何もできない僕が甘えてもいい? 〜イケメンな彼の優しさに戸惑っています

波木真帆

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頑張るしかない!

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<わぁーっ、このスタンプ可愛い!!>

いつものように隣で笑ってくれているような反応で思わず笑ってしまう。
どうやら砂川くんを喜ばせることには成功したみたい。

これも河北さんに報告かな。だって、このスタンプ、河北さんがこのメッセージアプリを使うときに作ってくれたものだもんね。

しばらくベッドで休んでいると、河北さんがやってきた。

そろそろ来てくれるかなと思っていただけに顔を見られて嬉しくなる。

始めたばかりのリハビリのことを心配してくれているみたいだったから、頑張ったと伝えると笑顔でご褒美を渡してくれた。
もちろんご褒美のスイーツも嬉しいけれど、僕は河北さんが来てくれるだけで嬉しいんだよね。

と思いつつも、渡された小さな箱を開けて喜んでしまう。今日のスイーツはプリンに生クリームとたくさんのフルーツが載っている、いわゆるプリンアラモードというやつだ。

こんなに豪華ではなかったけれど、小さい頃に食べたこともある。
懐かしいなと思いながら、プリンと生クリームを掬って口に入れると、懐かしさを遥かに凌駕する美味しさに驚いた。

プリンアラモードってこんなに違うものなんだな……。初めて知った。
これ、すっごく美味しい!!

食べ切ってしまうのがもったいなく思えてゆっくりと食べていると、半分ほど食べ進んだところで、リハビリのことを尋ねられた。

だから僕は仲良しになった尚孝くんの話をすることにしたんだ。

将来理学療法士になるために実習で来ている大学生の子が担当についてくれることになって、その子が山野辺先生もびっくりするくらい勉強してきていること。僕の身体のことをしっかりと見てくれていることを伝えると、河北さんはいい子がついてくれてよかったと安心してくれているようだった。

本当に尚孝くんはすごい人だ。それがわかっているから尚孝くんの話をしているうちに、なぜかどんどん自分の不甲斐なさを感じてしまって、一気に話が暗い方に進んでしまった。

河北さんには明るい話だけを伝えたかったけれど、一度ネガティブなことが頭に浮かんだら止められなくなってしまって、気づけば、これからの学校生活、特に奨学金に対する不安をぶつけてしまっていた。

僕は入学と同時に給付型の奨学金を受けられることになったおかげで親の援助もなく一人でも大学に通えているけれど、この奨学金は在学中の試験の成績が悪くなると途端に打ち切られてしまう。

だからこそ、絶対に試験は手が抜けない。アルバイトをしつつも、試験期間だけは試験にかかりきりにならないと僕の頭では奨学金をもらえるだけの成績が維持できない。

入院している今はまだもう少しだけ夏休みだけど、後期の授業が始まってもまだ入院生活は続く。
入院しているんだから当然だけど、その間は授業にも出られない。出席必須の授業がいくつかあるからその単位は取れないかもしれない。
試験やレポートで対応できても授業に出られなければそれもできないし……砂川くんに頼めばノートは貸してもらえるかもしれないけど、そんな図々しいことを頼んでいいのかもわからないし、借りられても僕の頭じゃノートだけじゃ奨学金が継続できるほどの成績は取れないかも……。

となると、奨学金が受けられなくなった時の学費をどうやって捻出するかを考えないといけないな。最悪、休学して学費を貯めるしかないか……なんてことを考えながら、その不安を河北さんに打ち明けると、

「それなら気にしないでいい」

と笑顔を向けられた。

気にしないでいいってどういうことなんだろう?

驚いていると、河北さんは笑顔のまま教えてくれた。

「大学の庶務課に話をつけてきたよ。次の試験の成績は奨学金には影響されないようにしてもらった。単位の取得条件に関して出席必須の授業もオンラインでカバーできるように調整してもらえることになったよ。だから怪我の治り具合で大学に通えなくても家で勉強できるから問題ないよ。田淵くんがオンラインで授業が受けられるように準備も整えているから」

その内容があまりにもすごくて僕は驚くことしかできない。
まさかこんなことまでしてくれるなんて……僕はどうやってこの恩を河北さんに返したらいいんだろう……。

「安心して、今はリハビリに専念して元気になることだけを考えたらいい」

そうだ。僕にできることは少しでも早く元のように歩けるようになって、河北さんの家の用事ができるようになること!
その約束をきちんと守れるように僕は頑張るだけだ。


「すごい! 伊月くん、今日はなんだかものすごくやる気だね!!」

次のリハビリの日。尚孝くんの指導通りに必死になってやっていると、尚孝くんからそんなお褒めの言葉をもらった。

「僕に今やれることはリハビリだってわかったから、必死に頑張って少しでも早く歩けるようになろうと思ってるんだ」

「そうなんだ。頑張ることはいいことだし、回復するのはとっても大事なことだけど、無理は禁物だよ!! リハビリの時間以外に一人で無茶なことをすると逆に怪我をして治りが遅くなるからね。頑張るのは僕や山野辺先生がついてるときだけって約束してね」

「うん、わかった! 約束する!! だから、少しでも早く回復するように尚孝くん、よろしくお願いします!!」

「わかった。一緒に頑張ろうね!!」

急にやる気を出した僕に驚きつつも、尚孝くんは特別理由を聞くこともなく僕のリハビリが早く進むように頑張ってくれた。本当に尚孝くんが担当になってくれてよかったな。
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