失恋相手に優しく抱かれちゃいました & 無自覚で鈍感な後輩に煽られまくっています

波木真帆

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番外編

幸せカップル

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<side坂下>

大学からの親友・岬響也は、誰もが認める完璧な男だ。

俺が今まで出会ったきた人間の中でダントツイケメンだし、高校時代は三年間首席だったらしく、大学時代には最優秀学生として表彰も受けたことがある頭の良さ。もちろん身長も高いし、手足も長くモデルと言っていいほどスタイルも良く、親が会社経営者で超金持ち。だがそのことを岬自身はひけらかすこともなく性格もいい。

社会勉強と人脈作りのために就職はしたものの、ゆくゆくは起業することを目標にしていてそのための努力を惜しむことはなかった。

そんな岬には絶えず女性からのアプローチがあり、大学時代はほとんど毎日のように声をかけられ告白されていた記憶がある。だが、岬はそれに一度も乗ることはなく、本人は誰も好きになることはないといつも言っていた。

そんな岬が、自分が教育係をしていた新入社員の男を好きになったと聞いて、俺は飛び上がるほど驚いた。
俺を揶揄ってるんじゃないかと思うくらい、絶対にあり得ないことだと思ったけれど、どうやら本気らしい。

――いつかは俺のものにする

そう言っていた岬の気持ちが報われるか心配だった。
岬がどれだけイケメンであっても、同性というだけでその気持ちが受け入れられる確率は格段に減るだろう。

けれど、話を聞くとどうやら新入社員のその子も岬に好意を持っているようで、すぐにまとまるかと思ったが、そこから五年も岬は待ち続けていた。

彼をしっかりと守り切れる基盤が整うまで、彼に寄って来ようとする虫を追い払いながらその時機を待っていたようだが、彼が動いたのをきっかけにようやく二人は恋人という立場に変わったようだ。

岬は手に入れた彼をすぐに囲い込みに動き、自分の自宅で同棲を始め、二人して仕事を辞め、新しい会社を起こした。
そうして、公私共に完全なるパートナーになったのだ。

この五年、岬の酒に付き合うたびに彼の惚気を聞かされ続けていたのだから、ようやく恋人同士になった今、絶対に俺に彼を紹介してくれるはずだと思っていたのに、同棲を始めてから一ヶ月経っても、二ヶ月経っても彼と会うチャンスは一向に訪れなかった。

この間、何度も彼に紹介してくれと言っていたのだが、新しい仕事を始めたばかりで余裕がないだの、仕事が立て込んでいて時間が取れないだの、なんだかんだと理由をつけられて会えずにいた。

彼と付き合い始める前は月に二度は会って惚気を聞いていたのに……。

もういい加減紹介してくれていいだろう。

<岬、お前……いい加減に紹介してくれよ>

三ヶ月経って痺れを切らした俺は、そんなメッセージを送り、メッセージの最後に

<そうじゃないと、お前の恥ずかしい動画を彼に送りつけるぞ>

と脅し文句を入れてやった。

すると瞬く間に岬から

<恥ずかしい動画ってなんだ?>

とメッセージが来た。

どうやらそこが気になったらしい。だからわざと勿体ぶって返した。

<わかってるだろ? あれだよ>

<瑛に余計なことするなよ>

<じゃあ、紹介してくれるんだな?>

<わかったよ。じゃあ、いつもの和食屋の個室、頼んどくから。明日でいいか?>

俺の会社が木曜日はノー残業デーになっていることをよく覚えていたな。そういうところは流石に抜け目がない。

<ああ、明日。19時な。楽しみにしてるよ>

そうして、約束の日。
定時と同時に会社を出て、いつもの和食屋に向かった。

「坂下くん、いらっしゃい。岬くん、もう来てるわよ」

女将さんに声をかけられて、お礼を言いながらいつもの個室に向かう。

襖だけど一応ノックして開けて驚いた。

「よぉ、久しぶりだな」

いつものように声をかけてきた岬の膝に可愛い子が座っていたからだ。

この子が、岬の運命の相手か。岬のあの表情を見ただけで、彼が特別な相手だってよくわかる。
だって、大学からの15年近い付き合いの俺でさえ、あんな岬の表情見たことないんだから。

「坂下? 早く入れよ」

「あ、ああ。お邪魔します」

「もう料理と飲み物は頼んだから」

「ああ。ありがとう」

俺が岬たちの向かいに座ったと同時に、料理と飲み物が運び込まれて一気にテーブルの上が賑やかになった。

「とりあえず乾杯してから話にしようか」

「そうだな」

俺の意見に岬が賛同し、俺たちはビールを手に取った。ジョッキグラスの俺たちとは違って、彼だけは小さなグラスだったが、嬉しそうに乾杯をする彼は可愛かった。

一口ビールを飲めば、二人で見つめ合い笑みを浮かべる。

ああ、本当に恋人になれたんだな。それだけで嬉しくなるのは、この5年間の岬の様子を見てきたからだろう。

「瑛。こいつは大学の同期で、今、H物産に勤めている坂下」

「えっ、H物産の方なんですか?」

「ああ。そうだよ。よろしく」

「は、はい。松坂瑛です。よろしくお願いします」

俺が手を差し出すと、小さな手を差し出してくれたが俺の手に届く前に岬が先に彼の手を握ってしまった。

「おい!」

「可愛い瑛の手を握らせるわけないだろ」

「ちょ――っ、響也さんっ!」

「はいはい。わかってたよ」

彼が岬の名前を普通に呼んでいる姿を見るだけで本当に特別なんだとわかる。あいつはずっと一生を共にする特別な相手にだけ名前で呼ばせると言っていたからな。

「ねぇ、瑛くんだっけ。こいつで大丈夫?」

「えっ? それってどういう意味ですか?」

「こいつ、今まで誰一人好きになったこともない分、瑛くんにはとんでもない独占欲を発揮するし、かなり激しく執着してくるけど、それについていける?」

「おい、坂下!」

「本当のことだろう? ねぇ、瑛くん。大丈夫?」

「あの……僕、響也さんが執着してくれるのすっごく嬉しいので、大丈夫です。というか、今がものすごく心地いいので、僕も響也さんを独占したいし、激しく執着し続けると思います。だからきっと、僕たち似たもの同士なんで大丈夫ですよ」

笑顔でサラっと言われて、俺は驚いてしまった。同じくらい岬も驚いていたと思う。

「それならよかった。これからも二人が仲良しなところをいっぱい見せてよ」

「はい。よろこんで! ねぇ、響也さん!」

「――っ、瑛! ああ、そうだな。坂下、楽しみにしててくれ」

「ああ、楽しみにしとくよ」

そこからは美味しい料理と酒を楽しみながら、三人で仕事のこともプライベートのことも語り合う。
瑛くんは岬が好きになった相手だけあって頭の回転もよく話しやすい。本当にいい相手に出会ったな。

あっという間に三時間近くが経って、そろそろ腰を上げようとして、俺はポケットに手をやった。

「これ、瑛くんにプレゼント」

「――っ、坂下! それ……ずるいぞ!」

「ははっ。でも瑛くんなら喜ぶよ」

「あの、坂下さん。これなんですか? 響也さんも知ってるんですか?」

瑛くんの言葉に岬も観念したように頷いてみせた。

「これはね、俺に瑛くんのことを話した時の岬の映像だよ。珍しく酔っ払って、瑛くんがどれほど可愛いかをひたすら語ってたから動画を撮っておいたんだ。岬はどれだけ酔っても記憶は残ってるからさ。惚気まくるのはいつものことだけど、この時はかなり凄かったから流石に恥ずかしかったみたいだよ。でも、心から瑛くんを好きだってわかるから、これは瑛くんが持っているべきだと思ったんだ」

「坂下さん、ありがとうございます。響也さん……後でこれ見てもいいですか?」

「ああ、じゃあ一緒にみようか」

きっとこの後は幸せな夜になることだろう。

「じゃあ、俺は先に帰るよ。また今度飲もうな」

「ああ。坂下。またな」

「その時は俺の可愛いも連れてくるよ」

「えっ? はっ、彼?」

驚く岬をその場に残して、俺は彼の待つ自宅に戻った。
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感想 17

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みんなの感想(17件)

四葩(よひら)
ネタバレ含む
波木真帆
2024.07.28 波木真帆

四葩さま。コメントありがとうございます!
おお、さすがH物産覚えていてくださって嬉しいです💕
そうなんです、だから瑛もちょっと驚きましたね。

坂下さんの可愛い彼。誰でしょうね。もしかしたらこのあと出てくるかも……。どうぞお楽しみに💖

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mo
2024.07.24 mo
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波木真帆
2024.07.28 波木真帆

moさま。コメントありがとうございます!
ふふ🤭もしかしたらこのあと出てくるかもですね✨

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いぬぞ~
2024.05.09 いぬぞ~
ネタバレ含む
波木真帆
2024.05.13 波木真帆

いぬぞ〜さま。コメントありがとうございます!
ああ、確かに彼がいましたね!!
あれだけ優秀な二人の親友の彼が優秀じゃないわけないですからね。
彼もまた大手の会社の顧問弁護士を引き受けていることは間違い無いでしょう。
弁護士の名前を聞いて絶望を感じる人がまた増えましたね(笑)

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