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勘違いとすれ違い
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<sideアーチー>
エリックが愛しい伴侶のヨースケと共に、ジェラルド王子のプライベートジェットで日本に向かったという連絡が受けていた。
ジェラルド王子が将来の王妃として選んだ相手・トールが、エリックの伴侶であるヨースケの友人だという縁もあり、トールのご両親に挨拶に向かうのに便乗してヨースケの自宅でのいざこざを片付けることにしたようだ。
ヨースケを両親に代わって育ててくれていた祖父・キョウスケの遺品を整理するのが目的だったようだが、それは滞りなく終わったようだ。私の熱狂的なファンでいてくれたキョウスケの大事な遺品が捨てられる前に間に合ったとエリックから写真付きで報告があった。
私はロサラン王国でのコンサートを終え、故郷であるスウェーデンで最後のコンサートと旅の疲れを癒しながら、先ほどの報告に喜んでいたのだが、そこに突然エリックから再度連絡が来た。
ヨースケの父親とのトラブルを回避するためにヨースケと結婚し、ヨースケにスウェーデン国籍を取得させたという報告だった。手続きには通常は時間がかかるものだが、私の古くからの友人の息子でエリックとも親交のある友人の彼が法務大臣として尽力してくれたおかげでヨースケはあっという間にエリックの伴侶となり、私の義理の孫という立場になったようだ。
それは身内としてお祝いをしなければいけないだろう。
ということで、私はたくさんのお祝いの品を携えてスウェーデンから一路、プライベートジェットで日本に向かった。途中で給油のために休みをとりながら、日本に向かっていた最中、突然エリックから電話が来た。しかもビデオ通話で。
今、私が機内にいることをわかっていながら電話なんて珍しい。
だが、もしかしたら急用なのかもしれない。私は急いで電話をとった。
けれど私の名前を呼んでもエリックの声は聞こえない。それどころかビデオ通話だというのに画面は真っ暗なままだ。もしかしたら意図せず電話をかけてしまっているのかもしれない。
間違ってかけてしまったのなら電話を切ろうと思った矢先、
『私は、彼への想いを認めながら唇を重ねたんだ……』
私の心を震わせる声が電話の向こうから聞こえてきた。
まさか、この声は……。
三十年近く経っても忘れられずにいた、あの愛しいトモヤの声。
彼の声は忘れようと思っても忘れられなかった。
私は彼の言葉を一言も漏らさないように、じっと耳を澄ませた。
『彼がロサラン人であったなら、それは永遠の誓いだったのかもしれない。でも、残念ながら彼も、そして私もロサラン人ではなかった。だが、私はその口づけが永遠の誓いであったらよかったと思うほどには彼に想いを持っていた。でも、彼は違ったみたいだ。異国で出会った相手とのただのアバンチュールに過ぎなかったようだな』
彼の悲しげな声が私の心に突き刺さる。
嘘だ! ただのアバンチュールだと思っていたのは、トモヤの方ではなかったのか?
一体どういうことなんだ?
自分の記憶を思い出しながら、必死に次の言葉を待った。
『どうしてそう思ったんですか? エリックさんのお祖父さんだって教授に思いを持っていたかも……』
私が聞きたい言葉がトモヤに投げかけられる。
そして少しの沈黙の後、トモヤの声が聞こえた。
『目が覚めたら彼の姿はなかったんだ。だから、私は急いで荷物をまとめて帰国した。全て夢であったと自分に言い聞かせながら日々を過ごしたよ。でも、あの日彼が歌ってくれた声も唇の感触も、君に出会ったことで一気に甦ってしまった。申し訳ない』
そんな……っ。私はトモヤが私との夜を後悔していなくなったのだと思ったのに。
最愛をこの手から逃してしまい、悲しみにくれていたのに。
あれが全て私の勘違いだったのか……。
それならばあの子は……?
『祖父の代わりに私が謝罪しなければ……』
『いや、謝罪など私は何もいらない、それに君のような孫がいるということは、彼は私の前から消えて正解だったということだよ。あの時の彼の判断は間違いではなかった。それが知れただけで十分だよ』
エリックの言葉に彼は悲しげな声で答えるのが聞こえる。
彼もまた勘違いをしているようだ。
『あ、あの……教授も、幸せだったんですよね? つい先日も娘さんの結婚式に出席してましたし……』
『ああ。もちろん幸せだったよ。あの子は私の本当の娘ではないが、愛情をたっぷり注いで育てたからね』
えっ? トモヤの本当の娘ではない?
次々に聞こえてくる声に動揺が隠せない。
ああ、私は何て間違いを犯していたんだ。
『定年したら自分の気持ちに踏ん切りをつけるためにもロサランで人生をやり直そうと思っていたけどね、その必要もないかもしれない』
全てを吹っ切ったようなトモヤの声が聞こえてきて、私は焦りのままに大声を上げた。
『そんなことを言わないで私ともう一度やり直そう、トモヤ!』
『今の……』
『アーチーです。勝手に悪いと思いましたが、あなたの話をずっと電話で祖父に聞かせていました』
エリックの声が聞こえたと思ったら、真っ黒だった画面に光が入り、私の目にずっと忘れられずにいた愛しい人の姿が映し出された。
エリックが愛しい伴侶のヨースケと共に、ジェラルド王子のプライベートジェットで日本に向かったという連絡が受けていた。
ジェラルド王子が将来の王妃として選んだ相手・トールが、エリックの伴侶であるヨースケの友人だという縁もあり、トールのご両親に挨拶に向かうのに便乗してヨースケの自宅でのいざこざを片付けることにしたようだ。
ヨースケを両親に代わって育ててくれていた祖父・キョウスケの遺品を整理するのが目的だったようだが、それは滞りなく終わったようだ。私の熱狂的なファンでいてくれたキョウスケの大事な遺品が捨てられる前に間に合ったとエリックから写真付きで報告があった。
私はロサラン王国でのコンサートを終え、故郷であるスウェーデンで最後のコンサートと旅の疲れを癒しながら、先ほどの報告に喜んでいたのだが、そこに突然エリックから再度連絡が来た。
ヨースケの父親とのトラブルを回避するためにヨースケと結婚し、ヨースケにスウェーデン国籍を取得させたという報告だった。手続きには通常は時間がかかるものだが、私の古くからの友人の息子でエリックとも親交のある友人の彼が法務大臣として尽力してくれたおかげでヨースケはあっという間にエリックの伴侶となり、私の義理の孫という立場になったようだ。
それは身内としてお祝いをしなければいけないだろう。
ということで、私はたくさんのお祝いの品を携えてスウェーデンから一路、プライベートジェットで日本に向かった。途中で給油のために休みをとりながら、日本に向かっていた最中、突然エリックから電話が来た。しかもビデオ通話で。
今、私が機内にいることをわかっていながら電話なんて珍しい。
だが、もしかしたら急用なのかもしれない。私は急いで電話をとった。
けれど私の名前を呼んでもエリックの声は聞こえない。それどころかビデオ通話だというのに画面は真っ暗なままだ。もしかしたら意図せず電話をかけてしまっているのかもしれない。
間違ってかけてしまったのなら電話を切ろうと思った矢先、
『私は、彼への想いを認めながら唇を重ねたんだ……』
私の心を震わせる声が電話の向こうから聞こえてきた。
まさか、この声は……。
三十年近く経っても忘れられずにいた、あの愛しいトモヤの声。
彼の声は忘れようと思っても忘れられなかった。
私は彼の言葉を一言も漏らさないように、じっと耳を澄ませた。
『彼がロサラン人であったなら、それは永遠の誓いだったのかもしれない。でも、残念ながら彼も、そして私もロサラン人ではなかった。だが、私はその口づけが永遠の誓いであったらよかったと思うほどには彼に想いを持っていた。でも、彼は違ったみたいだ。異国で出会った相手とのただのアバンチュールに過ぎなかったようだな』
彼の悲しげな声が私の心に突き刺さる。
嘘だ! ただのアバンチュールだと思っていたのは、トモヤの方ではなかったのか?
一体どういうことなんだ?
自分の記憶を思い出しながら、必死に次の言葉を待った。
『どうしてそう思ったんですか? エリックさんのお祖父さんだって教授に思いを持っていたかも……』
私が聞きたい言葉がトモヤに投げかけられる。
そして少しの沈黙の後、トモヤの声が聞こえた。
『目が覚めたら彼の姿はなかったんだ。だから、私は急いで荷物をまとめて帰国した。全て夢であったと自分に言い聞かせながら日々を過ごしたよ。でも、あの日彼が歌ってくれた声も唇の感触も、君に出会ったことで一気に甦ってしまった。申し訳ない』
そんな……っ。私はトモヤが私との夜を後悔していなくなったのだと思ったのに。
最愛をこの手から逃してしまい、悲しみにくれていたのに。
あれが全て私の勘違いだったのか……。
それならばあの子は……?
『祖父の代わりに私が謝罪しなければ……』
『いや、謝罪など私は何もいらない、それに君のような孫がいるということは、彼は私の前から消えて正解だったということだよ。あの時の彼の判断は間違いではなかった。それが知れただけで十分だよ』
エリックの言葉に彼は悲しげな声で答えるのが聞こえる。
彼もまた勘違いをしているようだ。
『あ、あの……教授も、幸せだったんですよね? つい先日も娘さんの結婚式に出席してましたし……』
『ああ。もちろん幸せだったよ。あの子は私の本当の娘ではないが、愛情をたっぷり注いで育てたからね』
えっ? トモヤの本当の娘ではない?
次々に聞こえてくる声に動揺が隠せない。
ああ、私は何て間違いを犯していたんだ。
『定年したら自分の気持ちに踏ん切りをつけるためにもロサランで人生をやり直そうと思っていたけどね、その必要もないかもしれない』
全てを吹っ切ったようなトモヤの声が聞こえてきて、私は焦りのままに大声を上げた。
『そんなことを言わないで私ともう一度やり直そう、トモヤ!』
『今の……』
『アーチーです。勝手に悪いと思いましたが、あなたの話をずっと電話で祖父に聞かせていました』
エリックの声が聞こえたと思ったら、真っ黒だった画面に光が入り、私の目にずっと忘れられずにいた愛しい人の姿が映し出された。
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