7 / 15
悔いのないように
しおりを挟む
ああ、本物のトモヤだ。
そう思った瞬間、画面の向こうからも
『アーチー……ほんもの?』
と震える声で尋ねられる。
やはり私たちは二人で一人なのだとわかる。
その事実を嬉しく思いながら画面のトモヤに笑顔を向けた。
『もちろんだよ。トモヤは全く変わっていないな。私が好きになったあの時と同じだ』
正直に思いを告げたが、トモヤの訝しんだ声が聞こえる。
それはそうだろう。先ほどのトモヤの話を聞けば、私は彼の身体を奪いすぐにその場から姿を消した男なのだから。
それでも私を憎むことなく、私を忘れないでいてくれたんだ。
トモヤに会いたい。その思いが込み上げる。
『すぐに君の元に飛んで行きたいよ。私はこの二十六年、トモヤを忘れたことはなかったよ』
必死に思いを伝えようとするけれど、私も突然のトモヤとの再会にうまく言葉が出てこない。
もっとちゃんと説明したいのに。
トモヤはまだ私の言葉が信じられないようで、画面を見つめたまま何も話そうとしない。
画面にエリックの伴侶のヨースケとシェラルド王子の伴侶のトールが映ったと思ったら、スマホがエリックたちの元に渡った。
後ろではヨースケたちの声がうっすらと聞こえる。
トモヤと話をしているようだ。
私の神経はそちらに向いていたが、エリックから声をかけられた。
『アーチー。彼が話していたのは事実なのか? アーチーは彼と一夜を過ごして逃げ出したというのは本当なのか?』
孫として、祖父がそんな非人道的なことをしていたと知るのは辛いだろう。
『いや、エリック。よく聞いてくれ。私も、そしてトモヤも大きな勘違いをしていたようだ。それも全てあの日、私があの部屋を出て行ったことが問題だったらしい。私があの日、トモヤが目覚めるのを待っていれば……こんなにも長くすれ違うことはなかった』
『アーチー、信じていいんだな?』
『もちろんだ。私は、トモヤを愛している。この二十六年忘れたことは一度もなかったよ。諦めようとしたが、諦められなかったんだ』
『わかった。信じるよ。アーチーはこのまま日本に向かってくれ。もうそろそろ到着するだろう。到着したら、ロードナイトホテルに向かってくれ。私たちは彼をそこに連れて行く。あとは二人でゆっくり話をしてくれ。逃げてはダメだ』
エリックの真剣な表情に私は背筋を正した。
『ああ。日本に着いたらすぐに向かう。おそらくあと一時間で到着するだろう。その間、トモヤを頼む』
『任せてくれ。アーチー、頑張れよ!』
心強い孫の声に私は笑顔で返した。
そこからの一時間は今までトモヤと会えなかった時間よりも長く感じた。
――その口づけが永遠の誓いであったらよかった
トモヤはそう思ってくれていたのに……どうしてあんなことに……。
今更後悔してもこの失われた二十六年は帰ってこない。
だからこそ、これからの日々をトモヤと過ごせるように全力を尽くすだけだ。
必死に自分で自分を落ち着かせながら、空港からホテルに向かうタクシーに乗り込んだ。
タクシーの運転手は私を観光客だと思って話しかけてくれたが、今はそんな相手をする余裕もない。
『これから大事な人に会うんだ。だからその人のことだけを考えたい』
そう告げると、ようやく車内に静寂が広がった。
そしてようやくホテルに到着。支払いを済ませて降りようとした私に、
『きっとうまく行きますよ。悔いのないように!』
と運転手が声をかけてくれた。
悔いのないように、か。
そうだな。もう二度と会えないと思っていた人との再会だ。後悔はしたくない。
『ありがとう!』
私は笑顔で降り、ホテルの中に入った。
すぐにトモヤのいる部屋を伝えられルームキーを渡された。
階段を駆け上がりたいほど気が急いていたが、途中で疲れて会えなくなっては元も子もない。
大人しくエレベーターに乗り込み、彼の待つ部屋に到着した。
今まで感じたことのないほどの早い鼓動を感じながら、ゆっくりとルームキーを差し込み、扉を開けた。
中に入り、リビングへの扉をゆっくりと開けると、ソファーに座っていたトモヤと目があった。
『――っ、ト、モヤ……ッ。会いたかったっ!!』
荷物も何もかもその場に投げ捨てて駆け寄ると、トモヤの目に涙が浮かんでいるのが見える。
『ごめん、辛い思いをさせて本当にごめん。トモヤ、愛してるんだ!』
小さな身体を抱きしめると、彼の腕が私の背中に回るのを感じた。
『アーチー……』
トモヤの口から私の名前を呼んでくれるが来るなんて……今日は本当に最高の日だ。
* * *
話はあまり進んでませんがどうしてもアーチーの気持ちは書いておきたかったので。
続きをどうぞお楽しみに♡
そう思った瞬間、画面の向こうからも
『アーチー……ほんもの?』
と震える声で尋ねられる。
やはり私たちは二人で一人なのだとわかる。
その事実を嬉しく思いながら画面のトモヤに笑顔を向けた。
『もちろんだよ。トモヤは全く変わっていないな。私が好きになったあの時と同じだ』
正直に思いを告げたが、トモヤの訝しんだ声が聞こえる。
それはそうだろう。先ほどのトモヤの話を聞けば、私は彼の身体を奪いすぐにその場から姿を消した男なのだから。
それでも私を憎むことなく、私を忘れないでいてくれたんだ。
トモヤに会いたい。その思いが込み上げる。
『すぐに君の元に飛んで行きたいよ。私はこの二十六年、トモヤを忘れたことはなかったよ』
必死に思いを伝えようとするけれど、私も突然のトモヤとの再会にうまく言葉が出てこない。
もっとちゃんと説明したいのに。
トモヤはまだ私の言葉が信じられないようで、画面を見つめたまま何も話そうとしない。
画面にエリックの伴侶のヨースケとシェラルド王子の伴侶のトールが映ったと思ったら、スマホがエリックたちの元に渡った。
後ろではヨースケたちの声がうっすらと聞こえる。
トモヤと話をしているようだ。
私の神経はそちらに向いていたが、エリックから声をかけられた。
『アーチー。彼が話していたのは事実なのか? アーチーは彼と一夜を過ごして逃げ出したというのは本当なのか?』
孫として、祖父がそんな非人道的なことをしていたと知るのは辛いだろう。
『いや、エリック。よく聞いてくれ。私も、そしてトモヤも大きな勘違いをしていたようだ。それも全てあの日、私があの部屋を出て行ったことが問題だったらしい。私があの日、トモヤが目覚めるのを待っていれば……こんなにも長くすれ違うことはなかった』
『アーチー、信じていいんだな?』
『もちろんだ。私は、トモヤを愛している。この二十六年忘れたことは一度もなかったよ。諦めようとしたが、諦められなかったんだ』
『わかった。信じるよ。アーチーはこのまま日本に向かってくれ。もうそろそろ到着するだろう。到着したら、ロードナイトホテルに向かってくれ。私たちは彼をそこに連れて行く。あとは二人でゆっくり話をしてくれ。逃げてはダメだ』
エリックの真剣な表情に私は背筋を正した。
『ああ。日本に着いたらすぐに向かう。おそらくあと一時間で到着するだろう。その間、トモヤを頼む』
『任せてくれ。アーチー、頑張れよ!』
心強い孫の声に私は笑顔で返した。
そこからの一時間は今までトモヤと会えなかった時間よりも長く感じた。
――その口づけが永遠の誓いであったらよかった
トモヤはそう思ってくれていたのに……どうしてあんなことに……。
今更後悔してもこの失われた二十六年は帰ってこない。
だからこそ、これからの日々をトモヤと過ごせるように全力を尽くすだけだ。
必死に自分で自分を落ち着かせながら、空港からホテルに向かうタクシーに乗り込んだ。
タクシーの運転手は私を観光客だと思って話しかけてくれたが、今はそんな相手をする余裕もない。
『これから大事な人に会うんだ。だからその人のことだけを考えたい』
そう告げると、ようやく車内に静寂が広がった。
そしてようやくホテルに到着。支払いを済ませて降りようとした私に、
『きっとうまく行きますよ。悔いのないように!』
と運転手が声をかけてくれた。
悔いのないように、か。
そうだな。もう二度と会えないと思っていた人との再会だ。後悔はしたくない。
『ありがとう!』
私は笑顔で降り、ホテルの中に入った。
すぐにトモヤのいる部屋を伝えられルームキーを渡された。
階段を駆け上がりたいほど気が急いていたが、途中で疲れて会えなくなっては元も子もない。
大人しくエレベーターに乗り込み、彼の待つ部屋に到着した。
今まで感じたことのないほどの早い鼓動を感じながら、ゆっくりとルームキーを差し込み、扉を開けた。
中に入り、リビングへの扉をゆっくりと開けると、ソファーに座っていたトモヤと目があった。
『――っ、ト、モヤ……ッ。会いたかったっ!!』
荷物も何もかもその場に投げ捨てて駆け寄ると、トモヤの目に涙が浮かんでいるのが見える。
『ごめん、辛い思いをさせて本当にごめん。トモヤ、愛してるんだ!』
小さな身体を抱きしめると、彼の腕が私の背中に回るのを感じた。
『アーチー……』
トモヤの口から私の名前を呼んでくれるが来るなんて……今日は本当に最高の日だ。
* * *
話はあまり進んでませんがどうしてもアーチーの気持ちは書いておきたかったので。
続きをどうぞお楽しみに♡
348
お気に入りに追加
295
あなたにおすすめの小説
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる