーブルに並べられたデザートの数々。見ているだけで美味しそうだとわかる。

まずは砂川くんオススメの抹茶プリンから。顔を見合わせながら一緒にプリンを掬って口に運んだ。

口に入った瞬間、抹茶の香りがふわっとして滑らかな歯触りに思わず声が出た。

「んーっ、このプリン。美味しい!!」

僕の感想に砂川くんは満足そうな表情を見せた。
でも本当にこれ、美味しいな。

これまで食べた中では慎一さんが買ってきてくれたプリンが最高だと思っていたけれど、これはこれですっごく美味しい。

正直に砂川くんに話すと、僕が気に入っているプリンが気になったみたい。

少し硬めのプリンに生クリームと果物がのっていたことを教えると目を輝かせていた。
砂川くんも少し硬めのプリンが好きだもんね。きっとあのプリンは気にいるだろうな。

「わぁー、それ絶対美味しいよね! そういえば、僕も最近美味しいケーキ屋さんに連れて行ってもらってね……」

「あ、僕もこの前慎一さんから名古屋のお菓子をもらってね……」

デザートを食べながら、スイーツの話が止まらない。
なんだか大学であっていた頃よりもずっと砂川くんとの距離が縮まった気がする。

お互いに大事な人ができたからかな?
それもきっとあるだろうけど、多分僕の心にゆとりができたのも大きいかもしれない。

慎一さんと出会う前の僕は大学に通うことはもちろん、毎日を生きていくことに必死で、砂川くんとこんなにもゆったりとした時間を過ごせることは少なかった。

でも今は違う。慎一さんに出会えたおかげで、毎日の食事の心配も要らず、大学の勉強に集中できるようになった。

きっと砂川くんも同じかも。僕とは全然環境も違うけれど、親元から遠く離れてきて時々お兄さんが来てくれても寂しかったかもしれない。でもそんな寂しさはユウさんと出会ったことできっとなくなったんじゃないかな。

お互いにゆとりを持って友人として付き合えるようになったのだから、今までより少し進んでみたい。
そんな願望が僕の中に現れた。

あまりグイグイいって引かれたくはない。

でも少しだけ頑張ってみようかな。よし!

デザートもだいぶ食べ終えた頃、僕は覚悟を決めて砂川くんに話をかけた。

「ねぇ。砂川くん……あのさ、僕……入院先でずっとリハビリしてたんだけど……そこで僕たちと同じ大学三年の実習生が担当になってくれて、すごく仲良くなったんだ」

どうやって話をしようかと悩んで、尚孝くんの話を持ち出してみた。
やっぱりというか当然というか、僕が突然知らない人の話をして砂川くんが驚いている。でもここから話を進めないといえない気がした。

砂川くんはキョトンとしながらも、友達がいるとリハビリも頑張れるよねと優しい言葉を返してくれる。
本当にいい子なんだ。

ここまで言ったんだから突き進むしかない。僕は心の中で深呼吸をしながら話を続けた。

「それでね、その子から伊月くんって名前で呼ばれてて……あ、その子の学校、みんな名前で呼び合うことが多いらしくて……あの、それで……砂川くんにも名前で呼んでほしいなって……。それで、できたら……僕も砂川くんを名前で呼びたくて……だめ、かな?」

意を決して話したけれど、最後のほうは緊張して声が小さくなってしまった。
砂川くんはどう思っただろう?

僕なんかに名前で呼ばれたくないと言われたらそれは受け入れよう。
そう覚悟を決めていたけれど、砂川くんは僕を見ながら優しい笑顔を見せてくれた。

「もちろん! ぜひ名前で呼んでよ!! 僕も伊月くんって呼ばせてもらうね!!」

想像以上に嬉しそうな声が返ってきてただただ驚きしかない。

無理していないか心配になったけれど、砂川くんは満面の笑みで

「あのね、実はずっと田淵くんのこと名前で呼びたかったんだ」

と言ってくれた。

実は砂川くんの地元である沖縄は同じ苗字が多いこともあって、そこまで親しい間柄でなくてもクラスメイトは名前で呼び合うのが一般的だったみたいだ。だけど、東京ではものすごく仲がいい子しか名前で呼び合わないと知って名前で呼ばないように努力していたんだと教えてくれた。

そんな理由があったなんて知らなかった。所変われば品変わるなんていうけど、本当だな。

「伊月くん、これからよろしくね」

「――っ、うん! あ、えっと……真琴くん」

「伊月くん、緊張してる!」

「だって初めてだから緊張するよ」

「伊月くん」

「真琴くん」

「ふふっ。やっぱりこっちがいいね」

「うん。こっちがいい」

お互いに名前を呼び合うだけでグッと距離が縮まった気がして嬉しかった。
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