何もできない僕が甘えてもいい? 〜イケメンな彼の優しさに戸惑っています

波木真帆

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人生の転機

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<有能な調査員は健気で不憫なかわい子ちゃんを甘やかしたい!>の伊月視点のお話です。
長くなりそうなので慎一視点と分けることにしました。楽しんでいただけると嬉しいです♡

  *   *   *

<side伊月>

慎一さんの寝室で、慎一さんのおっきなベッドに座って、慎一さんと、初めてのキス……。もう何もかもが夢みたい。
まさか、僕にこんな人生がやってくるなんてあの日は思いもしなかった。

あのコンビニで働き始めてすぐに、失敗したと思った。

コンビニはやることも多くて大変な仕事だっていうのはわかっていたけれど、大学や自宅から徒歩圏内は僕にとっては必須事項だった。面接では、試験前から試験中にかけては休みや働く時間を融通してくれるから勉強時間は確保できるし、賞味期限が近くなって店頭には出せないお弁当もくれると言っていたから、食費も節約できると思ってバイトを始めたけれど、入ってみたら、休日にも無理やり仕事に出させられるし、アルバイトには関係ない在庫管理や発注までやらされるし、もちろん、お弁当は全て廃棄でおにぎり一つも渡してもらえない。
全てが面接の時の話と違って騙されたと思ったけれど、高圧的な店長には逆らえず、結局ずるずるとバイトを続けていた。

そして、あの日もバイトに行っていた。歩いて帰るのが辛いくらいに働き詰めでフラフラしながら帰宅していたとき、途轍もない衝撃に僕の身体は跳ね飛ばされていた。

そこからの記憶はほとんどない。

気がついたら病院のベッドに寝ていて、身体中に痛みが走った。特に足は全く動かせないほど痛くて、これからのことを何も考えられなかった。

それから看護師さんとお医者さんがきてくれて、僕が事故に遭って搬送されたことを知った。
警察の人にも事情を聞かれたけれど、後ろからの衝撃でそのまま意識を失ったから、僕自身は何もわからない。
警察の人は犯人を探してくれているようだったけれど、お医者さんからは全治二ヶ月との診断を受け、その間の入院費用については僕自身の支払いだと言われてしまった。

親に連絡をしたほうがいいと言われたけれど、僕の大学合格が決まってすぐに両親は離婚していて、その時すでに成人していた僕とはもう連絡を取り合ってもない。風の噂では父は海外で生活を始め、母はもうすでに再婚してどこか県外に移り住んでいるということだったから、たとえ僕が入院していると連絡がついたとしても来てはくれないだろう。

どうしていいか途方にくれていた時に、入院していた部屋に一番最初にやってきたのは、まさかの店長だった。
もしかしたら少し優しい言葉をかけてくれるかも……なんて期待は、一瞬で霧散した。

自分がどれだけ愚かだったか暴言を浴びせられ、ただでさえ入院でどうしていいかわからない僕の心を抉った。
働きたくても働けないのに、さっさと退院して働けと言われた時は目の前が真っ暗になった。

そんな時、店長から僕を守ってくれたのが、友人の砂川くんだった。

大学に三浪して入った僕はなかなか友人もできずにいつも一人だった。そんな僕に声をかけてくれたのが彼。
田舎出身だからと卑屈になる僕に、自分は沖縄の離島出身でもっと田舎だよと笑って教えてくれた優しい人。
砂川くんがそれからいつもそばにいてくれたおかげで、僕の大学生活は充実した。月に一度、二人で大学近くの喫茶店で食べるオムライスが最高に美味しくて、僕のどんな話でも笑ってくれて、大変なレポートだって二人で一緒に頑張って書き上げた。僕にとっては友人というより親友な彼が、あの嫌な店長から僕を守ってくれた。

話の流れで、僕の代わりに砂川くんがあの店長の下で働くことになってしまって不安で仕方がなかったけれど、僕はベッドから下りることもできないから、あの店長が砂川くんをいやらしい目で見ているんじゃないかって不安だったけど、『気をつけて!』と注意を促すことしかできなかった。

笑顔で帰っていく砂川くんを見送りながらも、僕の心は不安しかなかった。

その後すぐに、一人の男性が僕の部屋に入ってきた。あのコンビニの本社から調査を頼まれたという人だ。
河北さんと名乗った人は、僕に他言無用の話をしてくれた。

そして、僕を怪我させた犯人があの店長だということも教えてくれた。
その目的が僕を辞めさせて代わりに砂川くんをコンビニで働かせることだとも知って、血の気が引く思いがした。

僕のせいで砂川くんがとんでもない目に遭ったらどうしよう……それだけが不安で仕方がなかった。

けれど、僕の話を聞いていた河北さんは、砂川くんを守ってくれると約束してくれた。しかももう二度と店長をこの病室にも入れないと約束してくれて嬉しかった。

頼りになる大人に出会えてホッとした僕は、河北さんが帰った後、泥のように眠った。
そしてその日からほとんど経たないうちに、砂川くんの事件が解決したのだと教えてくれたんだ。

初めて病室に来てくれた日から、毎日のようにお見舞いに来てくれた河北さんは、いつも美味しいスイーツを持って部屋に来てくれた。

プリンにドーナツ、フルーツサンドにシュークリームなど一人暮らしを始めてから、ほとんど手が出せなかったものばかり。甘いものは美味しいけれど、節約生活では難しかったんだ。

病院の食事も美味しかったけれど、やっぱり甘いものは格別。その日は特に美味しいケーキを持ってきてくれた。
今、思えばあれは事件解決のお祝いケーキだったのかもしれない。

フワッフワのスポンジに甘さ控えめの生クリームと驚くほど甘いメロンが最高に美味しくて、あっという間に食べてしまった。河北さんはそんな僕を優しい目で見つめてくれていたんだ。

僕がケーキを食べ終わってから、河北さんは事件のことを教えてくれた。
あの店長が砂川くんに手を出そうとして捕まり、砂川くんは無事だったと教えてくれてホッとした。

けれど、僕の事故の犯人が店長だとわかっていると言ってもまだそれが確定したわけでもなく、僕の病院の支払いには間に合わないと言われて目の前が真っ暗になった。
そんな僕に河北さんは手を差し伸べてくれた。河北さんの家に住み込みで家事をする代わりに、病院代を支払ってくれるという話だ。本当ならこんな僕にしか得の無いような話に乗ってはいけないんだろうけど、自分では支払いができないのだから今は河北さんの優しさに甘えるしかない。それから僕は河北さんのために早く働けるようにリハビリを頑張ることにしたんだ。
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