何もできない僕が甘えてもいい? 〜イケメンな彼の優しさに戸惑っています

波木真帆

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嬉しい出会い

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「ということで、まずはここから転院することにしたから」

「えっ? 転院、ですか?」

怪我が治ったら住み込みで家事をやるという話からの、突然の転院の話に驚いてしまったけれど、河北さんは当然のことだというように話を続けた。

「ここは事故で緊急搬送された病院だからね、いわば応急処置されただけだ。ここから患者さんたちに合う病院に移った方が怪我の治りも早いんだ。田淵くんの場合は、怪我を治すだけでなく、怪我で一時的に失ってしまっている運動機能を元に戻すためにもリハビリ訓練が必要なんだ」

「リハビリ……」

「そう。ずっと歩いていない筋肉を急に動かそうとしても固まってしまっているだろう? そうすると今まで通り歩くことも難しいし、また怪我をする恐れがある。今、怪我をしている時から少しずつ筋肉を動かしていないと、怪我が治った時には筋肉がすっかり固まってしまって一生車椅子や杖でしか動けなくなってしまうんだよ」

「それは、困りますっ!」

「だろう? だから、リハビリ施設が充実した病院に転院するから、転院したら毎日リハビリ訓練の時間があるから頑張ろう。そうしたら二ヶ月後には今までと変わらず歩けるようになるよ」

「分かりました! 僕、頑張ります!!」

入院してから砂川くんのことが心配で、何もできないのがもどかしくて、やっと砂川くんのことが解決して、それでこの怪我さえ治れば元通り……って勝手に思ってた。

でも、確かにそうだ。怪我が治ったからって急に動けるわけじゃない。昔、おじいちゃんが玄関で転んで骨折してそのまま入院になってしまった時、先生たちからはリハビリをするように勧められていたのに、やる気になってくれないっておばあちゃんがぼやいてたっけ。結局骨折は治っても筋肉が衰えて動けなくなってそのまま寝たきりになっちゃったんだった。あれって、お年寄りだけの話じゃないんだな。

僕も頑張らないと!!

そうして、その日のうちに転院したけれど、新しい部屋は今までいた個室の百倍くらいすごい豪華な部屋で驚いた。ベッドだけじゃなく、広々としたソファーや大きなテレビまである。こんな部屋、僕に分不相応だと思ったけれど、この部屋しか空いていないらしい。

二ヶ月の間に他の部屋に空きができたら最優先で入れてもらえるという話だったから、しばらくは慣れないながらもこの部屋を使うしかない。でも本当、ドキドキしてしまう。

「これから早速リハビリの担当の先生と顔合わせをして、身体の状態を見てもらうからね」

緊張のままに河北さんに車椅子に乗せられて、リハビリ施設まで向かうとかなり広くて充実した施設に驚いてしまう。

「君が田淵伊月くんだね。私が君のリハビリ担当の山野辺だ。これから一緒に頑張っていこう」

「は、はい。よろしくお願いします」

ここから急に立ち上がったり歩いたりする訓練をするわけじゃなくて、初日は、山野辺先生が僕の身体の今の状態をしっかりと診てくれた。これを元にリハビリのスケジュールを立ててくれるそうだ。

山野辺先生は僕の動きを全てメモに取っていって、最後にストレッチとマッサージをしてくれた。
それだけでも怪我をしてからの日々ですでに筋肉がかたまりかけていることがわかるくらい、最初は痛かった。
でもだんだんと楽になっていって驚いた。

「先生、すごいですね」

「そうやって素直に褒めてもらえると嬉しいよ」

リハビリの先生が怖かったら……なんて思っていたのが馬鹿らしく思えるくらい、山野辺先生は優しくてホッとした。



次のリハビリの日。先生の隣に若い男性が立っていた。先生と同じ理学療法士さんの制服を着ていたからこの人も先生かな?

「山野辺先生、こんにちは」

「田淵くん、今日も元気そうで良かったよ」

笑顔の先生に声をかけると、隣の男性も僕を見て笑顔を見せてくれる。
わぁ、近くで見ると余計に若い。もしかして大学生?

僕がチラチラと彼に視線を向けていることに気づいたのか、すぐに山野辺先生が紹介してくれた。

「彼は将来理学療法士を目指している学生で、実習に来ているんだ。実習期間が田淵くんのリハビリ期間と同じだから、彼にも田淵くんのリハビリに参加してもらうことになったんだよ。さぁ、谷垣くん。挨拶して」

「はい。桜守大学医学部、理学療法学科から実習に来ました谷垣尚孝です。これから二ヶ月間、どうぞよろしくお願いします」

それが尚孝くんとの出会いだった。
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