何もできない僕が甘えてもいい? 〜イケメンな彼の優しさに戸惑っています

波木真帆

文字の大きさ
上 下
10 / 42

二枚の写真

しおりを挟む
「田淵くん」

「あっ、河北さん!!」

想像していたよりも早く河北さんが来てくれて、嬉しいのと緊張が混ざったような声が出てしまった。

「んっ? どうかした?」

「えっ?」

「いや、なんかすごく張り切ってる感じがしたから。今日のリハビリ、楽しかった?」

河北さんってすぐになんでも気づいてくれるんだな。すごい。

「はい。今日は河北さんのお菓子のおかげで頑張れました。あのお菓子、すごく有名なんですね。尚孝くんが行列ができるお店だって教えてくれました」

「昨日は時間帯が良かったからあんまり並ばずに買えたんだよ。美味しかった?」

「はい。すっごく美味しかったです。特にあの、無花果と胡桃のビスコッティっていうのが、すごく美味しかったです」

フィナンシェもクッキーも美味しかったけれど、あの固さがすごく珍しくて、尚孝くんが用意してくれた甘いカフェオレにもピッタリで幾つでも食べられるくらい美味しかった。ビスコッティっていう名前も尚孝くんに教えてもらうまで知らなかったけど、僕の好きなものの一つになったかな。

「やっぱり! あれ、田淵くんなら気にいると思ったんだ。だから、あれだけ追加で持ってきたよ」

「えっ??」

河北さんがさっと背中に隠していたあの小さな紙袋を見せてくれる。
驚きつつも受け取って中を見ると、ビスコッティがいくつも入っているのが見える。

「河北さん……いいんですか?」

「もちろん! 俺もビスコッティ好きなんだよ。だから気に入ってくれて嬉しいよ」

「ありがとうございます」

河北さんもこれ、好きなんだ……。じゃあ、これは河北さんと二人で食べたいかな。
心の中で尚孝くんにごめんねと謝りながら、僕はこのお菓子だけは河北さんと二人で食べることに決めた。

「あの、僕……いつも美味しいお菓子を持ってきてくれる河北さんにお礼がしたくて……」

「お礼なんて気にしなくていいよ」

「河北さん、優しいからそういうと思ってこっそりお礼を考えようとしたんですけど……ごめんなさい、思いつかなくて……それで、尚孝くんと、山野辺先生に相談したんです」

「谷垣くんと、山野辺先生にも? それで先生はなんて?」

「それが……河北さん本人に聞いた方がいいって……。だから僕、河北さんに聞きたくて……」

「そうか……でも、お礼なんて本当に気にしなくていいんだけど……でも、それじゃあ田淵くんが気になるのかな。あ、じゃあ今日みたいに毎日自撮り写真送ってよ」

「えっ? 自撮り、写真ですか?」

思っても見なかった答えに僕は聞き返すことしかできなかった。

「そう。今日の写真可愛かったから」

「――っ、あれは削除してほしいって……」

寝起きで寝巻き姿だったのに……。

「可愛いって言ったろう? 消すわけないよ。でもほんと、起きて挨拶と一緒に写真撮って送ってくれたら嬉しいな。ああ、できたら寝る時も。おやすみって言ってほしい」

「河北さん……そんなので、お礼になりますか?」

「ああ。一日仕事頑張って寝る時にそう言ってもらえたら今日頑張ったなって思えるし、朝もおはようって言ってもらえたら今日も頑張ろうって思えるよ。ね、田淵くん。頼むよ」

河北さんがそこまで言ってくれるなら、僕はその通りにしたい。

だって僕もおはようとかおやすみなさいとかずっと送ってみたかったんだもん。

「はい。じゃあ今日の夜から送りますね。夜も写真もあった方がいいですか?」

「もちろん! 写真付きで頼むよ!!」

ものすごく前のめりに言われてちょっとびっくりしたけど、自撮りするのも楽しいから良かったかな。


夕食を一緒に食べて、河北さんが帰っていくとやっぱり寂しい。でも昼に会った時よりはまだ余韻が残っているから昨日よりはぐっすり眠れるかも。

お風呂がわりにお湯で濡らしたタオルで自分の身体を拭き、寝巻きに着替える。ギプスが濡れないようにガードをつけて、椅子に座ってシャワーを浴びることもできるけれど、すごく疲れるから週に二度くらいでいいかな。基本的に拭くだけでいいと伝えている。一人暮らしの家でもお金がかかるから髪の毛だけ洗って身体は拭くだけだったし、問題はない。ここでは髪の毛は二日に一度、洗髪ルームで洗ってもらえるからすごく楽でいい。

寝巻きに着替えてから、もふもふのワンワンケースに入ったスマホを撮り、まずはメッセージを書く。

<今日も河北さんに会えて嬉しかったです。お仕事大変でしょうけど、明日も頑張ってくださいね。応援してます。おやすみなさい。伊月>

次は自撮りだ。

今朝はとりあえずプレゼントを受け取ったことを伝えなきゃという気持ちでいっぱいで何も考えずに撮っちゃってたけど、撮って送ってと言われるとどうやって撮ろうかと悩んでしまう。

顔だけ? いや、僕の顔だけ写ってても仕方ないか。できるだけ全身が写ってた方がいいのかな?
腕を思いっきり伸ばして一度撮ってみる。

これでいいかな? 遠すぎてよく見えないとか?

とりあえず悩んだ末に座っている全身と顔だけのを撮って二枚送ることにした。
どっちがいいか聞いて、河北さんの選んだ方の構図で撮るようにしよう。

メッセージと一緒に二枚の写真、そして<どっちの写真がいいか教えてください>というメッセージも添えて送ると、すぐに既読がついたもののなかなか返信がない。

どっちも変だったから選べない、とか……? わぁ、ありうる……。
どうしよう……失敗したかな?

しばらく経って、

<ごめんね。可愛すぎて悩んでた。どっちも選べないからこれからも毎日二枚送って! その方が頑張れそう!! おやすみ>

というメッセージと一緒に河北さんの写真が送られてきた。

「わっ! これ、お家の河北さんかな? かっこいいな」

ワイングラスを片手に笑顔の河北さんをみてどきっとする。
大人の男の人って感じだな。ほんと、カッコ良すぎる。

僕は消灯になってからもずっと河北さんの写真を見ながら、眠りについた。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

処理中です...