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懐かしい思い出

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<side真田友哉>

『もう三十年近くも前のことだよ。私は大学の卒業旅行にロサラン王国に行ったんだ。そこで、君のお祖父さんであるアーチーと出会った』

『えっ……』

驚く彼らを前に私はこの三十年近い間、誰にも話せずに過ごしてきた、あのロサランでの日々を語った。

大学の卒業旅行でロサラン行きを決めたのは偶然だった。
たまたま大学図書館で見かけた本にロサラン王国の歴史が載っていて、それに惹かれた。
今ならわかる。きっとあの時から運命が回っていたんだと。
でも、若い私にはそのことに気づくことはなかった。

長い時間をかけてロサラン王国に降り立ち、初めての海外旅行に私は興奮していた。

到着した初日から精力的に観光名所を巡った私は、行ってみたかった王宮に足を伸ばした。

美しい夕焼けと王宮をバックに写真を撮っていると、

『どこからきたのかな?』

と声をかけられた。
逞しい男性の姿に少し怯んだものの、優しい声だったから僕は思い切って返事をした。

『あ、日本からです。もしかして写真撮ってはだめ、でしたか?』

『いや、そんなことはないよ。いい撮影スポットを知っていたなって驚いただけだよ。よかったら、写真を撮ってあげよう』

『えっ、ありがとうございます』

海外では写真を撮ってあげると言われてカメラを渡して、そのまま逃げられるなんてこともあると聞くが、彼にはそんな感じは一切しなかった。
祖父の形見のライカのカメラを渡すと、

『素晴らしいカメラだね』

と褒めてくれて嬉しかった。

『いいレストランを知っているんだ。一緒に食べにいかないか?』

『いいんですか?』

『ああ、気ままな一人旅で楽しんでいたが、一人で食べるのも飽きてきてね。話し相手になってくれると嬉しいよ』

『それなら喜んで』

『じゃあ行こう!』

差し出された手を握り、ドキドキしながら彼についていった。
きっともうその時には惹かれていたんだと思う。

連れて行かれた店は街のレストランという感じだったけれど、それがよかった。
庶民的なのにものすごく美味しくて、全てを二人で分け合って食べた。

骨付き肉を手で食べるのも初めての経験だったけど、彼となら楽しかった。

『そういえば、名前を聞いてなかったな。私はアーチー。呼び捨てで構わないよ。君は?』

『僕は、友哉です』

『トモヤか、いい名前だな』

笑顔で褒められて、僕はお礼を言うことしかできなかった。

『トモヤ。君は大学生、かな?』

『はい。そうです』

『一人旅でロサランを選ぶなんて珍しいな』

『そうかもしれないですね。でも、来てよかったです。僕……これまでほとんど旅行はしたことがなかったので、かなりの大冒険でした』

『そうなのか、家族は?』

家族のことを聞かれて、本当のことを言おうか一瞬躊躇った。けれどアーチーには全て話そうと思ったんだ。

『父を早くに亡くして母と妹と三人暮らしだったんですけど、半年くらい前に一つ年下の妹が結婚しました』

『えっ? 結婚? それはまた早いな。いや、日本では普通なのかな?』

『いえ。日本でもかなり早いですよ。妹はまだ二十一ですから。でも、病気の母に花嫁衣装が見せたくて頑張ったみたいです。母はそれを見届けて亡くなりました』

『そうか……それは辛かったな。でも妹さんは幸せなんだろう?』

『ええ。それはもう』

『じゃあ、トモヤも幸せにならないとな。あと何日ロサランにいられるんだ?』

『後三日ですね。四日目の朝の飛行機で帰ります』

僕の中では長期旅行のつもりだったけれど、アーチーと出会ってから思えば三日なんてあっという間だろうな。

『それなら私が観光案内してあげるよ。本には載っていない穴場にも連れていくよ』

『わぁー、ありがとうございます。アーチーって、ロサランの人ですか?』

『いや、私はスウェーデン人だよ。ここには休暇できているんだ』

『スウェーデン……いいですね。いつか、行ってみたいです』

『ああ。それなら私が案内しよう』

いつか、アーチーとスウェーデンに……。
社交辞令だとはわかっていてもその希望だけで嬉しかった。

それから三日。毎日のようにホテルにアーチーが迎えにきてくれて朝から晩までロサランを満喫した。
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