ロイヤルウェディング 〜忘れられない恋をもう一度

波木真帆

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私たちにできること

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<sideエリック>

ロベールから、アーチーが教授の部屋に到着したという報告を受け、一気に緊張が走った。

『エリック……教授とアーチーさんは大丈夫かな?』

ヨウスケもトールも心配でたまらない様子だ。だが、ここは当事者たちで解決するしか方法はない。

『ヨウスケ。二人はもう大人だ。私たちが心配することではないよ』

『うん、そうだね』

そう言いつつもヨウスケもトールも不安なのは変わらないようだ。

だが、アーチーがあの教授との間に大きなる誤解が生じ、互いに思いつつも二十六年もの間、離れ離れに過ごすことになった。もし、今日私たちがここに出向かなければアーチーと教授の中にあった誤解を解くことは一生叶わなかっただろう。

こうした時間を得られたのも運命なのだ。

きっとあの頃より大人になった二人はお互いの気持ちに素直に向き合って話ができているはずだ。
彼らがうまく行った暁にはきっと私たちにこれからのことを話してくれるだろう。
それなら先に私たちができることがある。

二人が新しい未来を踏み出すために私たちができる唯一のことだ。

『ヨウスケ、あの教授の娘さんとやらに連絡を取ることはできないか?』

『えっ? 教授の娘さんに? どうして?』

『二人が思いを伝え合ったら私たちはもちろん、教授の唯一の家族である娘さんにも報告するはずだ。彼女はこの二十六年、教授のそばで一緒に過ごしてきた子だから、彼女に賛成してほしいと願うだろう。だが、突然教授がアーチーとやってきても驚きが勝ちすぎてうまく伝わらないこともある。私たちで彼女に先に話をしておきたい。そしてできることなら二人を祝福してほしいんだ』

人の感情を操作することはできないが、二人がどれだけ遠回りをしてようやく再会できたか、伝えることはできるはずだ。

『透、お前知ってるか?』

『連絡先はわかるかも!』

『そうなのか?』

『うん。最初ロサランに行く時に教授に一緒に行きましょうって誘ったんだけど、旅行の日程が娘さん……確か、有沙さんだったかな。その有沙さんの結婚式と被ってて断られたんだ。その時に結婚式の招待状を見せてもらって、もしロサランを旅行に行くなら、困ったことがあったら連絡していいからって、教授と有沙さんの携帯番号と滞在先のホテルの連絡先も教えてもらったんだ。確かその連絡先をまだ登録してたはず……あった!』

トールが見せてくれたスマホの画面には確かに<教授の娘・有沙さん>と書かれた番号があった。

『ちょっとかけてみるね』

『トール、スピーカーにして英語がわかるようなら途中で私に代わってくれ』

『はい、わかりました』

トールが電話をかけると部屋中にコール音が響いた。
数コール後に<もしもし>という少し訝しんだ声が聞こえた。

無理もない。あちらはトールの番号を知らないだろうからな。

ーあの、有沙さんの電話番号でお間違えないでしょうか?

ーはい。そうですが、どちらさまですか?

トールとアリサさんとやらが何を話しているのかはヨウスケが通訳して私たちに小声で教えてくれている。

ーあの、僕……真田教授のゼミをとっている小芝透と言います。

ー父のゼミの方がどうして私に? もしかして父に何かあったんですか?

ーあ、事故とか事件とかじゃないので安心してください。あの、有沙さんは教授の口からアーチー・カーディフの名前を聞いたことはありますか?

ーえっ? アーチー・カーディフってあの世界的に有名な歌手、ですよね?

ーはい。その人です。

彼女は教授から話を聞いていたのだろうか?
少し緊張しながら、彼女の言葉を待っていた。

ー特に父からファンだとか、そういう詳しい話は聞いたことはないです

ーそうですか……

ーでも、テレビでアーチーの話題が出るたびに、手を止めて見ていたのは覚えてます。でも、音楽を聴いたりはしてなかったので気にはなってました。あの、そのアーチーと父に何の関係があるんですか?

教授がアーチーのことをずっと忘れていなかったことが彼女の話からでもよくわかる。
二人の関係は孫である私の口から話すべきだろう。

『トール、彼女に英語が話せるか聞いてほしい』

トールはすぐに彼女に聞くとどうやら話ができるという言葉が返ってきたようだ。
電話を代わる旨を伝えて、トールは私に電話を差し出した。

ーはじめまして。アリサさん。私はアーチー・カーディフの孫のエリックです。

ーえっ? あ、あの……本物ですか?

ーええ。本物です。単刀直入に伺いますが、アリサさんはトモヤさんの実の娘ではない、というのは事実ですか?

ーあの、それってかなりプライベートなことですが、それを答える意図は何ですか?

ー失礼しました。私も同じなんです。私もアーチーの実の孫ではありません。私はアーチーの兄の孫です。後継となるために養子縁組をしたので、年齢の関係もあって普段は孫と名乗っていますが、戸籍上は息子です。そして、あなたが実の娘ではないことはトモヤさんに直接伺いました。

ーそうですか……父が……。確かに私は父の本当の娘ではありません。生まれる前に両親が事故で他界し、運良く母のお腹から生き残った私を父がずっと育ててくれたと聞いています。ですから血の繋がりは少ないかもしれませんが、私にとっては実の父同様です。

ーその、あなたの実の父同様のトモヤさんが、今、運命の相手と再会してこれから先の将来をその愛する人と一緒に暮らしていきたいと言ったら、アリサさんはどうしますか?

ーえっ……父に、愛する人が? それは、もちろん応援します! 私をたった一人で苦労しながら育ててくれた父です。誰よりも幸せになってほしいと思っていますし、応援しかないです。

そうはっきりと言い切るアリサさんの言葉を信じて、私は二人のことを伝えることにした。
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