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逃げないで
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<side真田友哉>
――そんなことを言わないで私ともう一度やり直そう、トモヤ!
突然聞こえた声に、すぐにアーチーだと気づいた。
何十年聞いていなくても、私の耳はアーチーの声を覚えていたみたいだ。
でもどうして彼の声が……?
そう思った私に、エリックさんが教えてくれた。
私の思い出話を電話でアーチーに聴かせていたのだ、と。
彼にとっては一夜の遊びだったのに。
三十年近く経ってもまだ忘れていない。そんな恐怖にも感じそうな話を聞かれていたなんて……。
恥ずかしくてたまらない。
でも、エリックさんが私に差し出したスマホには、あれからずっと忘れられずにいたアーチーが映っていた。
『アーチー……ほんもの?』
『もちろんだよ。トモヤは全く変わっていないな。私が好きになったあの時と同じだ』
『好きになったなんてそんな……っ』
『本当だ。今すぐに君の元に飛んで行きたいよ。私はこの二十六年、トモヤを忘れたことはなかったよ』
アーチーの声が耳に入ってくるけれど、あまりにも突然すぎてどう返していいのかわからない。
何も言えずに茫然とスマホの画面を見つめていると、
「教授、大丈夫ですか?」
と声をかけられる。
「小芝くん、吾妻くん。心配かけてすまないね。でも今は自分でもどうしていいかわからないんだ」
「教授の気持ちはよくわかります。だから僕たちに任せてください」
二人は私をその場に座らせると、何やら四人でスマホの向こうにいるアーチーと話を始めた。
それからしばらくして電話を切った彼らが、私の周りを囲むように座った。
『あ、あの……』
『あなたと祖父の間には大きな齟齬があるようです』
『齟齬?』
『はい。ですからそれをしっかりと話し合いましょう。お互いに逃げずに話をするんです』
出会った頃のアーチーによく似ている逞しい彼にキッパリと言われると反対もできない。
でも齟齬なんてあるはずがない。
愛し合った翌日、彼は私を置いていなくなった。それが事実なのに。
『でも……』
『真田教授。前に授業で言っていたでしょう? 事実が全て真実とは限らない。だから、しっかりとした検証が必要なんだって』
『吾妻くん……』
『僕たちは教授にもアーチーさんにも幸せになって欲しいんです。僕は教授のおかげでロサランを好きになって、ジェリーさんと出会えたんです。まだ話もできてませんでしたけど、僕……運命の相手であるジェリーさんと出会って、これからはロサランで暮らすことになりました。洋輔も同じです。ねぇ、洋輔』
『はい。僕もエリックさんと出会ってこれからはロサランで暮らすことになったんです。今日はその報告に来ました』
やっぱりそういう話だったか。
小芝くんも吾妻くんもあのお国で幸せになれてよかった……。
『僕たちは教授とアーチーさんが幸せになれるお手伝いがしたいです』
『でもアーチーは望んでいないかもしれないよ。どんな真実があったとしても、もう三十年も昔のことだ』
『でも教授は忘れてなかったじゃないですか』
『それは……』
『アーチーも同じですよ。今、こちらに向かってますからあとは二人で話してください。行きましょう』
『えっ、行くってどこに……』
彼らの誰も私の質問に答えることはなく、私はホテルのある一室に連れて行かれた。
『ここで一時間ほど待っていてください』
そういうと彼らは部屋を出て行った。
一時間って……一体なんだろう。
アーチーが来てくれるとしても早すぎるから、アーチーじゃない。
それなら?
何もわからないまま、時間だけが過ぎ去っていってもうすぐ一時間を迎えようとしたころ、部屋の扉がゆっくりと開くのが見えた。
* * *
ようやく書きたいところまで書き終わりました。
続きもどうぞお楽しみに♡
――そんなことを言わないで私ともう一度やり直そう、トモヤ!
突然聞こえた声に、すぐにアーチーだと気づいた。
何十年聞いていなくても、私の耳はアーチーの声を覚えていたみたいだ。
でもどうして彼の声が……?
そう思った私に、エリックさんが教えてくれた。
私の思い出話を電話でアーチーに聴かせていたのだ、と。
彼にとっては一夜の遊びだったのに。
三十年近く経ってもまだ忘れていない。そんな恐怖にも感じそうな話を聞かれていたなんて……。
恥ずかしくてたまらない。
でも、エリックさんが私に差し出したスマホには、あれからずっと忘れられずにいたアーチーが映っていた。
『アーチー……ほんもの?』
『もちろんだよ。トモヤは全く変わっていないな。私が好きになったあの時と同じだ』
『好きになったなんてそんな……っ』
『本当だ。今すぐに君の元に飛んで行きたいよ。私はこの二十六年、トモヤを忘れたことはなかったよ』
アーチーの声が耳に入ってくるけれど、あまりにも突然すぎてどう返していいのかわからない。
何も言えずに茫然とスマホの画面を見つめていると、
「教授、大丈夫ですか?」
と声をかけられる。
「小芝くん、吾妻くん。心配かけてすまないね。でも今は自分でもどうしていいかわからないんだ」
「教授の気持ちはよくわかります。だから僕たちに任せてください」
二人は私をその場に座らせると、何やら四人でスマホの向こうにいるアーチーと話を始めた。
それからしばらくして電話を切った彼らが、私の周りを囲むように座った。
『あ、あの……』
『あなたと祖父の間には大きな齟齬があるようです』
『齟齬?』
『はい。ですからそれをしっかりと話し合いましょう。お互いに逃げずに話をするんです』
出会った頃のアーチーによく似ている逞しい彼にキッパリと言われると反対もできない。
でも齟齬なんてあるはずがない。
愛し合った翌日、彼は私を置いていなくなった。それが事実なのに。
『でも……』
『真田教授。前に授業で言っていたでしょう? 事実が全て真実とは限らない。だから、しっかりとした検証が必要なんだって』
『吾妻くん……』
『僕たちは教授にもアーチーさんにも幸せになって欲しいんです。僕は教授のおかげでロサランを好きになって、ジェリーさんと出会えたんです。まだ話もできてませんでしたけど、僕……運命の相手であるジェリーさんと出会って、これからはロサランで暮らすことになりました。洋輔も同じです。ねぇ、洋輔』
『はい。僕もエリックさんと出会ってこれからはロサランで暮らすことになったんです。今日はその報告に来ました』
やっぱりそういう話だったか。
小芝くんも吾妻くんもあのお国で幸せになれてよかった……。
『僕たちは教授とアーチーさんが幸せになれるお手伝いがしたいです』
『でもアーチーは望んでいないかもしれないよ。どんな真実があったとしても、もう三十年も昔のことだ』
『でも教授は忘れてなかったじゃないですか』
『それは……』
『アーチーも同じですよ。今、こちらに向かってますからあとは二人で話してください。行きましょう』
『えっ、行くってどこに……』
彼らの誰も私の質問に答えることはなく、私はホテルのある一室に連れて行かれた。
『ここで一時間ほど待っていてください』
そういうと彼らは部屋を出て行った。
一時間って……一体なんだろう。
アーチーが来てくれるとしても早すぎるから、アーチーじゃない。
それなら?
何もわからないまま、時間だけが過ぎ去っていってもうすぐ一時間を迎えようとしたころ、部屋の扉がゆっくりと開くのが見えた。
* * *
ようやく書きたいところまで書き終わりました。
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